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昔とは違う、終わりゆく世界の空気が頬をチリチリと焼く。事実、目の前の光景は地獄絵図だ。青い空も生い茂る若葉も人類が築いた文明の痕跡も消え去って、在るのは溶かされた世界だけだ。人類だけではない、生命ある存在を拒む世界。マグマのようなもので満たされた世界は、箱庭すら呑み込んでしまおうとしている。
「世界の終わり、か。随分と人類も追い込まれたもんだ。
見ているだけで目が痛くなる真っ赤な世界の中に、異質な白が幾つも見える。無限にも近しい数のバーテックスの軍勢だ。それが想真を──人類の抵抗の手段を粉砕する為に殺到しているのだ。いつもは仲間に分散している、統一された無機質な殺意が1人に集束している感覚は酷いものだ。恐ろしくて堪らず、気を抜けば地面に膝をついて胃の中のものを全部ぶちまけたくなる。
「…いただきます」
持ってきていた折り畳みの器に、先程まで茹でていたものを入れる。黄金色のつゆに真っ白なうどん、そしてかつて勇者達が想真に持ってきてくれた食材だ。葱、甘辛く煮た肉、油揚げ、かき揚げ、最後に卵。1つ1つの調和など考えられていない、それでも何故か美味しいと感じるそのうどんを胃の中に収めていく。具を食べ終え、うどんを啜り終え、つゆを全て飲み切ると器を地面の上に置いてその器に箸を揃えて置く。そして目を閉じ、最後の食事の味を噛み締めるように呟いた。
「──ご馳走様でした」
もうバーテックスの軍勢は目の前に。戦わねばならない時が来た。これが最後の正念場だ。立ち上がり、後ろに屹立している神機を握る。
その神機は、既に神機とは言い難いものだった。今までのソレとは大きさが違う。今までは軽々と片手で持てた神機が今では余りにも重く巨大で、運搬する為の台車が必要な程となっていた。
神機の方向を変え、先端をバーテックスの方向へと向ける。そして想真は、戦いの火蓋を切った。
「──消し飛べェェェェェェェェッ!!!!!」
直後、閃光、爆発。白光の光芒が世界を切り裂き、バーテックスを消滅させていく。荒れ狂う神機を握り、薙ぎ払うと光もバーテックスを薙ぎ払う。先陣を切るバーテックスが粗方消え去ると漸く閃光も収まった。
赤熱した砲身を見やった想真は柄を引っ張る。すると砲身が神機から外れ、その中から巨大な刃が現れる。刃の根元付近にあるハンドルを握り、全力で引っ張ると刃の峰に装着されたブースターから爆炎が噴き出し、想真の手から抜け出そうとする。想真はその勢いのまま、バーテックスの軍勢へと突撃を仕掛ける!
剣と呼ぶにはそれは余りにも大雑把過ぎる。スケール的には鉄骨を振り回していると言った方が近い程だ。その刃モドキはブースターによって勢いを増し、範囲内の敵を粉砕していく。これでは振っているというよりも振り回されていると表現した方が妥当だが、それで良い。この形態はそれで運用するように設計されているのだから。
5つ装着されているブースターの内、中央の1基の炎が弱まっていく。それを確認した想真は今まで振り回していた神機の刃を上に向ける。推進力の方向が固定され、ロケットのように想真は上へと飛んでいく。
「オラクルカートリッジ装填完了…高度確認、最終安全装置解除…!」
腰に巻いたベルトからタブレット端末程度の大きさのカートリッジを取り出すと、柄部分に存在するスロットに2枚装填する。神機に貯留する事の出来る許容量の数倍のオラクルが刃に臨界まで充填され、刀身が極彩色に輝き始める。
そのオラクルのエネルギーに耐えられなくなってきたのか、神機が小刻みに震え始める。神機を手放さなければ振り落とされるだろう。そうなれば死は避けられない。そうなる前に想真は不安定な体勢ながらも柄を死ぬ気で引っ張り、神機を振り下ろす。
「──ウォァラアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
残り4基のブースターにより加速した刀身が拘束から解放され、地面に着弾する。その勢いにより自壊した刀身から臨界状態のオラクルエネルギーが無差別に周囲の物を破壊していく。
「…ハッ、全く数が減らないな…」
煙が収まり、向こう側に見えた景色に笑いが零れる。今まで想真が行ってきた戦闘と比べるとかなり高威力かつ広範囲の攻撃を加えたにも関わらず、バーテックスの数は全く減っていない。──いや、減ってはいるのだ。減らした数に対しての敵の母数が異常に多いだけだ。
笑ってもどうにもならない、と想真は神機を構える。コストと安全性を度外視して開発された今回の装備は7段階存在し、先程の刀身を射出した事で残り5段階となった。最後の段階は改良されただけの通常の神機なので、バーテックスに打撃を与えられる可能性があるのはこの形態を含め、残り4つだけとなる。額を伝った汗が地面に落ちた。
顕になった神機の銃身には6つの銃口が備えられており、想真がトリガーを握ると空転を始める。この形態は暖機が必須なのだ。
「大盤振る舞いだ、たっぷり味わえ…!」
カートリッジを6枚装填する。1つの砲身につきカートリッジ1枚を要するこの形態の銃身の性能は、遠距離型旧型神機を6機同時運用しているのと同じ性能を持つ。
色とりどりの弾丸が放たれる。それと同時に踏ん張る事がやっとの反動が想真を襲う。本来は爆発系のバレットを使いたい所だが、それをするとこれ以上の反動が立ちはだかる。比較的反動が小さい弾丸ですら踏ん張る事が精一杯なのだ、これで爆発系のバレットを選択したとなれば想真は右肩が外れ、身体は遥か後方へ吹き飛ぶ事だろう。
だが、動かない敵を見逃す訳が無いのがバーテックスだ。想真は包囲され、その包囲網は徐々に狭まっていく。既視感のある光景だ。
「──そうだ。お前らはそうすると、信じていた」
ある意味、それは信頼にも近い感情だった。バーテックスなら相手を殺すのに最適な手段を選ぶと、そう確信していた。単体の敵を殺すのに有効なのは包囲してすり潰す事、そう学習していると思ったのだ。だから想真はそれに賭けた。相手の効率的な攻撃手段を逆手にとり、自分にとって効率的な攻撃手段とする為に。
バレットの種類を切り替える。弾丸から、自分で作ったバレットへと。そのバレットには特別な効果は無い。2つの点を除けばただのレーザーだ。普段想真が用いるレーザーと比べた時の違いはとても単純だ。そのレーザーは通常と比べて射程がとても長く、またとても太いのだ。
6本の太いレーザーを束ね、1つの剣とする。燃費など一切考えていないレーザーはバーテックスの装甲を容易く溶断し、灰へと変えていく。手応えは確かにある、そう思った時神機に異変が訪れる。
「──ッ!?」
砲身の1つが爆発し、外れる。このままでは不味い、そう感じた想真は対応したカートリッジを外し、出来るだけ遠くへ放り投げる。バーテックスにカートリッジを悪用されない為にレーザーで撃ち抜き、爆発させる事で威力の低下を少しでもカバーする。
恐らく、レーザーの出力に耐えられなかったのだろう。神機に用いられる金属はオラクルを含んだ特殊な金属ではあるが、その仕様を含めても本来掛からない負荷が掛かっているのだ。どこかしらで限界が来る事は予想していたが、余りにも早い限界であった。また1つの砲身が爆発した事で見切りをつけ、この形態の使用を断念する。
柄を引っ張り、砲身を射出する。オラクルカートリッジが装填されたままの砲身は予測不可能な方向へと飛んでいき、地面に着弾すると大爆発を起こす。設計した技術者には悪いが、とんだ欠陥兵器だと想真は思う。そんな欠陥兵器でも使わなければ勝てない、というのが悲しい点なのだが。
続いて顕になったのは剣としては異形の姿だった。ここからは神機単体では機能しない、『変異』ありきの形態だ。ソレは剣と呼ぶより槍と呼んだ方が相応しい形態であった。ただ、ブースターも何も装備されておらず、そのままでは貧弱なものだ。
「…変異、複合。力を寄越せ輪入道、一目連」
爆炎と豪風が噴き出し、前方への推進力を生み出す。輪入道の力により槍の穂先に召喚された旋刃盤の刃が回転を開始し、想真はその推進力に抗う事無く走り始めた。
旋刃盤の刃に触れたバーテックスは燃え上がり、そのまま灰となって散っていく。その灰は一目連の風に吹き飛ばされ、想真の姿を隠す。最終防衛ラインから離れ過ぎない為に円を描いて走っている為、今の想真は旋風と呼んでも差し支えない事となっていた。
このまま走り続ければ良いのかも知れないが、変異は神機の特性を利用して無理やり神の力を顕現させている為、持続時間が非常に短い。単体の使用で10分、今回のように複合すると5分保てば良い方だ。複合の効果時間はその神霊の組み合わせにより変わり、また恐らく勇者達の気質の影響を受けている。一目連は全体的に相性が良い代わりに特筆して相性が良いものがなく、七人御先はその反対であり、一目連と非常に相性が良い。その親和性は勇者本人の気質を受け継いでいると言っても過言ではない。
「っ…ぐ、まだ…まだ俺は戦える…!だから、黙って俺に従ってろ!!」
内臓を引っ繰り返されるような嘔吐感と不快感。まるで虫が耳から侵入を試みているような、そんな感覚が想真を襲う。
想真が喰らい、神機の力としている精霊が想真の存在を拒んでいる。本来、勇者の力である精霊は勇者として選ばれた人間のその中から相性が良いものが選定される。だが、想真にそんなものは無い。それどころか想真の扱う
そんな精霊を力ずくで従える想真の精神力は凄まじいものだ。常人なら膝を屈するであろう不快感にも耐え、神機を振るっている。
だからだろう。想真は
「──があぁああぁああぁぁぁぁぁああ!!?!???!?」
咄嗟に輪入道の力を楯状に展開、更に一目連の風を前方に向ける事で離脱を図るが、そんな小細工は規模の大きさに粉砕される。想真が展開した楯は巨大な隕石に破砕され、隕石が着弾した余波で想真は瀬戸大橋の中ほどまで地面をバウンドしながら転がっていく。
身体のどこかで、骨が折れる音と脳髄を掻き回す痛みが同時に襲い掛かる。
「あ゛っ………がっ、なに…が…?」
揺れる視界の中に、『ソレ』は鎮座していた。堂々と、人間を滅ぼす為に。まるでバーテックスの王の如きその威容は、遠目にソレを眺める想真にすら恐れを抱かせる。それと同時に想真は察する。アレだ、あのバーテックスさえ殺せば、この戦いは終わるのだ、と。
そのバーテックスの前には、完成体のバーテックスが11体並んでいる。その中には球子と杏を殺したバーテックスも含まれており、あの強さのバーテックスを量産出来るという事実に心が挫けそうになる。
「っ、神機、は……」
神機の状態を確認する。あのバーテックスの攻撃を防いだからか、神機に追加した外付けの機能は既に使い物にならなくなっていた。そもそもの話、次の形態で運用する精霊の【雪女郎】と【七人御先】は相性が悪い。雪女郎ならまだしも、七人御先に関してはゴッドイーターの身では発動すら不可能なのだ。有って無いような形態なのだから、別に使わなくても問題は無い。
残るは、何の機能も無い通常の神機のみ。残った神機パーツを修理、改修して再び運用が可能になった、真紅の神機。この神機パーツは想真のものではない。橘想真が愛し、護れなかった少女──藤木アリサが遺した神機パーツだ。
時を経て、再び戦場に投入された神機を見て想真は笑う。確かに1人で戦っているが、心は独りではない。神機にはアリサが、身に着けている組紐には5人の勇者が宿っている。
「っ…考え事をする時間くらい、与えてくれよ…こっちも、余裕は無いんだ…!」
呼吸する度に鼻の奥と喉の粘膜に痛みが走る。このバーテックス達が作り上げた、あらゆる生命の存在を許さない灼熱の空間。それが
現に想真の呼吸は荒く、喉を掻き毟りたくなる程の痛みに襲われている。
「ゼッ…ヒュッ…が、ぁっ!」
それでも戦う事だけはやめない。想真を殺そうとするモノ、想真を無視して神樹の元へ向かおうとするモノ、視界に入る動くモノを残らず粉砕する。バーストが切れれば直ぐに破綻するような戦いを、ずっと続けていた。
(あれ…?なんでこんなに辛い思いをしてまで、ここまで戦ってんだ…?)
──全身が痛い。痛くない所が無い。痛くない所はもう動かないか、多分痛覚がイカれたのか。気になるけど、見たくない。見たら、頭がおかしくなる気がして。
(そうだ、みんなの為だ。勇者のみんな、ゴッドイーターのみんな…あれ?殆ど死んでるじゃないか。なら、意味なんて無いじゃないか。もう無理だよ頑張ったんだ俺は許して痛い苦しい怖い死にたくない)
今まで抑圧されていたネガティブな感情が堰を切ったように溢れ出る。それは勇者の精霊を使い続けた副作用であり、増幅された負の感情が表層に表れているだけに過ぎない。だが、増幅されたという事は
そんな事を考えても身体は戦う事をやめない。どれだけ苦しくても人の世界を守っているし、自分の消耗が少ない戦い方を選択していた。
しかし、いつか均衡は崩れるものだ。想真は身体のすぐ横を通過した光を見た気がした。その光の行き先を目で追って見えたのは地面に散らされた紅い華と、
「──は、あっ…ぎ、っづあぁあああぁぁぁあ?!???!!!」
一瞬の空白。遅れて来るのは想像を絶する痛みと混乱、絶叫と思い出したように溢れ出す血液だ。地面に膝を着きそうになるが、それだけは耐える。左手で内臓が零れないように押さえ付けるが、それも焼け石に水だろう。想真は腰のピルケースに収まっている【回復錠S】を全て口に放り込んで噛み砕いて血液混じりの痰と共に飲み込む。直後、刺激されたオラクル細胞が無理やり肉を繋ぎ合わせて傷を治していく気持ち悪い感覚が脇腹を包み込む。
想真は笑った。
「ありがとな…今ので、暗い思考が全部吹っ飛んだ。…覚悟も、決まった」
想真は地面に神機を突き刺す。右手の腕輪を思い切り神機に叩き付け、目を閉じて小声で呟いた。
「…悪いな、お前ら。俺、まだそっちには行けない。もう少し…人間がバーテックスに勝つ為の布石が整う日まで、頑張るさ」
目を開き、1度だけ後ろを振り返る。後ろにあるのは瀬戸大橋と四国の地。残り半分、ここで止めなくては人類はバーテックスに駆逐されるだろう。
次は前を見る。蠢く無数の星屑と、その奥で聳える12体の完成体バーテックス、あれさえ倒せば、少しの時間稼ぎにはなる筈だ。
想真は、覚悟を決めて左手に力を入れる。
「賭け金は俺の命と人類の存続ッ!!余りにも不利な賭けだが、付き合って貰うぞバーテックス共ッ!!!!」
そして想真は、人としての楔を──
「がっ…………」
直後、両足が巨大化して白い甲殻に覆われる。思考にノイズが掛かる。自分の生い立ちが分からなくなった。
「あ、ぐぎっ…!」
背中の皮膚を引き裂いて、歪な翼が生える。それは羽ばたいて推進力を得る羽とは違う、ブースターのような機械的な翼だ。明らかに普通の生物の形としては不自然だった。
次は、自分の名前が分からなくなった。
「オ、レ…は………!」
両手が肥大化し、篭手のような甲殻が形成される。その手に生えた爪は鋭く、もう人と手を繋ぐ事など出来はしない。穏和とは掛け離れた、破壊を象徴するような腕だ。
──クソ、頭が痛い。人類を殲滅しろって命令が頭の中を掻き回す。抵抗をやめれば楽になれるんだろう。でも、その気は無い。
「ぐごゅっ…き、かひゅ…!」
声は既に人語を発する事など出来なくなってしまった。出るのは形容し難い声とすら呼べるのか怪しい音と、苦痛に満ちた身体が変形していく歪な音だ。
──壊せ。
──違う、守らなければ。
──何もかもを零に戻せ。
──絆を、大切な人の大切な何かを、守るんだ。
──喰らえ。
──嫌だ。
──喰らえ。
──守る。
喰らえ。守る。喰らえ。守る。喰らう。違う。喰らえ。守る。喰らう。それは駄目だ。喰らえ違う喰らえ守る喰らうちが喰らう違う!!守る喰らえ喰らえ喰らえ守る喰らえ喰らえ喰らう壊す砕く破壊する喰らう粉砕する守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう喰らう守る喰らえ!!!!!!!
ね
え
だ
れ
か
た
す
け
て
──立って下さい、想真さん!!!
なにかが、きこえたような。
──ずっと、あなたの傍に居るわ
だれかが、そばにいるような。
──ソーマ君の手は私達が繋いでるから
おれのりょうてを、だれかがにぎってくれている。
──何があっても、タマ達は味方だぞ、想真!!!
それなら、たちあがらなきゃ
人間としての身体は全て消えた。理性も何もかもが消えた、
『──』
だが、歩みを止めた。それを天の神は見逃した。人間がバーテックス化した時にのみ見られる現象だが、それが何か支障を来した事が無いからだ。もう人間に抵抗する手段は残されていないに等しい。使命を完遂する為に、バーテックスは歩みを進める。
『──ガ』
天の神はその異変に気付くと、対処を始める。この異変は天の神からしても初めて観測するものであり、それ故に早急に対処しなければ致命的までは行かずとも、人類の根絶を遅らせる恐れがあるからだ。先ずは星屑を使って状態を把握しようとしたその時、『ソレ』は動いた。
『──グルォォォォァァァァァァァアッ!!!!!』
地を揺るがす咆哮と共に、背中の翼から放たれた風が周囲のバーテックスが粉砕される。甲殻に包まれた両腕がゴギゴギと異音を立てて変形、その両腕は篭手に包まれる。周囲のバーテックスを殴り、翼から放出される風で地上からの攻撃を防いでいた。
地上の戦力では太刀打ち出来ないと判断した天の神は空中から攻撃を仕掛けるが、
見ようによっては王冠にも見える三日月のような形の角に、薄桃と赤の光が灯った。それは宝珠であり、勇者の力の結晶。
もう、何も覚えていないに等しい。自分の名前も記憶も、どうして戦っているのかすらも判らない。それでも
遠くに位置する
自らを消滅させる一手を視認した
『──────ッ!!!!』
閃光、爆裂、無音。ぶつかり合った超威力の攻撃は互いに大部分を打ち消し合い、消えなかった衝撃の余波が灼熱の地面を薙ぐ。それだけで星屑は吹き飛ばされ、その熱で融解し、大部分が消え去った。
それでも戦闘は終わらない。翼を広げ、背後に焔を展開すると
十二宮のバーテックスは優先順位を人類の殲滅から目の前の狂った同胞を破壊する事にシフトさせる。【盾】と【弩】を殺した致死の毒針、あらゆるものを破壊する絶死の隕石、それ以外にも
盾で防ぎ、風で吹き飛ばし、焔で焼き尽くし、氷雪で動きを止めて、篭手で殴り、鎌に変形させた翼で斬り捨てて、持てる全ての力を注いでバーテックスの攻撃から身を守る。それでもバーテックスの攻撃は今までの勇者の技術と力を昇華させたその抵抗ですら貫き、
死。その気配をいち早く感じ取った彼は残った右腕で自らの頭を掴み、そして力任せに
【──────】
それを視認したバーテックスの根底──天の神の意志が音無く吠える。生命の在り方そのものを否定する存在を、決して許してはならないと。【死】という何者も逃れられない概念から卑しく逃れるソレを、今すぐこの世から消し去らなければならないと。
その天の神の怒りを受けたバーテックスは進軍を止め、対象を取り囲む。人類を滅ぼす為の軍勢が1個体に注がれるという、絶望的な状況。そんな状況に置かれ、記憶も消えた筈の
後の世界では神樹を形成する神霊は【
だが、そんな【荒御魂】に反旗を翻し自らの存在が消え去るまで戦い続ける存在に対し、後の世界では畏敬を込めた名が付けられる。
【和御魂】に味方する存在でありながら唯一【荒御魂】に対して自分から牙を剥き、敵を殺し続ける神。その存在を知る人はソレを【