本来は神が持つ2側面の事。言ってしまえば荒御魂は神の荒々しく災いを振り撒く側面であり、和御魂は神の持つ優しさや平和的な側面の事。
これに準えて神樹を構成する人に味方する神霊を和御魂、人類に敵対する神々を荒御魂と呼称する。
これは勇者が扱う精霊にも適応され、その神霊を構成する逸話が荒々しく在ればある程に直接的な破壊力が増し、その代償に齎される反動は大きなものとなる。
和御魂の特徴はその特性を反転させたものとなる。が、破壊力では劣る代わりに荒御魂には無い特徴として、勇者との親和性によりその神霊と関連する精霊との契約を結ぶ事も可能である。
圧倒的な破壊力の代わりに拡張性が無い荒御魂寄りの神霊と、破壊力では劣る代わりに拡張性が高く、応用が利く和御魂寄りの神霊。このどちらと契約するかはその勇者の資質に依る所が大きいとされる。
──
乃木若葉は無駄な事が好きではない。それ故に答えが分かり切っている質問は滅多にしない。そんな彼女ですら、この問いを自らに問い掛ける程に目の前の状況が理解出来ていなかった。
見慣れた、見慣れてしまったバーテックスが、あるモノに群がっている。群がられているソレは黒いバーテックスであり、だから異常だった。バーテックスはどんな個体でも白が基調の配色となっていて、それに例外は無い。それも『若葉の知る限りでは』、という枕詞が付くのだが。
そしてバーテックスは共食いをしない。バーテックスが変異する際は喰らうのではなく、自らの身体を別の個体と融合させるのだ。
だが、目の前の光景はその知識から逸脱している。バーテックスは明確な敵意を以て黒いバーテックスを攻撃しているし、その黒いバーテックスも自分に群がるバーテックスを圧倒的な力で破壊していた。
「…お前は…」
戦う姿が同じだった。人間だった時も、今のバーテックスに成り果てた姿も。自分の身体を、命を削るような戦い方だ。多少の傷など無視をして、ただただ相手を倒す戦い方。
──ほら、今もまた自分の首を引き抜いて遠くに投げた。
「なぁ想真、お前は……!」
若葉は腕輪を握り締めた。この腕輪は想真の右腕に着けられていたものだろう。想真曰く、この腕輪は彼を人間に繋ぎ止めていたものだ。これを外せばバーテックスに成り果てると、そう言っていた。
その腕輪を若葉が持っている。それは、あの黒いバーテックスの正体が橘想真である事の、何よりの証左であった。
そして想真だったであろうモノは勇者の力を使っている。焔は球子、氷雪は杏、風は友奈、身体の再構成は千景を。それぞれの勇者の
だからこそ、若葉はとても悲しく思う。
「──嗚呼、想真。お前は──」
掠れた声が漏れる。その声は戦闘音に掻き消され、灼熱の地に解けていく。涙が溢れ、地面に落ちる。落ちた涙で濡れた地面は直ぐに乾いてしまう。まるで、彼が若葉を置いていった時のように。彼女の力を、存在を、必要としていないように。
──だって、そうとしか思えないじゃないか。
「──私を、連れて行ってはくれないのだな…!!」
人としての最終決戦には連れて行って貰えず、バーテックスと化しての戦いでも
当然と言えば当然なのだ。想真が扱うその力は、道半ばで力尽きた仲間のもの。若葉はまだ生きている。だから想真は若葉の力を『使わない』のではなく、ただ『使えない』だけで。
そんな理屈は解っている。そんな事が解らない程、若葉は愚かでも無ければ鈍くもない。それでも若葉は悲しかった。仲間の死が、そしてその死に立ち会えなかった事が、ただ悲しかった。いつも見送ってきた想真を見送れなかった事が、申し訳無かったのだ。
「──それでも、遺されたのだ…」
彼の死出の旅に連れ添う事は彼自身に許して貰えなかった。それなら、遺されたなら遺されたなりの事を成さねばならないと、若葉はそう思った。
地面に突き立てられた神機に背を向け、彼女は人の世界に歩みを進める。彼が自分の最終防衛ラインとして突き立てた神機が人の世界と終わった世界の境界線となっている。
最後に振り返り、若葉は未だ戦い続ける黒いバーテックス──否、想真に向かって誓った。
「…恐らく、私が生きている内には厳しいだろう。だが、待っていろ想真。…次は、
未来は未だ見ぬ、遠い遠い未来の勇者に託された。西暦が終わり、神の存在が確かなものとされた【神世紀】と呼ばれる未来。
橘想真という未来への礎になった存在など、知る由もない時代の少女達へと──
『乃木若葉は勇者である』編、終幕
最後の文章の通り、のわゆ編はここで最終となります。
次回からはのわゆ編から290年と少しの時を経た話となります。作品は分けず、このまま物語は進んでいきます。投稿はゆっくりとなりますが、見守って頂ければ幸いです。