神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 綺麗なノート

 授業の内容が分かりやすく記された小綺麗なノート。要点はしっかりと色分けされていたりアンダーラインが引かれていたりと、非常に見やすく纏められている。
 だが、その内容はカリキュラムを完遂しておらず、途中で途切れてしまっている。その続きを記す者は、既に失われている。


ばかをみる

 『神樹』とは、全ての人々の平穏と幸福を護る為に神々が形を変えた姿なのだと、少女はそう教わった。大人達の言う事なのだから、きっと正しいのだと少女は思う。それ故に、少女はこう考えるのだ。

 

 ──神樹サマが護ってくれないわたしは、きっとバケモノなんだよね。

 

 心は無垢、()()()()()()()()()()()()()()()()()少女が生まれて初めて確信を持った、たった1つの結論だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──………?」

 

 聞き覚えの無い音で立花は目覚めた。今まで寝床としていた物より遥かにやわらかく寝心地の良いベッドをそろりと抜け出し、窓から僅かに顔を出して外の様子を伺う。その音は庭の木の枝の上で囀る小鳥の鳴き声だった。

 

 「小鳥…」

 

 今まで育ってきた環境で外に出された事など数えられる程度しか無く、その殆どが昼も夜も無い生死を賭けた『訓練』と銘打たれたサバイバルで、こうして鳥の声で目覚めた事は無かった。むしろ、鳥はコツさえ掴めば簡単に狩れるという点から食糧としてしか見ておらず、鳴き声に反応するのも当然と言えば当然だった。

 

 「…学校、ね」

 

 割り当てられた部屋に備え付けられているクローゼットを開け、その中の制服を着る。大赦から支給されたその制服は園子が通う小学校のものだ。

 

 「…まずは『園子』を起こす所から、だっけ」

 

 手早く着替えを済ませた立花は、自らに命じられた務めを果たす為に部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「乃…園子…さ…園子、起きて下さい」

 

 本人直々の頼みで名前は呼び捨てにする事を心掛けるが、敬語はどうにも直し難い。そもそも物心ついてからタメ口で話した事など殆ど無かったのだ。習慣づいてしまったものは本人が直そうとしても滲み出てしまうものなのだ。

 

 「──んぁ…リッちゃん、どうかしたの〜?」

 「学校に到着しました。さ、降りて下さい」

 

 車のドアを開け、園子に降りるように促す。昇降口まで行った所で立花は立ち止まり、園子に頭を下げる。

 

 「私は転校生という扱いなので、ここで暫し分かれさせて頂きますね」

 「え〜!?」

 「暫しと言っても直ぐに──」

 「──リッちゃん話し方敬語に戻ってる!!」

 

 余りにも脈絡の無い話題の転換に着いて行けず、肩透かしを喰らった気分になる。これが12歳の『普通』なのだろうと認識を改め、若干自分の任務の遂行に不安を抱えながらも話題を繋げる。

 

 「…一応、公の場ですから。家では敬語を止めるよう心掛けますので」

 「う〜〜〜ん………良いよ!」

 「ありがとうございます。では、また後ほど」

 

 明るい人だ、と思う。勇者という事で期待やある程度の圧は感じているであろうに、そんな様子を全く感じさせない。自分とは正反対に位置する人間だと思う。目を閉じて右手の腕輪を触る。冷たい金属の感触が掌を伝わり、心を冷ましていく。

 

 ──忘れるなかれ、香月立花。貴様の存在意義、その成り立ちを。

 

 親代わりと呼ぶには余りにも惨い事をしてきた大人達、それらが告げた警句だ。忘れたくても忘れられず、きっと永遠に縛られるであろうその言葉に対する返事はたった1つだ。それしか知らないし、知る気にもならない。

 

 ──分かっています。私の命は、人々の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転校生としての自己紹介は恙無く終わり、教師に指定された席につく。場所は廊下側の1番後ろだ。年齢の割には華奢で、身長も小さい立花では前に座るクラスメイトの頭と背中に遮られて黒板は見えない。それでも問題は無いのだ。立花は学校に勉学を修めに来ている訳ではないのだから。

 この席も大赦が指定したものだろう。考えられる理由としては立花の仕事の内容が関係する。この場所は教室内の様子が観察しやすく、つまりは勇者──乃木園子と残り2人の勇者の動向を監視しやすいのだ。彼女の仕事は園子の側仕えと、勇者の護衛。そして、()()()()()()()故に。

 

 

 (そうは言うけど、私が本当に人を殺せると思っているのかな)

 

 

 立花がそう思うのもない話だ。立花が『こう』なって最初に行われた教育は人に絶対に危害を加えないというもので、その教育が功を奏したせいで立花はどれだけ危害を加えられても反撃できないのだから。大人にとって希望である勇者に対して過保護になるのは分かるが、せめて自分達が施した教育に矛盾する事は止めて欲しいと立花は思うのだった。

 

 「ぎっ、ギリギリセーフ!!」

 

 そう言って教室に飛び込んできたのは活発そうな印象を受ける少女だ。いい笑顔でやり切った雰囲気を出してはいるが、ギリギリセーフではなく普通にアウトなのだが。

 

 「セーフではなくもう始業時間ですよ、三ノ輪さん。香月さんの紹介も終わってしまいましたし」

 「え、昨日言ってた転校生か!?マジかよ…ごめん!!」

 

 立花に向かって深々と頭を下げる少女──三ノ輪銀。そんな銀に立花は笑顔を浮かべて言う。

 

 「そんなに謝らないで下さい。これから一緒に学んでいく仲なんですし、親交を深める機会はいくらでもあるんですから、ね?」

 「そ、そうか?本人がそう言ってくれると少し気が楽だよ」

 「でも、遅刻はあまり良い事ではありませんから。私からは何も言いませんが、次は気を付けてくださいね?」

 「ああ、わかったよ!」

 

 笑顔は忘れず、それでも嫌味に聞こえないように。初めての会話で悪印象を与えるのは後々に響くからだ。幸いと言えば良いのかどうなのか、それは定かではないが立花は今まで誰かの顔色を窺いながら生きてきた。故に他人の感情の機微には人一倍敏感だった。それこそ、言葉の裏に隠された真意を汲み取れる程度には。だからこそ、今の銀の言葉に黒い感情が無い事は簡単に分かった。そんな清らかな性質だから勇者に選ばれるのだ。他人を思いやれるから、神々に愛されてしまったのだ。だから──

 

 ──正直者が、馬鹿を見るんだよ。

 

 口に出さず、心の中でそう吐き捨てた。

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