神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 綺麗な制服

 しっかりアイロン掛けがされている、勇者達が通う学校『神樹館小学校』の制服。使った形跡が無い訳ではなく、ボタンを繕っていたりと着ていた事が見て取れる。


たたかい

 生きている時に良い事をしたのなら、死んだ後は天国に。悪い事をしてしまったのなら、死んだ後は地獄に落ちるのだと言う。それは少女も言われた事はある。そして、その言葉を聞いた時から心の片隅でずっと考え続けていた。年を重ねるに連れて考える頻度は確かに少なくなったが、今でも時折考える事がある。それは辛い事が有った日の時もあれば、上手く寝つけない日の事もある。

 

 ——もし私が誰かの為に死んだ後は、天国に行けるのかな。

 

 何度問い掛けて考えても、その答えは出ないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「起立、礼、『拝』。神樹様、今日も私達を守って頂き、ありがとうございます。着席」

 

 神世紀の世界には神樹と呼ばれる大樹が存在している。姿形は確かに樹そのものだが、その本質は人智を超えた神々なのだという。その神々は人類をあらゆる危機から守り、人々が神々への感謝を忘れない限り味方してくれる存在らしい。『勇者』という存在は神々から愛され、選ばれた存在だ。そのお勤めは一般の人々には明かされず、それでも勇者に選ばれる事は名誉ある事だと言われている。

 立花は酷い話だと嗤う。何をするのかも知らされず、それでも選ばれる事は取り敢えず栄誉だと言われているのだ。本質を知らないのにも関わらず持ち上げるだけ持ち上げられているのだ。これを滑稽と言わずしてどう表現するのか、立花には分からなかった。

 世界が、切り替わった。

 

 「——ッ!?」

 

 建物が解けていく。壊れているのではない。解けて、違うモノに変質しているのだ。それは戦いの時が来た合図、勇者が指名を果たす時が来たという事だ。

 

 「これは…っ!?」

 「これが樹海化なの!?」

 「zzz…」

 

 こんな時でも眠っていられる園子の事を肝っ玉が据わっていると言うべきなのか立花には分からないが、彼女は勇者にバレないように駆け出した。立花は戦う力を持ってはいるが、残念な事に勇者ではない。与えられえた(押し付けられた)モノを取りに、彼女は駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アレが、【バーテックス】…?」

 

 黒髪の、同年代の少女と比べると胸部の発育が著しい少女——鷲尾須美が呟く。『勇者』は目の前に在る敵を倒す、ないしは撃退する事が使命なのだという。須美達人間と比べると遥かに大きい(バーテックス)に須美は吞まれていた。震えこそしないが、畏れに囚われて動くことすら儘ならない。そんな須美の耳に、場違いとすら感じてしまう明るい声が響いた。

 

 「なるほどな?ま、私にゃあんまり難しい事は分かんないんだけどさ、取り敢えずあのデカいのをブッ飛ばせば勝ちって事で良いんだよな?」

 「…言い方はアレですけど、そういう事ですね」

 「んぅ…饅頭は大福とは違うんだよ〜…zzz…」

 「……まさか、寝てるの?」

 「…みたいだな」

 

 須美は信じられないものを見る目で園子を見る。真面目を人間にしたような須美にとって、園子は初めて関わるタイプの人間だった。須美は少しだけ、彼女と勇者としてやっていけるのか心配になっていた。

 少なくとも、こんなに世界が一変している状況だというのに眠っていられる人間はそう居ないので須美が驚くのは自然な事なのだが。

 

 「──はっ!ここは私?どこは誰!?」

 「そこは『ここはどこ?私は誰?』だろ…さて、と。乃木さん、起きていきなりで悪いけど、そろそろのんびりしてられないみたいだ」

 

 銀の視線の先を見れば、既にバーテックスは自らの攻撃範囲に3人を捕捉していた。銀はスマホを取り出し、あるアプリを起動して2人に画面を見せて豪胆に笑う。

 

 「よし…じゃあ、行こうぜ?」

 「おっけ〜!」

 「では…行きましょう!!」

 

 3人は同時にアプリのアイコンを押す。画面の中央からそれぞれのモチーフの花弁が溢れ、神の力をその身に纏わせる。学校の制服から勇者の戦装束へと、そして手に握られるのはスマホではなく戦う為の武器を。須美は白菊、園子は薔薇、銀は牡丹の、見目麗しい花の色の装束はまるで姫君のようで、それでいて放たれる神威は人の滅びを拒む拒絶と人を護る守護の神威だ。

 今回が初陣の3人だが、その3人から放たれる神威によりバーテックスの進行が僅かに遅くなる。そして、自分の周囲に水の球を展開した。

 

 「──散開ッ!!」

 

 変身を終えた3人が、須美の声で散らばる。直後、3人の居た場所を巨大な水弾が襲う。

 

 「なんだありゃ…近くで見ると結構大きいじゃんか!」

 「遠近法ですよ、三ノ輪さん!今は回避に──」

 「──鷲尾さん危ないッ!!」

 

 ──集中して。そう言おうとした瞬間、園子の声に反応した須美は視界の端で自分に再び追尾してくる水弾を捉えた。回避したという思い込みが、この事態を招いていた。

 バーテックスは超常の存在だ。それ故に人間の常識は通用せず、そしてどんな攻撃も何が起きても不思議ではないのだと。そう教わっていたにも関わらず、こんなミスをしてしまった。そんな考えが須美の身体を僅かに強張らせる。

 仕方の無い話ではある。3人はこの戦いが初陣であり、何より須美は()()()()()()。緊張感ではなく、責任感に押し潰されてしまう手合いなのだ。その責任感故に視界は狭まり、思考が固まった。そもそもの話、初見のバーテックスの攻撃に対処するのは至難の業なのだ。歴戦の、かつての勇者ですら苦戦するその対処に、初陣の須美が苦戦する事を誰が責められるだろうか。

 その答えは1つ、他ならぬ()()()()()()()()()()()。先程も言った筈である。須美は責任感に押し潰される手合いだ、と。自分で自分を責めてしまうから、こうして対処が遅れてしまう。そして遅れた対処は、勇者の命を散らすには充分過ぎるものなのだ。

 

 「──鷲尾様、頭をお下げください」

 

 最近聞いたような、そんな声。その声を信じて良いものか、とは思いながらもその言葉に従って頭を下げる。その直後に頭上を通り過ぎる金属の塊と尾を引く炎、それに正面からぶつかり合った水弾は四方に飛び散った。

 一先ず窮地が過ぎ去ったその後で、須美は振り返る。

 

 「間一髪でしたね。駆け付けるのが遅くなり、申し訳有りません」

 

 そこに居たのは先程も会った転校生だ。同年代の中でも小柄な方とは言え、身の丈より大きい武器を肩に担ぐその姿はとても歪で、それでいて何故かそれが自然であるような印象を受ける。

 

 「あ、ありがとうございます、香月さん」

 「いえ、礼には及びません。私の使命はあなた方をお守りする事ですから」

 「…?勇者の使命は、神樹様をお守りする事ですよ?」

 「そうですね。ですが、私は勇者ではありませんので」

 「それは、どういう──」

 「──失礼します、鷲尾様。その答えはこの戦いを乗り切った後にお話ししますので、今はどうか戦いに専念しましょう」

 

 突然地面を滑るようにステップした立花は須美の身体を抱えてその場から離脱する。一切後ろを振り向かない立花だが、正面から抱えられている須美には見えている。バーテックスが大量の水弾を自分達に向けて放っている光景が。

 

 「リッちゃん!!」

 「私も手伝うぞ!」

 

 明らかに攻撃の質が違うと感じた園子は2人に放たれる水弾を突き、落とす。銀も駆け付け、両手に持つ2振りの大斧で水弾を片っ端から斬り捨てていく。

 

 「──鷲尾様、ここなら恐らく大丈夫です。ここから中距離での援護をお願いします」

 「わ、私も前に出ます!その方が相手の注意も分散して、前衛もやりやすくなる筈です!」

 

 水弾が飛んで来ても余裕をもって対処出来る位置に須美を下ろすが、須美のその気質が自分だけ安全圏から撃ち続ける事を許さない。立花は自分の立場を恨めしく、この戦いが終わった後の事を憂鬱に思いながらも口を開いた。

 

 「鷲尾様、あなたの役割を考えて下さい。前線を支えて一撃を与えるのは三ノ輪様が、その三ノ輪様を守りながらも足りない所を補う仕事は乃木様が。その乃木様を守り、戦場全体を俯瞰する『眼』となる役割はあなたにしか出来ないものなんです。…その役割を私が果たすには、私自身が中途半端過ぎますから」

 「…では、あなたにはどんな役割が?」

 「これからお見せします。それでは、私の役割を果たすとしましょう」

 

 バーテックスに向き直り、中腰になってその武器を構える。その武器は()()()()()()()()()()()()()()()だ。しかし、その力は超常の存在を破壊する事は出来ても、勇者達が使う力のように多彩な力は発揮出来なかった。だから人間は、自分達しか持たない唯一無二の(科学)を用いて付け足したのだ。

 立花は同年代の子供と比べても背が小さく、力も弱い。その身に宿してしまった力の影響で常人より膂力は高くとも、勇者と力比べをすれば普通に負けてしまう。そんな膂力では、かつて居た同胞のように剣を振るっていてもロクに戦えない事は明白だった。()()()()()、科学に頼った。そもそも、科学というものは人間に足りないものを補う為に存在するものだ。膂力が足りない立花が、科学に頼るのは当然の帰結だった。

 

 「──三ノ輪様は、その武器の都合上どうしても攻撃の手数が足りません。乃木様は手数こそ足りてはいますが、威力が足りません。そして鷲尾様は弱点を撃ち抜く事が可能ですが、バーテックスには知性があります。注意を払われればその効力は半減してしまう。それを補う為に、()()()()()()()()()()()()のが、私です」

 

 硬い骨を断てないのなら、表面を粉砕すればいい。粉砕するのに力が足りないのなら、後付けで推力を足せばいい。そうしてその武器は、この世で唯一立花の為だけに造り出された。暴力と歪みを与え続けた大人が立花に与えた、殺す為の力だ。

 

 「とにかく汎用性を。相手を打ち砕く武器を、相手を撃ち抜く攻撃手段を、皆様を守る盾を。それが私です」

 

 バイクのアクセルのように長い柄を捻る。すると、大槌の背に着けられた小型のブースターから炎が上がる。

 

 「なんだその武器、かっけー!!!」

 

 立花の武器を見て、銀は少年のように目を輝かせる。確かに、巨大な槌に着けられたブースターから炎が上がる様はロボットアニメに近しいものがある。だが、そんなもの(ロボットアニメ)など知らない立花はどこが格好良いのか、本当に分かっていない表情を一瞬浮かべる。そんな表情は直ぐ様心の奥底へ仕舞い込み、立花は初陣の勇者に向けて指示を出す。

 

 「私が先陣を切ります。御二方は私の後に続いて下さい。鷲尾様は御二方の援護とバーテックスの観察をお願いします。…あなた方の代わりは居ないのですから」

 

 返事を聴く暇は無い。武器の柄を握る右手を下に力を込め、左手を上に力を込める。ガチン、と固い手応えの後にチロチロと見えるだけだった炎が燃え盛る。そしてその炎はブースターにより指向性を持ち、莫大な推力を与える。

 立花は武器に引っ張られるように駆け出す。目の前には彼女の2、3倍はある大きさの水弾が5発。それが立花に向かって飛来する。被弾すれば水の中に囚われ、呼吸困難に陥る事は避けられない。その先にあるのは死だけだろう。

 

 「香月さん!!」

 「──御安心下さい、鷲尾様。この程度は想定済みです」

 

 ハンマーから出ていた炎が収まり、立花は柄のボタンを押す。身の丈を超える大きさのハンマーが形を変え、巨大な銃へと変形する。

 

 「この大きさなら、外しません」

 

 そして間髪入れずに引き金を引く。軽い破裂音と共に銃口から放たれるのは銃弾ではなく、青い軌跡を描くレーザーだった。それは着弾すると極低音の冷気を発生させ、目の前の水弾を瞬く間に凍らせた。そのレーザーは人の科学により造られたものでありながら、神の(呪い)が籠められたものだ。それ故にバーテックスの攻撃に対抗する事が出来る。

 凍った水弾を足場に、もう一度跳躍する。跳ぶ間に変形を済ませた武器を構え、バーテックスの目の前に到達する。

 

 「ブースト…!!」

 

 再び武器を変形させ、立花の非力を補う為のブースターが火を噴く。手から離れてどこかへ飛んでいこうとするハンマーを握り締め、彼女はバーテックスの脳天にその大槌を叩き込む!!

 

 『────!!』

 

 バーテックスの外殻が砕け、ヒビが入る。そこに変形させた武器の銃口をネジ込み、弾が出なくなるまで引き金を引く。返ってくる手応えで弾切れを悟った立花は後退しながら声を上げる。

 

 「皆さん、今が好機です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──バーテックスが、退いていく…」

 「私達の、勝ちか…?」

 

 それから少しの時間が経ち、バーテックスは速度が落ちた浮遊で瀬戸大橋から出て行き、姿を消した。長射程の攻撃の可能性を危険視して数分は臨戦態勢を崩さないでいた4人だが、立花が構えを解いた事で園子と銀は肩の力を抜く。

 

 「──お疲れ様でした、御三方。この襲撃はこれで終わりです。見事な戦いぶりでした」

 「…香月さん、あなたは何者なんですか?答えて下さい、返答次第では…撃ちます」

 

 だが、須美だけは違う。彼女だけは未だに立花を疑い、弓を向けていた。本来はバーテックスと戦う為の武器だ。人間に向けるには過剰な威力の弓を向けられて尚立花は顔色1つ変えず、むしろ好ましい事のように口角を僅かに上げていた。

 束の間の静寂を破り、立花は口を開く。

 

 「私はゴッドイーター、あなた方勇者とは違う存在です。神樹様の力に頼らずにバーテックスを打ち倒す為に産み出された、戦うだけの兵士。それが私、香月立花です」

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