城壁の中の寂しさは   作:なまきいろ


原作: Fate/
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ぐだ男と絆3か4くらいのヘクトールとのバレンタインの話
BL未満のつもりです

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城壁の中の寂しさは

 さて、バレンタイン。どうするか。

 自室でひとり、ヘクトールは机に向かい煙草を揺らす。

 人理焼却は回避され、細かな特異点の残滓を修正作業という地道な仕事はあれどあの頃に比べたら平和なものだ。

 とりあえずの危機は回避されたから。外部からの人間が出入りするようになってやや煩わしくなったから。様々な理由でいくらかのサーヴァントたちは座へ還り、本拠地となるカルデア内も随分広く落ち着いた空気になったものだ。全く寂しくないといったら嘘になるが、ヘクトールとしては今のほうが好ましかった。

 そして残った者たちは、自分を呼んだマスターをとてもとても気に入っている。これがとても厄介な話なのだ。

 好意が強いだけに執着も強い。それ故に既に水面下では熱い冷戦が勃発している。

 もちろんマスターの心にサーヴァントたちへの優劣はない。

 あの戦いを共に駆け抜けてくれただけでも感謝の念は尽きないというのに、更に自分個人を、なんて。

 返しつくせない想いをせめて少しだけでもバレンタインで。とダ・ヴィンチ女史に相談していたようだが、それ自体はいい。ヘクトールも彼への好意含めて思うところあってここに残る身だ。想いは嬉しい。そのお返しを今正に悩んでいるところでもあるのだ。

 そう、お返し。

 問題はお返しなのだ。

 サーヴァントたちが「誰が一番マスターによりよいお返しが出来るか」で争いが起きつつあるのだというかもう起きてしまっているのだ。

 もちろん先にも言ったとおりマスターはそれによってサーヴァントに優劣をつけたりはしない。

 だがこの場に残っているメンバーは良くも悪くも気心が知れ渡っていて遠慮がない。有り余ったマスターへの好意と闘争本能と英霊としての矜持がこういうイベントに全力にさせてしまうのだ。止める術がない。

 厄介だなあ。厄介だなあ。とヘクトールは痛む頭を横に揺らす。

 馬鹿騒ぎ自体はそこまで嫌いではないしガス抜きとして必要な行為だと理解している。血気盛んであるがさっぱりしている連中だ。その場その瞬間に対立して暴れたとしても、次の日には和やかに一緒に食事をしているのが日常だったりもするのだ。なんなら輪の外周ぎりぎりのところで参加するのも一興と思うが……それぞれのマスターへの想いが絡むとなるとどうしても……。嫌な予感しかしない。

 であるならやはりなるべく目立たないのが一番か。

 無難に仕上げてマスターの手には残るが誰の印象にも残らない。そんな無難でささやかな。

 もしくは、誰の目から見ても「あれよりマシだった」と思われるものを作るか。

 これはこれで重要な役割だと思う。どんな負け方をしたとしても、そういうオチがいたら気持ちはいくらか楽になれるだろう。

 だから特別とびっきり不吉で不謹慎で趣味もセンスもないものを悪びれなく。

 ……せっかくのマスターからの好意に自分でもそこまで分かっているものを渡すというのはとても気が引けるが、これも「楽園」の維持のためだ。

 「仕方ないねえ」

 苦笑いと共に煙を吐いて煙草を消し、その作業に取り掛かった。

 まあ、そろそろ少しくらいは自分の話もしたいと思っていた頃だ。きっかけくらいにはなってくれるだろう。

 

 そして

 

 「マス、ター……?」

 「あ、あれ?」

 バレンタイン当日、「とりあえずヘクトールに」と無難で気軽な景気づけのようにやってきたマスターにお返しを渡した途端に泣かれた。

 「わ、悪い!嫌とかそういうんじゃなく!ちょっと待ってくれ!なんでだ!?」

 本人も意図していない涙腺の緩みは間もなく崩壊する。

 止められないまま勢いは増し、ついには嗚咽になっていく。

 双方何が起こっているのか分からないパニックの中、「ちょっと待ってて」とヘクトールは彼に自身のマントをかぶせて外に出た。

 

 「落ち着いた?」

 「……落ち着いた」

 ヘクトールのマントをかぶったまま、持ってきた蒸しタオルを目に当てようやく止まった混乱に静かに仕切りなおす。

 「ごめんねオジサンセンス悪くて」

 「いや!ヘクトールは何も悪くないんだ!すごく嬉しい!ただ、自分でも思ってなかったくらい寂しかったらしいというかだから嬉しかったというか、」

 「そ、そう?」

 マスターへの返礼ではなく場を上手く誤魔化すことばかり考えていたことを反省するヘクトールに彼は大きく首を振る。が、その気恥ずかしさにまたしおしおと小さくなっていく。

 ヘクトールのマントの中で蒸しタオルを顔に当てたまま、小さく丸まっている彼が世界を救ったなんて誰も思うまい。それくらい今の彼は普通の子供だった。

 「今は皆でこうしてるけど、皆オレに気を遣ってここにいてくれるけど、それもずっとそうだってわけにもいかなくて、いつかなくなってしまうんだなって。その時は何も残らないんだな。って当たり前のことが、自分の中でこんなにストレスになってたなんて思ってなかった」

 「……」

 「マシュには特異点の修復が終わるたびに「自分たちが覚えているから大丈夫」なんて、かっこつけていつも言っていたのに、情けないな。嬉しくなってしまったんだ。形に残るものが。証になるものが。自分が長い夢を見ていたわけじゃないって思えるものが、嬉しくて……悪い、また泣けてきた」

 「……」

 ヘクトールは「残した者」だ残されるものの孤独や悲しみの理解には遠かった。だがだからこそその姿とその言葉には意味があり、流れる涙と共に重く受け止めなければならないと思った。

 自分たちにとってはその場限りの甘く消える夢でしかないとしても、彼にとってはこれからも続く世界の一部なのだ。忘れられぬ日々なのだ。

 「ありがとうヘクトール。本当に嬉しい。大事にする。木馬というのも縁起がいい。ヘクトールが作ったのならいい厄除けになってくれるだろう」

 「え?」

 「ん?」

 この期に及んでいた国を間違われているのだろうか。

 まさかの好感触評価に固まるヘクトールに彼は首を傾げる。

 「オレの国では悪いものをあえて崇め奉ることで厄ではなく福をもたらしてもらおうという習慣がかなり伝統的で一般的でこれもそういうものだと思ったんだが……、もっと違う意味があったのか?」

 「えー……」

 まさか本当のことなど言えるわけなく

 「ソンナカンジデス」

 彼が都合よく思ってくれるならそういうことにしておこうと心苦しく乗っかった。

 

 それから気を取り直して彼は他のサーヴァントたちにもチョコレートを配り歩き、エミヤからキッチンセットを貰ったりキャスターのクー・フーリンから揃いの杖を作ってもらったりとヘクトール以外からも「残るもの」をもらえたようで、「なんか杞憂だった」と気恥ずかしそうに報告してきてくれた。

 という微笑ましい流れとは全く別に「バレンタインのお返しで泣いてしまったなんて恥ずかしいから絶対に内緒」と釘を刺されてちゃんと従っていたというのに「バレンタインで唯一マスターを泣かせた男」という噂が広まってしまい、一部サーヴァントたち相手に嫌になるほど得意な防衛戦と篭城戦を嫌になるほど発揮するハメになったとか。


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