なんで―――なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!
姉さんの予言はいつも完璧だった。
ゼロを捉えた時も、それまでのどんな戦でも、僕の致命的な危険は、全て姉さんの予言が救ってくれた。
裏を返せば、僕は何度も、『予言がなければ死んでいた』と確信できる戦場を経験してきた。
国を背負い、民を導く高潔な神託の巫女。
この戦士の国において、数多の武力を束ねる女王
家族を慈しむ優しさに満ちた、より良い明日を目指す人。
そんな姉さんを、守れる力が欲しかった。
誰にも負けない、最強の戦士。
いつか、予言に頼ることなく、僕に尽くしてくれる民の熱意と技術に結晶であるこのナギド・シュ・メインと、僕の力だけですべての敵を屠れるように。
その為に僕は尽くしてきた。
敵の技術であろうと強くなるために必要なものは全て吸収した。
多くの命を散らし、己の命でさえなげうってきた。
なのに――――
「なんでっ!!!」
この白い騎士が、目の前のKMFがいつまでも倒れない。
今日この日まで積み重ねた知識が、経験が、思いが、悉く届かない。
振るう剣は返され、徒手空拳は躱され、狙いすました弾丸は弾かれる。
勝ちたい。この敵に。
僕が最強なんだと、証明したい。
たとえどんな敵が現れようと、姉さんを守り抜く力があると。
平和な明日なんていらない。
僕らは戦士だ。
この国は、戦いを生業にしている。
それは世界の日常で、僕らはそうして明日をつかみ取ってきた。
生きる糧は、戦場にある。
誰かを殺して、僕らは生きていく。
そのはずだったのに。
悪逆皇帝は恐怖で世界を染め上げた。
その妹は優しさで世界を包み込んだ。
対立や争いがない、『優しい世界』じゃ、僕らは明日を迎えられない。
戦って、殺して、生き延びて―――ほかに生き方を知らない僕たちは、平和に殺される。
戦いさえあれば、僕と姉さんは手を取り合って歩んでいける。
そう信じていたのに。
機体に与えられた衝撃で、ゴーグルがはじけ飛んだ。
装甲に無数の穴が穿たれ、あらゆる部品が破損し、分離し、霧散し、宙を舞う。
僕の意を介さない脚の代わりに、僕をどこまでも運んでくれる最良の鎧が破られ、その穴からぼんやりと見える光に手を伸ばす。
あぁ、姉さん。僕の愛する姉さん。
視力さえ貧弱だった僕の世界の、闇に揺れるたった一つの光。
たとえ世界を敵に回しても、これだけは守り通したいと誓った、僕の光。
教えて、姉さん。
どうすれば、姉さんと、一緒の明日を――――――