人を悪く言うのってラブラブなのを書くのより超難しい……。
『おい………………………………………、おーい!』
「………………………………………あ?」
学院の地下牢の中で、全身を鎖や縄で雁字搦めにされて吊るされているウォーがその声で目を覚ました。
『よう。おはようさん。久しぶりだな。』
「…………………なんだ、てめぇ。」
『おっと、忘れちまってるんだな? まあいい。』
ウォーの目の前には、黒いもやのような姿をした何かがいた。ソレから声が発せられていた。
『おめぇさんにゃ、まだ暴れてもらっちゃ困るからよ。だからおめぇさんの体についた封印を使わせてもらったぜ?』
「あれは、てめぇの仕業か…。」
『け・ど、危うく残りの封印が壊れちまいそうだったからよぉ。あんま多用はできないな。』
「ふういん? それが俺の記憶と力を奪った元凶か…。」
『早い話がそうだけどよ。今すぐ封印を壊されちゃ困るのよ。わりぃね。』
「…………………今すぐ封印を解け。」
『だ・か・ら、封印を壊れちゃ困るって言ってんの。…………………ただし、ちょっとずつならいいぜ?』
「あぁん?」
ウォーは、わけが分からんと声を漏らした。
『おめぇさんは、いずれ思い出すさ。そしたら、理由も分かる。おっと……、そろそろ”贄(にえ)”候補が来るな、じゃあな。』
「待て!」
そして黒いモヤが消えた。
ウォーが舌打ちしたとき、牢屋の鉄格子の向こうに誰か来た。
「ウォー…。」
「なんだ。ガキか…。」
「私はガキじゃないわ! ルイズよ! それより…、少しは反省したんでしょうね?」
「なにがだ?」
「ギーシュを殺そうとしたことよ!」
「クソガキのことか。それがどうした?」
「私の使い魔が、危うく学院の生徒を殺しそうになったって、みんなから怒られたのよ! あんたのせいだからね!」
「はんっ。好きに言われておけ。」
「あ、あんた…。」
反省の色などこれっぽっちもない様子のウォーに、ルイズは怒りに震えた。
「反省しないなら、殺されても文句はないってことよね?」
「も、モンモランシー!?」
そこへ、巻き毛の金髪の少女が来て、ギッとウォーを睨んだ。
するとモンモランシーに続いて、復活したばかりのギーシュもやってきた。少し右足を引きずっている。
「クソガキが。また殺されに来たか?」
「はっ! いい有様だな!」
ギーシュが顔を歪めて笑い、大げさに腕をすくめて見せた。
「あぁん?」
「先生方は、いったいこんな奴の何を恐れているんだ!? たかが図体がデカいだけの亜人ごときに!」
「なに? なにがあったのよ?」
「あんたは、邪魔よ。」
「きゃっ!」
恐る恐る理由を聞こうとすると、モンモランシーにルイズは突き飛ばされた。
モンモランシーとギーシュが、牢の中にいるウォーを睨み付ける。しかしウォーは、嘲笑の笑みを浮かべていた。
「…こ、ここが、魔法の封印がされた場所でなければ、ここでおまえを殺してやったものを!」
ギーシュがウォーの様子に血管を浮かせ、杖をギリギリと握りしめた。
「はんっ。俺に殺されかけておいて、できると思ってるのか?」
「わたくしがいますわ!」
モンモランシーが杖を向けた。
「クソ娘ごときの力が無いと、ロクに俺に喧嘩を売れないか?」
「い、言わせておけば!」
「何をやっている!」
そこへ、教師数名が駆けつけてきた。
「グラモン! モンモランシ! 君達は、この亜人との接触を禁じられたはずだぞ!」
「しかし、納得がいきません!」
「そうです! この亜人を罰するならば、退学処分だなんて…!」
それを聞いてルイズは目を見開き驚いた。
自分が知らないところで、学院の上ではそんな話が進んでおり、ウォーに憎しみを抱いているギーシュや、その彼女であるモンモランシーがウォーとの接触を禁じられ、それを破れば退学処分に処される状態になっていたことを。
「それならば、なぜルイズが処分されないのですか!?」
「それは、すべてオールド・オスマンの決定だ! 覆すことはできん! いいからここを出なさい!」
「納得する理由を!!」
「退学になりたいのか! 家の名を汚したいか!」
「っ……。」
そう言われ、二人は押し黙った。
「ぷっ。」
「ウォー…?」
すると、牢屋の中にいるウォーが小さく吹いた。
全員の視線がウォーに集まる。
「結局は、偉ぶるだけの権力が大事なガキ共と、上の顔ばかり伺うだけの能なしか。」
「き、貴様!」
くっくっ…っと笑いながら言うウォーの言葉に、教師達が怒り杖を抜いた。
「何が違う?」
「う、ウォー! 謝って!」
「ロクに俺を殺せもしないくせに……。」
次の瞬間、ウォーが自身を雁字搦めにしていた、鎖と縄を破った。
それに教師達やギーシュとモンモランシーが驚愕していると、ウォーは、牢屋の鉄格子を掴み、ひねりあげて、破壊した。
「この程度のお粗末な牢屋じゃ、この世界の人間共の力もたかが知れている。」
ルイズは、開いた口が塞がらなくなった。
地下牢は、時にメイジを閉じ込めておくため、強固な魔法が使えないようにするための封印が施されている。それだけじゃない、もちろんメイジではない者でも破壊できないほど強固な錬金が施されており、こんな簡単には破壊できはずだ。
そんな地下牢から難なく出てきたウォーに、一部の教師が腰を抜かしていた。
ギーシュもモンモランシーも、言葉を失っており、よく見ると足が震えていた。
二人は、学院の決定に大きな不満があったものの、圧倒的なウォーの力を目の当たりにし、今は後悔が強まっているようだ。
「やはり、こうなったか…。」
「お、オールド・オスマン!?」
「すまぬ…。どうか我らを許してはくれぬか、戦士よ。」
「なんだ、ジジイ。」
オスマンがウォーに頭下げた。それにルイズ達は驚いた。
「そなたを拘束したのも、我々のメンツのためじゃった。このようなことは、これっきりとするので、どうか、この子らを許してやってはくれぬか?」
「……ったく。殺す気も失せるぜ。」
頭下げ続けるオスマンの様子に、ウォーが気分を害されたとばかりに、頭を振った。
「そうじゃ…、そなたのこれからのことじゃが、ミス・ヴァリエールを交えて、これから、学院長室でしたいと考えておる。来てはもらえないか…?」
「………いいだろう。」
「有り難き言葉、感謝する。」
ルイズ達は、ただただ二人のやりとりを見ていることしか出来なかった。
そして、オスマンはやっと頭を上げ、ウォーと共に来るようルイズに言った。
ルイズは、ハッとして慌てて返事をした。
そうして、ギーシュとモンモランシーは、教師達に連れて行かれ、残されたルイズとウォーは、オスマンと共に学院長室に向かった。
***
学院長室に招かれた、ルイズとウォーは、オスマンと対面する形でソファーに座った。図体がデカいウォーは、少しばかり座りにくそうではあるが…。
「さて、まずは、戦士殿…。あなたのことでじゃが……、我々は、全力をもって元の場所へ帰すことを決定した。」
「えっ!」
ルイズが驚き思わず声を漏らした。
「ミス・ヴァリエールには、申し訳ないが、この戦士殿を使い魔とし続けるのは辛かろう…?」
「それは……。」
ルイズは、口ごもり俯いた。
そして思い出されるのは、学院中から向けられる侮蔑と怒りの目、目、目……。
「本来ならば、メイジは、次なる使い魔を召喚する場合、使い魔が死ななければ次の使い魔を召喚できぬが…。」
「俺に死ねというか?」
「とんでもない!」
オスマンが降参だと手を上げて首を振った。
「そして…、なぜこの決定をしたのか、その理由じゃが…。鎧とそのマントの上からでも見えておる、その紋章のような物のことじゃ。」
「これか?」
「それは、おそらくは使い魔のルーンではない。」
「えっ!!」
たまらずルイズが声を上げた。
「あの時、グラモンの倅を殺そうとした、あの時に、そのひとつが壊れていた。途端に、戦士殿が戦う力を取り戻した。つまり……、おそらくは何かしらの封印ということじゃろう。」
「ふういんか…。」
ウォーは、自分の右手を握ったり開いたりして、あの時の感覚を思い出した。
「なぜ、戦士殿に、そのような物がついてしまったのかは、原因は分からぬ。じゃが、このまま封印の全てが解かれれば……。ミス・ヴァリエール。そなたが召喚した当初のように……。」
「あ……。」
ルイズは、あの時、あの強大な竜の姿を思い出し青ざめた。
あの姿こそウォーの真の姿なのだとしたら、すべての封印がなくなればどうなる?
あの時は、召喚されたばかりのロクに動けなかったと思われるが、もし全盛期の力を取り戻したなら、もう誰にも止められないのではないかと考えたルイズは、汗をかき、ブルブルと震えた。
「理解したようじゃな…。では、戦士殿。これより先、そなたの故郷に帰す目処が立つまで…、できることならば、この学院で過ごしてもらいたいのじゃが…。」
「そりゃ、たいそう退屈だろうな。」
「すまぬ…。」
オスマンは、心底すまなさそうに頭を下げた。
こうして、学院内にウォーに攻撃することを禁じるお触れが出され、特にウォーに対して憎しみを抱いていたギーシュは、唇を噛むこととなる。
オスマンがウォーを恐れているのは、この段階で、確証は得られていないが、ウォーの体についた封印が原因です。
残る六つ……、これが全部壊れると……?