鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 ―――後から知ったが、ガンダムフレームってやつはみんな悪魔の名前をつけているんだろ?―――

 ―――だとしたら……アレはまさしく悪魔だった―――

 ギャラルホルン・アーブラウ支部所属 エドモントン防衛部隊の生き残りの証言


大気圏突破のボードって実は高かったりする

 

 

 

 ――学のない人間でもできる高給取り、なんてものは存在しない。

 

 それがこの俺、『レッド・ウェイスト』の経験談だ。マジで存在しない。いや本当にだ。

 そんなことはないという奴らに聞くが、例えば火星のレアメタル採掘現場にスラムの子どもはいるか? 人員不足のギャラルホルンに浮浪児出身の奴がいるか?

 歴戦の傭兵に無知なバカがいるか? 

 

 答えは『いいえ』『No』あるいは異なる言語や記号で記される否定だ。

 

 

 採掘するための機材やその作業は神経を使う仕事だ。馬鹿の一つ覚えみたいに盗む、殺す、奪うぐらいしか能のないスラム野郎ができる仕事じゃねぇ。報告書だって書かなきゃいけない。

 

 

 ギャラルホルンなんてもっと辛い。規則、規律、規範、高慢ちきな連中への所作に言葉遣い、なにより報告書。出身で差別されるなんざ当然のこと

 

 じゃあ、傭兵は? ところがぎっちょん! こいつも学が必要だ。というか前の二つよりも俄然必要だ。

 個人であろうと、PMC(プライベートミリタリーカンパニー)に参加しようと、派遣先の風習や因習、言語、対立構造、宗教、地形に人脈構築など脳筋が生きていける世界ではない。

 何より、PMCなら整備班がいるが個人傭兵だと、装備や設備の整備ができなければ話にもならない。あと経費とか経費とか、借金とか。

 

 

 ああ、失礼。俺は後者の方でかつちょっと運のいいことにMSを保有する馬鹿だ。新進気鋭で仕事に精を出す傭兵―――なんて言えば聞こえは少しいいが、身もふたもない話、MSの油すら()せないぐらいにド貧乏の傭兵です、はい。

 

 

「ということでだ」

『何がだ?』

「ここにクーデリア・藍那・バースタインがいるはずだ。出してもらおうか」

『勝手なこと言ってんじゃ――待て、ユージン。敵と決まったわけじゃ……』

 

 

 まあ、通信に出ている特徴的な髪形の彼の気持ち、わからなくもない。俺もいきなりだったら混乱するもの。

 読者諸君、メタい話だがCGS(クリュセ・ガード・セキュリティ)の襲撃中だよ、今現在はね。原作と違うのはグレイズが四機に増えていること。そのうちの一つをバルバトスがミンチよりひでぇやにして、一機が大気圏外からの波乗りボードでぺしゃんこにしてしまったわけだ。

 

 で、両軍ともに未確認機の俺がいること。いざ三機で包囲殲滅してやろうとしたら一機潰れたから呆然としているわけだが………。

 

 

「ぬわぁ!?」

 

 

 すると今まで経験したことがないぐらいの衝撃が来た。粋がる海賊が保有するモビルスーツなんかとは比べ物にならないぐらいに強力だった。

 

 

『オルガ』

『ミカ!? 何して』

『数が元に戻っただけだよ。全部潰せばいい』

「ちょ、おま!?」

 

 

 この野郎、状況を理解してないのか!? 協力すれば2対2にできるのをわざわざ1対3にしようとかバカじゃないの!? ドⅯですか?!

 

 

『余計なリスクを負う必要はねえ!! 』

『敵かどうかもわからない。それに………なんか気に入らない』

 

 

 声からしてガキじゃねぇか! これだからガキは嫌いなんだ!! つーか、CGSは少年兵にモビルスーツ与えてんのかよ? もしかして、大破したモビルワーカーにも―――――ああ、少年兵だ。基地の近くにいる連中、全部ガキだ。

 

 

「リスクを考えろよ、ガキんちょ!」

『アンタこそ大したこともないね。十分殺れる……!』

「言ってくれるじゃないさ。よう、オルガとか言ったか?」

『ミカ、やめろ!! アンタも抑えてくれ!!』

 

 

 よかったわー。こっちのは頭が回る方だった。

 

 

「俺は敵対するつもりはない。お嬢さんに自分を売りに来ただけ……けど、こいつ次第で変わるぜ?」

『傭兵か!』

『オルガ?』

『いくらだ?』

「お試しで、モビルスーツの整備と補給で構わない。聞き入れられないなら――――」

『チィ……!!』

 

 

 白いモビルスーツのメイスを受け止めていた腕をほどいて(・・・・)体勢を崩させる。

 崩させたのはいいもののまるで生物のような動きでとらえる前に逃げられてしまった。

 

 

「俺は逃げるッ!!」

『『―――――は?』』

「金にならない戦闘なんざしねYO! つーか、バカでぃすかぁ? 笛吹野郎どものモビルスーツぶっ潰しておいて向こうに加担できるわけないじゃん?!」

 

 

 ちなみにオープン回線でばらまいているのはご愛敬。後ろにいるグレイズも敵意満々とそれを制している指揮官クラスが哀れに見える。志が高いのいいけど、盲目の忠誠心とかないわー。

 一応にも軍人なんだから上官の言うことぐらい聞こうぜ?!

 

 

『どの口でぇ……!!!』

『やめろ、アイン!!』

『しかしクランク二尉! 奴はカミラ三尉を殺ったんですよ?!』

 

 

 ア、オーゥ………もしかしてアインとかいう奴のコレ(小指をぴーんっ)ちゃんですか? 敵討ちとか嫌なパティーンんじゃないの。

 益々もって、ガキんちょ側に付かないとやべぇ!!

 

 

「連中が報復しに来ても二機体制で応じればイケるかもしれねぇぜ? もちろん、お嬢さんが依頼主になれば俺は連れて逃げるし、お前らとしても追撃の協力ってことでお咎めなしになるかもしれねぇ」

 

 

 オープン回線を切って、短距離レーザー通信だから向こうには聞こえないようにしている。

 ギャラルホルンはともかく、ガキんちょから逃げるのは容易いだろう。あのモビルスーツは整備も不十分だしフレームも丸見えだ。ガスもそこまで入ってないとみえる。整備不足という点で言えば、こっちもこっちだが。それはそれ、だ!

 

 

「どうするよ、ミカちゃん」

『アンタに馴れ馴れしくそう呼ばれるのはキライだ』

「そいつは失敬。君の方から後押ししてくれよ。君だってこれ以上、仲間が犠牲になるのは避けたいだろ?」

『アンタもまとめて片付ければいい』

「だからそういうサーチアンドデストロイ思考はやめてさぁ……………どうする? オルガくん」

 

 

 なんか味方になっても、降りた瞬間にハチの巣にされそうなんだけど。チョッキ着ておくか? モビルスーツも売れば相当な値段だ。しかも貴重なガンダムフレームだし……。

 

 

『(ちくしょう、どうする? 相手は得体のしれない傭兵とモビルスーツだ。どことなくミカのに似ている………ここでやり合うのはまずい)……ッ? お嬢さん? ここは戦場で……いや、代われって、ちょっと!!』

『クーデリア・藍那・バーンスタインです、傭兵さん』

「あん?」

『他の方から聞きました。私に雇ってほしいと。ですが確認させてください』

 

 

 光学カメラで見る革命の乙女、クーデリア・藍那・バーンスタインは捻くれているレッドをして、仰ぎ見たくなるほどの何かを魅せていた。

 いわゆるカリスマというやつで、可憐な美少女に青くとも(世間知らず)意志のある目つき。

 なるほど。いろんな連中が担ぎ上げようとしているのがよくわかった。それと同時に……―――

 

 

「(こりゃあ首輪をつけようと躍起になるわな)何を、だ?」

 

 

 自陣営に組み込めれば印象は良くなる。飼殺せればなお良く、敵対組織に命を奪われれば大義名分すら思いのままだ。ギャラルホルンが危険視する理由はそこだろう。むしろ腐りはてた自分と対比されるのを恐れているのかもしれない。

 

 

『この窮地を脱せますか?』

「……OKだ。補給と整備の話、つけといてくれよ!!」

 

 

 ”この窮地”ね。前言撤回。この嬢ちゃん、(したた)かだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「………すげぇ……」

 

 

 CGS参番組のトップ、『オルガ・イツカ』は相棒の『三日月・オーガス』の前で暴れる赤いモビルスーツとそのパイロットへの評価は間違えていなかったと確信した。

 ギャラルホルンのモビルスーツ2機を相手に速攻でライフルを粉砕、ほどけた両腕と杭のような武器を駆使して牽制し、時折、モビルワーカー部隊へ威嚇射撃をしていた。

 

 おやっさんと親しまれる『ナディ・雪之丞・カッサパ』と『ヤマギ・ギルマトン』が三日月のモビルスーツのガス補給を忘れていたと通信があったとき、冷や汗が噴き出るほどだった。

 

 

(アイツがミカとやり合ったらどうなった? 万全なら負けるとは思わねぇが、ガス欠じゃあ帰ってこれなかったかもしれねえ……)

 

 

 機動力はモビルワーカーでも勝にも逃げるにも重要な力だ。どんなに強力だって動かないデクの棒を相手にすればわかるだろう。相手の装甲を貫ける武器があればいいし、貫けないにしても逃げれる足があれば生き残れる。

 暴れまわる赤いモビルスーツはその両方を持っている。ミカヅキは不意打ちを警戒して下がろうともしない。

 

 

「おい、オルガ」

「なんだ?」

「囮にした壱番組のことなんだけどよ」

 

 

 今後をどうするかと思案していれば、明るい―――言いかえれば深いことは考えていなさそうな男、『ノルバ・シノ』が無能(クズ)どもの処遇について相談しに来た。

 

 

「ユージンが五月蠅くてよ。生かしておくのか、ヤっちまうのかどうするって」

「…………生きている連中がいるのか?」

「おう。タカキたちが双眼鏡で確認したぜ。半分以上は死んじまってるみたいだけどな」

「―――――よし!」

 

 

 何かを考え付いたかのように手を叩くと、恰幅の良い帽子をかぶった少年、『ビスケット・グリフォン』を呼ぶ。

 一部始終を聞いていたシノからするとその考えはオルガらしくない、と思うが仲間の命を最優先にしようとする意志だけは感じ取れた。故に、どんな結末であってもオルガの側に立とうとシノは決意する。

 

 そしてビスケットが慌ただしく何人かをまとめていると、付き人から小言を言われていたクーデリアがシノのもとへとやってきた。

 やっぱり美人だと思っていると―――

 

 

「彼は何を……えっと」

「ノルバ、ノルバ・シノだ。シノって呼んでくれよ。で、オルガと何を話していたか、だったよな」

「はい」

「……………わかると思うけどよ。オルガとしては仲間の命も守りたいし、アンタの依頼も完遂させたいって思ってる」

 

 

 自分よりは遥かに頭のいいだろうから任せておけばいい。俺たちは鉄火場でこそ価値がある。

 心配することはないと言い残して、その場を離れる。慣れている連中を集めるべく年長者で構成された集まりに赴いていった。

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 少年兵たちが不穏な企みの準備が済んだ頃に戦闘は終了した。

 三日月のようなド派手で豪快な勝ち方ではなく、鞭のようにうねる両腕を駆使して二機を翻弄してコクピットにクローを突き付けて終わりとなった。

 

 レッドからすれば、半壊のグレイズが二つに装甲を壊した程度のものが二つ。四つともリアクターは新品で質のいいギャラルホルン製だ。売れば借金返済の足しにもなるし、上の連中(・・・・)への手土産にもなる。

 何よりもリアクター売買の仲介で印象はよくなるかもしれない。上手くいけばイニシアチブだって取れるだろう。唯一、問題がありそうなのはパイロット二名の処遇だ。 

 

 

「妙な真似はするなよ」

『俺だってギャラルホルンの軍人だ。覚悟は………出来ている』

 

 

 さしあたってモビルワーカー部隊はすでに離脱している。投降する条件の一つに追撃を加えないことを言い出したからだ。弾だってタダじゃない。モビルスーツ相手に特攻を仕掛けるほどギャラルホルンの兵は仕事熱心でもないだろうおし。

 

 

『クランク二尉!』

『よすんだ、アイン。もう一つのほうも頼む』

「連中次第だろ」

『約束を反故にするのか!!?』

 

 

 いくら怒鳴りつけられようと最初に撃ったのはお前たちだと突き放す。

 ガキ殺しの片棒担いでおいて何をナマ言っているのか。

 

 

『頼む! アインだけは助けてやってほしいッ!!』

『待ってくださいクランク二尉! あなたこそ生き残るべきです!』

『先任の俺はオーリスを止められなかった。お前は上官の命令に従っただけなんだ』

『ですが……!』

 

 

 理想に燃える軍人っていうのはこういうものなのかね? 夕陽を背に浜辺でマラソンでもするんじゃないのか、これ?

 ともあれ、至近距離には滅多に見ない大型メイスを突き立てるガンダムフレーム―――

 

 

「バルバトス、か」

 

 

 エイハブ・リアクターから生み出されるエイハブ・ウェーブには同一のものが存在しない。同じ工程、同じ材質、同じ生産工場、同じ時期であろうとリアクターの固有周波数は唯一のものだ。

 リアクター照合をかければコンソールには【GUNDAM BARBATOS】と出ていた。

 

 

 





というわけで始めました。
書きたいものを書く。それって大事だと思います!



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