鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて 作:カルメンmk2
戦闘シーンの出来が悪くてすみません。イメージ的に近接マシマシの百里VSバルバトスです。
――明弘・F・アルトランドだ。ウェイストさんについて聞きたい?
――そうだな。強いて言えば………足を向けて寝れない、本当に俺の人生の恩人だ。あの人が居なければ俺は孤独になって、孤独に死んでいたと思う。昌弘やラフタを助けてくれて、俺はあの人に救われたんだ。
――あとは……………妹――ラフタを泣かせるなって言われたけどよ。アンタが泣かせてどうすんだよって今でも思ってるよ。
鉄華団実働部隊 二番隊隊長 明弘・F・アルトランド
僅かに時を遡り、ヴァサゴが追加ブースターを使用したところから始まる。
逃げの一手を選んだウェイストに三日月は容赦なく滑空砲を撃ちこむも、ひらひらと揺らめく左腕が変わり身をする。右腕からはハンドガンが滑空砲を狙い、弾倉へと直撃。爆発四散してしまった。
『待てよ!』
爆発に巻き込まれまいと頭部を庇って後退していくバルバトス。追撃に向かおうとするが容易には詰められない距離を稼がれてしまった。
ここで阿頼耶識の欠点の一つが露呈された。
(機体の状況が搭乗者に反映される。これが欠点だ)
デブリ帯へと逃げるヴァサゴが追いすがるバルバトスへ撃ち尽くしたハンドガンを投げつけ、180度の縦方向旋回をする。バルバトスが追メイスを振り上げるがそこに元に戻すこともできなくなった左腕をハンドアックスとともに叩きつける。
メイスとハンドアックスが火花を上げるのを確認せず、ヴァサゴは右腕部の内側に取り付けた小口径のバルカンをバルバトスの顔に向けて放った。
『鬱陶しい!』
庇って、顔を背けるようにするバルバトスは人間のような動きそのものだ。
そう。この人間のような動きが出来てしまうのが阿頼耶識最大のメリットであり、デメリットでもある。
ヴァサゴのデータログにはかつての戦闘の記録が保存されていた。なぜか同型機同士のものであったがその動きは三日月以上の鋭さと有機性を持っていた。
次に比較的最近のもの。戦後200年ほどのものだが、鋭さや有機性は失われているものの生き物らしい動きは健在だった。そしてその回避行動も顕著だった。
(厄祭戦の阿頼耶識は機体のダメージや状態をパイロットに伝えなかった
モビルワーカーのような戦車の延長線上ならともかく、モビルスーツのような精密機器の塊は常に自己診断プログラムを走査させている。何かしらの影響があるとき、それをすぐに察知できるようにである。
フレームに歪みがあれば違和感を感じ、リアクターの調子が悪ければ疲労を覚えやすくなる。生身の肉体に存在しない部位についてはくすぐったい程度らしいのはアストンらで確認済みだ。
『顔を狙われちゃ目も背けるし、庇いもするよな!!』
回し蹴りを入れ、同時に左腕で使うためにマウントしていた一風変わったハンドガンを宙に漂わせ、掴み上げる。装填しているのはこの機種では二発しか込められず、さらにサイズ的にも至近距離でないと効果は出ない。
『豆鉄砲でも喰らえ!』
向けられたのはダブルバレルショットガン。シンプルな構造ゆえに同口径の強力な弾を撃つキワモノだった。それがバケツで水をぶちまけたような、あるいは水の塊を叩きつけたような音がした。
『ぐっ……! カメラが死んだ!?』
今まで怯みらしい怯みを見せなかったバルバトスがついに怯んだ。阿頼耶識による補助で咄嗟に手で射線をふさぐいでも、指の隙間からレアアロイ製の散弾が隠し切れていない顔面を猛打する。
ナノラミネートで塗装されたフェイスガードは大小さまざまな凹凸が刻み込まれたがせいぜい末端部が砕けた程度。しかし、センサー系―――とくに特徴的なデュアルアイのメインカメラは片方が完全大破し、光を失っている。
『たかがメインカメラ程度だ!』
時を置かずにフェイスガードの一部が展開してサブカメラが
『怯まないで戦うとかマジかよ』
ウェイストの見通しが甘かったらしく、バルバトスは軽くはない損傷を受けながらスラスターを全開にして迫る。
何気に残った目から赤い光が漏れだし、廃熱のダクトからも同色の光が漏れだしてきている。
『ッ! 制限解除!!』
『消えろッ!!』
その瞬間、二機は流星へと変化した。
☆☆☆―――――☆☆☆
時を戻して、オルガはチャドに状況を確認させる。
「ミカは? 無事なのか!?」
「バイタルは確認してる。ただ、気絶状態らしい………」
「………クソッ……!!」
「負けちまった、のか? 冗談じゃねぇぞ、おい……!?」
動きを止めた二機にブリッジからは嘆きと悔しさの入り混じる声が木霊する。三日月が負けたということは自分たちはバラバラになるということだ。
暖かい家も温かい飯も天引きされない給料だって貰える未来が待っている。けど、それは家畜のように生きる、CGS時代より遥かにマシな待遇で戻るだけだ。
「ちょっと待て」
「どうした? ミカは精一杯やったんだ。責めないで―――」
「………相手も気絶している。どうすんだ、これ?」
引き分けの場合どうすればいいのか。有耶無耶にされるのか、仕切り直しとなるか。マルバと鉄華団のサシで話し合いとなるのか。
「……ハンマーヘッドにつなげてくれ」
「わかった」
僅かの後、正面のモニターに面白くなさそうな名瀬の顔が映し出される。
『どうした?』
「こちらで確認したんですが……二人とも気絶しているらしくて」
『こっちでも確認済みだ。ったく、無茶しやがるよ。アイツもお前ンとこも』
「何が起きたかわかるんで?」
『デブリ群に入った時点で俯瞰できる位置に移動したんだよ。横からは殆ど見えなくてな。お前たちはどうだった?』
「デブリの途切れ途切れから戦っているのは見えてました。最後も蹴りのとこは見えてます」
『なるほどな。まあ、あのバカと坊主の回収に行こうか』
――色々、聞きたいこともあるしな。
☆☆☆―――――☆☆☆
二体のガンダムが猛スピードでデブリの間を駆け抜ける。300年前の古戦場とも言うべきデブリ帯ではなく、単純に資源衛星の成れの果てや、採掘・成形で生まれた岩塊が漂うここは通常のモビルスーツなら十分に機動戦ができる場所だ。かといって、格闘戦をしながら縦横無尽にできるほど隙間があるわけではない。
片方がマニュアル操作なら今頃はデブリの仲間入りになっている。
『――――ぬ、ごぉ―――!!』
だが、両機ともに当たる兆しすら見せず、ヴァサゴに至ってはデブリを蹴って加速や急な方向転換を繰り返していた。神業のような動きもすぐにバルバトスが模倣して追随してきていたのは笑い話にもならない。
そしてウェイストは自分の判断は間違っていなかったと確信した。バルバトスに妙な変化が表れた直後、自身の直感と背筋を這い上がる寒気に奥の手を切った。
『く、そ――――! 殺す、つも、りか?!』
コクピット内はコンソールのわずかな光以外に光源はない。だがグレイズやバルバトスと内部は全く異なるものだった。
メインモニター類はブラックアウトし、ウェイストの上半身をベストのような器具が固定している。さらに、頭部には普通は太陽光や宇宙線への防護としてある色付きのバイザーがなかった。機械のような仮面が顔どころか、ヘルメットとして被られ、後頭部からコードが伸び、シートのヘッドセット部分に繋がっている。
目まぐるしく変わる視界の風景に、どうしてもこれは慣れないと愚痴りつつ、殺意をむき出しにしたバルバトスを相手に死に物狂いで抵抗していた。
使うつもりのなかった奥の手でもって、ようやく互角となっている。ウェイストは思う。まるで獣を相手にしている気分だと。
『くぅう―――!!』
追いすがるバルバトスへ容赦なしのワイヤークローを打ち込む。真直ぐ飛んでいくそれを軽々と避けるが、さっきまでとは違い、意思があるかのように追いかけてくる。
『邪魔、だ!』
『大人しく、しろ、や!!』
メイスは使わず、腕で弾くがそれでもしつこく向かってくる。無視するには巨大すぎる杭はこうなれば使えないようにするしかない。
再び向かってくるそれをバルバトスはマニピュレーターで掴み取った。
『捕まえた』
『お前が、な―――!』
がばっ、という音とともに杭は大きな爪に変化した。
『ッ……!』
『言ってなかったか? クローだってよ!』
メキメキと嫌な音をフレームを通して三日月に聞かせる。
組み合った状態でデブリ帯を動けるほど余裕はない。その場で足を止めて、バルバトスの出力を超えた出力で掴んだ腕ごと岩塊のデブリに叩きつけ―――
『捕まえたのはこっちだ』
距離を詰めれば、ワイヤーはたわみ振り回すことなどできない。バルバトスがメイスの先端を頭部に向ける。打ち出されるのはパイルであり、直撃すれば負けの判定を受けるだろう。
名瀬の面子のためにもそれは避けなければならない。
『虎穴!』
『なんだよそれ』
バランスは崩れるが仕方がない。何より、今のヴァサゴを操縦しているのは自分ではないのだ。勝手に修正する。
フレームを覆う装甲ががひしゃげ、まともな可動が期待できない左腕を犠牲にした。左腕を叩きつけられたメイスは抵抗を見せるもわずかにずれて発射される。頭部ではなく、左肩口。左腕部フレームの根元を穿ち、投げ捨てられた紐の様に漂う。しかし背中に取り付けた追加ブースターも同時に破壊しており、パージしても至近で爆発した。
『警告はいらん! まだやれる!!』
視界内に浮かぶ、損傷状況の報告と撤退勧告。視線認証で左腕へのエネルギーバイパス、及び背部の推進剤のすべてをカット。重心の再設定をオートで設定。スラスターの出力費を再計算。再設定開始。
右腕部のコントロールを掌握―――
『まだ殴る部分がある!』
『ハンドアックスが残ってる!』
目の前の敵を潰す。互いにそのことしか頭になくなり
完成の法則により、あらぬ方向へ流れていく右手とメイスは轟音を聞かせることもなくデブリに突き刺さった。そして返す刀でバルバトスの頭部を割ろうとしたところでヴァサゴは膝蹴りをコクピットにもらう。
『がっ――(やべぇ、麻酔が切れてきた)』
重い麻酔を使えば痛みは長時間消えるが思考がぼやけ、操縦なんて繊細な行動はできなくなる。もって数分の麻酔に興奮作用と覚醒作用のあるアドレナリンとメタンフェタミンの混合物で誤魔化しているような状態であった。
もちろん、名瀬とアミダには一切の話をつけずにやっている。そんな行為が限界時間を迎えようとしていた。
『負けるわけには――!』
『いかない!』
ヴァサゴの右腕にあるクローの基部がワイヤーの巻取りを始めた。
この距離で何をと思う三日月はセンサーの報告から離脱を選んだ。たわんでいたワイヤーが巻き戻されることによって雁字搦めにされることを拒んだ。そして状況にようやく気付いた。
『しまった―――』
バルバトスの推力では逃げきれない。脚部のスラスターも生きているヴァサゴが抵抗すれば巻き取るワイヤーではなく引っ張られたワイヤーによって拘束される。相手の右腕を破壊できるような武器はないし、マニピュレーターもナノラミネート装甲を貫通できるほどの硬度を持っているわけでもない。
このまま背後にあるデブリに叩きつけられるのを待つか?
『まだだ』
三日月は後退した。それによりワイヤーがバルバトスを縛り上げ、グレイズのスラスターすらまともに動ける状態でなくなった。
『負けを認めるか!』
『嫌だね。こうする』
阿頼耶識をフルに使い、体を捻り、最大出力にしたスラスターで抵抗する。イヤな金属音を響かせ、余計に締め上げていく。
『もうよせ。フレームは無事でも装甲を圧し潰すぞ』
『その前にワイヤーがどうにかなりそうだけど』
『なに?』
ワイヤーでなく、腕の基部がダメになってしまった。
というのも慌てて腕を伸ばしたところにダメ押しでさらに負荷がかかったのだ。自重を支えられるワイヤーもガンダムフレームの推力+アルファと経年劣化には勝てなかった。そもそもクローを展開すること自体が久しぶりだったのだ。
ばぎんっ、と負荷に耐えきれず装甲自体が剥がれた。機体の制御を任しているシステムが自己判断してしまったのだ。
『赤色は高いんだぞ!』
『あっそ。白も悪くないよ』
ちょうどいい鈍器を手に入れたとクローを握りしめて接近してくる。ワイヤーなんてとうに取れているどころか左腕に巻き付けている。
少しでも離れたら間合いの外からアレを叩きつけられるのだろう。一昔前のロボットアニメに出ていた鎖付き鉄球そのままだ。
『それはそういう風に使うもんじゃない!』
『刺すか叩くかの違いだろ』
動き自体は短調だから十分避けられる。こちらの武器はほぼ無いうえに片腕と追加ブースターの爆発によってスラスター類に不調が出ている。脚部だけではバルバトスの全推力を超えられない。逃げられない。
『メイスのところには行かせない』
『あっちの方が加減できるけど? 多分』
『多分って時点で論外だよクソガキ』
『クソガキじゃない。三日月だ』
バルバトスが近づいてくる。しかし違和感を感じた。左腕に何もなかった。
『遅い』
左腕に取り付けられていたワイヤークローがヴァサゴの右腕のフレームに食いついた。
『捕まえた』
推力にものを言わして後背に回られた。ご丁寧にわざわざ輪を作るようにして。
今度はさっきのまでのバルバトスと同じ立場になったヴァサゴは間髪入れない横方向に引っ張られた。
『負けを認める?』
『まだ終わりじゃないぞ?』
――あっそ。そのままハンマー投げの要領でヴァサゴをデブリに叩きつけようとする。しかし、ウェイストは諦めていない。コマンドを入力する。リアクターの慣性制御を最大。ウェイストなりの逆転の一手を決めるべく、スピードを上げる。
『大人のプライドってのがあるのよね』
『どうでもいいよ。そんなの』
叩き潰せばいいだけだ。その後でオルガに連絡すればいいだろう。かなり強いのも分かったし、これだけ強ければ鉄華団を守れる。
『アンタは強いよ。でも、俺の方が強かった』
『可愛げのない』
『可愛くったって意味も無いよ』
これで終わりだと、デブリに叩きつけようとしたが誤算が起きた。器用に体勢を立て直し、平たんではないデブリの表面を加速しながら走破。デブリから離れる角度を見計らい、スラスターとアンバックを利用して猛スピードでバルバトスに直進した。
逃げられない、そう覚悟した三日月は右腕のフレームで迎撃を狙う。おやっさん曰く、モビルスーツでもフレームは異常なぐらい硬いのだと聞いた憶えがあったのだ。
『これで終わりだ!』
まっすぐ来るだけの体当たり。カウンターを狙い、右腕を引き絞る。壊れるかもしれないがそれはおやっさんが直してくれるだろうと考えないようにする。実際、そのことを話したらおやっさんやヤマギが死んだ顔をしていたのは言うまでもない。
だが来たのは体当たりではなく―――
『イナズ〇キィィィック!!』
ヴァサゴの足だった。勢いを殺さず宙返りし、飛び蹴りの要領でバルバトスと衝突した。わざわざフェイントまで入れて目の前から消えたように見せかけたのだ。
三日月はカウンターを諦め、側面を叩くようにして軌道をそらそうとしたがわずかしか動かない。ベクトルをそのまま横へ向けることなどできず、機体正面から足がずれるのにはもっと距離が必要だった。
二機が交差した。ヴァサゴの蹴りはバルバトスの左肩と胸を的確に抉っており、そのまま背後にあったデブリへ衝突。肩フレームのジョイントを外した足はそのままデブリへ足を深くねじ込む。
そして運の悪いことに力なく漂っていた右腕がヴァサゴのコクピット脇を突きつぶしたのだ。
『『………(負けた、か)』』
意識が戻ったのはその翌日。歳星へと向かう道中でのことだった。
思っているものと書いているものが違うってよくありますよね。この話も当初の予定から大きくズレてしまいましたが、私の技量ではこんなものです。
ところどころの富野節は子供っぽさやこういうことで精神を安定させようとしています。
ご意見・ご感想お待ちしております。