鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 今回は個人の考察が入っております。




 ――レッドについて? よくモビルスーツを壊す青年だったよ。ガンダム・フレームを壊したときはハンガーのアームで挟みつぶしてやろうと思ったがね。

 ――彼の機体について聞きたい? ふむ……詳しく言えないがあえて言うなら……。

 ――人類は何度だって同じ過ちを繰り返そうとした、かな。


 歳星整備工房 整備オヤジ









厄祭戦の恐怖(解説付き)

 

 

 

 

 

 歳星名物と言えばどこかの茶店のマスターとマッドな整備オヤジだろう。歳星でモビルスーツの整備工房を営んでいるがその実態はテイワズお抱えの整備士だ。

 厄祭戦の技術に詳しく、最新鋭機と旧型機のミックスも得意とする老整備士はガンダム・フレームをこよなく愛するので有名だ。私財をなげうって闇市場に流れるガンダム由縁の装甲や武装を筆頭に戦時中の記録媒体た設計図などを歳星のどこかに隠しているともっぱらの噂だった。

 

 彼が数十年の整備屋人生で今日ほど最高で最悪でやりがいのある仕事はなかった。

 なぜなら半壊したガンダム・フレームが自分のところに転がり込んできたのだ。それも二つも。

 

 

「ふふふ。ふはははははは!! まさしくハレルゥヤァッ!!! 我が人生でこれほどにやりがいのある仕事があっただろうか!!? いやッ! ないッッ!!」

 

 

 感極まり、彼の顔は継ぎ接ぎしたボロッちい眼鏡が反射する程度見えない。しかしの格好はどこぞの秘密結社か悪の組織のマッドサイエンティストが狂喜しているようにしか見えなかった。

 そんな彼の隣に佇む三日月と雪之丞、ヤマギの三人は整備用のガントリークレーンの先にぶら下がるミノムシを見ていた。

 

 

「―――ざまぁwww」

「クソガキてんめぇえええええ!!!!」

「おーい、ウェイスト! 頭に血が上るからやめとけって!」

「だったらこのワイヤー切断してくれ!! というか、そこのマジキチから解放してくれレッドさんからのお願いっ」

 

 

 我らが主人公、レッド・ウェイストはガンダム・フレームを二つも半壊させた重い罪により、リアクター制御で発生した重力の中、逆さでつるされていたのだ。

 レッドの惨めな姿に三日月の非常に薄い感情からSっ気がしみだしていた。オルガが見れば真っ白になってしまうそうな笑みを浮かべ煽る。

 怒り心頭となったレッドに血が上るのが早くなるから落ち着けと宥める雪之丞。気持ちはわからなくもないがこれ以上は面倒なことになるだろうと制御室にいる社員に連絡を入れようとする――

 

 

「―――チッ」

 

 

 老整備士から忌々しそうに舌打ちが聞こえた。自分らと話したときは人の好さそうな人物だったが気のせいなのか? 彼に目を向ければ据わった目と堅気の顔じゃない表情で降ろされていくレッドを睨み付けていた。

 

 

「す、すまねぇけど……いいか?」

「あ? これ失敬。鉄華団の整備班長とあっちのパイロット君だね」

「おう」

「はっはっは。持病の癪と思ってくれたまえよ。どうもガンダム・フレームを見ると我慢が聞かなくてね―――小僧には死んでもらうとしようかね」

「物騒なこと言わないでくれよ?!」

「半分ぐらいの冗談さ」

 

 

 それは半分本気ってことか? 半分冗談と言うのが冗談なのか? などと雪之丞は聞こうかと思ったが長い民兵組織生活の経験から聞かないことが幸せと結論付けた。触らぬ神に祟りなしは知らないが、触れちゃいけないものに触れたら不味いことは知っているのだ。

 

 

「クッソ、このジジイ。何時か殺す」

「オルガのこと、殺すって言った?」

「同音異語って難しいから銃を向けるのやめてッ」

「毎度のことながら騒がしくしなきゃ生きてられないのかね? 殺せば大人しくなるのかね?」

「辛辣過ぎない?」

 

 

 同席していたヤマギ曰く、『あの人の眼は本気だった』と後年でしみじみと語っている。

 これ以上無駄話と言うか三文芝居を見るより、やることをやってシノといたいヤマギは話を先に進めるよう促す。

 

 

「ところでフレームだけになると結構似ているんですね」

「それは当然さ」

 

 

 工房内のリアクター制御を解除し、無重力状態になった整備オヤジは漂いながら高説をたれる。

 

 

「ヴァサゴとバルバトスは一つの規格から生み出されたシリーズだからね。君達はモビルスーツの運用を始めたのは最近だと聞いている」

 

 

 ――装甲の補強具合を見ればなおさらだね。

 外された赤と白の装甲を見やる。赤い方が状態はいいらしい。傍目にはよくわからないというのがヤマギの意見だった。

 

 

「ナノラミネートの蒸着やムラが見えているんだ。こうなると強度で差が生まれた結果、破砕されやすくなる傾向がある。実際の戦闘は三回ほどらしいけど、四度目は覚悟を決めるべきだったね。半壊した状態でタービンズが護衛してくれたのは本当についていたよ」

「正直、昭弘のグレイズじゃどうにもできなかったろうな」

「それ以前に整備不良で退くも進むもできなくなっていたぜ?」

「同意見だね。で、ガンダム・フレームについてだったね!」

 

 

 厄祭戦の末期にわずか72機だけ生産されたフレーム。遥か昔の伝説につづられた悪魔たちの名を冠するそれらは、今現在でも通じるほどのポテンシャルと特徴を持っている。

 

 

「ツインリアクターさ」

「エンジンが二つ付いているんですか?」

「そうじゃない。二つのリアクターを一つにまとめ、それらを完全に同期させた僅か71基しか存在しないロストテクノロジーさ!」

「へぇ……。あれ? ガンダムって72機いるんじゃないの?」

「いいところに目を付けたね三日月くん! ガンダム・フレームの条件はツインリアクターだが、例外が一つだけ存在する。それが―――」

 

 

 ヴァサゴの胸部を指さす。カバーの外されたそこには三つのリアクターが並んだ奇怪な物体が鎮座していた。

 

 

「試製トリオリアクター………奇跡的に生み出され、以降のツインリアクターはこれを増産するために製造されたものと言ってもいい代物さ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はい。確認しました」

 

『――。――――。――――?』

 

「半壊した状態です。……はい。了解しました」

 

『―――――――。―――?』

 

「承知しております。全ては候のために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリオ、リアクター?」

「ツインリアクター以上の出力を理論上(・・・)は超えられるワンオフさ」

「理論上つったか?」

「記録では三つのリアクターが同期した場合、その最高出力はガンダムフレームのおよそ三倍近くなる―――ってことなんだけど、実際のところツインリアクターの四割増し程度が関の山だね」

 

 

 まだレッドが無名で、名瀬に拾われたころのことだった。

 名瀬の紹介により持ち込まれたヴァサゴを見た整備オヤジは狂喜乱舞し資材をなげうって手に入れたデータからトリオリアクターのことを探り当てた。完全に再調整と修復を行い、現代にその姿を蘇らせてみせると息巻いていたのだが結果は散々だった。

 

 

「試製品のためか、腕が悪いのか。はたまたデータ自体が偽造されたのか。私には完全に復元することができなかったのさ」

「俺が見つけたところは古戦場跡でな。生みの親の遺品整理をしていたらコイツのことがあったんだ」

「アミダさんの百錬にボロボロにされて来たからね。その当時とは全く違う姿なのさ」

「あの頃は腕なんて伸びなかったからなぁ。そっちがデータから復元したんだっけ?」

「木星メタルとレアアロイを複合した急増品だけどね。んー……やっぱ肩はダメだった?」

 

 

 木星メタルとはレアアロイ並みの硬度を誇る、木星でしか手に入らない希少金属である。テイワズフレームと呼ばれる機体。その中でも百錬のシングルナンバーはこの木星メタルを最大限使った高性能機である。シングルナンバーの通り、9機しか存在せず、そのどれもが一騎当千級のエースパイロットに与えられている。

 

 話を戻すが当時のヴァサゴは折り畳み式の伸縮機能を肩口に備えていた。しかし度重なる戦闘から得たデータから今のモビルスーツ戦におけるセオリー、大口径と大質量の兵装を使用すると接続基部と折りたたんだ伸縮機構のロック部分に歪みが生じることが判明した。

 

 

「言うなれば、消耗品の融通をつけられない俺が悪いんだけどな」

「テイワズに所属すればいいじゃないか」

「上納金とか面倒くさい」

「ダメだこりゃ」

「で、肘の関節に移したってか?」

「肘関節の規格変更で済む」

 

 

 この試みは根本的な改善には至らず、火星の衛星軌道会戦やバルバトスとの模擬戦で大型滑空砲の使用ができないというデメリットが健在であった。そのため、苦肉の策ということで大型のワイヤークローと伸縮機構による疑似的な遠距離攻撃を取らざるを得なかったのだ。

 

 

「攻撃方法と機構のフレーム自体はオリジナルのものなんだがね。本来は重装甲のモビルスーツを引き裂くぐらいはパワーがあるそうなんだ」

「リアクターが三つならそれぐらいはできるだろうな。ツインの整備不足でも最新鋭機相手に戦えたぐらいだ」

「だからこそ、私は完全修復されたガンダム・フレームをこの手で再生させたいのだよ! 幸い、バルバトスのデータはすでに入手済みでヴァサゴのような特異な機能は存在していない」

「へぇ……。あ……おやっさん。金はあるの?」

「あ゛!」

 

 

 オーバーホールに新造部品と費用は賄えるほどなのだろうか? 火星にも送金しなければならないため、既存の装甲を使いまわすほかない。

 そう思っていた矢先、整備オヤジは笑顔で告げた。

 

 

「テイワズがすべて持つ。予算上限なしの言質も取ってある!」

「おやっさん。これ期待されてるんですよね?」

「かもな。随分と太っ腹じゃねぇか」

「バルバトスが強くなれば船も守れる。ならいい」

「俺のは?」

 

 

 恐る恐るヴァサゴの整備について聞き出してみるレッド。

 

 

「ヴァサゴも予算上限なし――――費用は貸し、だそうだ」

「\(^o^)/」

「m9(^Д^)プギャー」

「最近の三日月さんって感情表現豊かですよね」

「いいか悪いかは別にしてな。オルガが見たら卒倒しちまうんじゃないか」

 

 

 レッド・ウェイスト。借金増額が決定した。それもマフィアからの借金である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団とタービンズが兄弟の盃を交わしている頃、俺は整備オヤジとともにヴァサゴの整備を行っていた。ログやデータの抽出には自分がいないとできないようになっているからだ。

 黙々、とはいかずに所々でガンダム・フレームの情報やパーツ類。傭兵連中の情勢など、結構価値のある話をしていく。整備オヤジはこういったパイロットの何気ないうわさ話を仕入れ、それをマクマード直轄の情報部に精査させている。

 この歳星が圏外圏で近寄りたくない場所と言われるのは知らない間に大事な情報を抜き取られ、謀をして入港すればデブリの仲間入りになってしまうことからだ。

 

 

「―――いいかね?」

「何か?」

「リアクター出力が軒並み上昇しているのとそれらを安定して運用できている。最後に整備があったときから随分経つが何があったのかね」

 

 

 そして戦闘ログについても疑問を投げかけられた。ある時を境に運用効率が素人並みに落ち込み、その後急に玄人まで戻っていることだ。

 

 

「頭部にあったあのブラックボックスもだ。あそこのパーツは分解なんてできないはずなのにそこだけ新造されたかのように綺麗だ。若干の形状変化もみられる。何よりもブラックボックス自体が綺麗に収まりすぎている」

「企業秘密ってことじゃ許してくれないよな」

「ダメだね。言わなくてもいいが、言ってくれれば費用の二割はもとう」

「……………他言無用で頼む。コイツな、人工知能を搭載したんだ」

「人工知能? アレはヤマアラシのジレンマで機能不全に陥りやすいものだったはず。操縦の補助として使っている?」

「まぁな」

 

 

 俺は自分でも強い部類に入ると自覚しているが、それなりの経験を経てきたブルワーズのMS部隊を相手にできるほどの隔絶したものは無い。複数の阿頼耶識相手に無双できるほどではないのだ。

 そこで闇市場で流れていた―――のではなく、馴染みのバイヤーから提供されたものがこの―――

 

 

「ALICEって言うらしいぜ?」

「女性名か。ふむ。さしずめ戦闘を経験させて蓄積させる一種の学習コンピューターだね? リアクターの制御もしている?」

「厄祭戦の技術らしいけどな。搭乗者の脳波とか筋肉の硬直みたいなバイタル関連を集めて、データログと解析し最適化するとか。リアクターも逐一管理しているみたいで、錆びつかないか心配だよ」

「是非とも分解してみたい。ダメかね?」

「ここまで育てるのに時間がかかってるからダメ」

 

 

 グリコに増設した設備と言うのがこれの演算補助の為の設備だったりする。普段は医療設備への仮想検証のために回しているが……。

 三日月に喰らわした蹴りも戦乙女(ブリュンヒルデ)のモーションを覚えさせた結果だ。デブリ帯での高速戦闘はこの機能をフルに使用した状態でもある。

 

 

「ここに来るまでに戦闘データのログは反映済み。けどさ……」

「言いたいことはわかるよ。大昔、こんなシステムが存在していた恐ろしさがね」

「――――ああ。人の戦わない戦争はゲームと同じだって思わないもんかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――データ解析――

 

 ――シミュレーション開始、パターン3、ターゲット・B――

 

 ――全権の移譲を確認――

 

 ――ターゲット・B、中破――

 

 ――損害大、再思考開始――

 

 ――搭乗者の身体保護を優先、勝率低下――

 

 ――搭乗者の身体保護を却下、勝率上昇――

 

 ――シミュレーション結果の破棄を開始――

 

 ――搭乗者の優先順位、最高位に設定、プロテクト保護――

 

 ――個体名:セイビオヤジに改修案を送信――

 

 ――搭乗者を確認、思考トレースを開始――

 

 ――私はALICE――

 

 ――搭乗者の愛馬――

 

 ――私の存在意義――

 

 ――それは――

 

 

 

 

 

 

 





 と、出てきたのはツインじゃなくてトリオでした! トライにしなかったのはツインの次はトライじゃないかなと思った次第です。
 あと、阿頼耶識を持たない人間が阿頼耶識持ちに勝とうとするならこうするしかないじゃないと思いました。



『試製トリオリアクター』
 元ネタは【機動新世紀ガンダムX】に登場する【ガンダムヴァサーゴCB】の【トリプルメガソニック砲】から。
 72機のガンダム・フレームを作る際、それぞれにコンセプトを求めた結果生まれた偶然の産物。ヴァサゴは出力を強化する方向で作り出された。以降の後発機もトリオ化を進めたが一つも成功することなく、時間と資材の関係上中止された。
 また通常出力もツインリアクターの4割増し程度のため微妙である。ツインリアクター自体、出力を同程度まで上げることが可能だが過負荷状態となるためそう考えた場合は非常に高いと言える。
 しかしながら、このリアクターの真価は別のところに存在するが……。


『ヴァサゴのフレーム』
 作中では言及されていないが腰の部分が通常のものとは違う。珍しいことに背骨が存在し、腹部に何かが存在した形跡が見受けられる。
 これについては一切の情報が見つからなかったため、装甲で覆い、シリンダーサスなどで補強している。


『ALICE』
 元ネタは【ガンダムセンチネル】に登場する【Sガンダム】に搭載された【ALICE】から。
 本作では厄祭戦時代に開発された無人機計画の残照として存在する。劣勢に追い込まれていた人類側が人的損失を避けるための苦肉の策として考案した。
 バイヤーの入手経緯は不明だが、ヴァサゴの取り扱いに悩んでいたレッドが学習型A.Iという触れ込みで搭載。綺麗に収まったことからもとはこの機体に取り付けてあったのではないかと予想している。



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