鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 ぶっちゃけ、マクマードや鉄血世界の大人連中が無償や善意でハーフビーク級を与えるつもりはないと言っておこう。
 根本的に大人の汚さとかも表現していきたいと思います。むしろ人間として、上に立つ者として当然みたいな? そんな立場の考えですヨ!

 あ、前の話に修正加えておきました。あとタグに「ご都合主義」も追加ですわ。








 ――レッドさんについて? 俺はあんま関わりが無くてよ。チャドなんかは地球に出向してたからそれなりだけど、本当に接点が少なかったんだよな。

 ――どんな人かって言われたら、滅茶苦茶な人だな。それで強運つーか、色んなことを台無しにしまくる才能がある。

 ――敵対した奴は全てご破算にして、味方の作戦台無しにしたうえで同等かそれ以上の成功を生み出す。そんな疲れる人だったよ。


 鉄華団電子戦部門主任 ダンテ・モグロ







やっぱ必要だよね、コレ?(解説付き)

 

 

 

 

 レッドたちの新しい家、ハーフビーク級ユフインは想像した性能より低いものであった。巡洋艦の中では高速と言われ、その艦体と所属に見合うだけの装甲と火力を持つはずが装甲以外は完全劣化したハーフビーク級と言わざるを得なかった。

 

 

「何というか、防御力を重視した結果、ハーフビーク級の姿をした強襲装甲艦って感じだな、艦長」

「もとはVIPやマクマード様が乗るためのものですから。生存性を重視した結果と言うやつです」

「守るよりも攻めるほうが得意じゃないのかよ?」

「ハジキを持って敵艦に突入するのは引退したとしか……」

「………怒らせないようにしよう」

「賢明な判断です」

 

 

 他愛ない話だが、クルーはマクマード麾下の者たちである。礼儀から戦闘まであらゆることがプロフェッショナルと言ってもいいだろう。彼らがいるのに自分たちは何をしていたのか?

 すべての調整と物資の搬入を行うことである。

 

 モビルスーツ輸送機であるクタン参型に提供されたガルムロディが四つ。イオ・フレーム試作機――名前を若獅子と決めた――それが二つ。ガンダム・フレームが二つと少しハンガーがオーバーフロー気味であるため、バルバトスとヴァサゴを交代でクタンに搭載した状態にしている。現状はバルバトスの番だ。

 できればさっさとバルバトスを鉄華団に引き渡したい。

 

 

「快速ではありませんがドルトコロニーまで一週間弱程度かと」

「顔に出てた?」

 

 

 暗礁宙域じゃなくてドルトコロニー群で合流とは………。アリアドネを伝っていくのか?

 鉄華団のほうがドルトに先につくなコレは。

 

 

「船籍はちゃんとした企業となっています。あとはドルポンド氏が裏から、としか言えませんね」

「借金の割り増しが目に見えそうで困る」

「抜かりなく、無料(サービス)との言質はとってあります」

「女だったら抱いてくださいって言います」

 

 

 有能でよい人物ほどすでに囲われているんだから世の中面白いものだ。

 あれ? じゃあ俺は………どうでもいい存在ですよねー。

 

 

「あとは任せます。うちのメンバーの様子でも見てきます」

「了解しました。あと敬語は不要です。貴方の指揮下なのですから」

「考えときますわー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クランクだ。俺たちは今、アストンたちと共にハンガーでシミュレーターをしている。

 社長が彼らに詫びを入れた後、私とアインも彼らに詫びを入れた。子どもを戦場に連れて行くのは反対する立場だが阿頼耶識の付いている彼らが普通に生きていけるかと言えば否、と言わざるを得ないだろう。

 

 

「っハァ……!」

「どうかね? 若獅子の感触は?」

 

 

 社長に直談判し鉄華団の様に本部を作って落ち着ける場所を作るべきでは、と考えていた矢先に若獅子と名付けられたモビルスーツからアインが出てきた。久々の操縦で疲れが目に見えている。

 そんなアインの様子を見えていないかのように整備オヤジ――私も名前は知らない――が若獅子の出来具合を求めていた。

 

 

「はぁ、ふぅ………。結構、操縦系は素直です。ただ力強さとリアクター出力でグレイズに負けていますね」

「ふむ。出力とパワーは仕方ないだろうね。グレイズのリアクターは手に入ることが殆どない。手に入れたとしてもシングルナンバーにすべて搭載されるか防衛部隊に優先配備されるだろうね」

「グレイズやパワー重視の機体との近接戦は控えたほうがいいと思います。出回っている機体より軽すぎる」

 

 

 宇宙用で軽い機体と言えばジルダのようなヘキサ・フレーム機だな。

 モビルスーツの調整は大まかに分けて二つ。地上用と宇宙用で装甲や装備の方向性が変わる。宇宙仕様は無重力空間であるため装甲に重量を割いたりしても構わない。むしろ宇宙では重装甲の機体が非常に多いと言える。その反面、機体質量増加による機動性の低下を追加ブースターなどで補わなければいけなくなる。

 稀にだが、軽量化して機動性を重視し、技量でもってモビルスーツを撃破する強者もいる。

 

 逆に地上用では軽量化する方向だ。重量による負荷はダイレクトに脚部に蓄積し、推進剤の消費もそれに応じて多くなる。地上仕様は機動性と経戦能力を重視して軽量化しようとするきらいがある。反面、ナノラミネート装甲を破砕するため、大質量を叩きつける戦法が雑になる。モビルスーツで斧やピッケル、棍棒などを多く使う理由が機動性を上げて避けつつ大質量で叩き潰す、という戦法が一番単純で効果的だからだ。

 

 

「集団戦を重視してるわけだけど、キルレシオをどれくらいだと思う?」

「この性能だと……甘く見積もって1:2。手堅くすれば1:3だと思います」

「試作機でそれならまずまずだね。レポートにして送っておこう」

 

 

 1:3か………フレームは簡素な分、生産性と整備性はこちらの方が上だろう。歳星に行くまでの百錬と何度かシミュレーターで戦ったが装甲やフレームは一部互換性もある。

 あとは―――

 

 

「あー! くっそ!!」

「俺の勝ちな。晩飯のおかず一つもらうぜ」

「ちきしょー!」

 

 

 アストンと一緒にペドロたちのを観戦してたが阿頼耶識とは何度見ても驚きだな。

 

 

「ブルワーズ時代に操縦してたマンロディと同じだからな。ガルムロディは軽くて動きやすいよ」

「重モビルスーツなんだがな。それを軽いというか」

「脚もあるからデブリも蹴れるし、直接攻撃もできる。その分、運動性は少し劣るかな」

 

 

 脚のないモビルスーツ? 変形機構を取り入れているのではなくて?

 

 

「クダル……ブルワーズのMS部隊の隊長ですごい嫌な奴だけど、そいつが言うには俺たちみたいなヒューマンデブリはすぐにモビルスーツを壊すから脚はいらないんだって。あと、暗礁宙域はめちゃくちゃだから、少しでも推力が必要だったらしい」

 

 

 暗礁宙域……厄祭戦時代の古戦場で、多くのモビルスーツや艦船が沈んだ場所だな。

 エイハブリアクターは疑似重力を発生させるため、艦船の大小に問わず艦内重力のもととなっている。そんな能力があるリアクターは破壊が不可能なほどに強固で、稼働状態のまま漂っているらしい。

 

 

「気を抜くとデブリの仲間入りだった。たまにリアクターを見つけると少しだけ飯が増えたっけな」

 

 

 ギャラルホルン以外の勢力がモビルスーツや船を自由に取り扱えるのはこの生きたリアクターが存在するからだ。バルチャーという武装回収業者もいるぐらいだ。

 だが、リアクターの出力は大小様々なうえ、戦艦級のものは輸送船や小型船舶で脱出できないレベルの重力を発生させる。デブリの破砕も玉突き事故の様に周囲に飛び散らせるだけだ。

 

 

「……うしッ! じゃあ、クランクさんやろうか」

「そうだな。アイン!」

「なんですかッ?」

「少し付き合ってくれ! 1:2でアストンと戦う!」

「了解です! 少し待ってください」

「二対一かよ」

「阿頼耶識に経験と技術がどれほど迫れるか。少し試したくてな」

 

 

 ――実のところ、負けっぱなしは好きじゃないだけだがな。

 

 

「大人気ない!」

「大人なんてこんなものだ。さあ! 勝ったら菓子を食ってもいいぞ!」

 

 

もちろん、負けたら勉強だがな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もみたいにトレーニングをして、お腹が空いたから火星ヤシを食べているとレッドがこっちに来た。嫌そうな顔をしているけど、こっちもそうするべきだろうか?

 

 

「……ま、いっか」

「何がだ。三日月」

「お互い無視していたほうがいいでしょ? わざわざ構うのって、暇人?」

「一言どころか二言ぐらいは多いなお前!?」

 

 

 気に入らない人って言ってるけど、この大袈裟な反応は割と気に入っている。オルガやビスケットも感情を表すようになったとか言ってたかな? どういうのかわからないけど俺は何時も嬉しい時は嬉しいって反応しているんだけどな。

 

 

「ったく……。バルバトスの調整は済んだのか?」

「もうとっくに終わってる。トレーニングもしたから暇なんだよね」

「暇ぁ~? …………うん、いい機会だな」

 

 

 ? 一人で納得してないでほしい。

 

 

「お前、この仕事が終わったらどうすんだ?」

「続けるよ?」

「あー、そうじゃない……わけでもないか。つまりだ。オルガの言うような真っ当な仕事だけで食っていけるようになったらどうするんだって話」

「言う必要ある?」

「暇なら考えておけってことだよ。面倒だからってトレーニングに戻るなよ。つーか、そこで聞かせろよ」

 

 

 指で背後の食堂を指す。面倒くさい。

 

 

「年上からのありがたい指導ってやつさ」

「碌な年上を知らないよ」

「お前よか学はあるよ」

 

 

 学、か。………学……あ、一つあったな。

 

 

「――農場」

「のうじょう? ……畑とかの農場か?」

「うん。俺、桜ちゃんの農場手伝ったりしていたからさ。モビルスーツで戦う必要が無くなったら農家でもやってみたい」

「へぇ……」

 

 

 大変らしいけどクーデリアが何とかの採掘権? だったかの交渉を成功させれば大丈夫になるんじゃないかな。鉄華団に野菜を売ればいいし、余ったら食えるから。

 

 

「農学とかやってんのか?」

「字が読めないから無理。鉄華団のほとんどは字なんて読めないよ」

「―――よくそれでCGSを乗っ取ったな(呆れ」

 

 

 うるさいな。オルガが決めたんだ。俺はオルガの為に生きて、オルガが俺たちの目指す場所へ連れてってくれる。俺はそれを邪魔する奴を潰せばいいし、潰すことしかできない。

 

 

「………そういうことか―――――アイツも大変だな」

「なんか言った?」

「何でもねぇよ。農業やりたいならまずは字を読めるようになれ。それと計算だ。勉強しろ」

「えぇ………」

「字が読めるようになってオルガを驚かせてやれよ。喜ぶぜ」

 

 

 そうかな? オルガの命令で動いて達成できれば喜ぶと思うけど。

 

 

「自分にできることを考えれるようになったと受け取るさ。機械みたいになるな。人間なら自分で考えろ。面倒くさいで考えることを拒絶すんなよ」

「………レッドって、兄貴みたいな感じだ」

「そりゃあそうだ。ラフタの兄貴分みたいなもんだからな。アジーは双子の妹ってやつよ」

「似てないけど?」

「血は繋がってないが家族みたいなもんだからさ。オルガだって、鉄華団の奴らを家族だって思ってるんじゃないのか」

「名瀬って人に言われてた気がする。タービンズに入って、離れ離れになりたくない。自分たちはいままでの皆の流した血で鉄みたいに固まっている。そういったら仲間じゃなくて家族だって言ってた」

 

 

 家族、か………。家族……オルガが父親? どっちかっていうと兄貴かな?

 

 

「なら猶更さ。家族の成長を喜ばない奴はいない。寂しく思うことはあってもな」

「寂しいくなるの? 喜ぶのに?」

「感覚的な話だが、成長するってことは何時か巣立っていくってことだ。自分の手から離れて一人前にな。鉄華団は少年兵の集まりだろう。その内、誰かが自分の道を見つけて出ていくこともある。そういう時に道を見つけたことをうれしく思う反面、もう居なくなる寂しさが生まれるのさ」

 

 

 ………よくわからない。俺の命はオルガのものだから。俺はオルガから離れないし、裏切らない。

 

 

「お前はな。けど、他の団員が道を見つけたら送り出してやれ。で、何時でも帰ってこいって言ってやれ。ここはお前の家でもあるってな」

 

 

 ――なんか、今日のレッドは気持ち悪い。

 ――張り倒すぞクソガキィ!!!?

 

 

 

 

 

 この数時間後、イサリビからの救援信号を受信。三日月がクタン参型で出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況の確認を」

「約1時間近く前にイサリビから暗号通信にて救援信号を受信。三日月・オーガスがクタン参型にて急行しております。場所はタービンズが利用するルートに入って中ほどです」

「妙だな。エイハブウェーブのせいで遠くまで届かないと思うが?」

「タービン社長は偽装したLCS送受信機をデブリに偽装して敷設しております。襲撃者に傍受される可能性もありますが……無いよりはマシでしょう」

 

 

 ユフインの艦橋ではレッド、クランク、艦長らが状況の整理を行っていた。先行させた三日月はすでに宙域内に突入しており、あとはこちらが突入する準備をしているところだ。

 

 

「タービンズの機密情報ですので詳しくは見せられませんが、宙域内の大まかな見取り図はいただいております」

「………なるほど」

「合法非合法の荷物はございますから」

「いや。私はもうギャラルホルンを辞めた身だ。何も言うつもりはない。しかし、案内役もなしに入れるものか?」

「大きく迂回して出口付近で待つのも手です。ユフインは同級より小回りは多少利く程度で強襲装甲艦ほどの運動性は期待できません」

 

 

 艦隊を組んでの打撃戦のハーフビーク級と肉迫して強襲揚陸する強襲装甲艦では求められる運動性が違う。何もない宙域なら巴戦はできようが、デブリの中では無理なのだ。何よりもこの船に主砲は付いていない。

 

 

「ハンマーヘッドとイサリビの搭載モビルスーツは?」

「四機です。相手はこの辺り一帯を根城にしている海賊でしょう」

「白兵戦………はないよな。やっぱりモビルスーツか……。最大勢力は?」

「火星圏付近ですと暁の地平線団が五隻の艦隊です。ですが、テイワズに楯突くほどの度胸は無いでしょう。団長のボリバル・ロイターは慎重な男で有名です」

 

 

 ――何よりもタービンズの縄張りの暗礁宙域で襲わず、別の縄張りで事に至るでしょう。

 艦長の言うことはもっともであり、ハンマーヘッドという特徴的な船を襲うほど馬鹿な海賊は切羽詰まっているか……それ以上の―――

 

 

「後ろ盾がいる」

 

 

 ナニカが背後にいるとレッドは推測した。艦長も同意見であり、クランクはテイワズを襲って余りあるメリットを与えられる組織は何かと考える。そして一つの結論に至る。

 

 

「ギャラルホルンか!」

「連中が後ろにつけば仕事もしやすいだろう。となると、増援もいるか? あるいはセブンスターズの傭兵が騙っている可能性も………」

「――目的は成果を収める、でよいのでしょうか?」

「んー………イサリビはドルトへの資材を運ぼうとしているんだろう?」

「そのように聞いております」

「木星メタル狙いかも。あるいは………賞金を懸けられているとか?」

 

 

 鉄華団にはクーデリア・藍那・バーンスタインという爆弾が乗っている。クーデリアに賞金が懸けられていても違和感はない。そして―――

 

 

「まあいい。艦長」

「はっ」

「第二船速で突入。デブリの多い宙域ではそちらの判断に任せる。ゼントは俺とデルマと一緒に先行する」

「了解。アインたちは直掩だな」

「船外でな。アストンたちのほうがここでは強い。意見を聞くように言い含めておいてくれ」

 

 

 艦長! とレッドは強く言う。ファミリーネームで呼ぶのは仕事モードに突入した証だった。間髪入れずに艦長はクルーに通達する。

 

 

「第二種戦闘配備を」

「了解。総員!第二種戦闘配備! 繰り返す! 総員、第二種戦闘配備!」

「MS隊はヴァサゴ、若獅子1番機、ガルムロディ3番機は出撃。残りは直掩に当たれッ」

 

 

 レッドが徐に艦内のオープンチャンネルにを開いた。

 

 

「お前ら! これがうちの初陣だ!! どこのどいつだか知らないがクソッタレ共に誰に手を出したかわからしてやれ!!」

 

 

 回線から野太い声が聞こえる。カチコミだとか、ケジメつけさせろやー! という戦意に満ちた雄叫びだった。

 

 

「いいか! 死ぬんじゃないぞ、野郎ども! テメェらの生まれ年の酒を用意するのは金がかかるからな!! 俺の借金を増やすなよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で鉄華団とタービンズは防戦を強いられていた。

 急襲と明らかに海賊の動きではない統率の取れた戦闘行動に翻弄されている。ここに三日月やアウトサイダーズの面々がいれば幾ばくもかからずに優勢に持っていけるという確信はあった。

 

 

「くそッ! 敵の位置は!?」

「デブリに逃げ込まれてわからない! けど、この装備は普通じゃないよ!!」

「ミサイル接近!」

「迎撃しろ! 明弘とタカキはまだ生きているなっ!?」

「ラフタさんとアジーさんが救援に向かって―――交戦開始! 複数のモビルスーツに追われているそうです!」

 

 

 優勢に持っていけないのは彼らがいないというよりも、保有しているモビルスーツが通常の操縦システムでしかない。明弘の駆るグレイズ改はインターフェイスは最新であるために阿頼耶識システムとの親和性が極めて悪かった。

 いや、時間をかければ何かしらの解決策は生まれていたかもしれない。バルバトスのデーターをフィードバックするといったことをができたかもしれない。しかしここには鉄華団の整備主任の雪之丞はおらず、バルバトスもない。そもそも文字を読める人間が極少数であった。

 

 

「ユージン! 近づけねぇのか?!」

「アミダさんだけじゃ防衛に徹するだけでいっぱいだ。相手は二十機近い部隊だぜ!? 離れた瞬間に分断されて各個撃破されちまう!」

「クソが! グレイズを売るんじゃなかったか?」

「売らなきゃ売らないで火星のほうが干上がっちゃうよ。それにパイロットが……」

 

 

 ビスケットの言葉は当然である。シノやダンテたちが明弘と一緒に訓練をしているのはオルガも知っているし、ずぶの素人より遥かにマシなぐらいのセンスがある。ちゃんと正規の訓練さえすれば、一角のMS乗りにもなれるだろう。

 阿頼耶識さえ使えれば、と考えるがオルガは内心で頭を振った。以前、鉄華団の全員を診察したミリアムから言われたことを思い出したからだ。

 

 

(阿頼耶識は強力だが脳への負荷がデカい。ミカの手が鈍くなったのも阿頼耶識の過剰負荷のせいだ。そんなものに俺は家族を乗せようと考えちまった)

 

 

 以前の自分なら認めていたであろうこの考えも、名瀬やレッド、クランクやアインといった良い大人と付き合うことで変わってしまっていた。

 彼らがしきりに告げる、自分達を頼っても構わないという優しさがオルガを弱くした。

 だが、何から何まで世話になって、頼っていいわけじゃない。そうしていいのは―――

 

 

「……まだだ」

「オルガ?」

「チャド。お前が指揮を取れ! ユージンは俺に火器管制を渡せ!」

「「「「オルガ」」」」

「イツカ団長!」

「メリビットさん。俺は名瀬の兄貴やウェイストに言われてんだ。自分たちを頼っていいって。けどな? 頼ってばかしじゃ信頼も信用も得られねぇ! 何よりもここで状況を良くも悪くも変えないとすり潰される!」

 

 

 自分にできることをすべてやり切らなきゃいけない。どうにもできなくなった時、その行く末が見えているときは俺は頼るって決めたのだ。

 そして世話になった人と家族、自分も生き残らせる。

 

 

「ビスケット! ハンマーヘッドに少し時間稼ぎと前進するって言ってくれ。アミダさんには迎撃は自分がするから敵のモビルスーツを撃破するように通達しろ。急げ!」

 

 

 敵を合流させるかもしれないがタービンズのあの二人はそんじょそのこらのMS乗りとは違う。タカキをベッドにぶち込んで、明弘も戦線に復帰させる。これを凌げればあるいは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残念ですわね。もう少し楽しめると思ったのですが……ねえ、シャルン』

『そうだね、オリヴィア姉さん。期待外れだ』

 

 

 アミダの迎撃を躱し、二隻の強襲装甲艦の対空防御をすり抜け対艦攻撃用のランチャーを構えた二機のガンダム・フレームが船に取り付いていた。

 

 

「んな……!?」

『お仕事ご苦労様』

『さようならだ。ネズミ君』

 

 

 ――そして二つの爆発が生まれた。

 

 

 

 

 

 







 質問も感想も常日頃から受け付けておりますよ。てか、感想ぷりぃず!

 出てきたガンダム乗り。名前からモデルを想像してみようか?




『若獅子』
 イオ・フレーム試作機につけられた暫定的なコードネームに分類される。見た目はほぼゲイレールだが、向こうと違ってすこしマッシブなイメージを思わせる。
 性能は以前に開設した通りであり、好んでこれに乗る必要は皆無。依頼が無ければロディ系かヘキサ系に乗った方がいいだろう。
 なお、本作の設定ではこのデータをもとに改良された獅電はグレイズと互角に戦える性能になると宣言しておこう。



『なんでドルトで合流?』
 マクマードがクーデリアの資質を。そして鉄華団の能力を見極めるために画策した。
 鉄華団の戦力が三日月ありきのことも報告にあり、それらが不在のままでどれだけ立ち回れるのかを見たかったという設定です。この辺りは次で出ます。





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