鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 皆様、平成も終わり、新たな年号の令和となりました。本来なら初日に投稿する予定でしたがブルワーズ終了まで書こうと思っておりました。
 ですが、これ間に合わないな、と判断しもっと時間がかかるので分けて投稿したいと思います。




 P.S.

 中途半端な終わりですが大体こんなものだと思います。






 ――存外、こちらの思惑も筒抜けだったと思います。整備主任も目的の物に深くは潜り込めなかったようですからね。

 ――腹立たしくはなかったのか、と? それはありません。マクマード様と二代目が気にかけている人物です。無警戒であった方が腹立たしいというもの。

 ――腹立たしいとするならば………ええ。もっと自分を大事にすべき。そう思いますよ。


 テイワズ主力艦隊旗艦ユフイン 艦長








とりあえず潰せばいいでしょ(by三日月+解説

 巨大な棍棒を両手に握り、グレイズもどきはバルバトスを狙った。鋭い、とはいえない程度の攻撃で三日月はいとも容易く太刀で受け流しを成功させる。

 同時にもう一機が今度は見慣れたものを手首から出していた。ムチだ。

 太刀で巻き取っていくか、できれば切り捨てて倒してしまおうとする三日月の本能が危険信号を放つ。

 

 

『! 避けろ!!』

「ッ!!」

 

 

 アジーの叫びに三日月は意図的に巻き取った太刀を手放して後退した。刹那、激しい電光が太刀を焼く。

 

 

電磁鞭(ヒートロッド)だ!』

「ヒートロッド?」

『製造も所有もギャラルホルンーーその督戦隊(ハンター)以外には持ってないってことになってる(・・・・・・・)代物さ』

『電撃を浴びせるからナノラミネートも意味ないんだよね。あたし、アレで肌に火傷できたの憶えてるよ』

 

 

 ナノラミネート装甲を突破するには大質量を叩きつけるか、ナパーム弾による気化、超高速で質量弾を当て剥ぐことが答えとなっている。近接戦が一番、費用も時間もかからない。

 だが、誰もがそんなことができるわけではない。格闘戦はセンスに大きく影響されるため、セオリーとして複数機で一機を囲い、叩きつぶすのが主流となっている。

 

 対し、ヒートロッドは中にいる人間を効率よく痛めつける武装だ。本来の用途は機械の電装系を破壊するために開発されたのだがモビルスーツ相手でも効果が見込めることが判明している。金属の塊であるモビルスーツは電気をよく通し、パイロットへの電気ショックも狙えた。絶縁処理をされていても高電圧の電気抵抗で弾薬・推進剤の誘爆、処理がされてなければバイタル部分の電装系をショートさせられるのだ。

 

 反面、輸送艦以上の大きさの艦船にはピンポイントで狙わないと効果がなく、エイハブリアクターでなければこういったダメージを与えるほどの電力を供給できないことが弱点だろうか。

 

 

『問題は三日月の阿頼耶識さ』

「……俺のヒゲか」

『そう。モビルスーツをショートさせるような電圧を生身に受ければ……』

『そういうこと。こいつはあたし達でヤるから、もう一機んぼほうをお願い』

「わかった」

 

 

 三日月は鞭を持つグレイズもどき――仮にグレイズAとBとしようか――を無視して、一方のグレイズAに襲い掛かった。

 軽々と脚の長ぐらいはある巨大な棍棒を振り回し、バルバトスを近づかせないように抵抗する。戦闘力としてみれば動きが人間っぽいだけで予測できる範囲だった。

 しかし、三日月には若干の違和感を覚えさせるものであった。

 

 

(………この動き……知ってる?)

 

 

 思い出せないがこの荒々しい動きにはどこかで覚えがある。ふとどうでもいい奴の顔が浮かび上がったがそいつは大人だし、阿頼耶識の施術をしても機能はしないはずだ。

 ただもしも……というのであれば、鞭のグレイズBは――――

 

 

「ハエダとササイ?」

『誰、それ?』

「CGS時代によく殴ってきたり、鞭を使って年少組を痛めつけていたやつ。レッドが漂流刑って、ポッドに入れて流したはずだけど」

『うっわ、エッグいなぁ(ドン引き』

『大方、ヴァサゴに手を出そうとしたんだろう。名瀬や姐さんらハンマーヘッドのことに関しちゃ容赦の欠片もなくなるからね。どこまでも、冷酷で非情になれる!』

 

 

 ――鞭使ってるのってどっち?

 

 ――ササイ。出っ歯で陰険でハエダの後ろに隠れてるどうしようもないおっさん。

 

 ――あー、だからねちっこく攻撃してくるんだ。女を嬲ってコーフンするキモいおっさんだね。

 

 ――うん。それで合ってるよ。

 

 ――ラフタ。なんか攻撃が激しくなってるからやめな。あと、汚い男が鞭振りかぶってる姿にしか見えなくなるからやめてほしいんだけど。

 

 

 案の定、グレイズBの攻撃が激しくなりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性に年齢を聞いてはいけない。若い娘には大人っぽく見えると褒め、ある程度の年齢からはお若いですねとお世辞を言わねばならない。

 なに? 女性差別だと? 性差別? 実にくだらない!! 女性扱いされなければ不平不満を言うくせに調子のいい時だけその言葉を持ち出すんじゃあない!!

 

 

「などと現実逃避しているときがございました。レッドです」

『二度は言わないよ』

「わかりましたお義母様!」

 

 

 明らかに最終警告な弾をもらい、レッドは全くもって近寄りたくない女の闘争の場に乱入した。二対一で一方的に仕留めるのはどうとも思わないが近場ゆえに拾ってしまう女の言い争いをダイレクトに聞かされてSAN値が直葬されそうなのだ。

 それは向こうのフェニックスも同様らしく、今この戦いにおいてはまるで苦楽を共にした友人を見つけたかの態度だった。発光信号も身振り手振りもなく、まるで殺す気マンマンでフェニックスに襲い掛かる。

 

 

「うぉおおおおお!!!」

『ちょこざいな!!?』

「吹っ飛びやがれ!」

『わあああああ!??』

 

 

 三文芝居も甚だしい、わざとらしい演技でバックレようとする二機をアミダとオリヴィアは無言で撃つ。

 

 

『『次は殺す』』

『「………はい」』

 

 

 女は恐い。やっぱり恐い。

 なし崩しに………というわけでもなく、ガンダムたちは激しい戦闘を繰り広げ始めた。前回の話を見てもらえばわかるが“赤は俺のもの”とはレッドの言葉だ。アミダのもの同じじゃないか? アレはピンク色なのだ。

 あと作者的にロリコン仮面の赤いヤツはどう絡ませようかとお悩み中である。

 

 

『いい機体だ!』

「それはどうも! とりあえず、俺以外の赤色はすぐに変更しやがれ。しないなら死ねッ」

『赤は君の専用ではない。それより、その機体。心に来るものがある。君を殺して奪い取るとしよう』

「やってみろや三下!」

『シャルン・S・ホルスト、と呼びたまえよ。野蛮人!!』

 

 

 赤色に何のこだわりがあるのか知らないが曰く、単なるいちゃもんだと後に語っている。

 しかし、フェニックスとヴァサゴの距離が徐々に開いていくのは誰が見ても明白だった。レッドの攻め方をシャルンが覚え始めたのが原因なのだがそれよりは胴体に大きく残る損傷のせいだった。相手は変形できないぐらいの損傷を与えてはいるが人型でもその推力はヴァサゴを大きく上回っている。

 ――これ以上の傷を増やしたくないのもあるが………。

 

 

「小細工ッ!」

『戦術と言ってほしいね』

 

 

 シャルンの狙いはアミダの百錬からヴァサゴを引き離すことだった。

 どんなに凄腕のパイロットでも宇宙空間で推進剤が切れてしまえば頑丈なデブリと同じだ。

 実際にアミダの百錬はガス欠間近であった。四方八方から攻めてくる敵MS部隊を単独で撃破、食い止めていたのだ。むしろこれが明弘やアイン、クランク、レッド、アジー、ラフタといったメンバーなら補給に最低2回は戻っていたことだろう。

 

 

『ルージュのアミダはここで仕留めさせてもらう。本来はもっと後だったが……いやはや。予定通りにはいかないものだ』

「黙ってさせると思うか?」

『簡単に戻れると思うか?』

 

 

 互いに黙して、相手を殺さんと行かせはしないとさらに激しく動き始める。

 一方でアミダも推進剤のアラートを聞きながら格上の機体相手に互角以上に事を運んでいた。相手ての通信回線に時折混じるうめき声がアミダの耳朶をうっていた。

 

 

『ぐっ!? これほどの実力とは……!』

『イイ線言ってるけどね。それじゃあアタシは墜とせないよ!』

 

 

 アミダの取った作戦はカウンター重視の受け身戦法だった。ガス欠を狙った相手も射撃だけではどうにもならないと判断し、速度が上乗せができる一撃離脱を選んだのだ。

 この選択は間違いかと言えばそうでもない。こちらの手勢――三流の海賊をアウトサイダーズのユフインの航路上に忍ばせていたのだ。それらも本艦からの通信途絶の知らせを受けている。

 最低限の保身を選び、牽制して逃げられる程度の弾薬を残した状態で戦うことを選んだのだ。カウンターを狙われようと接触時のカウンターブーストでじわじわと削れるだろうと判断したのだった。

 だが、今回は敵を甘く見過ぎていたのだ。

 

 

『がッ!(伊達や虚勢のパーソナルカラーではありませんのね。ほぼレストア機でよくも……!)』

 

 

 AMBACと最小限の推進剤で最大の威力を叩きだすアミダ。この時点で両者の実力に大きな差があった。

 この場合、オリヴィアたちの判断ミスとしか言いようがない。予定ではグレイズのみを仕留めるはずが海賊たちの欲深さを考慮していなかったのだ。

 

 

(このままですと進むも退くも地獄ですわね。………それにしてもレッド・ウェイスト。忌々しい!)

 

 

 何でかレッドに対して憎悪の念を募らせるオリヴィアだが、その体は感情とは裏腹に消極的になり始めていた。そんな変わりようを見逃すほどアミダは馬鹿でもなく、そして無謀でもなかった。

 明弘とタカキも無事ではないが帰還した。もっと後で合流予定のバカ息子とも合流できた。これ以上を望むのは勝ちが過ぎる―――。

 

 

『お優しいのですね』

『大人の余裕ってやつさ、さっさと失せな』

『そうさせてもらいますわ―――――またお会いしましょう』

 

 

 ――こっちは二度と会いたくないよ、と言い返しオリヴィアの駆るハルファスは退いていった。レッドのヴァサゴと激しくぶつかり合っていたシャルンのフェニックスも胸部以外の大きな損傷は見えずとも精彩を欠いた機動で後を追っていく。

 推進剤が切れたとモニターが映し出し、喧しいアラームを切るのもしんどいとそのままにコクピットシートに深く寄りかかる。するとレッドが心配そうに来た。

 

 

「大丈夫かよ」

『アンタに心配されるほど柔じゃないよ。まあ、推進剤も切れちまったからね。引っ張って行っておくれ』

「あいよ―――ん? モビルスーツ?」

『増援かい? ったく………おや……?』

 

 

 彼方からロディ・フレームが流れて来た。こちらの予定進路の先。明弘たちが襲撃された方角からだ。

 

 

『なるほどね。名瀬!』

『どうしたアミダ。こっちもほぼ終息し始めてるぜ。ユフインも来たしな』

『いい知らせだね。それとラフタ達のほうからモビルスーツが流れて来た。向こうはどうなってる?』

『ちょっと待ってくれ―――――わかった。何もないんだな? よし。―――――向こうも無事らしい。見慣れないグレイズに襲われたらしいが三日月も無事だ』

『了解。レッドに回収作業を頼んどくよ』

 

 

 ――俺の仕事は増えるのかよ……、とわざとらしく、およよよと泣き真似をするレッドだがアミダと近場に受け止めていたロディ・フレームを曳航していく。

 途中、合流したアストンらに船の護衛を引き継いだデルマとクランクが手伝いに応じた。

 時折、ロディ・フレーム―――マンロディに話しかけるデルマにブルワーズ時代の仲間が乗っているのかと勘繰るレッドだが、何よりも優先すべきは全ての補給を済ませ安全を確保出来る状態にするのが先決だった。

 すべての作業が終わるころ、ボロボロになった百里と百錬、バルバトスが帰還し整備班が声のない悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 諸々の作業に目途がつき、幹部クラスの人間たちがユフインの作戦室に集まっていた。ギャラルホルンの現主力巡洋艦ということで内部は広く、マクマードの船ということもあり清潔感はハンマーヘッド以上にあった。むしろ、イサリビがひたすらに汚く、迎え入れたクルーがオルガ達のあまりの悪臭に涙目になっていたところが問題だろうか。

 

 

「とりあえず、身支度整えてこいや馬鹿ども」

 

 

 オルガとユージン、ビスケットをシャワールームに放り込んだレッドの行いに流石の三日月も同意を隠せなかった。何せアトラにもちゃんとお風呂に入った方がいいよ、と目をそらされて言われたからだ。三日月だって人間だもの。

 

 イサリビについて今度、大々的に清掃作業をすべきだという会議をオルガ達のいない間に終え、そこから紆余曲折を経て全員が集まる。なんか妙にこざっぱりしたオルガ達に嫌味の一つでも言おうかと思うレッドも理性を総動員して胸の内にしまい込む。

 今回の議題は襲撃してきた部隊とブルワーズへの落とし前である。

 

 

「現状、ブルワーズは戦力のほとんどを失っていると思われます。私としてはここでけじめをつけさせるべく、追撃したほうがいいと思います」

 

 

 モビルスーツに関しても一角の知識があるエーコがタブレットを片手に手慣れた様子で床のパネルを操作する。こういうのをイサリビにも欲しいなとオルガは雪之丞に相談してみようと決めた。

 そしてパネルに映し出されているこちらが保有する情報から推測したブルワーズの戦力。そしてギャラルホルンに近しいのではないかと推察された海賊らしき連中。ユフインが葬り去った海賊を航路とセンサーからすり合わせた宙域情報にアップデートする。

 

 

「ユフインを襲撃した海賊が三隻でモビルスーツは五機。機体はありふれた強襲装甲艦二つと輸送艦一つ。ガルムロディで構成されてます」

「テイワズのアーカイブにはこの宙域でこの規模の海賊は確認されていません。交戦していたモビルスーツの数と連携具合から見て三隻とも別々の海賊である可能性が高いかと」

 

 

 エーコの言葉にユフインの艦長が補足説明をする。輸送艦にモビルスーツを搭載していればかなりの手間になったはずだったが中にいたのは武装した揚陸部隊だ。典型的な遭難船や補給艦に偽装した海賊の一つだろう。白兵戦に持ち込んで船体の拿捕・乗員の捕縛を主にしている海賊だとか。

 

 

「ヘキサ・フレーム―――ジルダもある程度は墜としたとはいえ、その殆どは二機のガンダム・フレーム撤退と同時に退きました」

「率先して攻めてきた連中の練度は低いね。逆に距離を取って集団戦に持ち込もうとしていた残りは明らかに訓練されていたよ」

「………となると……兄貴」

「戦力の大半がギャラルホルンってことだな。ったく、どこから漏れたんだ……?」

 

 

 実際に戦っていたアミダ曰く、退いた連中は確実に正規軍並みの訓練を受けていると告げる。そのうえであんな大規模なMS部隊を編制・維持のできる組織は限られていた。

 その中でオルガはギャラルホルンの可能性があると名瀬にその名は出さずとも意見を求めた。名瀬も同様の結論に近い推測から答えを言う。

 しかし、この場にいる者たちは一つの疑問と疑惑を抱く。すなわち―――

 

 

 ――どうしてここを通ることがバレたのか?――

 

 ――自分たちの中にスパイがいるのではないのか?――

 

 

 襲撃者たちは見事、この集団の中にある三つの勢力に疑念の種を植え付けたのだ。

 レッドは考える。自分と戦っていたフェニックスの男の言葉。アレはどう意味なのだろうか? 今ここで言うべきだろうか?

 

 

「――とは言ってもこのまま進むしかないブルワーズに落とし前をつけさせる以上、進む選択はあっても下がる選択は無い。それでいいな?」

「「「了解(しました)」」」

「じゃあこの話はここを抜けてからにしよう。オルガ。回収した連中は――――」

 

 

 その後、ブルワーズを補足次第、艦内制圧と拿捕を優先。拾ったヒューマンデブリは鉄華団が7でアウトサイダーズが3ということなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――どうしてこうなったのだ?

 

 人間と豚を混ぜて人間寄りにした風体の大男、ブルック・カバヤンはメディカルルームで頭を抱えていた。それは虎の子のMS部隊が壊滅し頼りにしているMS部隊隊長のクダル・カデルが半死半生で帰還してきたからだ。そいつは体中を管で繋がれてメディカルベッドの中に漂っている。

 

 

「どうすりゃいいんだ。ギャラルホルンとも連絡がつかねぇ。あのムカつくガキと君の悪い二人(イカレども)もいない。モビルスーツも壊れたグシオン以外無い。どうすりゃいいんだ?」

 

 

 テイワズの直系。その中でも次期頭目の最有力候補に手を出している。ギャラルホルンがケツを持ってくれると約束させ、その証として派遣された十数機のMS部隊も綺麗さっぱりと消えた。ご丁寧に記録や証拠を全て消去してだ。

 

 

「詫びを入れるしかねぇか? だが、指を自分で切り落とすとかキチガイみてぇな要求をするんだろう!? どうすりゃいいんだ!?」

 

 

 実際はその程度で済ますつもりもないが知らぬは幸福である。

 ヒューマンデブリはクルーらによる監視で大人しくしているが数で言えば二倍近い差だ。武装蜂起されればそれだけでヤバイ。手っ取り早く何人か粛清したとしても今度は鉄砲玉が足りなくなる可能性がある。

 

 

「クソッ! 楽な仕事じゃなかったのか!!?」

 

 

 碌な戦力も持っていない商船団ばかりを狙い格上との戦闘を経験せず、ここ数ヶ月は連戦連勝であったことが問題だった。

 実はそれよりもレッドからほぼ無傷で見逃されたこと――阿頼耶識とまともに戦うことを危険視したため――で、そこで勘違いをしたというのが原因であったりする。海賊の情報網に変わった赤いモビルスーツの凄腕傭兵の噂は結構あったからだ。

 

 そいつがこっちの戦力はほぼ無傷の状態で――クダルを人質に取られたが逃げを選択させたのだ。自分たちはツいていて、戦うのを躊躇わせるほど強いのだと。

 ゆえにブルックは、ブルワーズは甘言に乗った。勝てばギャラルホルン公認の私掠船扱いになるからだ。もっともその目論見は獲らぬ狸のなんとやら、であったが……。

 

 

「チッ………おいっ!」

『団長? なんですかい?』

「すぐにこっからズラかる! デブリ共に薬を使って準備させろ!」

『へい!』

「まだだ。まだ終わらねぇ……!!」

 

 

 自分はここで終わらない。自分はツいてるんだ。船団を乗っ取って、お頭になって、何度も危ない橋を渡って、再起する資金だってある。俺に付き従った乗組員だっている!

 

 

「来るなら来てみろ………地獄を見せてやる。うひ、うひひひ、ぶひひひひ………!!」

 

 

 ほどなくして準備が整ったこと。そして接近する艦とモビルスーツを補足したことを告げる報告がブルックのもとへ届いた。

 追い詰められた人間が何をするかはわかったものではない。それをオルガたちは知ることになる。

 ブルック・カバヤンの眼はすでに正気ではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回、陸戦隊として行くメンバーにレッド以下元ブルワーズ組が追加されていた。デルマの希望とオルガの要望から可能な限りヒューマンデブリの少年兵を捕縛ないしは保護をする為であった。

 そして鉄華団からはシノを中心とした陸戦経験者の上位組を選抜。オブザーバーにかつて陸戦の傭兵として経験のあるマルバを据えてのミッションだ。

 

 

「しっかしマルバがサポート役かよ」

「どの面下げてって感じだよな」

『聞こえてるぞガキ共。こんな(なり)だがテメェらよりは陸戦経験があんだよ』

「へいへい。だったらもう少しまともに扱ってくれてもイイじゃねーかよ」

『………それについてはすまんかった。謝ってもどうにもならんがな』

『殊勝じゃねぇか。マルバ』

『オルガ………』

 

 

 昔話か何かに花を咲かせている連中は置いておいて、レッドとクランク、アインは周りとは違う装いだった。鉄華団側からどん引かれるレベルの重装備だ。

 

 

『なんで装甲服(パワードギア)があるんだ?』

装甲兵(アーマード)なんて普通は進まんはずだが……』

『少し重いですね。サーボモーターがあってもキツイですよ。これ……』

 

 

 分厚いバトルアックスに寸胴の装甲。生身の部分を全て覆いつくす装甲になんでかまだらに赤いドアカッター。レッドに至っては重火器とマチェットが組み合わさった「ぼくのかんがえたさいきょーのぶき」と盾を保持している。

 ぶっちゃけ、こいつら一人で通路が埋まる為邪魔だった。

 

 

『マクマード様もご愛用の逸品です』

『組織のトップがカチ込みするの不味くない?!』

『相棒のジロン様はそのままの姿で剣一つですが?』

『親父ィ!マスタァアアア!!?』

 

 

 レッドと名瀬の悲鳴が木霊する。そんな姿を見ていたシノがなんかスッゲーいかついな!! と漏らしていたのをマルバは冷静に返した。

 

 

『本当ならアレぐらいは必要なんだぜ。何せ追い詰められた相手だからな』

「無いもんは仕方ねぇじゃんよ。つーか、昌弘たちがいるんだから抵抗なんて大人組だけだろ」

『………だといいがな』

「あん? なんだよそれ」

『………最近は戦闘に関わることもなかったからな。ようやく勘が戻って来たってところだ。オルガ!』

『ンだよ?』

『ウィル・オー・ウィプス『イサリビだ』――イサリビの非戦闘員を安全区画に退避させとけ。それと外部ハッチの観測を忘れんな』

「はあ? 何言って――」

『待つだけが陸戦じゃねぇ。攻め込んでくる可能性があるんだよ。名瀬さんもいいですな?』

『おうとも。ブリッジは戦闘態勢に移れ! 今から戒厳令と陸戦装備着用! 銃を携帯しろ! アジ―とラフタ、アミダはモビルスーツにシーリングしろ。火器管制も切っておけ!』

 

 

 慌ただしく動き始めるハンマーヘッドにイサリビは呆然と固まる。マルバがオルガを急かすと、名瀬があれだけ急いでいるのだからと艦内に伝達した。

 

 

『なあ、艦長』

『はい』

『これは………やっぱりアレだよな?』

『十中八九そうでしょうね。我々も戦闘態勢に入ります』

『頼んだわ』

 

 

 そうしてレッドも最悪の事態を想定し、クルー全員に陸戦装備の着用と銃の携帯許可、弾薬庫とハンガーの隔離を命令した。

 相手は海賊でヒューマンデブリの命を何とも思っていないのだ。

 

 

 

 

 

 






 誰も彼もが救われるわけではないと思うのが私の考えです。
 死ぬ命があって生きる命に輝きを宿せるのだと思っています。
 ですので、次回ではそれなりに人死にが出ます。鉄華団の子どもたちが人間に近づくための儀式だと思いますので譲れません。

 それじゃ解説いきます。








電磁鞭(ヒートロッド)
 ハイポリマー材質で構成された特殊装備。モビルスーツの電気系統に多大なダメージを与えるがそれ以上に中のパイロットに苦痛を与えることが可能。それ故にギャラルホルンの督戦隊以外の所持も製造も重い刑罰の対象となる。
 しかし機構が複雑になるほか、扱いが非常に難しい。
 闇市場に出回るのは改造した模造品であり、純正品は鞭として使うことができるが模造品は鎖付き分銅のようなもののため打撃力にかける。
 元ネタはグフのヒートロッドとB3グフのヒートロッド。


『グレイズA』
 巨大な棍棒を持った巨大なグレイズ。パワーも非常に高く、マンロディ程度の装甲なら容易く砕くだけの力がある。
 三日月はその叩き方や癖からハエダ・グンネルではないかと訝しんでいる。


『グレイズB』
 Aよりは小さいが通常のグレイズよりは誤差程度に大きい。作中で描写はされていないが両腕が太く、手首から純正のヒートロッドを出す。
 ラフタ、アジーが応戦したがその動きから三日月に近いものがあると踏んでいる。しかし後に三日月からの話で疑念を抱えることになる。
 三日月はAの存在と鞭を使うことからササイ・ヤンガスではないかと考えている。


『シャルン・S・ホルスト』
 ガンダムフェニックスのパイロット。機体が赤色なためレッドにいちゃもんをつけられた可哀想? な人。
 今回の襲撃で結構な損傷を抱えてしまった。強さ的にはキワモノの部類である可変機を十全に扱っているため相応の技量があると思われる。
 元ネタは機動戦記ガンダムXのシャギア・フロスト。


『オリヴィア・S・ホルスト』
 ガンダムハルファスのパイロット。シャルンの姉で、恐れ多くもアミダに向かっておばさんと吠えた勇者。ただしアミダに喧嘩を売るには実力が足りない模様。強さ的にはラフタやアジーよりは強いというぐらい。
 なんでかレッドに対して憎悪をたぎらせるがそこをレッドは知らない。
 元ネタは機動戦記ガンダムXのオルバ・フロスト。



装甲服(パワードギア)
 パワーアシストの付いた動力付きのアーマー。いわゆるパワードスーツの一種で余程の重火器でなければ早々に壊れることはない。
 作中の世界では臨検するギャラルホルンや海賊が多く保有しているがその巨大さから扱える体格者が少なく、重装甲でパワーもあるが脆い船内で50口径を使うわけにもいかないためもっぱらトマホークやマチェット。ハンマーを持った壁役兼盾である。
 イメージは八房先生のスパロボOG・レコードオブATXにあるラフ画を参照されたし。

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