鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 難産と言うよりは、長々と続けるのもアレだよなとの判断で端折りまくってます。このまま続けると3話ぐらいは使う可能性があったのでね!

 それと前説話でござんす。



5/17 えいとくさん 誤字報告ありがとうございます。





白兵戦のち氷の華(解説付き)

 

 

 ――若獅子より報告。敵艦、近接距離に捕捉。数は一つ!

 その知らせは名瀬とレッドにしてやられたと思わせるに十分なものだった。同時に連中の頭目であるブルック・カバヤンの思い切りの良さに驚いてもいた。連中にとってデカい財産でもある強襲装甲艦が一隻捨てられていたのだ。

 

 

『エイハブウェーブの反応もない。まさか船を一隻、囮に逃げるか』

『余計に時間がかかるな。どうする……?』

『どうするもこうするも、やるしかねぇだろう』

 

 

 ギャラルホルンの大部隊が確認されている以上、単独で行動するのはまずい。じゃあ無視して行くかと言われても、船はまだ生きていて中に伏兵がいる可能性も捨てきれない。

 結論として調べ上げて、こいつを手土産にけじめをつけたと報告するしかない。実は消えたほうが囮だったというのもありそうだがそこまでの機敏は無いだろう。

 

 

『モビルスーツの確認だけして無視しちまってもいいんじゃ?』

『オルガ。それであの船に兵隊や乗組員が隠れてたらどうする? スラスターに一撃喰らって航行不能とか笑えないぜ』

『エイハブウェーブの反応かモビルスーツを出しておけばいいんじゃ?』

『壊すにもナノラミネートが反応してて砕けねぇよ。スクリーマー……イサリビに使われかけたマイニング機材を使えばぶち壊せるだろうがな』

『あとモビルスーツはうちの以外は修理と整備で出せん。阿頼耶識でも三隻の防衛じゃ経験が足りないな』

 

 

 実質、四機が十全に動ける程度で残りは最低限の整備で動かそうとしている状態である。武装も足りないうえに、一番の火力があるべきハーフビーク級は防御重視で使えない。対艦ナパームは乗員がどこにいるか不明のため使用できない。

 今回の目的はけじめをつけさせることだが、鉄華団とアウトサイダーズの戦力増加を狙ってるのだ。

 

 

『相応の訓練はしたと思うが実戦だ。人死には覚悟しておけよ。盾役も忘れんな』

『突入部隊でガタイのいい連中に渡した装甲服(パワードギア)着せてろよ。50口径(フィフティ)以上かランチャーでもない限り骨折で済ませてくれるからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――突入が開始された。先陣を切るのは鉄華団の装甲服を着こんだ明弘と随所に防弾素材を用いた陸戦服を着るシノたちだ。それとは別にダンテによるMSハンガーのロックをする部隊が端末付近で作業をしている。

 鉄華団で一番――もとい、この場に集う者たちの中でダンテの電子戦能力は他の追随を許さぬものだった。

 

 

「――ハンガーロック。そっちにカメラの映像送るぞ」

『ハンマーヘッドとユフインにも頼む』

「おうよ」

 

 

 大した抵抗もなく、ダンテはメインコンピューターを掌握。抵抗らしい抵抗と言えばごくありふれたセキュリティシステム程度で少なくとも鹵獲したグレイズに施されたものには遠く及ばない。

 そしてLCSを通じて三隻が情報を共有する。目下、優先するのはカメラの死角と全体システムに残されたログだ。

 

 

『いい仕事だな。カメラの履歴を調べられるか?』

「ちょっと待ってください―――――――アクセスできました。ここ数時間ので?」

『そうだ。場所はハンガー内のを頼むのと通信ログもコピーしておいてくれ』

「了解っす」

 

 

 ダンテが名瀬の頼みを片付けている間、名瀬はユフインの艦長に贈られた通信ログの解析を任せた。タービンズ、それもハンマーヘッドの乗組員の練度は高いがユフインのクルーはテイワズでも生え抜きのプロフェッショナルだ。わずかな違和感を察知して、それを分析してくれる。

 

 

『名瀬様』

『どうですかね? と、その顔は……やはり?』

『おおよそ二時間前に船外に出ています。それと戦闘薬(コカイン)の使用を示唆するものもありました。……もう、死んでいるでしょうね』

 

 

 船外活動用のノーマルスーツならいざ知らずサバイバルパックを取り付けていないパイロットスーツはそこまで酸素は持たない。宇宙漂流をした場合、大体が発狂して自ら首を絞めるか自決する。一応、手順に従って仮死状態による延命もできるがコカインを使用した少年兵にその知能は残ってないだろう。

 むしろヒューマンデブリにわざわざ生かしてやるような慈悲などもっているまい。

 

 

『もしものこともある。気まぐれでランチを使ってる可能性も捨てきれないさ』

『ですね。モビルスーツもよく間に合いました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて乗るけど―――これはアタシ向きじゃないね」

 

 

 若獅子――現在のアインの乗機である二番機はアミダによって運用されている。なぜならインターフェイスが最新のものであり、かつ、稼働可能な機体の中で一番守るべき機体であり弱かったからだ。アミダほどの腕前なら守り切れるし生き残れるだろう。

 これはテイワズの次期主力としてモックアップだが、現時点での性能は現行のどのモビルスーツよりもイマイチという評価である。この点はアインとクランクに整備オヤジから何度も言われた。

 

 

『そんなに変わります? 姐さん』

「シグルナンバーに乗ってると顕著だね。軽量だから格闘戦にコツがいるよ」

 

 

 細身な癖に意外と大きさとパワーのある百里や重装甲の百錬に比べれば、ゲイレールの装甲をそれっぽく張り付けただけのこいつは軽すぎてパワーも低くて頼りない。それがアミダの評価だった。

 

 

「こうなると例の計画もどんなもんだか」

『百錬の改良計画の事ですか? 噂だって聞きましたけど』

「事実さ。構想段階ではあるけどね」

 

 

 現状、動ける百錬は44機ほど。性能を追い求めた結果、素材も足りず、価格も抑えられない。

 それらを解決しようとしたのがイオ・フレームであり、その試作機である若獅子なのだ。

 もちろん現在稼働中の百錬はシングルナンバーを除いてアップデートする予定である。それがアミダの知っている計画の一つであり、すでに参加を要請されたもう一つの計画もある。

 

 

「(そっちはこいつがどれだけの物になるか次第さね)異常は?」

『ありません。見える範囲で反応なしです』

「わかった。妙な動きをするなら何でも警戒しな。デブリに見えてもね」

 

 

 こっちの事は置いておいて話に戻ろうか。どうしてこんなに警戒しているのか?

 名瀬たち経験者が危惧しているのは戦闘員の少ない母船を急襲されることだった。特に戦闘用に調合されたコカインを投与された兵士は正常な判断もできず、従順な奴隷と死ぬことを考慮しない気狂いに変化させてしまう。体に爆弾を巻き付けて特攻――なんてことが起きる可能性もある。

 

 ただ、一般的な戦闘用のコカインであって、海賊―――それも死ぬ運命以外にない囮以外に価値のないヒューマンデブリにそんな上等なものを使うだろうか?

 正常な判断が出来なくなるという共通点はあれど、その品質と効能は価格に比例する。

 

 

(レッドの保護した子どもたちが助けたいって言うがねぇ)

 

 

 置いていかれた連中がどんな目に遭ったのか。想像に容易いのではないだろうか?

 

 

(今のアタシ達にできるのはランチの撃墜や接近する連中を始末するだけだ。問題は……)

 

 

 そのための人間に使う代物でもないが散弾砲を全員持ってきていた。使うことが無いのが一番いい。鉄華団の子どもたちに使用するところ見られたくないし、できることなら使う日が永遠に来ないことを祈りたいぐらいだった。

 

 

(大人が子どもを守る。血は繋がってなくても、それは人間として必要な………捨ててはいけない部分だ)

 

 

 そしてハンマーヘッドから銃撃戦の知らせが届いた。悲しくも自分が接近するランチを発見した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無重力となったブルワーズの船内は阿鼻叫喚の地獄絵図―――とまではいかないものの、そこに居る者たちの精神をすり減らすのには十分な狂気が蔓延していた。

 

 

「くっそ! 撃つのを止めろテメェら!!? 俺たちは敵じゃねぇ!!」

「そう言って撃ち殺すのがお前たちだろ!? なら殺さなきゃ!! 殺す殺すコろコロロろろろろ!!!??」

 

 

 銃の音よりもよくこんな大きな声が出せると感心してしまうシノの怒声が響くが、コカインを投与されたヒューマンデブリの少年たちは幻覚でも見ているのか、敵意をむき出しにして攻撃してきた。

 目は血走り、口から泡を吹き、傍目でわかるほど震えて大きく呼吸をしている。

 

 

「リーヴァイやめてくれ! 俺だ! 昌弘だ!! だから………!」

「――――――昌弘?」

「! そうだ! 昌弘だ!!」

『待て! 昌弘ッ、迂闊に出るな!!』

 

 

 装甲服に身を包んだ明弘の制止を振り切る。あの薬がどんなに悍ましいものか知っているが、声を掛けたらスイッチが切れたかのように攻撃もやんだのだ。

 

 ――まだ助けられる。

 視界に浮かぶ仲間だった者たちをおさめ、昌弘はほんの少しだけ前に出る。

 何故かはわからないが何か嫌な予感がしたからだ。

 

 

「昌弘、か?」

「そうだよ。昌弘だ。頼む、銃を置いてくれ」

「本当に昌弘?」

「ああ! 助けに来た! みんなを助けに来たんだ!」

「本当に?」

「本当だ!」

 

 

 叫んでいたやつは銃を降ろした。これでもう……――なんて甘いことは叶わなかった。

 

 

『昌弘ッ』

「にいちゃ―――」

 

 

 盾を放りだした明弘が昌弘を押し倒した。そして倒れ行く間、明弘に頭を庇われるように抱かれた隙間から見えたのはいくつもの銃弾が少年――リーヴァイの体を突き抜ける光景だった。

 

 

「リー―――」

「この裏切者」

「ちが―――!」

 

 

 憤怒の形相となった少年たちが銃を構える。狙いは昌弘だった。

 装甲服はほぼ全身が守られる特殊繊維と装甲の塊ではあるがその恩恵を受けられるのは着込んだ人間とセオリー通り背後に隠れる者たちだ。

 装甲服使用者は絶対に屈んでもいけないし下がってもいけない。しかし、明弘はそのセオリーを無視し、昌弘に飛び掛かってしまった。つまりシノたちは遮蔽物のない通路の真ん中で棒立ちになってしまったのだ。

 

 

「うおぉおおおおおおおッ!!」

 

 

 そこは火事場の馬鹿力、もとい、浮かんでいた盾をシノが引っ掴み背後にいる仲間を庇うように構えた。

 一瞬後、弾丸が通路内を跳弾し、盾に直撃した弾が弾かれる。弾かれた弾丸は幾度か跳弾し少なくない数がシノの背後にいる者と少年たちに到達した。

 

 

「畜生がぁあああ!!」

「ば、やめ―――!!」

 

 

 仲間の血を見て、双方で無事だった者が応戦する。それを引き金に少年たちも昌弘ではなく、盾のほうへと攻撃を集中させた。

 シノの叫びは銃声と怒号に掻き消え、昌弘は装備の差から死んでいく仲間を隙間から見ているだけであった。

 作業服の少年らよりも最低限の防弾装備を持つ鉄華団らに軍配が上がる。が、それでも死者はゼロにはならない。ヘルメットのバイザーは銃弾に耐えられるようなものではない。ハンドガンの弾は防げてもライフルの弾は防げない。

 一方からの銃声が止むとやや遅れて残ったほうも止んだ。

 

 

「………こちらシノ。オルガ、聞こえるか?」

『聞こえてる。何かあったのか』

「ブルワーズの連中と交戦。説得にも応じねぇ………こっちは4人殺られた」

『………そうか。なら予定は変更だ』

「オルガ?」

『見ず知らずの連中より、俺は家族である鉄華団を優先する。先に撃つのはダメだが撃ってきたらすぐに応戦していい。いいな?』

「………了解」

 

 

 考えるまでもない。昭弘の弟の頼みであっても鉄華団の命を失わせる理由にはならない。

 同時に通路に浮かぶ血と死体の群れを眺める。火星以来の惨状だ。

 

 

『昌弘。お前は負傷者の搬送と一緒に引っ込め』

「…………はい」

「――すまん」

「――いえ。俺の方こそ出しゃばり過ぎました」

 

 

 言葉少なく、今はそれが精いっぱいだった。

 これ以上喋れば感情が抑えられなくなって殴りかかりそうになる。

 そんなシノの気持ちを知ってか、昭弘は下がるように強く言う。他のメンバーもそれ以上のことは言わない。もし、自分たちがこの状況に陥ったら………立場が逆なら―――同じことがまた起きるだけだ。

 

 

「行くぞ。こっからは妙な動きをしたら反撃して構わねぇ」

「………了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一方でレッドたちは被害を最小限に進んでいた。装甲服が三人もいることもあるが何よりもその容赦のなさだ。

 低い重低音が響く度にまるで投げ捨てられた人形のように少年らが赤い華と飛沫を上げていく。言わずもレッドの重火器による掃射だ。跳弾を考慮し、クランクとアインは盾を構えさせ後ろに控えさせている。

 

 

『――――次だな』

「……レッドさん」

『今は仕事中だ。社長かウェイストと呼べ』

「ッ………! 社長、何も皆殺しにする必要は………!」

『睡眠ガスがあれば無力化できるだろうがそんなもんは載せてない。何よりもお前らにとっては仲間だった連中だが、俺にとっては敵でしかない。社員………いや、仲間の命を優先するのが普通だ』

『だが、相手は子どもだ』

 

 

 わざわざ心証を悪くする必要もないが残念なことにクランクは子どもには優しすぎる。大人であれば態度も変わるだろうが子供殺しはその高潔な精神と道徳観から理解できても納得は出来ない。

 反面、アインは仲間が危険にさらされるぐらいなら手早く始末したほうがいいと考えるタイプのようだ。会話に参加しないで漂う死体に警戒を向けている。

 

 

『どんな経緯があれ、武器を持った時点で殺るか殺られるかだよ。まして薬物とあんだけ憎んでいるなら、な』

 

 

 アストンたちに投げつけられた第一声が裏切者だったのだ。二か月近い、長くもなければ短くもない期間の中で大切に扱われていたと言われ、救いに来たと言われれば―――こうも嫉妬に狂うだろう。

 

 

(薬の影響を考慮して時間をかけるべきか? その間に奇襲される可能性も……)

 

 

 隔壁を閉鎖して曳航するべきか? こっちに残す人員の安全は確保できるのか?

 仮にそうしたとして、撤退時に奇襲されないのか? 本当に電子戦に長けた奴はいないのか?

 

 

『考えすぎるのもアレだな。一部屋一部屋やっていこう』

『了解しました』

『……わかった』

『一応、初手は無力化を狙え。撃ち合いになった時点で掃討に移行する。………出来る譲歩はこれぐらいだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団が結成されて以来、初めての人同士の戦いは後味の悪い結果となった。今回の制圧戦でおおよそでブルワーズ側の死傷者は八十名近く昇り、その内の死者は七十人をに超えた。それとは別に捕虜となったのは三十七名とブルワーズの主戦力はヒューマンデブリが大半だったようだ。

 そして船外にてランチによる強襲を行おうとした連中は全て死亡している。こいつらについてはユフインの艦長が対艦ナパームによる証拠隠滅を行い、知っているのはごく一部の大人たちだけである。

 

 

「すまねぇな。嫌なことをさせた」

「仕方ないさ。あの子たちが余計な負い目を背負う必要はないよ」

「…………そうだな」

 

 

 応接室で女たちを慰めていた名瀬にとって女は太陽だという考えを抱いている。男は花で、女と言う太陽が無いと男って花は枯れしまう。

 迎撃に当たった女たちが皆、焦燥しているのを見て名瀬は今は抱きしめて凍えてしまった心に少しでも温かさを取り戻してもらおうとする。

 その優しさを解っているから女たちは抱きしめ返すし、自分達が選んだこの男を愛おしいと思う。幼い敵から守れたのだと言い訳をする。

 

 

「今日はもう休め。あとは俺たちの仕事だ」

 

 

 一人一人の額に口づけをし、渋るアミダをアジーとラフタに任せて名瀬は荒々しくソファーに座る。

 

 

「――――気に入らねぇな、おい」

 

 

 今回の簡易的な報告書を怒りを隠さぬ瞳で眺める。やはり、ブルワーズの首魁であるブルック・カバヤンをはじめとした大人連中は逃亡したあとであり、三日月が交戦したガンダム・フレーム――グシオンとやらもなかった。

 そのうえで妙に頭が回るらしく、食糧も水も推進剤も殆ど無い。仮に無視していたら中にいる少年兵は餓死する運命だっただろう。

 

 

「――――喧嘩売った落とし前ってことにしてたがぁ………なあ、オルガ」

『――わかってます。兄貴』

「鬼畜外道どもを五体満足に生かしておいちゃ、テイワズの仁義に反する。何より俺の怒りが収まらねぇ―――仕留めるぞ」

『もちろんです』

「それはそうと鉄華団で全部受け入れってのでいいのか?」

 

 

 捕虜となった奴らの受け入れ先はすべて鉄華団預かりとなっている。目の前のソファーで不機嫌なことを隠さないレッドが手加減の言葉を忘れたかのように殺していったからだ。

 捕虜を作らなかったわけではないがトラウマみたいなものを植え付けられたらしく、鉄華団に行くことを懇願したぐらいだった。

 

 

『いくら無力化するからって、アノ武器(マチェット)で頭から股まで叩き切る必要はないだろ?』

「地球の中国って国があった場所には殺一警百って言葉があってよ。一人を惨たらしく殺して、百人に警告するって意味だ」

「……つまり?」

「やりすぎました。けど後悔はしていない」

「……はぁ。お前、そんなことしてると見捨てられるぞ?」

「そん時はそん時でしょ。追いかけはしませんよ」

 

 

 実際、薬を使われなかった連中が不意打ちをしてきたことも報告されている。

 

 

『確かに。ウチの連中はその辺りを考えてなかった。だから死ななくていい家族が死んじまった』

「オルガ。そいつは結果論だ。失敗を教訓にするのはいいがそいつを引きずるな。憑り殺されるぞ。ダンテにもそう言っておけ。お前のミスじゃないってな」

『………うっす』

(どうもこうも責任感が強すぎるだろう、コイツら)

 

 

 なんでこう、自分の下にいる奴はこうも責任感の強い連中ばかりなのだろうか? マクマードが聞けば、大笑いして“お前自身が責任感の強い男だからだ”と言い切るだろう。いい意味で類は友を呼んだのだ。

 レッドにしても踏んだ場数の違いで慣れはしていてももっとやりようがあったと悔やんでいることだろう。この予想は正しく、後に催眠ガスの導入を検討しているのが目撃されている。

 

 

「昏い話は終わりだ。とりあえず、やることはやっておきたい」

『航路変更ですか?』

「いや、死んでいった奴らを送るのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――イサリビの甲板上にノーマルスーツを着た人影が多く見えた。その中に一つ異様なものがあった。

 

 

「どうだ?」

「準備できました」

「他に別れを済んでいないやつはいるか? 中に入れるのを忘れたやつは?」

 

 

 遺体を冷蔵保存できる棺桶だ。中には遺体などなく、紙で織られた花やカプセルに入れられた生花。あるいは本や食べ物。故人らの持ち物であった。

 

 

「………なんも残ってないな」

「アストン」

「持ち物なんてなかったし、体が残っていれば御の字。ブルワーズの服は……そういえば止められたな」

「ウェイストさんたちと名瀬さんが縁起が悪いって止めたんだよな」

 

 

 せめて衣服だけでもとピトーとペドロが切れ端を入れようとしたところ、二人に止められたらしい。

 なんでも、そんな怨念の篭った代物は還る魂を縛り付ける曰くにしかならない、と。二人もアストンやデルマも意味が分からないと首をかしげていた。

 

 奇しくも、イサリビにおいてもオルガが葬儀をやる意味が分からないと愚痴っていたのをメリビットに見られていた。彼女自身も育ち方次第でここまで現実的に生きるようになるのかと恐れただろう。

 オルガの考えは人の魂というか、力のないものが抱く希望や願い、死者に対しての哀悼を無用の長物と切り捨てた極めてドライな精神だった。

 

 

(この子たちは本当にまともな環境で生きられなかったのね)

 

 

 メリビットの哀れみはオルガ達、ひいてはスラムで足掻き続けた連中への侮辱でもある。現実を知って俺たちはそれに飲まれないように生きていると言い返すだろう。

 逆に言えば余裕を知らない、キレたナイフであるということだ。張り詰めているとも言えるし、恐ろしいほどの世間(じょうしき)知らずでしかない。

 

 

(雪之丞さんもマルバ氏も元CGSの大人たちは何も教えなかったのね)

 

 

 雪之丞はまだしも、残りの連中は数合わせか不満のはけ口以外には思っていないのが真実である。

 

 

『あー、あー……みんな、聞いてくれ』

 

 

 不器用ながらもオルガは弔辞を述べる。死者が生前の痛みから解放されること。魂となって還るべき場所へ還れるように祈り送り出すこと。そして―――

 

 

『俺たちが悲しんでちゃあ、先に逝った仲間――家族が安心して逝けない。送り出して前に進まなくちゃあいけない。けど、忘れるな。あいつらの事をたまには思い出してほしい。忘れ去られたとき、死んだ奴はもう一度死んじまう。そうさせないためにも………忘れるな。けど、引きずるな。今日は泣いて、明日は前に進もう』

 

 

 ――すっと胸に降りてくるものがあった。不器用でも何かしら変わろうとする瞬間を見れた気がした。

 メリビットは自分も嫌いで仕方がなかった上から目線の大人に成り果てようとしていたのに気づいた。ここはスラムの街中ではない。CGSのような消耗品として扱われる場所ではない。名瀬やレッド、アミダ、クランクといった大人たちが導いている場所なのだ。

 

 

『以上だ。これより弔いの弔砲をする。その後黙とうを捧げる』

 

 

 一発、二発と主砲が轟音を伝える。

 

 

「――綺麗……」

「すっげぇ………!」

 

 

 星々が輝く中で一際大きな華が咲いた。氷の華……死者の魂を安らかに送る為の、残されたものの心に刻み込むための華が二つ咲いた。

 

 

『――黙とう』

 

 

 誰も目をつぶれとは言っていない。皆黙って、宇宙(そら)に咲いた氷の華に仲間たちの思い出を思い起こす。涙を流す奴もいれば、自分も死んだらこんなことをしてもらえるのかと思いを抱く。

 ただ共通していることは、安らかに眠りにつけるようにと切に願うことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回はインターミッションとなります。ここからドルトに行くまでの間、何が起きていたのかと言うほぼオリジナルの話です。
 一応、今回の話で補てんすべき部分もありますのでお待ちくださいな。





『ブルワーズの船』
 推進剤から食料も水もほぼ無い状態。リアクターを再稼働すれば軌道に乗せることもできる程度でしかない。
 だが、弾薬の類は残っており、背後を晒すのは危険と判断された。また、モビルスーツはすべて回収されていたらしく、破棄寸前のパーツ以外は残っていない。
 現在は曳航され、ドルトコロニーのJPTトラスト支社に引き渡すこととなっている。


戦闘薬(コカイン)
 コカインと名は付いているがその実態は虚脱状態と意思の欠如を引き起こすドラッグ。ブルワーズの少年兵たちは初仕事の際にこれを投与され、殺人に慣れさせられていた。
 また、ブルワーズの改悪によって極度の被害妄想と発症させるために異常な攻撃性を見せることもある。今回の昌弘の説得で被害妄想が破裂し、容赦なく撃ち殺そうとしてきた。さらに言えば、銃声を聞いたことによる皆殺しへの不安も相まって戦闘は避けられないものとなっていた。


『グシオンの行方』
 原作ではグシオンは回収されて道中にて改修作業が行われたがここには存在しなかった。
 ブルック・カバヤンがクダル・カデルと共に持ち去り、行方をくらませている。
 この運命の悪戯はやがて―――


『メリビットの感想』
 まだ日が浅いため、どこか同情や理屈だけでオルガ達に接してしまう。
 今回の葬儀で不器用ながらも変化を受け入れ、理解しようとする態度を知ったことで深層にあったスラムの常識知らずから、向上心を持つ青年に爆上げされた。



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