鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて 作:カルメンmk2
なぜなら不甲斐ないと自分でも思っているからッ!!
三日月が乗っているモビルスーツを超える巨人の歩みが遠くから僅かな振動を感じさせる。
いけ好かないが隊長のオルガが被害状況の確認に行っている中、俺こと『ユージン・セブンスターク』は例の傭兵と折衝を任された。
「………撃ってこねぇよな……?」
普段は威勢のいいことを叫んでいる俺でもモビルスーツなんてものを目の前にすれば、及び腰にはなる。馬鹿にされねぇように虚勢を張ればいいが、その結果が皆殺しってのは避けなきゃならない。
正直言って、俺よりも柔らかな物腰のビスケットが適役じゃないかと言ったが頼りにしているといわれちゃあ男が廃る。
「あ? おい、双眼鏡貸せ」
周辺警戒に行く途中だったチビを呼び止め、赤いモビルスーツの手を見る。
「人間?………ギャラルホルンのパイロット!?」
厄介な奴が厄介なモノを運んできやがった、と悪態をはいて気付く。周囲が剣呑としているのを……。手土産で連れて来たのか? いや、よく考えろユージン。このまま行けばギャラルホルンとドンパチ始めることになる……!
「ユージンさん。アイツら…………」
「撃ってはこなかった奴らだ。忘れんな。お前たちもだ!!」
びくっと震えるチビが何人かいた。俺だってぶち殺してやりたいが投降した奴を殺せばマズいのだって、壱番組から死ぬほど叩き込まれている。
「血迷うんじゃねぇぞ。生き残るためにも……」
☆☆☆―――――☆☆☆
光学センサーはすでにそれを探知していた。ギャラルホルンを含め、軍事組織で使われる双眼鏡は赤外線測距や光学測距装置を標準搭載している。
「手を真っすぐ向けてればさすがに観測はするか」
念のため腕に装備している大型クローを下に向けておいて正解だった。
バルバトスが飛び込んで来たら、両手の連中は見せられない姿になる。かといって、コクピットを開放するのは距離の関係からやりたくない。オルガってやつは話せるが、ミカとか呼ばれてるガキは襲い掛かってきそうだ。
はてさて、と先行きに若干の不安を抱えているとクランクとかいうおっさんが驚愕の表情で見つめていた。
『待ってくれ。相手は……子供、少年兵だったのか!?』
「知らなかったのかよ」
わなわなと震える、とかいうフレーズが似合うほどにおっさんは震えていた。一緒に捕まっているアインとかいう青年士官も驚愕を隠せてない。
『自分たちは子供を殺していた? いや、CGSは正規のPMCだったはず……少年兵だけのはずが!』
『アイン……』
『自分は、ギャラルホルンは正義の………! 見てくださいクランク二尉! やはり大人もいます!! 彼らは――――』
『もう、いいんだ。アイン。俺たちは…………』
その言葉を最後に二人とも黙ってしまった。圏外圏で少年兵やヒューマンデブリなんて珍しいものでもないだろう。そんなもので打ちひしがれているところ、今では珍しい真っ当な軍人に属する人柄なんだろう。若いのは犬ってイメージがするけどな。
『――い、聞――――つ、―――ねぇのか?』
「少し待ってくれ…………これでどうだ?」
『聞こえた。俺はユージン・セブンスターク。こっちの声も聞こえるか?』
「レッド・ウェイストだ。もちろん聞こえている。この辺りで停まったほうがいいか?」
『出来ればそうしてくれると助かる。チビ共の手前もあるからよ』
直感でわかるのか、カメラの視線を傍らで銃を握る少年に向ければ、硬直しているのが見て取れる。
ユージンとかいう青年が背中を叩いて促すと足早に被弾した監視塔へ駆けていった。
『人手はいるか?』
「4人ほど欲しい。俺への監視と折衝、二人の拘束にな」
『………わかった。おい!何人か――――』
インカムの通信を切って、遠くにあるバルバトスを監視しようとすると誰かがコクピット付近によじ登っているのを確認した。
カメラのピントを合わせればパイロットのミカとやらがぐったりした様子でコンソールにもたれかかっている。
(初陣でアレかよ。阿頼耶識システムってのはイヤだね)
すぐに起動もできそうにないとふみ、外へと出る。カーゴ型のモビルワーカーと武装したタイプが近づいてくる。向こうも外に出ている俺に気づいたか、武装型の60㎜速射砲を地面に向ける。
『(いい判断だ)ユージン・セブンスタークだな?』
『そうだ! 捕虜の引き渡しと誘導する場所にモビルスーツを駐機してくれ』
『了解した』
鈍い金属音とともに両手の二人がカーゴ型の近くまで降ろされた。
『………っと、動くなよ。捕虜としてちゃんと扱うからな』
おおよそモビルスーツ一機分が間合いかよ、と恐れる反面、一緒に来ている仲間に拘束を命じる。抵抗のないことに違和感を覚えるが共謀しているのだろうか?
「子供、なのだな」
「ああ? ガキでわりぃかよ」
「いや、そうじゃ………。なんでもない。大人しくしてよう」
「? お前ら行くぞ!アンタもついてきてくれ」
『おう』
☆☆☆―――――☆☆☆
気づいたら独房にぶち込まれていた――――なんてことはなく、どこかの一室に見張り付きで閉じ込められた後、何かワゴンで運ぶ音が聞こえた。
部屋の前で音が消えると恰幅のいい少年がトレイにサラダと合成ハムをパンで挟んだもの。それとコーンポタージュのようなものを持ってきた。
「すみません。閉じ込めてしまって」
「気にはするがよしておくよ。出払っていた連中も帰ってきたみたいだしな」
望まれないお帰りだろうけどな、と心の内で呟くとやはりそうなのか、彼も苦笑いを浮かべていた。
「お詫びとお礼に食事を持ってきました。どうぞ」
「君らで食べるといい」
「ッ………お気に召しませんでしたか?」
「傭兵生活は長いんだ。騙して悪いが……なんてこともあってね。………俺はフェアな話し合いを望んでいる。そう、伝えてくれ」
「――――伝えておきます」
緊張した面持ちで背を向けると、でも、と外のワゴンにトレーを置いてこちらに向き直した。
「これだけは信じてください。貴方のおかげでモビルスーツから追い打ちを受けませんでした。戦域も離してくれて、何人かは助けられました。皆に代わってお礼を言わせてください」
ありがとうございました。あと今夜は外に出ないでくださいね? と言い残して離れていった。
「ありがとうございました、ねぇ。………おーい、外の坊主」
人死にに慣れ過ぎて、無感動で人を殺せる類だね彼はさ。
彼の人柄は無視していい。ヤるときはヤるってわかればいいのだ。
『なんですか?』
「俺のモビルスーツはどうなってる? 寂しがり屋だから気になって寝られない」
『機械に感情なんてない―――ですよ。ハンガーに入れてます』
「そうかそうか。ならいいが………妙な事はしないのをお勧めするよ。互いにね」
訝しむように話しの続きを促され、終わると同時にどこかへ駆けて行った。あとは電子ロックを外して、独自に交渉しに行けばいい。
☆☆☆―――――☆☆☆
「そりゃあホントか、ライド」
「アイツがそう言ってたんだよ。間違いないって!」
夜も更けて、ハンガーで赤いモビルスーツに作業をしていると参番組でも快活で有名なライドがあわただしく駆け込んできた。何か厄介な話じゃなければいいんだが、とそんな淡い希望も砕け散り、腹巻に挟んでいた安物の煙草を取り出す。
あの傭兵から聞いた情報だと、赤いモビルスーツには爆弾がつけられていて正規の手続きでないと自爆するとかなんとか。
やめたほうがいいよ、おやっさん! ライドや真に受けた連中が懇願するように言っても、そのままにしておくのもマズいと返す。
「壱番組の連中がな。こいつは使えるのか、高値が付くのかってしつけーんだ」
「それって……」
「オルガたちも感づいてる。だから薬を盛ってるのさ」
嘘かほんとかは知らねぇが、随分と用心深い傭兵だ。ひょっとすると飯も手を付けなかったかもしれねぇ。
しかし、解せないことがある。
「ところでライド」
「なに?」
「………見張りはどうした?」
「…………………あー!!?」
やらかしやがったぞコイツ!
闇市の違法品でも、うちの電子ロックぐらい外すことは造作もねぇ。マルバは変なとこでケチりやがったからな。
「急いで戻れ! もう抜け出てるかもしれねぇ!」
「わ、わかった!」
「タカキと他の連中も行って―――いや待て。取りに来るかもしれねぇから、タカキ以外は待機だ」
慌ただしく飛び出す二人を見送り、ドアをロックするよう指示する。何もなければいいが………。
☆☆☆――――☆☆☆
スパイ映画とかで見るようなスマートに脱出して、華麗に身を隠す―――なんてことは不可能だ。
エナジーバーに偽装したC4とブーツの底に張り付けたスパイクを使って即席の
といっても、少し前に終わって外に出ているがな。
この区画にはどうやら誰もいないらしく、ハンガーの位置もわからない。野ざらしにしておかないという点は褒めておこうか。
(? 扉が開いてる……怒鳴り声?)
すぐにうめき声も聞こえてきたが………声からして大人だ。
威勢のいいことを言っているようなことから、少年兵によるクーデターが起きてしまったのだろう。
(銃弾は前から来るとは限らない。それを自分たちは例外だと思った結末だな)
恰幅のいい―――もう、ぽっちゃり君でいいか。彼が言いたかったのはこういうことだろうな。あそこで飯を食っていたら俺もあの場にいたのだろうか?
ん?…………………あー、これはいかんな。
☆☆☆―――――☆☆☆
―――前から話し合っていたことだった。
目の前で威勢のいい口を利く髭の男、ハエダ。出っ歯のササイ。その他大勢の
立場もわきまえず、何時も通り怒声と暴力でどうとでもなると信じ切っている。
「碌な指揮もせず。これだけの被害を出した無能にですよ」
こんな奴らをあの時、塵一つぐらい信じた俺がバカみたいだ。過去に戻れるなら、自分を殴りつけるのは想像に容易い。
「ふざけんなッ!!」
「………」
立場ってものをわからせる必要があるらしい。俺は容赦なくハエダの鼻面を蹴り飛ばした。かつて自分が味わったことがある、骨を折る感触がブーツ越しに感じた。
「へ、へめぇ!!」
「選んでくださいよ。俺たち宇宙ネズミの下で働くか。大人しく出ていくか」
「…………命あっての物種だ。俺は出ていく」
「へぇ……意外なもんだ」
率先して襲い掛かってきそうなササイがそう呟いた。ユージンがそんな殊勝な態度に珍しそうな声を出すと続きを促す。
「へっ、ギャラルホルンに喧嘩売った時点でお終いなんだよ。今度は今回の比じゃない数がやってくるだろうぜ。なあ、オルガ」
「………」
「おい、オルガ。マジなのか?」
「多分な。やられっぱなしじゃいねぇだろ」
「マジかよ」
弱みを握ったといわんばかりのササイに少し殺気が漏れた。ミカが反応して、撃ち殺しそうになるのを抑える。
勘違いしたのか、朗々と語り始めた。詰まるところこう言いたいわけだ。
「ギャラルホルンに降伏して、CGSを畳んで、その金を山分けにしてさようなら、か」
「そうだぜ。あの赤いのも売っちまえばいい。マルバの野郎のツテで業者を知っているからよ。な? そうしようぜ?」
―――――はぁ………。何にもわかっちゃいねぇ。
「―――――――筋が通らねぇ」
「はあ?」
「筋が通らねぇんだよ。ササイ」
敵か味方かもわからねぇがアイツはコイツらと違って助けてくれた。助けてもらった借りがある。
「いい子ちゃんぶるんじゃねぇよ?! 宇宙ネズミってやつは現実も読めないのか!? あのギャラルホルンだぞ。戦力だってまだまだある。モビルスーツ2機じゃすぐに擦り潰されて皆殺しだ!! クーデリアを引き渡して、モビルスーツもパイロットも返して、隠れちまえばいい!」
狡賢い奴だ。こうやって世渡りしてきたんだろうな。惨めすぎて哀れに思えてくる。
「赤いののパイロットはどうすんだよ」
「バラして荒野に捨てておけばいい。何なら俺がやってもいいぜ!?」
なんつーか………ちっちぇえ野郎だな。プライドも矜恃も持っていねぇ。
ミカ、と声をかけると何ともなさそうに横を通って前に出てきた。手には使い古した拳銃がその存在感を主張している。
いや、ミカにやらせるわけはいかない。俺がやろうと銃を受け取ろうとしたとき―――
「まぁまぁ。待ちな」
「! ミカやめろッ」
「ウェイストさん? どうして外に……ライドは!?」
「まさかヤりやがったのか!?」
「んー! 一人ひとりにしてくれねーか?! うるさいッ」
不敵な笑みを浮かべる傭兵。レッド・ウェイスト。お嬢さんに自分を売り込みに来た傭兵がそこにいた。
あ・と・ば・な・し♪
「やっぱウザイな」パァン!
「ぎゃあ!? わっとあーゆーどぅーいん!!?」
「ミカ?!」
「ちっ、ゴキブリみたいにしつこいな」
「ミカ? お前、そんなキャラじゃ……」
「はぁ? ちょっとトサカに来ちゃいましたよアタクシ……!」
「アンタ、鶏なの? 頭悪そうだしそうかな?」
「野郎、ぶっ殺してやらぁ!!」
「死亡フラグ立てんじゃねーよ!?」