鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 やあ皆。ここは赤い悪魔、翼を開いての作者がぶち込みたいけど時系列も妙にはっきりしない上に機を逃してしまった……そんなこぼれ話を受け止める場所だ。

 別に読まなくても問題はない。暇つぶし程度にしてもらえれば幸いだ。

 仮面の紳士(ロリコン) モンターク某



 P.S. 俺はロリコンじゃないぞ?! というか、誰だ貴様はッ!?








いんたーみっそンンンンン!(解説付き)

 

 

 

 【―大掃除をしよう―】

 

 

「「「掃除をしよう(しましょう)!」」」

「なんだ突然。クーデリアさんやフミタンさんまで急に?」

「久々の出番なんですから当然です。ヒロイン枠なんですよ」

「傷跡を残さないと何時の間にか狙撃で死んでしまっていた女になるだけです。出番をください」

「アンタら何を言ってるんだ?」

 

 

 やる気満々と言わんばかりに鼻息を荒くするクーデリアとフミタンであるが、アトラなんて作者も確認するのが面倒なくらいに何時出たか……。

 

 

「ア゛?」

 

 

 サーセンでした。てか、地の文に威嚇なんてしないでください。ユージン君(素人童貞)。どうにかしなさいな。

 

 

「………まぁ、兎も角。どうして掃除なんだよ?(すっげぇ貶された気がするが……)」

「ですから、臭いです」

「不潔です」

「格納庫なんて地獄絵図だよ。加齢臭じゃなくて、カッサパ臭がするの」

 

 

 ………雪之丞、君は泣いてもいいよ。

 

 

「そこまでか? まあ、おやっさんが臭うのはわかるけどよ」

「痛い刺激臭は人間が出していいものではありません。即刻、艦内の清掃と皆さんも身綺麗にするべきです」

「でもなぁ………これからテイワズの頭と会談が―――」

「臭いと女性に見向きもされませんよ」

「総員! 清掃準備ッ!! ダラダラしてるやつは明弘マッスルトレーニングの刑に処すぞコルァア!!?」

 

 

 なお、船内を掃除するだけの洗剤が足りなかったために歳星で洗剤を爆買いする鉄華団団員の姿が目撃されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【―オルガくん、テーブルマナーを学ぶ―】

 

 

 それはメリビット・ステープルトンの最初の仕事でもあった、と後年、火星でシンデレラストーリーを紡いだ男、オルガ・イツカの自叙伝に記されていた。

 

 

「テーブルマナー?」

「はい。タービンズの兄弟となり、テイワズに席を置く以上、ある程度の気品やマナーを持ってもらう必要があります」

「気品やマナー、ねぇ」

 

 

 これでも幾分かマシになった程度のイサリビの中。野郎どもの巣窟の為、多少の臭い汚いは許容していたがつい先日の大掃除にて業者も雇っての大掃除となった。

 正直、真っ当な生業を目指しているが必要なのだろうか?

 

 

「交渉は何も即断即決で行われるものではありません。特に大きな案件には必ず懇意の企業がいます。何度も会食を行い、相手の懐に飛び込むためにもマナーは重要です」

「わかったがどういうのなんだ? そのテーブルマナーってのは」

「会食の際に作法です。すぐに使われることも視野に入れて、基本的な部分を習得してください」

 

 

 ――こちらへどうぞ、と連れてこられたのは食堂。アトラがコック帽を乗せて、レシピを見つつ料理を作っている。なるほど、実践と言うやつか。

 少し役得かもしれないな、と旨そうな香りを味わいつつ、申し訳ないなと考える。こういう美味いもんを食べるのは命を危険にさらしている奴らが受けるべきものではないだろうか?

 

 

「始めますよ」

「ああ」

「まずは―――」

 

 

 後日、これは是非とも皆に必要だなとオルガは思った。副団長のユージンと参謀役のビスケットも必要だと強く感じたのだ。

 決して、メリビットが教育ママ過ぎて道連れを増やそうとしたのではない。増やそうとしたのではないのだ。

 ただ家族として学ぶ幸せと言うものを分かち合いたいだけなのだ。しくじると容赦なく引っ叩かれるのと反抗的な態度をとると身じろぎ一つでシメられるなんてことはない。

 

 ブルワーズとギャラルホルンの襲撃後もこのマナー教室は続行されている。

 火星にいる妹たちを学校に通わせたとき、マナーも知らない野蛮人と思われないため、快く受けた(騙された)ビスケット。

 メリビットのような大人の女性と二人っきりで手取り足取り教えてもらう、家庭〇師プレイを妄想したムッツリスケベことユージン。

 その日の教室が終わるころには――――

 

 

「なんでこんなことに……」

「酷いよオルガ」

「………家族ってのはそういうもんだろ」

 

 

 騙したオルガを恨めしそうに睨む二人と良心の呵責に苛むオルガらが食堂で突っ伏していた。

 そんな彼らの噂を名瀬経由で聞いたレッドはアトラに注いでもらった飲み物を片手に笑った。

 

 

「メシウマwww」

 

 

 直後、食堂で大乱闘スマッシュオルフェンズが勃発したのは言うまでもない。

 さらに言えば、バカが一人、三人に顔面整形をされたのは当然の報いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【―ヒューマンデブリの子どもたち―】

 

 

 ブルワーズとギャラルホルンらしき連中との戦闘からはや一日が経過した。予定では明日にでも暗礁宙域を抜ける予定であったがモビルスーツの整備と船の補修を優先したため、若干の遅れが出そうであった。

 ひと際大きい岩石の陰に隠れ、補修材を片手にモビルワーカーたちが船の甲板を走り回る。こういう時、阿頼耶識を持つ鉄華団の連中は使えるな、と借金傭兵(レッド)は考えていた。

 

 で、今回の話は借金傭兵のことではなく、捕虜となったブルワーズの少年兵らについてである。

 当初の予定ではもっと保護できるつもりであったが戦闘薬(コカイン)の使用により7割近くが死亡するという決着となった。

 また、身内の戦死者を出さぬように恐怖と暴力で相手を制し続けたアウトサイダーズについて行こうと思う奴はおらず全ては鉄華団で受け入れる結果となった。

 そんな中でミリアムは保護した少年兵たちの手当てと体調管理を申し出ていた。

 

 

「行ってこい」

 

 

 タブレット片手にタービンズの社長こと、圏外圏一の伊達男(名瀬)若い果実(オルガ)に私室で連絡を取り合っているレッドに許可をもらったミリアムはすぐさまイサリビへと乗り付けた。

 細マッチョなこのオカマは無駄にしなを作りながらモデルの様に歩いていく。

 時折、小さな子供からお疲れさまと声を掛けられ、返事ついでに触診と称したセクハラを行う。いやらしい手つきにならぬよう純真無垢な少年の性感帯を開発しようと邪な考えを抱くが、それよりも患者のことだと鋼の精神(笑)でとある一角へと向かう。

 

 

「クーデリアちゃんもありがとうね」

「いえ。私にもできることがあれば仰ってください。可能な限り協力します」

「私もご飯のこととか聞きたかったので」

 

 

 銃を持ったチャドとエンビ、エルガーを伴いクーデリアとアトラが同伴している。

 最初はクーデリアとアトラだけだったがチャドに見つかり、念のため護衛として手すきに武装させることを条件に会うことを許可したのだ。

 

 

「何もここまでしなくとも……大丈夫では?」

「オルガの勧誘は成功したけど、疑心暗鬼になってるやつもいる。ミリアムさ「ミリィよ」―――ミリィさんも健診だから注射とか使うだろ?」

「そうね。流石に大勢に囲まれたらもたないわ。ええ、本当に……!」

 

 

 一瞬、どういう意味でもたないのか疑問に思うがそれを聞くのを止める自分がいるのでスルーする。迂闊に手を出せば悲惨な運命が待ち受けているとナニカが叫んだのだ。

 こんな脳内ピンク色―――もとい、バラ色の危険物がここにいるのはチャドでも察しが付く。少年兵らの体調管理の為だ。

 チャド自身、互いに武器を持って対立したのだから殺しあうのは別に当然だと考えている。そして復讐心を持つのも然り、と。雇い主が変われば手を取り合うのも問題ではない。しかしそれで納得できるほど達観はしていない。

 

 実際、彼らの体を見れば碌でもない目に遭い続けていたのは当然なのだろう。マルバやハエダが優しく見えるような有様だった。そんな目に遭っていて連中がちょっとの情で(ほだ)されるとも思えない。

 言っては何だが、オルガもその辺りは信用していないらしく誠実に向き合うが押し付けた恩であっても仇で返されれば相応の報いを受けさせるとのことだ。

 

 

「健康診断の時間よぉ。あ、そのままでいいからね」

 

 

 クーデリアとアトラに何かあってはいけないと。気を引き締めてれば何時の間にやら到着した。

 いかにも胡散臭い、というよりもそっち系の雰囲気を垂れ流すミリアムに顔を青くしている連中がいた。

 

 

(――金が無ければ女も買えない。なら………ってのか)

 

 

 震え、顔を青くしている連中は線も細ければ、顔だちもヤマギに近しい感じのするものだった。ヤマギ自身もかつて、壱番組による未遂事件にあっていたらしい。全くもって胸糞の悪い裏話だ。

 

 

「―――脅えなくていいわよ。アトラちゃん、クーデリアちゃん。震えてる子たちをお願いね。問診票を渡すから、その項目にチェックして」

「はい!」

「ご飯はどうするんですか?」

「結果次第で考えましょ。ぱっと見た感じ、栄養失調と絶食気味で自由に食べさせたらリフィーディング症候群で危険だわ。基本はオートミールかミルク粥になると思うの」

 

 

 リフィーディング症候群とは、過度の栄養失調あるいは低栄養状態時に通常の食事をとるとショック症状を起こして最悪の場合には死に至るものだ。

 メリビットやフミタンといったメディカルベッドを使えるぐらい医療知識でこの症状を相手にするには危険すぎる。実際、ハンマーヘッドの船医も別の場所で診断を行っているぐらいだった。

 

 

「――また……抱かれるのか?」

「そんなことないわ」

 

 

 当時の感覚が蘇ってきたのか、震えも収まり、死んだ目をするようになった彼らにミリアムは優しくはっきりとした口調で告げた。

 

 

「私はナイスシルバーなお爺様も、キュートな男の娘も守備範囲よ。けど無理強いはしないし、強姦まがいなんてポリシーに反するわ」

 

「何よりも私は医者よ」

 

「本当のお医者さんはね? 患者さんと真摯に向き合って、救おうとする者よ」

 

「いろいろと半端者だけど、その信条だけは何時だって抱いているの」

 

「貴方たちを必ず治療して見せるわ。例え嫌われようともね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【―金持ちとお坊ちゃん―】

 

 

「賓客をもてなすのには不向きですがどうかお許し願いたい」

「構わないさ。君たちも大変だろうからね」

「………ご協力恐れ入ります。何かありましたら、そちらの通信端末でお呼びください」

 

 

 ギャラルホルンのハーフビーク級にして、ボードウィン家の所有艦であるスレイプニルはとてつもないVIPを乗せ、近場のコロニーであるドルトコロニー群へと進路を向けていた。

 VIPを貴賓室でもてなす―――と言えば聞こえはいいが実質のところ軟禁している状況で、艦長と責任者であるガエリオは内心で重いため息をついていた。

 

 

『ドルポンド氏の案内完了いたしました』

「ご苦労。部屋の外に待機していてくれ」

『はっ!』

 

 

 ギャラルホルン式の敬礼を返し、大役を任された兵士――ジークフリート・ダルトンは通信を切った。

 ダルトン家の次期当主という肩書を持つゆえに警戒をしなければならないがあの経済界の怪物に一般枠の兵士を充てるには余りにも惨い、と苦渋の人選であった。

 暗愚とはいかないまでも、現当主のアドルフ・ダルトンは火星で内縁の妻を拵えて子供を体裁のために軍隊に押し込み醜聞を隠そうとしていた。これだけなら暗愚と言えるが少なくとも支援はしていたし、政治手腕はそれなりのものだ。

 

 

「……艦長」

「わかっております。ボードウィン家所縁の者が相方として待機してますので妙なことはできませんでしょう」

「ならいい。しかし、クジャン家から抗議が来ているのではないか?」

「アリアドネを介してますが入手にはそれなりの時間が掛かります。ガルス様がご対応なされるでしょう」

「――――こんな政治ショーで内部抗争は笑えんぞ」

 

 

 事の発端は、統制局局長にしてセブンスターズの一人。そして親友のマクギリスの養父であるイズナリオ・ファリドからの命令から始まった。

 地球圏で逆らえるものなど存在しないといわれるエンマルク・ドルポンドをテロ幇助と巨額の脱税に贈収賄の容疑で拘束せよとの指令が下ったのだ。もちろん、統制局からの命令ということでイズナリオが関与したという証拠はない。―――アレだけの大物の逮捕に局長が関わらないはずがないのだが……。

 

 

「こんなことなら鉄華団の追撃なんぞしなければよかった」

「同感です、と言いたいですが遅かれ早かれこちらに回ってきたでしょうな」

「妹とマクギリスのために、か」

「申し上げますと、私はファリド候を好みませんな」

「不敬罪で捕まるぞ。私は何も聞いてない。あー! 星々の海がきれいだなぁ!!」

 

 

 セブンスターズ同士の政争なんて誰が関わりたいものか、とブリッジのクルーも聞いてないふりに徹している。

 ガエリオも艦長も政財界に顔が利くため、かの怪物の恐ろしさや狡猾さ、気狂いを嫌というほど聞いている。そもそも、脱税や贈収賄で捕まるような証拠を残すわけがない。大方、本命はテロ幇助の容疑だろうか。

 

 いや、それよりもクジャン家と交流のあるJPTトラストに強硬臨検を行った時点でとんでもない貧乏くじを引かされている。

 艦長が言いたいのは、ボードウィン家はファリド家に利用され、勢力を落とすのではないかと危惧しているのだ。艦長も少なくない数の門弟がおり、ボードウィン家の没落は自身の破滅に繋がるのだ。

 

 

「――――で、連中の情報は確かなんだろうな?」

「マクマード・バリストンの評判を聞くに七割程度と考えたほうがよろしいでしょう。鉄華団によるドルトコロニーの過激派への援助物資輸送。気の毒ですがね」

「我々に銃を向け火星から飛び出た時点で事を構える相手だよ。子どもとはいえな」

 

 

 連中――JPTトラストの会長、ジャスレイ・ドノミコルスからの情報はギャラルホルンとして見逃せないものである。

 同時に、自身が所属していながら統制局の悪辣なマッチポンプに反吐が出そうだとガエリオの眉間に皺が寄る。それを諫める艦長も、上官の青臭さ(気高さ)をうらやましく思いつつ、成長のためにそれを摘み取らなければならないと暗鬱になってしまう。

 

 統制局は火星の武器商人を使い、ドルトの労働者に武装蜂起をさせて鎮圧しようと目論んでいるのだ。恐らくだが鉄華団は何も知らされていないだろう。一緒にいるはずのクーデリアも同様だ。

 テイワズは彼らが使い物になるのか見定めようとしている。そして自分やマクギリスもクーデリアと鉄華団が本物か見定めようとしている。

 ――例え、罪もない一般市民の血が多く流れようとも……。

 

 

「思えば随分とお変わりになられましたな」

「ん? 何がだ?」

「以前であれば、鉄華団を宇宙ネズミと呼んで憚らなかったというのに……何かおありで?」

「……………己の見識の狭さを痛感させられたのさ。唾棄すべき対象に自分も成っていたとな」

「なるほど。では、名誉の負傷ですな」

「痛み止めが切れたら痛いんだぞ、これ」

 

 

 なかなかに容姿端麗、懐の広いガルス候に目元が似ていると言われるその顔は若干の腫れと青あざが目立っていた。

 誰も彼もが何があったと憶測を飛ばし、幼馴染であるイシュー家の当主代行にやられたのだとも、痴情のもつれから手痛い一撃を喰らったのだと嘯く連中もいた。

 そんな噂話を聞いていて、以前ならばメンツにこだわり綱紀粛正と鎮火活動に勤しんだろうがそんな気も起きない。多少、自分が笑い者になって、士気を保てるならば構わないのだ。

 

 

「………命に貴賎など存在しない。その在り方にこそ貴賎がある」

「良き友人を得られましたようでなによりです」

「マクギリスと本気で殴り合いなんぞ初めてだったよ。まあ、俺が勝ったがな!」

「噂では先に倒れたとか?」

「先に起きたのは俺だ。つまり、俺が勝者だ」

 

 

 ふんすっ! と鼻息荒く、子供じみたことを言う次期当主に一皮むけたと褒めるべきか、まだまだ子供だと呆れるべきか。艦長はため息を我慢して進路をドルトへと向けるよう指示した。

 何にせよ、あの禿げかけた爬虫類みたいな陰険男の思惑通りは気に入らない。

 

 

「よろしいですな?」

「よろしいさ。やられっぱなしは嫌いだからな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【―魔鳥たちと海賊―】

 

 

 強襲装甲艦一隻とモビルスーツを十機近く喪失するという大敗をしたブルワーズの大人組たちは確実に追いかけて来るであろう鉄華団らから逃げるべく、暗礁宙域のデブリ帯に深く潜りこんでいた。

 少しでも目立ちにくくするため、デブリで偽装したランチを哨戒基地として運用し、彼らは緊張を強いられていた。

 そんな中で、首領のブルック・カバヤンはブリッジで連絡が一向に取れない自称傭兵――ギャラルホルンの非正規戦隊に悪態をついていた。相棒のクダルが死にかけているのも、グシオンを残してMS部隊が全滅したのも全部あいつらが焚きつけたせいだと逆恨みしているのだ。

 

 

「哨戒班から報告は?」

「何もありやせん。連中、こっちが外に出て行ったと思ってるんじゃないですかね?」

「仮にそうだとしても外に出れねぇんじゃ、こっちが干上がっちまう。畜生め」

 

 

 デカい夢なんざ見ないで、小狡く仕事をしていればよかったと後悔しても後の祭りである。嘆きたいしこの苛立ちをぶつけたい。

 だが怒鳴って、喚いて、当り散らせば今度は自分の命が不味いというのは理解している。少なからず、反対していた連中がいたのも確かで、腹心の部下から集まって何かをしているとの報告を受けていた。

 

 ――クーデター………。死に体のブルワーズで内部抗争など起きれば、たちまち崩壊するだろう。そして、身の安全を確保するために鉄華団の連中への土産にされるかもしれない。

 今までならヒューマンデブリ(ガキども)に矛先を向けることで収まっていたがそいつらは今頃死体になっているだろう。

 

 

「…………あと一日待つ。そしたら遠回りだが別の回廊で外に出るぞ」

「了解しやし――」

『お頭ッ!』

「ッ?! なんだ?」

 

 

 残した船から物資をかっぱらってきたとはいえ、雀の涙程度。ヒューマンデブリに喰わせるのは残飯か粗悪な栄養バーで十分としていたの裏目に出てしまった。つまりは没収した食料系の物資は現在の船に備蓄していたのと合わせると通常一隻分にしかならない。

 不平不満の多い状況でガス抜きをするには生贄を作る、女を抱かせる、美味いものを食わせる以外の即効性のあるものは無い。可能な限りで節約しつつ贅を尽くしたものを食わせても今の殺伐とした状況なのだ。

 

 いよいよとなれば、新入りか使えない連中を生贄にして凌ぐしかないと昏い計算をしていると観測班から悲鳴が上がった。無線封鎖―――こんなところじゃ何の意味はないが、発信元を解析されて居場所がバレないように徹底させていた―――いわゆるLCSによる光通信の制限を破ったのかと思ったがここで怒鳴ってしまうのは拙い。

 極めて冷静に、何も心配していないからお前らも心配するなと態度と声色で着飾る。

 

 

「奴らが来たのか?」

『違います。あの二人が来たんですよ!』

「なんだとぉ?!」

 

 

 それは煽るだけ煽っといてケツをまくって逃げやがった、自分達を苦境に陥れた元凶だった。連中が乗っている強襲装甲艦がゆっくりと近づいて来ているらしい。

 虫が良すぎるとはこのことでブルックの中では自分たちは勇敢に最後まで戦ったと思っているらしい。これをオルガや三日月、名瀬、レッド……いや、イサリビやタービンズ、アウトサイダーズが聞けば何を言っているのだこいつは? と首をかしげるだろう。

 

 そもそも、奇妙なグレイズが撤退支援に現れて、ブルックが退くまではガンダムフレームも戦い続けていたのだ。さらに言えば、ブルックらの取った行動の前に撤退して再起を図るべしとの提案もあったがちんけなプライドとギャラルホルンが後ろについているという虎の威を借る狐の如き根性で継戦を主張。聞き分けの無さに見捨てられた、というのが真実であった。

 

 

「―――落とし前をつけさせてやる。野郎ども! 武装して拿捕するぞぉ!!」

「モビルスーツはどうするんで?」

「人が乗らなきゃ案山子にもなりはしねぇよ。最後にものをいうのはコレよ」

 

 

 ゴテゴテの銃を取り出し、嗜虐心に塗れた獰猛な笑顔を見せるブルック。

 海賊のやり方ってもんを教えてやる、と彼らは息巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――こ、こは………?」

 

 

 真っ暗で暖かい……何かの液体の中に浮かんでいる感覚をクダル・カデルは目を覚ましたことで気付いた。

 知らないものではない………そうだ。これはメディカルベッドの治療駅の感触だ。どうして?

 ――なんで自分がこんな場所にいるのか。どうして何も見えないのか?

 

 

「アタシは……あのガキ、に………」

 

 

 最後の光景を思い出そうとして、それがフラッシュバックした。イカレた速度と反応で一方的に追い詰められたこと。使えないゴミクズ(デブリ)共と同じ阿頼耶識の動きをした宇宙ネズミ。

 自分は奴に負けたのだ。装甲を引きはがされ、叩きつぶされ、杭を撃たれ、死にそうになったのだ。

 

 

「――――ぶち殺しやる………あのクソガキィィイイイ!!!?」

 

 

 怒りに身を任せ、鈍い体で暴れていると、患者の覚醒を知らせたかあるいは暴れていると警告を発信したのか。聞いたことのあるこれが聞こえた。と言っても一度くらいで、もう会うこともないだろうと思っていた人物だ。

 

 

『起きましたようね』

「アンタ…………確かオリヴィアって言ったわよね?」

『ええ。そうですわ。聞きたいこともあるでしょうけど、無関係なことでもないのでかいつまんでお話いたします』

 

 

 クダルは目の前が真っ暗なことも、急に体の自由が利かなくなり始めていたのも気にせず、オリヴィアから伝えられた情報を整理していた。

 

 一つ、ブルワーズは壊滅的な被害を受けたこと。同時にブルック・カバヤンも意識不明の重体である。

 

 一つ、抵抗もやむなく撤退を選択し、掃討戦に移行していたところをブルック・カバヤン以下数十名のブルワーズの団員を回収。多少の怪我はあれど生きているということ。

 

 一つ、敵との戦闘でクダルの体は重傷を負い、ブルワーズの船も損壊が激しく自沈処分。治療のため移送したこと。

 

 

『以上ですわ。さて……ここからが本題なのですが……言わずともお分かりですわね?』

「――協力しなきゃ殺すっつーんでしょ。アタシたちは海賊だ。アンタらからすれば駆除する対象。手を結んだのはそれなりの戦力があって、えさを与えてれば従順。手を切るのにも手間がかからない。そんなとこよね」

『あら? 物分かりが良くて、私、少し驚きですわ。存外……怪我の功名という奴かしら?』

「ふん。死にかけて吹っ切れたのかもね。目の前は真っ暗だけど、頭はすっきりしてる」

『なるほど』

 

 

 それよりもクダルは聞きたいことがあった。自分のグシオンはどうなったのか? 仮に回収されたとして。それは依然として自分のモノとなるのか。

 

 

『回収済みです。損傷が酷いので改修も手配済みです』

「随分と気前がいいじゃない」

『仲間があんな目に遭わされて、泣き寝入りなんてしないでしょう? クーデリアは何としても捕縛しなければなりません。ガンダム・フレームも遊ばせておくわけにはいきません。地球圏に戻ればグレイズを貸与することもできますが貴方の傷は一か月ほど完治までにかかります。リハビリと再調整も踏まえれば、グレイズへの転換訓練なんて時間はないのです』

 

 

 というのは建前でガンダム・フレームのようなある種の癖を持つモビルスーツは乗りこなすのに才能がいる。もしくは直感的に動かせる阿頼耶識か生体義手による神経接続ぐらいならば正規の訓練を受けたパイロット並みに動けるだろう。

 またそれとは別に、クダルの乗るグシオンは一撃必殺の運用方法のせいか、リアクター周りの癖が深刻で微妙な力加減が効かないと整備班から報告が上がっていた。重い重量物を保持し、備え付けられたブースターと機体の挙動で攻撃する関係上、関節や駆動部への負荷が著しいものとなっていた。何よりも海賊風情が十全にモビルスーツを維持できるはずがなかった。

 

 

『順当にいけば決戦は地球で行われるでしょう。勝手が変わりますがグシオンは地上戦用に換装します』

「奴らに落とし前をつけられるならなんでもいい。約束も守ってくれれば猶更な」

『それは貴方の働きと態度で変わるでしょう。候も我々も、良き友人、良き同胞、良き同志には敬意を払いますわ』

「ふん………もうしばらく休ませてもらうわ。しんどいし」

『ええ。治療促進剤も投与するので不要になり次第起こします。では、よい夢を……』

 

 

 妙に大きく、ブツリと音が聞こえた。

 クダルは考える。グシオンの装甲を無視し、的確に執拗に装甲の隙間を狙い続ける白いモビルスーツ―――バルバトスのことを……。眠気が増し、降り立ったこともない地球で奴をスクラップにしてやると誓いながらクダルは眠りについた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な低能ね」

「姉さん。馬鹿と低能は一緒だ」

「ああ、ごめんなさいシャルン。救いようのない馬鹿ども(・・)の間違いだったわ」

 

 

 ハンガーに続々と大人一人はいれそうな黒い袋が運ばれていく中、膨らみ過ぎて完全に閉じ切らない袋が数人がかりで運ばれている。

 開いている部分から見えるのは生気のない顔。豚のような鼻に垢塗れで清潔と言う言葉を母親の腹の中に忘れてきたのではないかと言うぐらいに汚らしかった。

 

 

「使えそうなのは?」

「二十人弱かな。残りは強化するから、ミサイル替わりにはなるよ」

「失敗したのもそうしなさい。モビルスーツは有限だし、多すぎれば何かとアシが付くかもしれないから」

「了解」

 

 

 そう言って、シャルン・S・フロストは黒い袋の中身を検分している色白の集団とともにハンガーから消えていった。

 そして運び込まれてくる袋を尻目にオリヴィアは今後の流れを考える。鉄華団はドルトコロニーへ赴き、そこで盛大に暴れるだろう。同時にテイワズにも不信感を抱く―――はずだが問題がある。

 

 

(レッド・ウェイスト………様々な派閥にパイプを持ち、地球圏最強の艦隊(アリアンロッド)木星のマフィア(テイワズ)エンマルク・ドルポンド(経済界の怪物)と強いコネクションを持っている。全くもって何をどうすればそんなことが出来るのか………)

 

 

 彼らと憚らずに付き合うというのは薄氷の上をタップダンスし無事なのと同じぐらいあり得ないことだ。遅かれ早かれ反目し合う連中を一つにまとめている。

 

 

(直感と言うやつかしら? だとすると、GNトレーディングスの件も察知されるか?)

 

 

 スパイによればマクマードは鉄華団とクーデリアが使い物になるかを確かめたい。そのために直轄の部下であるユフインの艦長を下につけたのだから、まず介入は出来ないしさせない。

 問題はダミー企業のGNトレーディングスについて調べられ、こちらの存在を把握されることだ。状況によっては一段階は計画を押し進めなければならない。

 

 

(乞食のマクギリスも不穏な動きを見せている。ボードウィンの小娘と大人しくしていればよいものを………)

 

 

 オリヴィアは思考の海に潜ったまま、無意識のうちにハンガーを後にした。

 すべては大恩ある候のために。正しき正道へと世界を導くためにまるで石造のように動かないで思索に耽る。それは呼び出しても反応を見せないことに気づいたシャルンが来るまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 






 評価にてご指摘いただいたことを意識して、私なりに説明の部位を強くしてあります。
 こうじゃないんだ、と思われたなら遠慮なくご指摘ください。励みになりますし、作品の品質向上につながります。

 それでは文中における、小話の解説と行きませう。






【―大掃除をしよう―】
 身だしなみに無頓着な鉄華団をクーデリアとアトラが矯正する、といった内容だったのですが長すぎれば小話ではなく、かといって本編の話とするには遠回り過ぎるということでボツになったギャグパートです。
 文中では明示されてませんが、この話以降はちゃんと掃除をしているという状態です。ただし、共用部分のみというオチがあるけどww



【―オルガくん、テーブルマナーを学ぶ―】
 今後の話にも関係していくので、こちらは本編である程度は出ます。メリビットさんはデキる女のため、こういったマナーを指導する役割も与えられています。鉄華団の顔として活動することが多くなるだろう三名を指導するにあたり、メリビットの肌はとてもつやつやしていたようです。主に間違うと女教師スタイルのメリビットが教鞭で叩いてきます。
 こちらの時系列はドルトへ向かう途中です。
 余談ですが、大乱闘スマッシュオルフェンズは後年、制作された多人数バトルロワイヤル方式のゲームとして登場し、ギャラルホルン、鉄華団、アウトサイダーズ、テイワズ、その他etc.と出演者が多い友情破壊ゲームとしてリリースされます。





【―ヒューマンデブリの子どもたち―】
 少年兵然り、碌でもない大人たちに捕まった子供たちの実情と言えばこんなものでしょう。現実で考えれば女を宛がうべきですがそれをやるとゴールデンでは流せない内容になるでしょう。本作ではいずれ出るかもしれません。
 作中では触れてませんが少年兵同士で序列を作らせ、監獄実験みたいなことを行い支配しやすくするという内容も考えていましたがボツにしました。
 リフィーディング症候群については、著作権やらなにやらで面倒なりそうなためアバウトな感じで記述しております。まあ、絶食時に消化に悪いものを食べるとショック死する程度でとらえて問題ありません。






【―金持ちとお坊ちゃん―】
 そりゃあ、内部でテロリストとして認知されている連中と接触していればこうもなりますがな!
 ドルポンドは無敵ぃ~!みたいな印象はありますが経済圏としても旨味だけ奪って消したい存在です。今回のことは渡りに船と乗った連中は―――どうなるのかな☆
 ガエリオとマクギリスの話は別の時にやりたいと思います。納得できるような形にできるか不安ですが……。模擬戦(殴り合い)の内容は原作の戦闘を生身に移し替えたものと考えればOKです。





【―魔鳥たちと海賊―】
 ブルックとクダルたちの末路です。グシオンは回収された結果、昭弘はグレイズ改のまま地球に降下します。
 どのような改修を施されるかはお待ちください。




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