鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 未だ、書き方を模索中です。視点切り替えは一つの話につき2~3回で考えたほうがいいですかね?
 地の文についても批評や感想をお待ちしております。


 新たに評価をくださったお方へ一言!
 ヴァサゴだけでなく、今後も他の機体に出てくることになります。どのような技術かは未定ですがエドモントンにて登場予定です。


2019.6/17 誤字報告ありがとうございました。








 ――彼についてですか? ラスタル様とおじ様――ガラン少佐の紹介で一時期、あのお坊ちゃまと教導を受けていたのです。

 ――どっちが強いか……。よく聞かれますがアレを使われなければ僅差です。互いに使用したら手も足も出ませんよ。まともに戦えるのは鉄華団の白い悪魔かバエル。もしくは夫ですかね?

 ――あ、それと彼について変なことは言わないように。案外、恩義を感じている者は多いですから。


 旧アリアンロッド MS部隊隊長ジュリエッタ・ボードウィン






ドルトコロニーで僕と握手!(解説付き)

 

 

 暗礁宙域の中でブルワーズとギャラルホルンの混成艦隊を退けた鉄華団らは以降の妨害もなく、少し拍子抜けをしたように悶々としていた。

 宙域内では面白おかしいことも多々あったがそれは別の機会にしよう。

 現在は宙域の出口付近を偵察させ、その結果次第というところだった―――のだが、ここで大きな問題に直面する。

 

 

『期限が迫ってる?』

「荷物の引き渡しを命じられててな。鉄華団の初仕事で、ジャスレイの叔父貴が担当してたんだ。ああ、筋は通したし、オルガも連れて詫びを入れてあるから問題ないぜ」

『はぁ~………じゃあアレか? 失敗するとマクマードさんとジャスレイの顔に泥を塗っちまうと』

「最悪、イサリビだけでも先行させるのも視野に入れたい。初仕事でミソが付けば取り戻すのに悲惨な目に遭うだろ?」

『………だな』

 

 

 ここからドルトまで急げば二日程度で到着する計算だと名瀬は言う。ただし、何の邪魔も入らなければという前提が必要だ。

 いっそのこと、足の速いユフインに荷物を載せて運んだほうがいいんじゃないかと提案したがダメだと言われ、それ以上のことをレッドは言えなくなった。鉄華団と言えばイサリビ、と印象付けたほうが便利と言えるかと一人納得する。

 

 

(妙なところで頭が回るからなコイツは。…………親父の命令とはいえ、義息子(むすこ)を騙すのは気分が良くねぇな)

 

 

 一方で名瀬―――もとい、マクマードらからすれば、今回レッドは邪魔者でしかない。鉄華団とクーデリアの真価を図るためには単体で事を成してもらわなければならない。そのために在りもしない輸送依頼をでっちあげたのだ。彼らの運んだ荷物でどれだけの犠牲が出ようとも関係は無い。重要なのはテイワズにとって旨味があるかどうか? それしかない。

 

 仮にクーデリアが治めれば、そのカリスマ性を利用して火星へ大規模な拠点と流通網を構築し、それを足掛かりにして地球圏、いや経済圏の内側へと攻め込む。クーデリアにとってもドルトを支配するアフリカ・ユニオンに打撃を与えれば、これから交渉するアーブラウの狸爺(蒔苗)へのいい手土産にもなる。不本意ではあろうが。

 

 対して、鉄華団はその暴力の使い方と頭の使い方を試す。禁制品の輸送や裏社会にも籍を置くテイワズにとって、用心深さは重要だ。言われたままに命令をこなすのであれば鉄砲玉として運用する。あるいは何か騒乱が起きた場合に戦力として派遣させ、区切りのいいところで切り捨てればいい。

 

 勘違いしてはいけないのが別に好き転んで若い連中を騙そうとしているわけではない。子どもとして生きているのなら、こんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する伏魔殿の如き上の社会(ノーブル・コミュニティ)に引きずり込むなんてしない。

 しかし、彼女、彼らは自ら飛び込んだ。優しい理想と淡い希望。見通しの欠片も発ってない野心と場違いな望みを抱いて飛び込んだ。その時点で競争相手となったのだ。

 

 

(悪く思うなよお前ら。これが大人の世界の荒波ってやつだ。泳げない奴は沈んで、溺れる奴は身包み剥がされて沈めちられまう。薄汚れた現実さ)

 

 

 願わくば、親父たちの眼鏡に叶うといいな、とラフタたちの偵察待ちをしていると報告が来た。

 ハーフビーク級二隻、モビルスーツ十機の部隊を確認。すでに出口付近で展開中。

 

 

「言った通りだな。モビルスーツ発進準備。レッドのほうにも伝えとけ! 予定通り、抑え込むッてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せていいんだな!?」

「兄貴とウェイストの野郎を信じろ! 俺たちは最大戦速でドルトに向かう。ユフインが盾になってる間に引き離すぞ」

『それ大丈夫なのか? 一緒に戦った方が……』

「明弘。この仕事はもう期日が近づいてるんだ。失敗すれば兄貴だけじゃなく、ジャスレイの叔父貴やマクマードの親父にも泥を塗っちまう。下手すれば鉄華団がケジメをつけなくちゃならねぇ」

『大丈夫だよ明弘。そう簡単に沈むような奴じゃないし、俺たちが離脱すれば自由に行動できる。レッドもアミダさんもすごい強いからさ』

 

 

 三日月が穏やかな声で昭弘を諭す。三日月自身も三隻全員で向かいたいのが本音だが、仕事には期限というものがある。ドルトへ資材を送るのはテイワズから依頼で今後のために必要なこと。クーデリアを地球に送り届けるのも鉄華団が仕事を放棄しないし、どんな困難があっても達成するという信頼のためにも必要。

 思えばこんな難しいことを考える必要も余裕もなかった。オルガにすべて任せ、自分は立ちはだかる敵を潰せばいいと結論付けていた。

 

 

『名瀬さんやレッドを信じよう。アミダさんは俺より強いし、レッドは無駄にしぶとい。ギャラルホルンが倒せるほど(やわ)じゃない』

『………お前、変わったな……』

『そうかな?』

『そうだよ。もっと、こう…………冷めてて、機械みたいな感じだったぜ』

『………ひと段落したらシミュレーター十時間ね』

 

 

 絶望した声で謝る昭弘と聞く耳もたぬとつっけんどんに返す三日月の漫才により、ブリッジも幾分か緊張がほぐれていた。

 オルガはこれも余裕があるからなのだろうと推測する。もしも自分たちだけだったら? タービンズかアウトサイダーズがいなければ? どうなっていたかわからない。

 

 

(取り返しのつかないことになっていたかもしれねぇな。今でなくとも、その先で……)

 

 

 そんな確信がオルガにはあった。

 頼れる大人と近所の兄貴って感じだろうか。自分も余裕ができて、いろんなことが考えられるようになった気がする。敵を片っ端から叩き潰すのが正解じゃない。

 

 

「ユフインに伝えてくれ。準備完了。期待に応えるってな」

 

 

 まずは上りだけを見るんじゃない。目の前のことを少しずつ熟せばいい。

 言葉や意気込みだけじゃない。行動で示す。そうすりゃ周りも認めてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦局はおおよそ名瀬の思ったとおりに進んだ。ユフインとイサリビはすでに遠くへ行き、レッドはアストンやクランクたちを二隻の直掩として置いていたため、一人取り残された状態だった。

 出口で展開するギャラルホルンのMS部隊を強襲し、イサリビとハンマーヘッド、ユフインの煙幕弾でかく乱。追撃を一隻許したがアレぐらいなら問題ないだろうと踏む。昭弘やシノの訓練相手にちょうどいいだろう。

 ――だが、問題はここからだった。

 

 

「……レッドに出し抜かれたか」

「グレイズの新型らしいやつと交戦していたのは確認しているんだけどね。どうやらしてやられたみたいさね」

「成長したのを喜んでいいのか、騙されたのを怒っていいのか。わかんねぇな」

 

 

 見たことのない新型が率いる一個小隊がヴァサゴと交戦を始めたところ、レッドは押し込まれるようにデブリ帯の中へと消えていったのだ。

 その後、輸送機に接続されたヴァサゴが飛び出し、それを追うように敵の小隊も出現。速度に物を言わせ、すべてを振り切って離脱されてしまったというのが顛末だ。

 

 

「そういう割には嬉しそうじゃないか」

「まぁな」

 

 

 そもそもこの襲撃自体がマクマードの仕込んだものだった。ラフタやアジーが攻めきれなかったと悔しがっているがそれもそのはず、相手は月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)の最精鋭。

 あのラスタル・エリオンの直掩艦隊であった。

 

 マクマードはラスタルにクーデリアの真価を図らせるため、取引を持ち掛けた。ドルトで行われるマッチポンプを黙っている代わりにクーデリアと鉄華団を参加させろと。

 ラスタルも腹の内ではどう考えてるか―――この行動を見れば、意趣返しを最初から考えていたのだろう―――取引に応じ、彼らを見逃したのだ。

 

 

「後手に回るだけじゃない、っていう示威表示だな。おっかない」

「そんな連中に狙われてるレッドはもっとおっかないだろうね。まあ、図太いし妙に繊細なところもあるから無事に泳ぎきれるだろうけど」

「違いない」

 

 

 随分と前からギャラルホルン――エリオン派との合流を考えていたのだろう。冷静に考えてみれば、クーデリアを地球に運ぶなんて無理難題をレッドが受けるはずがない。勝ち目のない戦いをするほど傭兵という職業に夢は見ていない。

 つまりにレッドには最初から勝ち筋があった。圏外圏を管轄するアリアンロッドと早期に合流し、事を成し遂げる。それでいて名瀬を仲介させてアリアンロッドとのパイプをテイワズに作ろうとしていた。

 

 

「だけどそれも狂った。アーブラウの()代表である蒔苗・東護ノ助が汚職の疑いで代表を早期辞職し政敵に追われてオセアニア連邦に亡命してしまった」

「アタシ達も蒔苗の辞職については知っていたけど、亡命に関しては知らなかった。戦闘中に……あの新型のグレイズのパイロットに聞かされたんだろうね」

 

 

 ユフインの艦長や整備オヤジからの調査報告で、分かる範囲で外部との通信をした形跡は存在しないと咆哮されていた。親父の言うヴァサゴのパンドラボックスが関わっていたのなら話は別だろうが、艦内ネットワークを経由する以上、どこかで跡は残る。

 

 

「兎に角、俺達もドルト6に行くぞ。ふんじばって親を騙す不逞ぇ馬鹿に説教を喰らわしてやらんとな」

「きつーいお灸をすえてやらないとね」

「こんな美男美女の親に叱られるんだ。ありがたく思ってもらわんとな。それとここでの話は秘密にしておけよ。親父の計画が失敗したのを喜んでいたなんて聞かれたら、恐ろしいからな」

「じゃあ、今日は熱く情熱的にお願いしまーす!」

「ずるい! あたしも!!」

「私もよ! ていうか、今日は私の番でしょ!?」

 

 

 ブリッジで姦しいじゃれ合いが始まるのを楽し気に眺める名瀬であった。

 ちなみになんでドルト6に向かうのかと言うと、テイワズの地球圏支部がそこにあるからだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が進むこと二日ほど経ち、名瀬とアミダが説教する気満々でいることなどつゆ知らず、一方でレッドはドルトコロニー群はドルト3に到着していた。

 鉄華団がどのドルトに―――おそらくはドルト2だろうが―――居るかは知らぬ体で行動していた。時折、外部顧問の役割はどうしたのだと幻聴が聞こえるが無視する。

 

 レッドの滞在しているドルト3は大型の商業施設と地球圏の富裕層が軒を連ねる一流のコロニーである。セキュリティも厳しく身分的に普通なら入れないような立場であるが、そこはコネやら偽装やら賄賂やらでねじ伏せていた。叩けば埃が出てきそうな人間はどこにだっているのだ。

 

 話を戻して、整然と綺麗な街並みと育ちのよさそうな連中が暢気に歩く中で、レッドは手ごろなオープンカフェでコーヒーとタブレットを片手に知り合いとデートをしていた。まあレッド自身、同席の相手など関係ないと言わんばかりに自前のタブレットを操作し、その結果を冷めた眼で眺めていた。

 

 

(…………蒔苗東護ノ助、オセアニア連邦に亡命。対抗馬の親ギャラルホルン派のアンリ・フリュウが代表選確実、ね)

 

 

 どうしてこんな髭に整えているのだろうかと言うぐらい、愉快な白鬚を蓄えた老人と勝ち誇るかのように笑う女性議員の画像。前者が蒔苗東護ノ助で後者がアンリ・フリュウである。

 この話題を聞いて、クーデリアの会談の要請を蒔苗が了承した理由がわかった気がした。というか察したのだ。

 

 

(この爺さん。食えねぇ腹黒狸だな。大方クーデリアと交渉するっつーのも盾代わりにするつもりだな。政争に負けて、アンリ派やギャラルホルンが襲い掛かってきた時にクーデリアの身柄引き渡しと連れて来た民兵を使い潰すつもりだろうな)

 

 

 反ギャラルホルンを掲げる蒔苗をギャラルホルンが黙ってみているわけもない。汚職の疑い、というか贈収賄の容疑も秘書や世話をした元議員がやったことで蒔苗の直接の罪ではなかった。

 つまり、嵌められたのだ。

 

 

(……さっさと鉄華団に合流したいがドルト2はなぁ………)

「………なんですか急に。これはあげませんよ」

 

 

 行きたくてもいけない理由は同席している人物―――白いジャケットに碧色のキャミソール、ダメージジーンズで着飾った今どきの女の子を装った女性。対して、対面に座るのは黒いジャケットに赤地に黒い線の入ったドレスシャツ。ごてごてのシルバーに薄茶色のグラサンで黒いパンツな我らが主人公レッドさんがいた。

 さて、目の前にいるこの今どき系の快活そうな少女は誰かと言えば―――

 

 

「ジュリすけは食いしん坊だなぁ」

「ぶん殴りますよ不良債権」

「やめてくれない? それ聞くと心臓がキュってなるからやめてくれない?」

 

 

 ――ならばジュリすけ、というあだ名を止めなさい。私にはジュリエッタ・ジュリスという名前があります。

 と、彼女は食べていたパフェを食いつくし、控えていたケーキに手を伸ばし始めた。食べていたパフェも相当な大きさであり、この細い体にこれだけの質量が入るのかと戦々恐々としていたところ、ジュリエッタはふと思い出したかのように呟く。

 

 

「―――面倒なことこの上ないですね」

「……だな。思ったよりも長い」

「私自身、見張りが付くとは思いましたがこうもなるとは思いませんでした」

 

 

 女性パイロットというのはギャラルホルンでは珍しいという噂がある。大体の女性兵士は内務か整備士、後方勤務に補給部隊所属。あるいは船のブリッジ要員が殆どだ。モビルスーツのパイロットとなるのはかなり少なく、そのうえで一線級の腕を持つと言われれば顔も売れてしまう。

 昨今、女性の社会的地位の向上を叫ぶ団体が多数存在し、ギャラルホルンもジェンダー系の問題には弱いらしく、そういった活躍する女性兵士の特集を組むなど、苦労しているらしい。

 

 それ故に、ジュリエッタの所属なんてのは知られていて、エリオン派と敵対する連中―――統制局全体に勢力をもつイズナリオ派に監視されていた。

 レッドがチャラいというか、珍竹林な格好をしているのは逃げるときに先入観を与えるためのものである。

 

 

「それと例の二機については地球で会うことになる可能性が高いとのことです。統制局所属の貨物船が何度か地球に行き来していますから」

「地上戦も想定されてると?」

「十中八九そうなります。蒔苗東護ノ助の件もあります。ラスタル様もその件については微力ながら手を貸す意思があります」

「―――政敵の尻尾をつかめるかもしれない、からか」

「ええ」

 

 

 ――あの方もお喜びになられています。ようやく尻尾をつかんだと。

 ジュリエッタの言うあの方――つまり、ラスタルとはアリアンロッドの総司令にしてセブンスターズでかなりの権勢を誇るラスタル・エリオンのことである。

 噂によれば、統制局の専横を快く思ってはいないと言われるがレッドからすると利用価値があるうちは最大限利用する男だと考えていた。

 

 ラスタルは統制局のやり口は効率的だと評価はしているし、必要悪であるから黙認する。彼の世界秩序の根底にはギャラルホルンの武力による平和維持を是とする考えを隠そうともしない。

 見方を考えれば地球人類統一機構(リビルド・アース)のような過激かつ選民思想の塊の男に見えるかもしれないが過去の事例からして、独裁状態の世界統治が続かないのは歴史から見て分かるとおりである。

 

 ゆえに、ラスタルはギャラルホルンと言う名前に価値を見出してはいない。これが数百年続いているから効率がいいだけであり、必要であるなら容易く解体。もしくは新たな姿に生まれ変わらせるだろう。

 あくまで政治と経済に対し無関係の調停役として、ギャラルホルンを生まれ変わらせたいだけである。

 

 そのため、アーブラウの代表候補アンリ・フリュウと深い関係のあるイズナリオ・ファリドにはどうにかして消えてもらいたい。そのうえで野心家であり、幼少期から垣間見える飢えた獣の本性をラスタルに印象付けさせたマクギリス・ファリドへの首輪として鉄華団への干渉を図りたい。

 

 

「その深謀は計り知れませんが、貴方も自分の立ち位置を明確にしてもらいたいとのことです。コウモリ紛いは信用を失いますよ」

「だからこっち側に来いっつーのは気に食わない。程よい付き合いをしていたいだけだよ」

「……そうですか」

「そういうこと。それとこれ渡しておく」

 

 

 やはりダメだったかと、ジュリエッタはもう一つの任務を遂行しようと鞄に手を伸ばす。だが、その前にレッドは動いていた。渡したいものがあると自然な動作で懐に手を入れられてしまった。

 帰れそうにありません、と刺し違えてでも務めを果たそうとレッドの一挙手一投足に注意した。

 彼女の予感は大外れで、レッドが懐から取り出したのは一冊の本。ドルト観光スポットを網羅したイケてる若者の決定版! なんて書かれているガイドブックだった。

 

 

「これ、は?」

「少しぐらい休んでも問題ないだろう。知り合いにオススメの場所を教えてもらって、そこに付箋もつけてある。行ってみるといい」

 

 

 そう言うと、レッドはジュリエッタの制止の声を聞かずに雑踏の中へと消えていった。

 少しボケっとしていると、逃げられたことに気づいて、無線で監視員へコンタクトを取る。内容は言うに及ばず、巻かれてしまったという答えと謝罪の言葉であった。

 

 

「…………やられましたね。――まぁ、いいでしょう」

 

 

 かつてはラスタルの正義を信じるのみのジュリエッタだったが、今に至っては互いの言い分や背景なども考えれるようになっていた。ラスタルの意志以外は必要ないと外界との関わりを閉ざしていた彼女も、かつてはレッドに扱われていたヒヨッコ時代があった。

 敬愛する人物――おじ様が連れて来た部外者で教官だったレッドはジュリエッタの頑なさ(清廉)柔らかさ(濁り)を与えたのだ。清濁併せ吞むという思考を手に入れたと言ってもいい。

 

 戦っている相手にも心や背後には何か譲れないものがあるということを学んだのだ。

 ラスタルからすれば余計なものを植え付けられたと不快感を示すがそれは表面的なことであった。彼とて人間で、進んで未来ある若者を機械のような兵士にしたいわけではない。必要とあらばそうするが、願わくば――といったところであった。何よりもジュリエッタが変わったことで任務や部隊への達成率や実力が上がったという言い訳を得ていた。

 

 だからラスタルはジュリエッタを矯正しようとはしなかった。おじ様も矯正しようとしなかった。

 どちらかと言えば良心の呵責が少し薄れたと、互いに苦笑しながら談笑し、少しだけ寝覚めがよくなったと笑っていたのだ。

 

 その後、渡されたガイドブックに軍用の記録媒体が隠されており、ラスタルの望んだ成果を一部だけでも手に入れられたとジュリエッタをはじめ、潜入部隊の面々はホッとしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 

 

 

 

 

 

「36000ギャラーです」

「……は? 間違いではありませんか? パフェとケーキとコーヒーだけですよ……?!」

「お連れ様のコーヒーが希少品でして32000ギャラーほどします」

「………少し待ってください。知り合いに借りますので」

 

 

 結果、部隊の面々に頭を下げて借金をし、後日経費で落ちないかと経理に詰め寄っていた姿が目撃されたとか。

 なお、下手人である男に復讐の恨み言を偶然聞いたクジャン家の跡取りが余計なことを言い、訓練で半殺しにされたとかされなかったとか。

 事実はその場にいた者だけが知っている、とだけ告げておこう。

 

 

 





 ちょっと駆け足気味ですが次回はフミタンの回となります。
 それでは解説行きましょー。





『テイワズの思惑と名瀬』
 共に、彼らの真価を見極めようとしている。名瀬としては騙すようなことをしたくはないが次期頭目としての勉強だと無理やり納得している。
 テイワズとしては大いに打算が含まれているが名瀬個人は誰一人欠けることなく仕事を終えてほしいと思っている。
 なお、レッドの行動については騙された方が悪いとマクマードとジャスレイは笑い飛ばしている。


『ドルトコロニー群』
 原作と同じだが、各コロニーの役割を少しはっきりとさせている。特にテイワズの地球支部が存在するドルト6は他の組織の支部が多数存在する。むしろ監視と管理がしやすいようにアフリカ・ユニオンが運営していると言ってもいい。
 内部はスパイや工作員などかなりドロドロとした状態となっていたりする。


『ジュリエッタ・ジュリス』
 みんなご存知、猿みたいな印象を抱いてしまう可哀想な少女。ギャラルホルンで女だてらにパイロットをしている。
 前説にあったとおり、レッドから教導を受けており、原作のような融通が利かないものではなく、ある程度の清濁併せ吞むことができるぐらいに成長していて、もしもの時はレッドの確保、もしくは始末をするように命ぜられていた。


『希少品なコーヒー』
 コピ・ルアクと呼ばれるコーヒー豆を使ったもの。実際の物もアホみたいに高いが出来るまでの過程を聞いてしまうとありがたみが皆無となる(作者基準)。
 二人のいたドルト3はショッピングを主軸にした観光地ということになっている。


『ジェンダー問題』
 原作でも女は地位が低いような表現が多かったので取り入れられた。
 圏外圏においてはそこまで意識されてないが地球圏においては対応を間違うと非常に危うい問題である。
 ギャラルホルンにおける有名な女性パイロットはイーリス・ステンジャ、カルタ・イシュー、ジュリエッタ・ジュリスの三名である。
 ちなみに女性パイロットのみで構成した広報部隊ワルキューレを創設する予定だったが隊機のヴァルキュリア・フレームの調達の困難さと見世物扱いという創設はされなかった。

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