鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 最近暑くなってまいりましたね。脱水症状と熱中症の挟み撃ちでクジャンしかけたカルメンです。皆様も気を付けてね!









 ――彼ですか? 最初の印象は最悪でしたね。

 ――好きなように生きて、好きなように感情をさらけ出す。

 ――そのくせ、自由になりたいと愚痴を言う。

 ――ノブリスに縛り付けられていた私からすればなんて贅沢で無神経な男かと思っていました。

 ――今はどう思うか? 言っているじゃないですか。

 ――”好きなように生きて”って……。


 火星連合議長総秘書 フミタン・アドモス






ドルト騒乱 その2

 

 

 

 ――世界は……社会とは極一部の人間の思惑(ながれ)に乗せられた人々が複雑に絡み合って描かれるキャンパス。あるいは遊戯盤である。

 軽度ではあるが近眼には違いないフミタン・アドモスは雇い主から聞かされた嘲りを思い出していた。

 

 

(………罰ですね)

 

 

 雇い主が派遣した殺し屋(ヒットマン)といけ好かない小娘、クーデリアの始末の打ち合わせが終わったときだった。

 親に売られ、支援者にすら駒としていいように使われていたあの小娘と長くともに居すぎたのだろう。悲劇の乙女として血の海に沈む姿を想像して、思わず顔に出てしまったらしい。

 フミタンの抱く憐憫と後悔を嗅ぎ取った殺し屋は教育と称して彼女を折檻した。見た目も体の肉付きも素晴らしいフミタンを男たちは犯しはしなかった。プロはそんな非効率的なことはしないし、フミタンとて殺人の経験がなかったわけではないと知っているからだ。

 

 フミタンはスラムの孤児として生を受け、幼いながら見た目もよかった。ゆくゆくは場末の娼婦となって若くして死んでいく未来しかなかった。

 そんな彼女に目を付けたのが真の雇い主であり、鉄華団の動向を知らせるスパイ、クーデリアの謀殺を命じたノブリス・ゴルドン―――火星では名の知られた商人であり富豪の一人であった。

 表向き貿易や商店を営む企業である。しかし裏の顔はノブリスを含め、彼のような承認をこう呼ぶのだ“死の商人”と………。

 

 

(生まれも育ちも………死ぬ寸前まで最低とは笑えます)

 

 

 ノブリスはクーデリアの死亡により、火星で大暴動が起きることを予見していた。さらにテイワズに頼んでいたドルトでの火種づくりの一環にクーデリアを関わらせるという提案に飛びついたのだ。

 

 

 ――哀れ、革命の乙女は弱者のために立ち上がった聖女として笛吹なる傲慢な悪党どもの凶弾に倒れる。民衆は聖女の意志を引き継ぎ、解放のために武器を取って立ち上がる。

 

 

 つまりは反乱軍(民衆)笛吹の悪党(ギャラルホルン)の双方に武器を売り、情報を売り、裏から操作して自分たちの金づるにしようと画策しているのだ。

 双方の血と憎しみは彼らにとって黄金と同価値であり、反戦活動や真実を暴こうとする行動は糞の役にも立たないものである。

 

 

(まあ、あの男たちは早々に退場したので少しは気が晴れましたが………)

 

 

 自分やビスケット、アトラとサヴァラン・カヌレという男性を撮影している女の向こうで、頭部が完全に欠けている男たち―――自分を痛めつけた連中が物言わぬ骸になっているのを見て溜飲が僅かに下がる。

 見聞きしたところ、ノブリスの手のものではないようで革命軍と名乗っていた。

 

 

(いい噂は聞かないならず者たちですね。…………なんとかできないでしょうか)

 

 

 フミタンは偽り続けるのも疲れて来た。あまりに美しく真っすぐで善人で人々の希望を一身に受けるいけ好かないヤツ(クーデリア)は自分にとって辛いを通り越して忌々しいものとなっていた。

 いや、薄汚い………まるでドブネズミのような自分と空を飛ぶ鳥という住む場所の違い。ドブから空を見上げる惨めさに対し空から悠々と見下ろす美しさ。

 

 彼女の人となりを知れば知るほどに自分の惨めさが浮き彫りになっていく。彼女が笑顔を向け、頼ってくるのを感じるたびに発狂しそうなほど苦しい思いをしていた。

 ――しかし心のどこかで自分を救ってくれるのではないと思うようにもなっていた。彼女の機体に応えることで今までの罪を償っているのでないかと―――勘違いしていた。過去は火星から遠く遠く離れても、執拗についてきたのだ。

 

 

(私は救われなくていい。今までの報いです。しかし、彼らは違う。ビスケット君やアトラさんはこれからに必要な存在です)

 

 

 これまでの償いとして二人だけは助けたいと心から思っていた。残りの一人? あんなパッとしない男はどうでもいい。

 ―――もし、叶うのならば彼女に……。クーデリアに謝りたい。

 フミタンの眼は死んではいなかった。反撃の機会を逃さぬよう、ひっそりと息をひそめて決死の一撃を狙っていた。

 

 

(………イイ感じです。存分に抵抗して、夢をかなえてくださいな)

 

 

 それを嘲笑うカメラを持った女。オリヴィア・S・ホルストは喜劇の開幕を想像していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でオルガ達は買い物から戻らないアトラとビスケット。急に居なくなったフミタンの心配をしていた。

 三日月も落ち着かない様子でコロニー内へとつながっているエントランスの扉をちらちらと見ていた。チャドも昭弘も昌弘も三日月ほどではないが気にしている。

 

 

「なんか連絡はあったか?」

「ユージン。まだ無いな。シノやダンテはこういうことはきっちりやると思ったんだが………」

「ユフインの連中は?」

「ビトーとペドロとクランクさんが街に向かってる。アインとアストン、デルマはウチと向こうの補給申請でてんてこ舞いだよ」

 

 

 ユフインはイサリビに遅れること数時間後―――つい先ほど、ドルトコロニー群へと到着していた。

 積み荷の件についてマクマード直轄の連中なら何か知っているのではないかと問い合わせたが寝耳に水と、こちらが恐縮するぐらい謝られた。

 

 クランクはギャラルホルンによる治安維持の黒い噂を聞いたことがあると言い、にわかには信じがたいが火星で問答無用で襲い掛かってきたことを思い出すとあながち嘘とは言えなかった。

 もうすでにここは連中の縄張りだと気を引き締め直して、テイワズの地球支部に補給の要請をするように頼んだのだ。オルガの頭の中では一戦交えると覚悟はできていた。

 

 

「オルガ」

「行ってきていいぞ」

「………ありがとう」

 

 

 オルガは言わなくても分かる、と三日月の意志を尊重した。アトラやクーデリアはもちろん、ビスケットは大切な仲間であり家族でもある。特に最近の三日月は感情が豊かになっていて、ここで三日月の心の動きを抑圧するようなことはしたくなかったのもあった。

 ともあれ、問題はクーデリア達がどこに居るかだった。

 

 

「港の出口から―――何も見えないか……」

 

 

 わざわざ港の出入り口に戦力を配備することもない。下手をすれば見えた瞬間に砲撃でも喰らうだろうし、相手側は外したらコロニーに損傷を―――

 

 

「待てよ? どうしてギャラルホルンが俺たちを追って来てると思うんだ? 憲兵には支部に対して抗議してる。そこから伝わっても、コロニーを巻き込んでドンパチするほどの事か?」

「どうしたオルガ」

「ユージン、チャド。俺らは何か勘違いしているのかもしれねぇ。いや、勘違いさせられているのかもしれない」

「「はぁ?」」

「三日月を追う。お前らもついてこい!」

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして、オルガ達は三日月と合流した。決して彼の足が遅いというわけでもなく、とんでもない数の人が港へと押し寄せてきているのだ。

 何の騒ぎかと強引に話を聞くとギャラルホルンが次々に港の出入りを規制しているらしい。その中でここは規制が始まったところからは一番遠く、その手が伸びていないとのことだった。

 

 

「訳が分からねぇ。どうしてこんな効率の悪いことをするんだ?」

「だよな。無駄が多すぎるぜ」

「何が?」

「三日月も少しは考えろよ。ったく………要はどうして一斉に封鎖しなかったんだってことだ。そんぐらいの人数は常駐してるだろ」

「なるほど。…………気に入らないね」

「全くだ」

 

 

 ユージンと三日月が勝手に納得し、チャドが確かにと考えるそぶりを見て、昭弘(脳筋)昌弘(予備軍)はさっぱりわからんと首をかしげていた。

 それを見たオルガが筋トレ禁止して勉強のほうに回すべきか? なんて呆れていると通信が入る。

 

 

『オルガ団長』

「クランクさんか? あいつら見つかって―――」

『そのことだ。とりあえずニュースを見てくれ』

「ニュース?」

 

 

 ユージンに目で指示を送り、タブレットでニュースサイトを開かせる。

 すると明らかにユージンが狼狽えだし、覗き見ていたチャドも目を見開いていた。

 

 

「なんて出てるんだ? おい?」

「ふざけんなよ、オイ?! 一体どういうことだ!!?」

「おいッ! 一人で納得してるんじゃ―――はぁッ!!?」

 

 

 女性アナウンサーがデモ隊の様子を撮影している。作業着を着ている男女と資材運搬用の車両にモビルワーカー。

 そんな連中の中に一際目立つ()………金色があった。

 

 

 

 

 ――ドルト2で発生したデモ活動ですがデモ隊は資材やモビルワーカーなどを用い、カンパニー本社前にて激しい抗議活動をしております。

 

 ――またデモ隊の中に少年少女の姿が確認され、その先頭に立っている少女は………あ、今情報が入りました。

 

 ――少女の名は………クーデリア。クーデリア・藍那・バーンスタインです!!

 

 ――火星のノアキスの七月会議にて頭角を現し、アーブラウとの交渉権を勝ち取った革命の乙女がデモ隊の先頭に立っています!!

 

 ――デモ隊の指導者、ナボナ・ミンゴ氏によると今回のデモ隊の行動はとても他人事には思えない。力になりたいと言われ参加していただいた。

 

 ――我々は暴力による交渉ではなく、言葉による交渉を行いたい。

 

 ――経営陣に疚しいことがないというのであれば交渉の席を中継し公開すべき………とのことです。

 

 ――また、バーンスタイン氏についてはギャラルホルン火星支部の停船を無視して強行突破したとの情報があり……。

 

 ――彼女を地球圏へと護衛しているグループにテロリストの疑いがかけられているとのことです。

 

 ――現場よりニナ・ミヤモリがお送りいたしました。スタジオへお返しします―――

 

 

 

 

「はぁ?」

「「「なんだこりゃぁあああああ!!?」」」

 

 

 顎が外れそうなぐらいの大口を開け、周囲の目も気にせずにオルガ、ユージン、チャドは叫び声をあげた。唯一、明弘はクーデリアがなんであんなところに? と思う程度でむしろ居る場所がわかったと安堵しているようだ。

 だがしかし、前者三人においてこの状況は非常にヤバイとしか言えない。クーデリアはギャラルホルンが血眼になって追いかけている人物だ。レッドやクランク、アインや名瀬に地球圏に存在するギャラルホルン最強の艦隊に覚られないように気を付けろと耳に胼胝(たこ)ができるほど言われている。

 

 

「何してんだあのお嬢さんは!? 注意しろってあれほど………!」

「それよりもシノ達はどうした? どうしていない?」

 

 

 これだけ大規模なデモ活動なら多くのテレビ局が撮影クルーを派遣していると考え、先ほどのチャンネルから順繰り変え、多角的にデモ隊の全体図からシノ達を探そうと試みる。

 

 

「いたぞ。クーデリアの近くにいる!」

「あの馬鹿野郎ど――――? 様子が変じゃねぇか?」

 

 

 シノの性格からすれば義憤に駆られて盛大に大騒ぎするような形になるはず。であるのに、どこか落ち着いている―――そう。対人格闘訓練で三日月や昭弘を相手にしているときのような身構え方だ。

 よくよく冷静になって探すとクーデリアを守るようにガット・ゼオ、ディオス・ミンコが壁を作っている。やがてクーデリアの顔をアップした番組に辿り着くとユージンとオルガの違和感が大きくなる。

 

 

「顔が強張っている、か?」

「確かにそうだな。うん? マルバが見当たらねぇ。アイツがやったのか?」

「あ、くそッ! カメラが映さなくなっちまった」

 

 

 チャドとユージンが悪態をつくなかで、オルガはクーデリアがシノ達とはぐれたわけでもないことに安心していた。もちろん、マルバについては問いただす必要がある。

 しかし、こんな大事になった時点でこっちだけが逃げるとなれば筋が通らない。

 

 

(何より、あんだけ気を付けろと言い含めていたのにどうして参加してる? シノ達も荒事には慣れてるはず……)

 

 

 ふと、オルガの思考の中でことのあらすじ(シナリオ)が繋がった気がした。全貌の見えない、あまりに朧気であやふやな全体像が脳裏に浮かぶ。

 

 ――クーデリアと別れた。

 

 ――シノ達とマルバに護衛を任せた。

 

 ――船に戻ったとき、アトラが買い物に行くとビスケットと一緒に出掛けた。同時にフミタンもいなくなっていた。

 

 ――三人とも帰ってこず、クーデリアとシノ達がデモに参加している。

 

 

「………まさか……!」

「オルガ?」

 

 

 往来の邪魔になる、もとい、他人には聞かせられない話だと全員を連れて路地裏の中ほどに連れていく。

 

 

「ミカ、皆! 落ち着いて聞いてくれ」

「?」

「―――アトラとビスケット、フミタン。この三人だけ行方が分からない」

「うん」

「クーデリアは馬鹿じゃないし、義憤に駆られて参加するほど感情的でもない。じゃあ、どうしてあそこにいる?」

 

 

 全員がオルガの言わんとしていることを察した。口々にまさか、そんな……と声が漏れる。

 その中で三日月は青い瞳に静かな殺意の光を宿らせていく。

 

 

「アトラたちが攫われた」

「………外れてほしい予想が正しければな。ミカ、勝手に動くなよ」

「どうして?」

「ピンポイントで三人を攫ったんだ。俺達の動きもみられている可能性がある。手分けしてってのも考えたがこんな厳戒態勢の中で人攫いができるような連中だ。二の舞になるかもしれねぇ」

「間に合わないかも」

「だな。けど、向こうの状況がつかめないんじゃしようがない。三人と関係があるのか。下手人は誰なのか。そうすれば――」

 

 

 対応も可能になる、と言いかけたところでユージンが声を小さくして読んできた。タブレットを見ればクランクの名前があり、もしかして三人を見つけたのか? とユージンに目を向けるが首を横に振る

 それを見て何か進展があればいいが、と出てみる。

 

 

『三つ報告がある。一つはクーデリア達について。もう一つはビスケット君たちについてだ』

「なんだと?」

『アーケイ氏とダンテ君の二人に合流できた。一応、社長のほうにもメッセージだけは送ってある』

「わかった。手短に頼む!」

『まずは―――』

 

 

 クランクがマルバとダンテから聞いた情報によれば、ビスケット、アトラ、フミタンが革命軍にさらわれナボナ・ミンゴも手を組んでいる可能性があるとのことだった。三人とボロボロになった男に銃を突きつけ、隠した武器の引き渡しにクーデリアをデモに参加させることを要求する旨。

 断れば人質の命は保証しないとお決まりの台詞を吐いてのことだった。

 

 

「あの野郎………!!!」

「……」

「それで最後は?」

『すでに人質の居場所を特定した』

「なんだと?!」

『アーケイ氏とダンテ君が映像を送ってきたタブレットで逆探知をかけたらしい。場所は―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ドルトカンパニー本社………デモ隊の近くだ……!』

 

 

 

 






 どうしようかとも考えていましたがプロットからどんどん離れていく拙作をお許しください。
 今後の展開を頑張りたいところです。
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