鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 今回は解説付きよー。




 ――今までの価値観が大きく崩れるような時間だったのを覚えている。飯も食わせてくれたし、殴られもしない。仕事をサボれば怒られるけど理不尽なものじゃなかった。
 他の仲間だって同じだ。家族ができて、地球で働いて……。
 デブリは幸せになっていいのかって思った。なっていいんだって、いろんな大人に言われて、俺たちはようやく人間になれたんだ。
 あの人は命がけで助けてくれたんだ。


 鉄華団地球支部 アーブラウ教導隊所属 アストン・ウェイスト






火星に来た理由? 自由を求めたのさ (解説付き)

 

 

 

 ヒューマンデブリとは何か? 端的に言えば人身売買の商品たちの事である。

 普通に考えるのなら、人身売買なんてものは旧暦の奴隷制度となんら変わりなく、世が世なら相当なリアクションを受けること間違いなしである。だが、しかし。暗黙の了解で、この制度は公的に認められている。

 

 そもそも、人類が宇宙へと進出した結果、年代を重ねるごとに孤児の数が増加し続けたのだ。地球や火星と違い、生身で放り出されれば即死な宇宙空間を往来する商船団。それを狙う宇宙海賊―――つまり海賊は増加の一歩を辿っている。海の海賊は完全に駆逐されているといってもいい。

 

 海賊連中は獲物を襲うと幾つかのパターンに分かれる。

 一つは積み荷だけを奪う穏健派。次に老若男女問わず皆殺しにして船も何も奪う過激派。現在の主流である選んで殺してすべてを奪う連中だ。

 

 ここで俺の借金生活につながる。兎にも角にも、経営と言うのは維持費が掛かる。高度な機械関係を扱えば扱うほどに上昇し、使用したとなればさらに上乗せされる。

 ギャラルホルン一強の現在、傭兵稼業の相手は民兵組織かギャラルホルンの幹部連中の縁故、海賊の用心棒、民間の用心棒ぐらいしかない。経済圏は戦力の拡充を図るとギャラルホルンに干渉されるため、そっち関係のアグレッサー―――仮想敵兼教導隊の仕事はない。

 

 で、戦う相手はと言えば海賊相手か同業者相手である。宇宙を中心に活動する傭兵は必ずモビルスーツを保有している。モビルスーツ同士がぶつかれば弾薬、装甲、推進剤などが消費される。その額は割に合わないこともしばしばだ。

 

 

 

 

 

 

「賠償としてもらい受けてな。火星に来る途中で、裏ルート経由だった。そこをブルワーズって武闘派と交戦し、隊長機を戦闘不能にしたんだ」

 

 

 あのカマ野郎は口汚いし、雇い主は豚と人間が合体したミュータントかと思った。なんて告げれば吹き出す奴もいた。オルガが先を促すように咳払いをする。

 

 

「殺さなかったのか?」

「生き残るのを優先した。オーガスと同様の阿頼耶識使いだった」

 

 

 当然の帰結として、積み荷と船程度では儲けが少なくなる。その結果、小遣い稼ぎに子供や若いのを捕まえて市場に流す。

 この世の中、それが当然なものとして行われている。記録上、死亡していて人権もない。表も裏も使い勝手がいい消耗品として。

 

 

「最初は売り払おうかとも思ったが、前例付きは碌な目に合わん。多少の整備もできるようだから仕込んで働かせてるんだよ」

「…………壱番組みたいにか?」

「そんなことはしない。二束三文で殺しに行くクズだが、雇ってる連中を蔑ろにするほどのゴミクズじゃあない」

 

 

 5人ぐらいいるから、食費や給料で出費がががががが……!! おのれ借金取り、俺のアイリーンちゃんへのプレゼント代まで奪っていきやがる!!!

 

 

(すごい顔してるね)

(血涙まで流すぐらいなのか?)

(ものすごい痙攣してるじゃねぇか)

(火星ヤシうまい)

(三日月、お前な……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………なんかどうでもよくなってきた」

「よくねーよ!? アンタ、本当に経営者としての自覚があるのか?!」

「正直、雇われのほうが楽だって思ってる。けど金は欲しいから自営業になった。反省してるし後悔もしてる」

「数分前の自分を殴りたい……」

 

 

 ビスケットの嘆きに俺も同意しちまう。真面目なのか不真面目なのかわからねぇ。そんなだからペースを乱される。ただ、阿頼耶識のピアスが妙にチリチリする。こういう時は注意しねぇと、後で厄介なことが起きる。

 

 

「とりあえず、上の連中に……? 待てよ。アンタ、船持ってるのか?」

「持ってるぞ。ビスコ―級の中古だ。さすがに民間船を利用するのは避けたい」

 

 

 ――――あ゛……!!

 

 

「ビスケット!!!」

「な、なに!?」

「船だ。CGSの船はどうなった!?」

「! デクスターさんに聞いてみる!」

 

 

 気づいてよかった。マルバの野郎が持ち逃げしてたりでもしたら……!

 

 

『団長はいますか?』

「急にすみません。船について何か分かりましたか?」

『今のところ大丈夫のようです。おそらく、マルバが骨とう品や貴金属類の換金に手間がかかっているのでしょう。足がつけばギャラルホルンに捕まる可能性も捨てきれませんから』

 

 

 安心したら、少し気が抜けちまった。

 画面越しのデクスターさんに礼を告げて、前を向く。

 

 

「うっかりイツカ団長だなwww」

「その呼び方はやめてくれ! えー、うん。船の目途はついた。強襲装甲艦ならアンタのモビルスーツも載せられる」

「俺の船をここに置いて行けってか?」

「いや、一緒で大丈夫―――すまねえ。まだお嬢さんに話をつけてなかったな」

「それ以前に上の連中に話もしてねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タブレットの電源を入れて、俺のビスコ―級グリコの艦橋を呼び出す。何度かのコールでこの一か月ぐらいで従業員になった生意気そうな顔の子供が映る。

 

 

『やっと連絡が来た。遅すぎやしませんか』

「ちょっとドンパチして、監禁されて、少年兵に囲まれてたら遅れた」

『いや、何で平然としてるんだよ? 普通はもっと焦るだろ?』

「お前らに囲まれた時もこんな感じじゃなかったか?」

『………そういやそうだったな』

 

 

 顔に大きな傷を持つ子供、アストンだ。比較的、早くに打ち解けてくれたブルワーズからの戦利品その1だ。

 

 

『で、何の用です? 食料の買い出しは終わってますけど。あと、借金の督促がすごいです』

「督促は着信拒否にしておいてくれ。振りじゃないぞ」

『やめておいたほうがいいですよ』

「何故にWhy?」

『それはもう船にいるからですよ、不良債権』

 

 

 ――――――………よし!

 

 

「くっ、LCSの調子が―――通信がー!」

『差し押さえ』

「急に調子が良くなったなー、チクショウメェェェェェェエ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

『どうもオルガ・イツカ団長。私、投資家のエンマルク・ドルポンドと申します』

「はぁ」

 

 

 とんでもなく胡散臭い男が猫なで声で俺たちの前に出てきた。

 画面越しだってのに寒気が止まらねぇ。

 

 

『そんな怯えなてちゃあいけませんよ』

「なんのこったよ」

『まだまだ若いですねぇ。表情に出てます。私程度の人でなしに怖気づいてしまうのなら、クーデリア嬢を護衛するなんて夢のまた夢だ』

「言ってくれるじゃねぇか……!」

「俺たちじゃ役不足だってのか!?」

 

 

 にやけ面をしながら耳を抑えるその態度。気に入らねぇ!

 

 

『そうやってすぐにカッカしちゃうところですよ。ウェイスト君。君は私のことを教えてないのかい?』

「まだだよ。畜生、こんなところまで来るなんざ想定外………」

『ほんとに不良債権だね君ってやつは。おほんっ………こんな自己紹介は嫌いなんですが、これでも地球圏と圏外圏を含め五指に入る資産家ですよ』

「んな法螺話を信じられるわけが………」

「マジだぞ」

 

 

 マジな顔のウェイストさんが神妙な顔をして告げる。

 曰く、火星の土地全てを購入して有り余る財産を保有している。

 曰く、ギャラルホルンのセブンスターズって奴らが無下にできないほどの金持ち。

 曰く、曰く……etc.

 

 

「―――マジかよ」

「火星土地、全部買える?!」

「金あり過ぎて、経済圏から泣きつかれたから金貸しを趣味で営んでんだよ」

『大まかな紹介ありがとう。少し誇張表現が――――――少なすぎますが』

「「「「アレでか!?」」」」

 

 

 もっともっと驚きたまえ若人諸君と札束片手に飄々としているが、とんでもなぇのに喧嘩売っちまったのか?

 

 

『この程度、怒るほど狭量ではないですよ、オルガ・イツカ君。それより、ウェイスト君』

「いやね? 今交渉中でして、お嬢さんの護衛につけるかの大事な―――」

『鉄華団の外部顧問の仕事を受けなさい。利子の支払いも滞っているんですから。大体ですね、君の立場で仕事を選ぶなんてのはだね―――――』

 

 

 

 

 

 ――青年、説教なう――

 

 

 

 

 

 

 

『わかったかね不良債権』

「―――」

『ちょっと自殺に追い込むぐらいの嫌味でこれとは。情けない。君たちもだ』

「流れ弾が痛い……!」

『ギャラルホルンに喧嘩を売るんだからね。これぐらい流せないと経営者なんてなれないよ』

 

 

 やっぱマルバってすごかったのか?

 

 

『マルバ・アーケイは凡人でしかない。コネ作りはしっかりとしていたけどね。あと、顔に出過ぎ』

「すんません」

『すんません、じゃなくて、すみません。言葉遣いもちゃんとしなさい。上が礼儀知らずなら下も礼儀知らずととられるよ』

 

 

 そういやマルバも敬語ぐらいは使っていた。やっぱ学が無いとダメなのか?

 

 

『学ぶ気さえあれば取り戻せるよ。で、そこの不良債権の代わりに鉄華団への外部顧問引き受けの手続きを受けようと思います』

「本人の了承は?」

『不良債権に人権なんて存在しないんだよ。イ・ツ・カ・君』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと皆様、お聞きくださいませ! (わたくし)の与り知らぬところで勝手に契約が結ばれていたでござりまする。

 当方、これには如何ともしがたく――――

 

 

『やりなさい』

「謹んでお受けいたします」

 

 

 借金取りには勝てなかったよ(びくんっ、びくんっ

 

 

『では報酬はその通りでお願いします』

「あ、ああ」

 

 

 報酬? ちょっと待てや。てめっ、なんで俺を憐れんでいやがるよ?!

 

 

「すまねぇ。整備代は請求しないからよ。ホント………なんかすまん」

「――――嘘だと言ってよ、だんちょー」

「俺は……無力だ……!」

「オルガは頑張ったよ。頑張ったんだ。だからもう……!」

 

 

 ロハでやれってことですね。マジかよ。こうなったら!

 

 

『モビルスーツの売買ならすでに話はつけてありますよ』

「ジーザス! ファッ〇ン、クライスト!!!」

『今月の分と滞納分も引きましたが残ってますよ。君の取り分の数%ですが』

 

 

 神は死んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壱番組のいない清々しい朝飯だと思っていたら、胸焼けがするぐらいに濃い時間だった。

 目の前で望陀の涙を流す貧乏傭兵(ウェイスト)を見ると、寧ろコイツで大丈夫なのかと訝しんんじまう。あのうさん臭いおっさん曰く、腕と勤務態度にコネは保証すると太鼓判を押してたが、どうにもなぁ……?

 

 

「おのれぇえええ」

 

 

 どう考えても凄腕には見えない。コネが作れるほど魅力があるとも思えない。

 エンマルクから案内役はテイワズのタービンズを紹介してもらえって言われたがそんなことできるのか?

 

 

「アンタ、ホントに使えるのか?」

「あん?」

「エンマルクさんの一件からどうにもアンタがすげぇ奴には思えなくなっちまった。強いんだろうけどよ」

「そりゃあな。三日月なんかに比べたら…………まぁ、今は俺のほうが強いな」

 

 

 今は……ねぇ。

 

 

「殊勝だと思ったろ? プロは自分の実力を正しく理解して初めて一人前だよ。今は俺のほうが経験値があるが、地球につく頃には逆転してるだろうな」

「へぇ……。修羅場があると思うか?」

「あるだろうさ。火星のマスドライバーは何基かあるがハブ宇宙港は一つしかない。十中八九、ギャラルホルンは監視してるだろう」

 

 

 鋭い目つきで空を睨む姿は、さっきまでの情けない姿を完全に払しょくしていた。

 

 

「それはそうと三日月は?」

「ビスケットやお嬢さんと一緒に桜農場にバイトだ。ビスケットの婆さんがやってんだ」

「………農場、ね」

 

 

 ―――こんな赤い大地でも、植物は育つのかー。

 赤い大地以外を知らない俺はどう返事をすればわからなかった。ただ、何かを懐かしむような横顔が強く印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 ――地球から統制局の特務士官がやってくる。

 

 ギャラルホルンのパイロット。クランク・ゼントとアイン・ダルトンに懐柔と尋問を行ってきたときに告げられたものだ。

 統制局も何も知らない俺たちは顔を見合わせていた。

 

 

「ギャラルホルンの監査官だよ。内にも外にもな」

「監査ってことは給料の査定ってやつか?」

「不正を行っていないかの捜査だ。火星独立運動の激化。それに伴う、ノアキスの七月会議でのクーデリアか」

「その通りだ。我々はクーデリア捕縛のため、ここへ攻め込んだ」

「で、少年兵の虐殺に加担しかけた」

 

 

 少年兵相手に戦うのがそんなに辛いのか?

 

 

「子どもは大人たちに守られるべきだ。私はそう在る為にギャラルホルンに入隊したのだ。だというのに……!!」

 

 

 なんかズレてるな、このおっさん。

 

 

「じゃあどうする? ギャラルホルンに戻って、特務のお偉いさんに訴えるか?」

「そうするしかあるまい。権限はコーラル司令よりも上位だ。私が必ず、君たちに累が及ばぬよう交渉して見せる」

 

 

 でもお偉いさんだろ? 地球育ちの。

 

 

「………確かにそうだが……」

「そんな奴らが火星の人間に配慮するとは思わねぇ。それによ―――」

 

 

 アンタが俺たちのことを知らなかったってのに、もっと知らねぇ奴が俺たちを助けてくれるなんて思えるか?

 

 

 

 

 






 次はすっ飛んで、火星軌道会戦となります。じゃあ、説明するヨッ!



【エンマルク・ドルポンド】
 本作オリキャラその3。その2はレッドが潰したカミラと呼ばれた女性パイロット。
 人類の生息域すべてを合わせて五指に入るほどの資産家であり、投資家。ギャラルホルンだろうが経済圏だろうがテイワズ、タントテンポであろうと無視できない存在。あまりの資産の多さに投資を道楽に生活している。
 ただし、借り逃げは絶対に許さない。やったらデブリの仲間入りする。

 イメージはパトレイバーの『リチャード・(ウォン)
 名前は円・マルクとドル・ポンド。前者が枢軸国=圏外圏で後者が連合国=地球圏だったりする。

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