鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて 作:カルメンmk2
オリキャラとオリMSが出ますんで解説がついています。
――イーリス・ステンジャ。ステンジャ家史上、もっとも才覚と美貌ありと言われ、カルタ・イシュー司令に姉妹の契りを求められた才女……ではなく、女傑だ。
――オーリスよりも才能があり、カリスマがある。だが、無類の戦狂いにして騎士道精神にあふれる存在でな。淑やかに育てられるはずがすさまじいアマゾネ―――ちょ、やめろ! これでもボードウィン家の当主―――アイン、助けアーッ!!?
旧セブンスターズ・ボードウィン家当主 ガエリオ・J・ボードウィン
火星の衛星軌道上に存在するハブ宇宙港を眼前に見据えながら、壮年の男性、クランク・ゼントは我ながら厚顔無恥な男だと思っていた。
予期せぬモビルスーツとの交戦により、教え子であり、部隊長であったオーリス・ステンジャとカミラ・ヴィンセントを失った。
挙げ句、僚機のアイン・ダルトンとともに傭兵に捕らえられ、わずかな間ではあるが捕虜の辱めを受けることとなった。
(俺も他と変わらなかった、ということか)
捕虜となった彼らに待ち受けていたのは少年兵から憎悪と傭兵からの懐柔だった。
当初は今ならまだ間に合うと尋問に来ていた少年らに言い聞かせ、同行する傭兵にも口添えを頼んでいた。しかしそれは善意の押し付けだった。
――アンタにそんなことが出来るようには思えない。それに仲間がいっぱい殺されて、それを我慢しろっていうのは納得できない。
――俺たちはもう覚悟を決めてる。自分たちで生きていく。俺たちの為にだ。
三日月という、オーリスを殺したモビルスーツのパイロット。このCGS―――今は鉄華団と呼ばれる組織の長となったオルガ・イツカの決意だった。
クーデリアの命と引き換えにと言ったが、よくよく考えてみればクーデリアもまだ子供なのだ。
(子どもの命を子供の命で賄わせる。なんて独り善がりな正義感だ)
彼らの決意は変わらないと理解し、そこから数日後には解放された。
ギャラルホルンの地上支部まで送られ、その気があるならここに連絡しろと名刺も渡されている。
「………クランク二尉」
「アイン。俺はもう軍属じゃないんだ。だが、お前は良かったのか? ダルトンの家に傷をつけて……」
「構いません。母はすでに他界してますし、父は地球出身の
「……すまん」
「いいんです。自分はクランク二尉―――じゃなかった。クランクさんについていきます!」
「ついていくんじゃない。肩を並べて共に行くんだ」
「ッ、はい!」
☆☆☆―――――☆☆☆
『――――信用できるのか?』
「今後次第だろう。少なくとも虐殺や子供への暴行。いわゆる悪事と思われることをしなければ叛意は持たないさ。それに警備や護衛を生業にするなら憶えておけ。昨日の敵は今日の僚機ってな」
モニター越しのオルガ・イツカがこっちの
彼の組織、鉄華団は複数に分かれた民間シャトルで鉄華団はハブ宇宙港―――方舟へ向かっている。積み荷の関係上、貨物用シャトルを利用せざるを得ず、そのシャトルは乗員も少なかった。
俺たちは出発の二日前にモビルスーツとともに宇宙へ上がり、借金取りが待つビスコ―級グリコで機体の調整を行っていた。
「信用しなきゃ信用もされねぇよ。相手にもよるがな」
『言ってる事矛盾してねぇか』
「疑うことが評価の対象って捻くれも存在するってことだ。あ、俺は信用されるとバッチコーイ!な奴だからよろしく」
『気には留めといてやるよ』
あ、切りやがったし。ホント、可愛げの欠片もない…………あんな厳ついのが「お兄ちゃん」とか「期待に応えるよ!」なんてしてきたら吐くわ。むしろ引導を渡してやるわ!
とはいえ、今後の筋道を再確認しなければならん。
『なんだよ?』
「最後の打合せに一方的に終わらせる奴がいる―――ああ、お前だったか」
『アンタ、人に喧嘩売るのがうまいって言われたことないか』
「わったるさ嫌味だもの。それで首尾は?」
『………予定通りだ。オルクス商会の案内でいく。トドの野郎が仲介したっていうが、な』
「了解した。こっちは出るぞ」
『頼む』
任せろ、と言う前にあのアホ毛切りやがった。まったく…………おーい、デルマぁ。
「なんですか?」
「ハンマーヘッドが居るって本当か?」
「そうみたいですよ。あのおっさんが送って来てもらったとか言ってましたし。何か問題でも?」
「いやな? 世話になったことがあるし、姉貴には頭が上がらないからよ」
わからないような感じだが、何年か世話になっていたからな。姉貴仕込みの操縦スキルが無かったら、とうの昔にお陀仏だった。
ただ、疑問なのはどうして火星にとどまっているかってことだ。
「船の位置は?」
「カメラで拾える距離、かな? 近いとも遠いとも言えないぐらいだと思う」
「………待ってるのか? けど、ドルポンドさんは一緒に乗っているし……」
噂をすれば影とはこのことで、丁度、ドルポンドさんが
「べたべたの手で触らないでくださいよ。掃除するのペドロやビトーなんですから」
「いやあ、こういうジャンクな食べ物って食べられなくてね。それよりも何か用かい? ああ、聞きたそうにしてるからだよ」
「いえね? ハンマーヘッドが近海に停留してるんですよ。こちらに来る時に利用したとか?」
「行き帰りを頼んだけど、君を捕まえられたからね。もう断りは伝えてるよ? 何なら聞こうか?」
「ついでに道案内なんかもお願いします」
「借金に追加しとくよ」
「そこはタダにしてくださいよ(泣」
☆☆☆―――――☆☆☆
結論を言えば、ハンマーヘッドには厄ネタが乗っていた。
CGS――今は鉄華団と呼ばれている組織の前社長、マルバ・アーケイが乗艦していたのだ。
『知らない仲でもないからよ。昔の
「勘弁してくださいよ色男。もげて破裂しちまえ色男」
『はっはっは。男の嫉妬はみっともないぞぉ。そんなんだから女の一人も捕まえられないのさ』
「キャバクラのアイリーンちゃんは借金返し終わったら結婚してくれるって言ってました」
『…………』
「そんな目で見るなぁああああああ!!」
畜生、畜生!バカヤロォオオオオ!!!
『ドルポンドさん。どこか、いい娘でも紹介していただけませんかね?』
「彼の勢いについていけるお嬢さんがいるとでも?」
『地球の女じゃ無理か。かといって、タービンズの奴らは…………』
「中古の船が買えるぐらいの借金持ちだけど?」
『――――逃げないように捕まえといてください』
「ならアミダ君やラフタちゃんたちの準備をよろしく。この後戦闘になるからね」
☆☆☆―――――☆☆☆
――――まずは一つ。
『やっちまえ、ミカぁあああああ!!』
「うん。わかったよ、オルガ」
俺たちは
「宇宙でこんな大きいの撃ったことないな」
オルクス商会の強襲装甲艦の陰から出てきたモビルスーツ……
「ライフルの撃ち方じゃダメだ。船外活動するみたいな感じでいいかな」
なんか変な感じがする。暑い日差しの中で上着を脱いだような感覚。地上ではどうでもなかったけど、宇宙に出たらチリチリする。
どんな風なら飛べるか? 多分、こんな感じだ。
「ん……もう少し、こう、かな」
ジャンプするんじゃなくて、蹴って飛ぶ感じだ。船内で移動するような感じ。それにスピードが乗っている感じだ。
当たらなかった攻撃も、5発目ぐらいから当たるようになった。気に入らない人から教えてもらったやり方より、こっちのほうがやりやすい!
「じゃあ、次―――」
『ミカ! 食いつかれた! こいつをぉおお!!?』
「オルガ!?」
グレイズがオルガの乗ってるシャトルにアックスをたたきつけようとしている。俺じゃあ――間に合わない!?
「オルガァアアアアア!!!?」
『くそったれ!ここまでかよ……!?』
『死ねぇ! この火星の野人ども゛お゛ッッッ!?』
どこからか飛んできたでっかい棘がグレイズのコクピットを潰した。
その棘は真っすぐに持ち主のもとへ戻る。赤いモビルスーツ。動いているのを見るのは二度目だ。
「ッッッ! アンタ、遅すぎるよ……!!」
『遅れた分は取り戻させてもらうさ。こっちは任せろ』
「頼んだ」
俺はオルガに言われた通りのことをするだけだ。アイツらを殺る。殺っちまえって命令されたから。仲間を守る為にも容赦なんてしない。
☆☆☆―――――☆☆☆
三色の鋼の巨人たちが火星の空を駆け抜けている。白い巨人は跳ねるかのように、人の様にステップを刻む。青い巨人は群体として形を作る。赤い巨人は両腕を伸ばし、まるで魚の様に泳いでいた。
「見たことのないモビルスーツが二つ。ヘキサでもロディではない。グレイズやゲイレールの体格に近いな」
赤い巨人がその腕を大きく振り回し、同時に機体も回転させて友軍のグレイズへ叩きつけている。
モビルスーツの腕程度では大したダメージに等ならないが、両腕に取り付けられた巨大な棘―――。
「この距離からではわからないか?」
シャトルを狙ったグレイズの胸部装甲を突破し、深々と突き立てられた棘。いや、杭とも呼ぶべき武器。ガエリオのシュヴァルベが装備するランス並の大きさだ。
「新たに画像、入りました」
「頼む。それとリアクターの照合は?」
「白い方はまだですが…………! 来ました。赤い方です」
「…………Virsago?……ヴァーサゴ……ウァサゴ? いや、ヴァサゴか?」
ギャラルホルンのデーターベースからには、それがかつて自軍に存在した機体であること見受けられる。300年以上も前のことだが。
ガンダムフレーム――――ヴィーンゴールヴに奥底に鎮座するギャラルホルンの象徴。あの機体と同じ、厄祭戦を終結させた強大な力の化身たち。そのうちの一つ。
「かつてはギャラルホルンの始祖たちと轡を並べた英雄が、今となってはギャラルホルンに立ち向かうか」
しかし腑に落ちん。もう一機は照合中であるのにこれだけはすぐに出てきたのだ? ふむ……。
「―――なるほど。
しまったな。今後に使えるかと考えていたら、他の機体がやられている。
「ガエリオは?」
「ボードウィン特務三佐はすでに!」
「わかった。残存する友軍に二手に分かれてこちらを援護しろと通達してくれ」
「了解!」
さあ見せてもらおうか。厄祭戦を終わらせたガンダムの力、というやつを……このマクギリス・ファリドに!
☆☆☆―――――☆☆☆
おそらくは火星支部の保有する機体の大半は沈めたと推測できる。
連携の取れたグレイズ三機を丁寧かつ迅速に仕留めつつ、現状の把握をレッドは努めていた。
「シャトルは―――ったく、オルクスの船か!」
シャトルにナノラミネートは施されていない。一日に何度も宇宙と地上を往還する機体に、ナノラミネートは割が合わない。強襲装甲艦の砲撃一つで綺麗な爆炎を割かせることになる。モビルスーツも艦砲クラスの実体弾の直撃には余程の装甲厚がなければ耐えきれない。
「スピード上げて、祈っとけ! 俺が引き付ける」
『任せた!』
レッドの駆るモビルスーツ、ガンダムフレーム・ヴァサゴは正面から見れば普通のモビルスーツと何ら変わりはない。しかし、戦闘態勢に入ったとき、その姿は大きく変わる。
「そぉらよッ!」
機体の全長並みに伸びた腕がオルクスの船の対空火器へ向かって撃破したグレイズのアックスを投擲した。
速度は銃より遅く、爆薬も積んでいない。だが、その質量は艦砲の砲弾の数十倍。そこに体をコマのように回転させた遠心力も含めて投擲する。
その破壊力は対空火器を割り砕き、沈黙させる。
あまりにも大きい一撃に恐怖したのだろうか。あるいはモビルスーツ如きが戦艦に手痛い一撃を与えたことに脅威を抱いたのだろう。シャトルへの砲撃を中止し、ヴァサゴへと砲火を集中させたのだ。
数発に一発の割合で混ざる曳光弾。そのバカみたいな数がヴァサゴへ集中していく。
「ッ! イサリビは!?」
「見えた! 直上だ!」
ヴァサゴもイサリビに気づいていたのだろう。オルクスの船と大きく距離を開け、その間をダイブするようにイサリビが通過していく。
「あの野郎! イサリビを盾にしやがった!! 弁償しろコノヤロー!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、ユージン! 皆、乗り移る準備して!!」
「弁償しろバカヤロー!!」
当然のことながら、オルクスの船はとにかく近づけないように遮二無二撃ち続けていた。そうなれば自ずと火線へと割り込んだイサリビは大なり小なりの砲火にさらされる。
「マジかよ!!?」
「ほとんど対空火器だから大丈夫だけどよ! どこかに捕まれぇぇえええ!!」
「俺はこんなところじゃ死なねぇぞ! そうだよな昌弘ぉおおおおおお!!!」
「昭弘うるせぇ!! つーか、捕まってろ!!」
「昌弘ォオオオオオオ!!!」
「五月蠅ェ! 黙ってろ!!」
☆☆☆―――――☆☆☆
煙を上げながら下へと進んでいくイサリビを尻目にオルクスの船へ接近戦を仕掛ける。
戦艦のエイハブリアクターに紛れ込ませるため、スラスターを最大で噴射。リアクターを停止、噴煙に紛れて船の上部へと流れつく。
「ほら、よっ!」
武装する船に共通することとして、それぞれの砲座は同士討ちを避けるために射角や旋回に制限を設けている。強襲装甲艦はギャラルホルンの保有するハーフビーク級や旗艦クラスのスキッパージャック級と違い、分厚い弾幕は張れないようになっている。代わりとして、主砲がレールをスライドして直上や直下に撃てる。対空砲は左右上下に二つの四門。計八門を備えている
今回はすでに潰した上部対空砲の一つを大型クローで串刺しにして止める。
『モビルスーツに取りつかれました!』
『対空砲! 何やってんだ!? 撃ち落とせ!!』
『射角が取れません! 各砲座の陰に隠れてます!』
『なら振り落とせッ』
思ったよりも冷静らしい。ならばと推進部に大型クローを向ける。
ミサイルを発射したような音とともにクローは青い炎を吹き出す、艦船クラスのエイハブスラスターの一つを潰した。
すると、振り払おうと速度を上げていたことが災いし、船体のバランスが崩壊、質量と速度があり過ぎるため迎撃にも力を入れられず、激しい挙動を全力で制御しつつ離れていった。
「もう二度と帰ってくんじゃねぇぞー」
致命傷には至らないだろう。中身はミキサーにかけられたような酷い状態にあるかもしれないけど。
戦闘中でもあるし、他の奴の援護向かおうか。
「さて……オーガスは―――!!」
酷い悪寒が背筋を駆け走る。直感でスラスターを吹かし、コクピット守るように大型クローを盾にする。
刹那、モビルスーツぐらいの何かが俺の居た位置を通過していった。それだけでは飽き足らず、火星の地表に向かっていたのを急上昇で戻ってくる。
「この速度……シュヴァルベの特務仕様か!?」
リッタータイプを除けば、超高性能のシュヴァルベ・グレイズ。ただでさえ推力や反応速度、追従性を強化したせいでエース級が運用する。いわば、ギャラルホルンのフラッグ機。
特務仕様はそんなシュヴァルベに追加ブースターと簡易の脚部変形機構を備えた―――
「シュヴァルベ・リッター!」
『ほう、我が一撃を交わすか!』
「女の声?」
ギャラルホルンで有名な女性士官と言えば、地球外縁軌道統制統合艦隊ブリーイッドのカルタ・イシュー。アリアンロッドのジュリエッタ・ジュリス。あとは―――
『我が名はイーリス! イーリス・ステンジャ! 愚弟の不始末をつけに参上し仕った! いざ、覚悟ッ!!』
これは火星から旅立つのもマズイかもしれない。
俺は援護を諦めて、眼前の女騎士と対峙した。
女性には言葉遣いを用法容量守って正しく使い分けましょう。解説デッス!
『イーリス・ステンジャ』
ステンジャ家史上、最高の才能と美貌を備えた女性士官。家系では次女にあたる。
兄弟に上からコーリス、オーリス、ローリスがおり、そのいずれもがギャラルホルンに所属している。ある意味では軍人家系ともいえる。
その美貌故、淑女として育て上げて、セブンスターズに嫁がせる予定だったがどこで間違えたか無類の戦狂いして騎士道精神溢れる
『シュヴァルベ・リッター』
シュヴァルベ・グレイズとグレイズリッターを掛け合わせた、特務仕様のグレイズ。リッター自体、【地球外縁軌道統制統合艦隊ブリーイッド】にのみ配属される機体だが、艦隊司令のカルタの強権によりイーリスへ支給されている。
騎士道精神あふれる素晴らしい機体だとし、シュヴァルベのブースターにボードウィン家秘蔵のガンダムフレームのオプションパーツを増設。結果として、最悪の燃費とリアクターの慣性制御をもってしても狂気とされる速度を手に入れた。
『地球外縁軌道統制統合艦隊ブリーイッド』
月外縁軌道統制統合艦隊アリアンロッドの対となるギャラルホルンの主力艦隊。詳しいことはWikiで調べてね?
ブリーイッドはアリアンロッドの別名であり、同様の組織から生まれている点からつけられている。ぶっちゃけ、作者が変換のめんどくささにとって付けた口実なのは秘密だよ!