鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 今回のお題は『世の中早々上手くはいかない』
       『察してくれは通用しない』
       『評価と失望とは相手が勝手に抱くもの』です。







 ――ウェイストさんのこと? うーん……破天荒と言うか、シノと気が合うようで合わないというか。よくわからない人かな?
 ――あ、でも一つわかることはあるよ。俺たちが鉄華団を作ったときから一度だって裏切らなかった優しい人。いや、人たちだったよ。


 鉄華団直営グリフォン重工 CEO ビスケット・グリフォン




火星衛星軌道会戦 ~逆襲のギャラルホルン~(解説付き)

 気に入らない人(ウェイスト)の言っていたモビルスーツとは違う敵が出てきた。

 速度、反応、対応力、追撃。そのどれもが近接されたグレイズを超える高さだ。

 

 

「チッ……結構、正確だな」

 

 

 相手にしたグレイズと微妙に違う青色。右手にデカい角みたいなのを取り付けた紫色。連携が取れていてやり辛い。

 キャノン――後で聞いたら滑空砲とか言ってた――で狙うにも、紫色にマガジンを撃たれて爆散。昭弘が投げてくれたメイスで狙う。

 

 

『俺のシュヴァルベに追いつくか!!?』

「これじゃ無理か……!」

 

 

 速度は互角だけど、叩きつけるときにバランスを崩しそうだ。パイルバンカーもこの距離じゃ避けられる。

 けど、こっちは動き方で勝ってる。やりようは―――

 

 

「ある……!」

『速度が互角ぅ! なのに接近戦に持ち込まれるということは! 俺が! 遅いということかぁッ!!』

「捕まえたッ!?」

『その声!? マクギリス!』

『勘のいい……そしてあの動き………阿頼耶識か』

『それだけじゃない』

 

 

 チッ…………合流された。上手く誘導されたな。

 

 

『あの畑の奴だ。宇宙ネズミめ』

 

 

 ネズミネズミうるさいな。

 

 

『ガエリオ。その言い方はやめろ』

『ヒゲ付きだぞ? 自分の体に機械を埋め込むなど……人のすることではない。そんな奴は人間ですらないッ』

『そうでもしなければ生きていけない。それが火星であり、今の世界だ』

『だがな!?』

 

 

 ぺちゃくちゃうるさい。死ね………!!

 

 

『っく………大人しくしていればいいものを!!』

『この話はあとだ。今は彼を止めよう』

『言われずともそうするさ!』

 

 

 少し苛ついているんだ。今度こそ仕留めてやる…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「速度を上げろ! 振り切れ!!」

「ダメだよ! 高度を下げた分、速度も落ちてるし、何より被弾個所を庇いながらなんだよ!?」

「くそったれ! マルバの野郎、モビルワーカーの整備どころか船の整備までケチってやがったのかよ!!」

 

 

 ハーフビーク級に上を取られ、俺たちは火星の衛星軌道をひたすら走り続けるしかなかった。

 それもこれも被弾した箇所が冗談にならないぐらいの被害が出ているせいだ。つまり、ウェイストのせいだ!

 

 

「ミカは!?」

「ずっと後ろ! モニターには出せないよ!!」

「手元のほうに回してくれ。ウェイストはどうした? ケジメをつけさせなきゃ気が済まねぇ!」

「待って―――三日月のもっと後方で交戦中。これは………早すぎる!? 船と同じ速度が出てる!」

 

 

 使い方なんざロクに知らねぇぞ、こんなの! えっと……これか! 最大望遠、二対一と後ろでジグザグにやりあってるのがウェイストだな!?

 昭弘はどうした?

 

 

「外で予備の滑空砲で応戦してる。けど、そんなに当たってない!」

「資源衛星接近! このままじゃぶつかるぞ?!」

「回避したらせっかく上げた速度が台無しになる!」

「じゃあどうすんだよ!?」

 

 

 考えろ! 考えるんだ、オルガ・イツカ! この仕事を完遂して、真っ当に商売して生きていけるようにする大事な一歩だろ!! 手はないか? 何か……――――

 

 

「じゃあなんだ? 衛星をアイツにぶつけるか?! 質量差でそんなことできないだろ。逆にこっちが振り回されちまう!!」

「! 待て! チャド、今なんて言った?!」

「え、いや……衛星をぶつけるのかって……」

「…………ダンテ! アンカーは打てるな?」

「打てるけどよ。ギャラルホルンに向かって打つのか? 撃ち落とされるだけだ」

 

 

 そうじゃねえ。俺の考えが成功すれば―――イケる!

 

 

「衛星に打ち込むんだ。衛星と船の質量差でスイングさせて、そのまま切り返す。安定したら全速で逃げるんだ」

「……確かにできる。けど………三日月はどうするのさ?」

「ミカなら大丈夫だ。最悪、ウェイストの野郎に回収してもらえばいい」

「―――やってみよう」

 

 

 ビスケットも腹をくくったみたいだな。準備しろ!

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今……猛烈に滾っているッ!

 

 

「はっはっは! 実に巧いじゃないか、貴様!!」

『こんなん聞いてないぞ?! なんで戦乙女(ブリュンヒルド)が火星くんだりまで来ている!?』

 

 

 この赤いモビルスーツのパイロットのせいだ! この玄人好みの戦い方ァ! 最小限の姿勢制御で我が突撃をいなし、すれ違いざまにコクピットを狙うだけの技量と容赦のなさ!!

 何より勇ましいッッ!!

 

 

「愚弟の顔を見にやってきただけのこと! まさか死んでしまうとは思わなかったが……情けない!」

『家族に言う言葉かよ!!』

「我が家系に弱者を嬲って悦に浸る愚者など不要ッ!! 死んでなくとも、私自らが引導を渡してくれよう!!」

『この戦狂い(ウォーモンガー)がぁッ!』

「誉め言葉と受け取ろう!」

 

 

 推力の差で常に間合いが開くが、この機体構成の都合上、自らを質量弾として突撃することこそモビルスーツを一撃で仕留められる手段だ。

 

 

「自ら来るか! 面白い!!」

 

 

 赤いモビルスーツのパイロットめ。思い切りのいいことをする。軟弱者のオーリスに詰めの垢でも煎じてやりたかった。

 しかし――――

 

 

「単なる突撃? カウンターか?」

 

 

 如何にナノラミネートやレアアロイで構築されていようと、この相対速度と質量を腕のフレームで抑えきれるはずもない。何か仕掛けがあ――!

 

 

「なんと!?」

『外したか……!』

「なんたる胆力!」

 

 

 自らを盾にして右の杭を隠すか。これ見よがしに左を構えていたから、システムの予測に従えば危うかった。

 しかし、この相手に正攻法は…………作戦宙域からも離れすぎたか。

 

 

「ならば……!」

『変形解いて、殴り合いか!? なめんなよ!』

「仕切り直しだ!」

『がッ―――ッ?!――――』

 

 

 整備班泣かせのキックだ。純粋な人型形態はこういったAMBAC(アンバック)とスラスターを利用した急制動を可能とする。

 

 

「今の一撃、申し分なし。そのまま串刺しにして強襲装甲艦に張り付けにしてやろう!」

 

 

 咄嗟の判断で制動をかけたのは評価に値する。悲しいかな、完全には衝撃を殺しきれなかったようだ。

 近年稀にみる強者との戦いの余韻を感じ入っていると、赤いモビルスーツはすぐ目の前にいた。

 

 

「さらばだ。名も知らぬパイロット。貴殿のことは死んだあとに我が魂に刻もうッ」

 

 

 ―――ランスがコクピットを突き刺す瞬間……私は言いえぬ悪寒に見舞われた。

 悪寒から逃れるため左右へと揺れ動くが――

 

 

「くっ………!」

『おや、避けたのかい? 仕留めたと思ったんだけどね』

「何奴か!? 戦いに横やりを入れるなど………!!」

 

 

 大口径の火砲が私を的確に追い詰めていく。あのまま進み続けていれば背部のスラスターか増設のプロペラントに直撃し、撃墜されるところだった。

 私は戦いの邪魔をした下手人へ騎士の鉄槌を下そうと射点に向き直る。

 

 

「なっ?! その機体、その色!!」

『アタシのこと、ギャラルホルンのアンタが知ってるのかい? そいつは光栄だね』

 

 

 圏外圏の最大勢力、テイワズが独自に開発したテイワズフレームの機体。そして同型機では決して被ることのないパーソナルカラー!

 

 

「圏外圏一のモビルスーツ乗り、ルージュのアミダ!!」

『お褒めに預かり光栄さね。お礼に遊んでやろうじゃないか!』

「なんたる僥倖か!! 望むところ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラフタ。レッドを回収しな。ついでにモビルスーツもだ」

『了解、姐さん!』

「アジ―はそのままハンマーヘッドの直掩につきな。名瀬にもレッドがやられたって連絡を入れておくれ」

『了解。お気をつけて』

「誰に物言ってるんだい……!」

 

 

 強がってみたものの、目の前のグレイズもどきから来る強者の気迫を前に舌を舐める。ルージュのアミダ。sの由来となった真紅のルージュが妖しく光る。

 

 

「――――来ないのかい?」

『私は私用で来ている。職務中ならいざ知らず、彼のような負傷者を手にかけるなどできようか』

 

 

 強いうえに礼儀も兼ね備えている。何よりも自分と同じ女性パイロットだ。ギャラルホルンでは相当肩身が狭いだろうに。

 

 

『気遣い無用!』

「あは! そいつはすまないねぇッ!!!」

 

 

 わずかな間を哀れみの感情を浮かべていると感じたか、威勢のいい声で否定する。こういう、サバサバとした奴は男女問わずに好ましい。どこぞのケツアゴに見習わせたいくらいだ。

 グレイズもどきがイカレた加速をするが真っすぐ突撃はさせない。滑空砲を捨て、腰にマウントしていたライフルを頭部を中心に撃ちこむ。

 

 

『くぅ……!』

「その動きはさっき見たよ。機動戦でかかってきな!」

『言われずとも――――』

 

 

 脚部の収納を解除し、それを振り出すように行うことであたかも目の前から消える錯覚を覚えさせる。下から来る!

 

 

『そうッ、しようッッ!!』

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 顎を狙うように突き出されるランスをバク転の要領で回避。同時に足でランスを蹴り上げ、バランスを崩したところをチョッパーで叩く。

 だが、相手もそれを予測していたようで、隠し持っていたであろうサブマシンガンでチョッパーの軌道をずらされる。幾度も交差するようにスラスターの光は灯り続ける。

 高速戦闘の中、相手の得物をいなすように打ち払い、受け流し。ライフルとマシンガンで牽制しつつ、推進剤のありそうな部分を集中して狙っていく。

 

 

「やるじゃないか」

『そちらこそ』

 

 

 僅か数十秒の戦いで、あたしのパイロットスーツ中は汗まみれになっている。

 これはレッドじゃ無理だ。あたしと同格。それも女でいたなんて驚きだ。

 

 

『姐さん!』

「回収したかい?」

『胸部装甲がひしゃげてる! ハンマーヘッドに連れてくよ!!』

「ッ、頼んだよ!」

 

 

 さて。こっちは足で劣る機体でアレを止めなきゃいけないわけだが…………(やっこ)さん、ホントに惜しいね。

 

 

『重ねて言うが負傷者は襲わん。何よりも彼が生き残るのであれば、さらに強くなれるだろう』

「敵に塩を送るのかい」

『甘味と強者との戦いこそ我が至福。いざとなれば、ギャラルホルンに紹介状をたしなめても構わない。それほどに…………()い男だ』

 

 

 ―――あの子、厄介な女に目を付けられちまったね。恋愛感情じゃなくて闘争心むき出しの女とは……。

 

 

「運が悪いんだか良いんだか」

『これでも淑女の教育は受けている―――――軟弱者には拳が飛ぶがな!!』

「胸張って言うことじゃないだろう。全く……」

 

 

 なんかシラケちまったね。戦う気分でもない。

 

 

『そこでだ。ここで終わりとしようではないか』

「? 戦いが好きじゃないのかい」

『この機体は燃費が悪くてな。正直、火星支部に到着する余裕もない』

「――――まぁいいさ。あの子が殺されてなけりゃいいさね」

『御母堂であったか?』

「ちょっと面倒見ただけだよ。あたしたちにとっちゃ、デカい子供さ」

 

 

 ――願わくば、彼が再び立ち上がることを祈る。さらば!

 なんて言い残して、遠くに見えた家紋付きのビスコ―級に飛んでいっちまった。

 

 

『撤退したのか?』

「名瀬」

 

 

 ひと段落したと思ったのか、名瀬が通信を入れてきた。

 もちろん、と答え、どんだけ気風のいい女だったかを説く。そりゃあ凄いと笑う名瀬だが、表情を改めた。

 

 

「………ダメだった、のかい?」

『いや。肋や内臓をやった程度だ。それよりも説教が先だ』

「―――ああ。そういえばそうだったね」

『借金する位ならうち(テイワズ)に来いとあれほど言ったのに……全く、誰に似たのやら』

 

 

 思わず吹き出してしまったのは悪くないはずだ。マクマードのオヤジさんに迷惑はかけられないって意固地になってる名瀬とそっくりなんだから。

 理由に気づいたのか、帽子を深くかぶってむくれてる愛しの旦那を愛でてやろう。

 船で、久々の損傷に慌てふためく名瀬をしばらくからかうのはご愛敬ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資源採掘衛星にアンカーを打ち込んで、質量差と遠心力を活かしたターンをする。

 クッキーとクラッカーと一緒に見た子供向けのアニメ見たいな展開だと俺は思った。

 オルガはこの作戦が上手くいくと思っている。俺もオルガの考えた作戦ぐらいしかとる道が無いと思っている。

 

 

「アンカー! 抜けねぇぞ!!」

 

 

 ―――現実は俺たちに残酷なようだ。自切するにしてもそのタイミングはシビアだ。ギャラルホルンの船と正面を向き合う形でないと地球には行けない。大回りすればするほど、案内役もいないこちらが押しつぶされていくだけだ。

 大人しく加速するのを待って、ウェイストさんと三日月に援護してもらった方がよかった。

 そう批判するだけなら簡単だ。けど、俺は言わなかった。あの時はこの作戦がいいかもしれないと思ったからだ。

 

 

「砲撃でどうにかできないのか!?」

「今撃っても、そのまま通り過ぎるだけだ。スイング・バイを考えるなら……」

 

 

 何時の間に造っていたのだろう、ダンテが簡単な図解を正面に写す。

 

 

「ちょうど真裏に行って、曲がるときに撃てなきゃ話にならない」

「じゃあ衛星ごと砕くとか……」

「時間どころか火力が足りない。メテオブレイカーみたいな破砕装備が必要だ!」

 

 

 仮に持っていたとしても、この衛星を破壊したら火星にいられなくなる。損害賠償ものであり、何より破砕した破片は隕石になって火星全土に降り注ぐだろう。

 

 

「根元から切るのは?」

「爆破用のボルトの点検が済んでない。使われてない期間からすると怪しい」

「――――モビルワーカーで周りを砕く」

「おい……正気で言ってんのか?!」

 

 

 こんな高速でしかも砲撃が行われている最中、船外活動をするだなんて!

 

 

「もちろん俺が行く」

「オルガ!?」

「手前だけ、安全な場所で指示してるなんざ筋が通らねぇ! 俺は団長だ。俺が―――」

「馬鹿野郎。何言ってやがる」

「ユージン」

 

 

 俺と同じくらい、冷静にものを見ているユージンがオルガを止めた。

 

 

「お前は団長だ。頭が死んじまえば俺たちは今度こそ終わりだ。違うか?」

「だけどよ……」

「お前だけにカッケェ真似はさせねぇって言ってんだ。たまには俺らにも背負わせろよ!?」

「…………頼んだぞ。副団長」

「! 任せとけ!!」

 

 

 ―――本当にいいのだろうか?

 

 

(綱渡りすぎる。今回は上手くいっても次はそうなるとは限らない。けど……)

 

 

 三日月は交戦中。ウェイストさんは――――シグナルロスト?

 

 

「ウェイストさんのシグナルがロスト!」

「なんだと!? 墜とされたのか?」

「わからない。けど、知らないエイハブ反応を確認。戦域を離れて行ってる。………もしかして―――」

「なんだそりゃ? まさか見捨てて逃げたんじゃないのか?」

 

 

 ―――俺たちはまた大人に見捨てられたらしいな。

 オルガの皮肉が吐き捨てるように吐かれ、言葉に籠められたその失望と諦観に俺たちは言葉を返せなかった。

 

 

 






 本作の設定で、最強ランキングは以下の通りです。


 アミダ=イーリス>>三日月(一期終盤)>>ジュリエッタ=レッド=アイン=マクギリス>>昭弘=シノ=ラフタ=アジー>>>超えられない壁>>ガエリオ=ガラン>カルタ>阿頼耶識持ち>>>ギャラルホルン(一般兵)=海賊


 わかりにくいけどこのような感じです。つまり、この作品第一期の最強は主人公ではありません。ぶっちゃけ、あの二人はジョーカーです。



 じゃあ、お待ちかねのガンダム解説だよー!


『ASW-G-03 ガンダム・フレーム:ヴァサゴ(Virsago)』
 鉄血のオルフェンズに登場するガンダムフレーム(以降、Gフレーム)の一つ。それの三番目のGフレームである。
 一部のGフレームと同様に何かしら特殊な装備が施されている。腕の伸縮機能などは序の口だとのこと。その本来の姿とは―――――こうご期待!
 

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