鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて 作:カルメンmk2
原作的には5話ぐらいです。ウェイストがいるから色んなところで歪みの出ている鉄血世界。その結末はどのような最期を迎えるのか?
――ウェイスト? ああ、アイツな。地球に行くときは弱いんじゃねぇかって思ったけど、結局一度も勝てなかったんだよな。
――今はどうだって? そりゃあお前……どうなんだろうな。わかんねぇよ。
鉄華団実働隊 派遣教導隊総責任者 ノルバ・シノ
――――火星衛星軌道会戦。後世の歴史書に記されたこの戦いを歴史家たちは時代の転換点だと評価した。
歴史宗教を専攻するものはオルガ・イツカ率いる鉄華団とその仲間たちがクーデリアを聖女と見出したと唱え、現実主義者は後に明かされるレッド・ウェイストの交友関係から、彼がすべてを仕組んだ張本人だと主張する。
この論争は現実主義側の論調こそ、理に適うものであるがそうであったとしても鉄華団という当時弱小としか言いようのない少年兵らが数々の戦役に参戦し、多大な功績を上げ続けたことを神がかり的なものがあったという主張も否定できないでいる―――
☆☆☆―――――☆☆☆
よう、俺は名瀬、名瀬・タービンってんだ。今は俺の船のメディカルベッドルームにいる。その理由ってのが……。
「俺が何で怒っているかわかってるな?」
『い、いやね? 俺も設備投資があって……』
「新品の船が買えるぐらいの借金をする奴があるか!? なんでこんなにあるんだ!」
このバカタレを説教しに来てるんだ。肋が4本、内蔵の損傷。調べてみたら栄養失調気味と、俺とアミダ――ああ、アミダは俺の第一夫人だ――説教半日コースを考えた。
『あー…………その……ヒゲ付きのヒューマンデブリたちを拾いまして……』
血の気のない顔をしやがって。全く………。
「商売に情を混ぜ込むなって言っただろう? それにお前の稼ぎなら、あのガキども養うなんて簡単だろ」
『モビルスーツや船の整備に設備の増設をしたんです。そしたらビスコ―級を大きく改造する羽目になりまして』
「ガキは関係ないのか?」
『それもありますよ。ドルポンドさんに嫌味を言われながら、当座の活動資金を借り入れてます』
聞けば、あのブルワーズの手下だったらしい。正しくは所有物か。
火星に着いたら勝手に生きろと借りた金の大半を渡すつもりだったとかどうよ?
「傭兵なんだから体を大事にしな。若いうちからそんなだと、あとで後悔するよ」
『うぇーい』
「うぇいじゃない。ゲ〇吐く口と〇出すケツにマムをつけな」
『マムイエスマム! おごぉおおお……!』
おーおー。こいつのとこの船医は腕がいいねえ。体は動けないけど、痛みは感じる程度の麻酔とか。傭兵に雇われるよりか、いい仕事先―――あの感じじゃ無理か。世知辛い世の中だぜ。
『く、ふぅおぉお…………すみません。鉄華団、赤い強襲装甲艦の連中は?』
「無理すんな。そっちならマルバの件もあったから、もう連絡は入れてる。ただ、なぁ……?」
――どうにもこうにも奴さんが勘違いをしているみたいで正直面倒なんだよなぁ……。
☆☆☆―――――☆☆☆
「外部顧問の契約を破棄する? 急にどういうことかね」
『急にも何も、アンタらが俺らを嵌めようとしたんだろ』
「はて? …………ああ。彼のことだね」
あの強烈な個性の船医を
「マルバ・アーケイ。確かにあの船に乗っていたのは知っているね」
『騙したのを認めるってことだな?』
「騙したなんて人聞きの悪い。そもそも私はウェイスト君に金を貸しているだけの存在だ。傭兵団に所属している覚えはない」
『契約を結んだのはテメェだろう。ヤバくなったら関係ねぇで済むと思ってんのか!?』
「じゃあ契約書にはなんて書いてあるのかね」
『ああ?』
経営のイロハってやつを教えないとダメだね、彼は。脅す、奪う、強奪するじゃあ真っ当な会社から遠く離れてしまっているよ。
「私の記憶が正しければ、署名をしたのも、必要な項目をチェックしたのもウェイスト君だったが?」
『あんな状態の奴がやった契約が有効なわけないだろうが!!』
あーあ。言っちゃったね。
「君がそう言うなら、そもそも
『ッ………ふざけんなよ。そんな言葉遊びをするつもりじゃねえ』
「詫びを入れろと? どうして? なぜ? 理由は? 頭を下げて終わりにするのか? 何もかも奪う? それだけの被害が出ているのか? いったいどれなのかね」
法関係が火星で通用するとは思ってないが………それこそ、ここで私に手を出したら地球はおろか圏外圏でも仕事は無くなると言っていいだろうね。クーデリア嬢もアーブラウとの交渉なんてできなくなることだろう。
言い返そうとするオルガ君もやっていることは壱番組とかいう連中と変わりないのを悟っているね。
「重ねて言うが、マルバ・アーケイの件については無関係だ。私も彼もね。今回の被害はオルクス商会を選択し、そちらの裏切者を信用した君の落ち度だ」
『くっ………』
「案内役もいない。ツテになる人物は自分たちで解雇する。で、どうするのかね? あそこのタービンズに依頼するかね?」
実のところ、彼らはこちらに損害賠償なんて求めていないだろう。先の戦闘でグレイズも何機か回収していたみたいだし、新品のリアクターは高く売れる。歳星の整備主任のことなんて知らないだろうから、モビルスーツを寄こせと言っても経営を圧迫するだけ。それ以前に火星で手に入れたモビルスーツだって売るツテがない。
CGS時代の業者にモビルスーツを扱えるところはない。
「大方、私に責任を取らせてタービンズ―――ひいてはテイワズへの紹介を
「…………」
「そんなところだろう」
紹介してもいいが君たちはその価値を示せるのかね?
☆☆☆―――――☆☆☆
ケジメをつけさせる、とオルガは団員たちに告げた。
オルクス商会の案内なしにどうやって地球までギャラルホルンの監視を切り抜けていくか? ビスケットを筆頭とした幹部連中と相談した結果、ウェイストの失態を逆手にとって、タービンズ――さらには後ろのテイワズへの仲介を目論んだ。
だが結果は満足どころか、自分たちが何に対して喧嘩を吹っ掛けたのかを理解させられた。
聞けば、ウェイストは先ほどの戦闘で負傷しメディカルベッドの世話になっているらしい。自分たちは一度も使ったことがない設備だが、重傷の時に使うというイメージがあった。
「ウェイストさん。負傷してたんだね」
「やっちまった。一方的に喧嘩売って、窘められて、もう一度話し合いをしようかだなんてまるでガキ扱いだ」
「仕方ねぇよオルガ。あの人、阿頼耶識なんてもってないんだぜ?」
「あー……確かに拍子抜けだよな。そう思わないか、チャド」
「だな。なんつーか、三日月のほうがずっと強いよな。二対一でもほとんど無傷だったし」
グレイズとは違う、明らかに手練れを同時に二機も相手取り、その前に何機ものグレイズと立ち回って戻ってきた三日月。
三日月よりも少ない数と船を一隻、最終的にはサシで敗北し重傷を負ったウェイスト。鉄華団の彼に対する評価は微妙なものになっていた。
――壱番組よりは使えるが、自分たちと比べると使えないんじゃないか?――
鉄華団の中ではこのような空気が流れ始めている。特に年少組に多く、タカキが諫めようとしてもどうにもできない状態になっている。
もっと言えば、ウェイストのモビルスーツを団長たちが使ったほうがいいんじゃないか? なんて声もちらほらだ。
「………ミカはどう思う?」
「さあ? まあ、あの感じだといなくても別にいいかなって思う。昭弘もいるし」
「あれ、商品なんだけどなあ」
「……………」
「? どうした、昭弘」
三日月を除けば、唯一のモビルスーツ操縦経験者である昭弘は腕を組んでいた。何かを言いたそうだが、しかしどうするべきかと悩んでいる……そんな表情だった。
「俺は………ウェイストさんの腕を信じたいと思う」
「はあ? だって、アイツは負けたんだぜ?」
「確かに負けたみたいだが俺たちが相手にしていたのとは毛色が違う相手だった」
拙い砲撃戦もどきの合間だったために、双方の相手をほんの少ししか見ていないが三日月の相手にしていたやつよりも遥かに速い相手だったと呟いた。
「振り落とされないように捕まっていたときは、互角の戦闘だったと思う。次に見たときは別の機体が近くを通っていたから、その時にはやられていたんだろう」
「タービンズのパイロットか」
「多分な。さっきまで俺がその敵と戦ってどれぐらいもつかも考えたんだが………阿頼耶識があっても、無理だったと思う」
ざわつく周囲にオルガは手で押さえ、昭弘に続きを促した。三日月も興味深そうに耳を傾けている。
「兎に角、速かった。三日月が相手にしていたのの倍以上だと思う」
「けど、サシの勝負だろ? 三日月は二対一だぜ」
「ああ。正直、俺の評価が違うのは昌弘―――弟を連れてきてくれたのも入ってるかもな」
その言葉でオルガは思い出した。ヒューマンデブリだろうが、ヒゲ付きだろうが鉄華団の団員は大切な仲間である。自分がそう掲げたのだ。
団員の家族を助けたってことは恩があるということだ。恩を仇で返すわけにはいかない。負けたとしても、昭弘の見たモビルスーツは終ぞこちらに合流しなかった。命を懸けて食い止めてくれたのだ。
「―――詫びを入れるのはこっちだな。どうかしてたぜ」
「オルガ……」
「もっと視点を持たなきゃならねぇ。けど俺たちの後ろには火星の仲間たちがいる。共倒れだけは何としても避けなきゃならない」
意を決したように、オルガはビスコ―級グリコに連絡を入れた。
☆☆☆―――――☆☆☆
タービンズの強襲装甲艦は艦首にラムヘッドを装備している。ヘッド自体に船と同レベルのスラスターを内蔵しており、本体側の推力と合わせて艦首突撃をする戦法を得意としている。
その姿はまるで獲物に襲い掛かるシュモクザメ―――ハンマーヘッドシャークに酷似しているため、船の名前もハンマーヘッドと呼ばれた。
「説明どうも、と言いたいが誰に説明してんだ?」
『画面の向こう側のお友達。こっからは普通に地の文になる』
「時々、お前が何を考えているかわからねぇな」
「メタ発言というんだよ、名瀬君」
そんなハンマーヘッドの応接室にオルガ、ビスケット、三日月、シノがイサリビから来ていた。グリコからはドルポンドとメディカルベッドルームから通信でウェイスト。タービンズから名瀬とアミダが。そして縁のある人間としてマルバ・アーケイが互いに相対する形となった。
鉄華団は応接室の調度品や雰囲気が自分たちの知っているものと違うことに目の前の男とマルバがまるで違うこと感じ、マルバはオルガたちが何を考えているのかがわかるのか、不機嫌そうにしていた。
「さてと………話ってのは何だ?」
「ドルポンドさんに話したんですが、ウェイストさんの外部顧問についてです。色々と思うところがありましたので、再度正式に依頼をお願いしたいと……」
「ふぅん………どういう風の吹き回しだ? 嵌められたって、思ってんだろ」
「それはその……認識の違いといいますか……」
ビスケットが恐る恐ると言葉を紡いでいく。
こちらの認識不足であったこと。それに伴い、先ほどドルポンド氏に告げた解雇通告について謝罪と条件を見直した再契約を申し出たい、と。
「なるほどね。まあ、殊勝なこった」
「ウェイストさん、ドルポンドさん。本当に申し訳ねぇ。どうか俺たちにもう一度チャンスをくれ!」
「私はどちらでもいいね。借金さえ返せるのならなおのことだ」
『やられたのは事実だから構わない。構わないから契約金についてドルポンドさんを別にしてお話を――』
「代わりに名瀬君を同席させるから構わないよ」
『え?』
オルガたちのぽかんとした顔がツボに入ったのか、アミダがくすくすと笑っている。それに気づいたか、顔を引き締めて言葉を続ける。
「ただ、厚かましいが条件を変えさせてほしい」
『どんな?』
「傷が治ってからでいい。ミカ――三日月と勝負してほしい」
「実力に疑問があるってことか?」
「詫びを入れに来た立場でこんなことを言うのは間違ってるってことはわかってる。けど、俺は鉄華団の団長だ。ウェイストさんは昭弘の弟を連れてきてくれた恩義がある。恩人が命の危険を冒すのは偲びねぇ」
つまりは、三日月と模擬戦をして負けた場合、外部顧問としては契約するが戦力としては数えない。勝った場合は戦力として数えその分の賃金も上乗せする、と言葉を選びつつ告げた。
「………どうする?」
『……いいぜ。ミリー。あとどんくらいだ? ふん、あー……麻酔を使えばイケるか? はーはー……OKだ。そうの申し出受けよう』
「怪我が完治してからでもいいんですが?」
『怪我してたから戦えません、てのは通じないんだよ。まぁ、色々と準備があるから時間はもらう』
「ふーん………あとで文句なんて言わないよね」
『言わない。逆に怪我人だから手加減したなんて言い訳すんなよ』
「…………ふん」
売り言葉に買い言葉で、オルガとビスケットは顔を青くしている。シノは三日月が感情的になっているのを久々に見たと驚いていた。
「―――さて。お前たちの話はケリがついたわけだが………今度はタービンズとしての話だ」
気の良さそうな年上の雰囲気を消し去り、名瀬はタービンズの頭としての雰囲気を出した。その気配。否、気迫にオルガたちは居住まいを正す。相手にのまれないよう、腹に力を入れて対峙した。
「紹介なんざ必要ないから省くぜ。マルバとの契約でお前たち鉄華団の財産を差し押さえる」
――――それは唐突な自由の終わりを告げる言葉だった。
他作品と本作の鉄血キャラの違いは、言うなれば
執筆中は、戦争中の国に生まれた子供は戦争の悲惨さを意識せず、平和な国で生まれた子供は平和の尊さを理解しない、なんてことを想像しています。
それじゃ、解説いくべさ!
『ビスコ―級グリコ』
ビスコ―級はギャラルホルンの小型哨戒艦で未だに現役の艦船。武装の類は対空砲のみ。モビルスーツは艦艇底部から放出という形で出撃する。原作でマクギリスたちが乗っていた船である。
グリコの名前はウェイストがびびっとキタコレ! と勢いで決めたもの。お菓子は届いたりなんかしない。ドルポンドからの借金はこれの購入費用や改装費用が殆どで、わずかにアストンらへの手切れ金や生活費が入ってる。
改装内容としては、医療設備の増強。モビルスーツ関連のソフトウェア設備だったりする。ただ、メインは医療のほうだったりするのは内緒です。