鉄血のオルフェンズ 赤い悪魔、翼を開いて   作:カルメンmk2

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 題するなら、子供を食い物にする大人(悪党)とそんな自分たちに諦観する大人(本心)かと。





 ――自分に取材ですか? えっと……何を?ウェイスト社長のことですか。どう思うか?
 ――そうですね。厄介な女性(ひと)を押し付けてきたぶん殴りたい相手でしょうか。いや、感謝もしてますけどね。今思えば、あの人がいなければ取り返しのつかないことになっていたと思います。ホントに騒がしかったですし、アレで落ち着いてくれればよい指導者にもなれると思います。というかそもそも―――

 PMCアウトサイダーズ ギャラルホルン出向部隊隊長 アイン・D・ステンジャ






大人は汚い? そうでないと生き残れないんだよ

 名瀬の言葉で場の空気が変化した。顕著なのはオルガとビスケット、シノで明らかに動揺していた。

 

 

「ま、待ってくれ。それは一体どういうことだ?!」

「待っても何も言葉の通りだ。そこのマルバにCGSの全部を売るって言われてな。代金も追々支払われる」

「CGSはもうありませんよ!? 鉄華団です!!」

「家主のいないうちに乗っ取ったんだろ? 拾ってもらった恩を忘れて家を乗っ取るなんてのは不逞ぇ話だ。違わないか?」

 

 

 ようは筋の問題である。そも、火星みたいな場所でお役所仕事がすんなりと進むことはない。大方、電子上では終わったことになってるだろうが実際の手続きはまだ時間がかかるだろう。

 

 

「いかに民兵組織とはいえ、あれだけのデカさを持つと自治区の代表の承認だって必要だ」

 

 

 ――知らなかったのか?

 デクスターもこれで大丈夫と言っていたがどうなのだろうか?

 

 

「大方、前所有者が居なくなっちまったから、そこの坊主が引き継いだってのが大筋だろ? けど、マルバはここで生きている。持ち主が生きていた以上、正式に復帰の手続きを済ませればお前たちのは無効となる」

「…………」

 

 

 オルガは何もわからない状態だった。意外なところでデクスターが裏切っていたのか、単純に火星の役人どものミスなのか。今ここでマルバを消すという手段もあるが、そんなことをしたら面子を潰されたタービンズ、ひいてはテイワズを敵に回すことになる。

 どうするべきか? マルバが再びCGSを取り戻したら、自分たちは今度こそ終わりだ。いくら耄碌してたからといって、元傭兵のマルバのツテの広さはわからない。

 

 

「―――と、いうのが普通のことなんだが………なあ、マルバ」

「な、なんですかい?」

「こいつら、阿頼耶識の手術してるだろ?」

「! それは………そうでもしないと使えませんので仕方なく……」

「成功率は目を覆いたくなるぐらいだって聞いてるぜ? 坊主。お前の船と火星にいる少年兵。どれだけ付いているんだ?」

「全員です」

「一番下は12歳ぐらいです」

 

 

 それを聞いて名瀬が重いため息を吐く。明らかに不機嫌になっていて、それは後ろのアミダも同じだった。

 

 

「なあ、マルバ。俺だって商売して、大勢の従業員―――家族を抱えている」

「へ、へい。そのようで……」

「人材は女ばかりでガキだっている。鉄華場もある。けどな? 流石にこれはやらねぇよ」

「で、ですから私んとこは……!」

 

 

 ――まあ待ちな。名瀬はマルバに落ち着けと抑える。

 

 

「商売に情は持ち込まない」

「ッ!」

「名瀬さん!」

「幸い、経費も今のところ掛かってはいない。もとがドルポンドさんを火星まで運んだってだけだ。経理のほうにも振り込みは待つよう言ってある」

「んな?! それじゃあ話が違うじゃないですか! 俺はどうすりゃいいんです?!」

 

 

 慌てふためくマルバを見て、オルガはまだこちらに分があると考えた。このままマルバを火星に帰すわけにはいかない。そうしたら壱番組の連中が戻ってくるだろうし、クーデリアの護衛の件も台無しになる。

 すでにギャラルホルンも鉄華団がクーデリアを連れて行こうとしているのを気付いている。

 

 

「あとのことを考えるのはまだ早いぞ、坊主」

「ッ………すみません」

「確認するがお前らは火事場泥棒で組織を乗っ取った。マルバは組織を見捨てて逃げた。……違いないな?」

「「はい」」

「筋ってやつを大事にする俺としてはどちらも通ってねぇ。盗人と裏切者だ」

 

 

 会社そのものを奪った連中と、命を懸けて戦っている連中を見捨てて逃げたクズ野郎。情の話をするなら、坊主らに加勢してもイイ。けど、クズであったとしてもその会社の頭なのに変わりはない。マルバ自身もクーデリアを護衛していくなんてことは考えないだろう。第一、金と引き換えに権利から何までこっちに売り払っている。

 

 

(ちょうど火星にもデカい拠点が欲しいってオヤジが探させていたしな。どちらに転ぶにしろ、俺たちテイワズにとって悪い話はない)

 

 

 後の問題として、鉄華団をどうするかだ。タービンズに入れたっていい。ギャラルホルンと大立ち回りをした根性のある少年兵たちと、そのギャラルホルンの上層部とすら交友のあるレッド―――断然、欲しいのは後者だが前者を見捨てれば俺はクズと同類になってしまう。

 見方を変えれば、二つとも手に入る芽が出る。言い訳じゃあないがガキどもを見捨てるのは気分が悪いってのは本心だぜ?

 

 

「そこで丁度いいものがある」

 

 

 ウェイストの通信端末と三日月を指さす。

 

 

「お前らの模擬戦で決着をつける」

「はぁあ!?」

「マジかよ……!」

「責任重大じゃねぇか」

 

 

 ちらりと沈黙を保つオルガを三日月は見る。視線に気づいたオルガはただ頷く。

 

 

「わかった」

「ちょ、待て三日月! 俺はそんなの認めな―――」

「だったら、仲裁はしない。火星まで送ってけっつーんなら手前が船に乗り込んで説き伏せて来い」

「名瀬さん!!」

「もとはと言えば、お前がばらまいた種だ」

 

 

 取り付く島もない、とマルバは禿げかけた頭に脂汗を浮かべて、思案する。

 一方でオルガたちはそれほど気負いもしなかった。ミカヅキのモビルスーツはガンダムフレームで阿頼耶識を搭載している。ウェイストのもガンダムだが、向こうには阿頼耶識が無い。楽勝とは言えないが勝ちは確定だ。

 隠せない安堵感が彼らに漂うが名瀬は一言釘をさしておく。

 

 

「言っておくがレッドは相当強いぞ。そっちの坊主じゃあ、三七で負けるだろうな」

「本当ですかい!?」

「本当さ。何せ、あたしが直々に鍛え上げたんだからね。ましてや宇宙で戦うんじゃ、相当さ」

「……………負けたくせに?」

『相手は戦乙女(ブリュンヒルド)だ――――って、知らないか』

「全然知らない」

 

 

 戦乙女(ブリュンヒルド)ってのは、ギャラルホルンの最精鋭である月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)地球外縁軌道統制統合艦隊(ブリーイッド)を渡り歩く女傑だ。

 弱者の淘汰を許さず海賊退治を率先して行う軍人の鑑―――なんて言われてるが実のところは単なる戦狂い(ウォーモンガー)で、上官ぶん殴ったり、脅したりして前線に留まり続けようとしている奴だ。

 

 

「へぇ」

『マジの専用機が与えられているぐらいだ。シュヴァルベなんてハエみたいに感じるぐらいのな』

「ふーん」

『オルガくーん? お宅の三日月君、なんかムカつくんですどイテテテテッ!!?』

「すみません! ミカ! もっとなんか他にあるだろ!?」

「別に? ただ、潰せばいいだけでしょ? 違うの?」

「そうじゃなくてだな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グダグダになったところで、名瀬君が話を打ち切った。正直、私としてはも少し眺めていたかったのだが……。クーデリア嬢にも関係あるため、早々に終わらせた。

 

 

「しかし君もだいぶ甘いね」

「まぁ……あんな立場だとこんぐらいしなきゃ成り上がれんでしょうから」

「そうだねぇ。けど、随分と大盤振る舞いじゃないか?」

 

 

 タービンズには女性しかいないと思われがちだが、実のところは男だって働いている。各コロニーに存在するタービンズの支社であったり、荷物の集積所の警備や作業員としてだ。

 

 

「昔ならハーレムだー、って考えてましたがレッドを引き込んだときにね。悪くないって思ったんですわ」

「名瀬君は一人だからね。五万人もいる従業員を相手にできるわけもない」

「ええ。入るにしてもクソみたいな連中は弾きますし、誠実な連中は案外子供をもうけてますよ」

「それは目出度いじゃないか」

 

 

 ドルトカンパニーなんかと違い、どんな身分でも産休も育休も取れるというのだからホワイトを通り越したクリアパール企業ではなかろうか。

 

 

「アイツらなら大丈夫でしょう。男尊女卑の毛がありますが、その辺りはアミダやラフタ、アジーに締め上げてもらえば済むでしょうし」

 

 

 そうであっても、普通は100人近く人が増えれば負担もバカにならない。それも銃を持ったことしかないような子供が大半の連中だ。

 

 

「たとえ鉄華団が負けても、その身柄はタービンズの預かりにする。クーデリアも同様で、今後はタービンズと――――なんだったかな?」

「アウトサイダーズです。外道なんてやめろって言ったんですがね」

「元の名前は思い入れがあり過ぎるのだろうね。けど、アウトサイダーズか…………彼らしいじゃないか」

「ええまあ。アウトサイダー(外れ者)の集まりとか。類は友を呼ぶんですかね」

「敵も呼んでいるけどね」

「それは言わんでください。戦乙女に目を付けられるなんて、女運の欠片もない」

 

 

 

 確かに女運もないね。けど、鉄華団の彼らはもっと運がないけど。

 

 

「模擬戦が楽しみだね、名瀬君♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆―――――☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじめまして。自分はアイン、アイン・ダルトンと申します。今、自分は恩師のクランク二尉――――じゃなかった。クランクさんと一緒にアウトサイダーズという傭兵会社に席を置いています。

 

 

「何してるんですか、アインさん」

「これをしておけって、社長(ウェイスト)から言われてね。あ、デルマ君。そこのケーブル、閉めるとパネルに干渉するよ」

「やべっ。ありがとっす!」

 

 

 

 どういたしまして。ええっと、現在ビスコ―級グリコのデッキでは、急ピッチで作業が進めています。なんでも社長が鉄華団の彼―――三日月・オーガスと模擬戦をするとのこと。

 先の戦闘であの戦乙女と交戦した社長―――え? ウェイストでいい? 了解しました―――ウェイストがそれなりの重傷を受け、コクピットの装甲がひしゃげてしまったのだ。

 

 

「クランクさん! 次、インパクト貸してください!」

「わかった。……よし! ビトー! 投げるぞ!!」

「はーい! っと、これ終わったらスラスターの整備に行きます!!」

「そうだな。私も手伝うからレクチャーしよう」

「ありがとうございまーす!」

 

 

 流石です、クランクさん。もう、子どもたちとあんなに仲良く。やはり貴方はギャラルホルンの正義を! 清廉なる大人を体現する人です!

 

 

「―――あの!」

「! 失礼! えっと、アストン君? 何かな?」

「メシです」

「ああ、うん。ありがとう。クランクさん! 食事の時間ですッ!!」

「今の作業がひと段落したら皆、休憩にしよう! あともうひと踏ん張りだ!」

「「うーっす!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~アウトサイダーズはホワイトな職場と福利厚生を重視するアットホームなPMCです。お仕事も簡単! ただ鉄砲をもって戦場を駆け巡るなんて古い古い。一人一台の棺お―――モビルワーカーで守られながら職務を遂行できます~

 

 ~さあ、皆も一緒にレッツ・ロッケンロォオオオオオル!!!~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か妙な電波を受信したがなんだろうか?

 

 

「アインさんとおやっさんって、どうしてモビルスーツの整備ができるんだ?」

「ペドロ君。おやっさんじゃなくて、クランクさんだ」

「構わんよ。出来るというより、出来るようになっただな」

「? ギャラルホルンなんだろ。俺らだって知らないけど、整備する人とかいるんじゃないの?」

「昌弘君。それは俺が火星と地球のハーフだったからだ」

 

 

 ハーフだからなんだってんだ? デルマ君の言葉にクランクさんが言葉を濁しながら答える。

 

 

「大人の事情、と言うやつだ」

「ふーん。じゃあさ? こことギャラルホルン、どっちがいい?」

「おい、デルマ!」

「いや………そうだな。俺は……まだなんとも言えんな」

「クランクさん?」

 

 

 確かに清廉で正義漢のクランクさんにはギャラルホルンが相応しいと思う。しかし今のギャラルホルンにクランクさんのような人の居場所はないだろう。だと言うのに何故だろうか?

 

 

「社長が今後何をするのか。全てはこれにかかってるだろう。まあ、しかしだ。昔より今のほうが気分はいい」

「………俺はそんな先のことなんて考えられない」

「アストン……」

「ブルワーズに居た頃は毎日が地獄だった。何もしてなくても殴られて、ミスをしたら殴られて、気分で殴られた。死んだ仲間もいっぱいいた。アイツらはそれを俺たちに捨てさせる。身包みを剥いで、次のデブリに着させる」

「もういい」

「親の顔なんて覚えてないし、アイツらに買われてからはずっと殺すか殺されるかの日々だったんだ」

「もういいんだ。アストン」

 

 

 ―――クランクさんは気づいているんだろうか。アストン君の目に光が伴っていないことを。

 

 

「嫌なことを思い出させた。すまない」

「…………俺さ。アンタたちは変われるって思うんだ」

「なに?」

「俺は……俺たちはヒューマンデブリで。アンタたちは人間だ。ヒゲだって付いてない。だから、変われる」

「アストン! それ以上は俺も看過できない!!」

「アイン!」

「俺たちは…………ずっと……」

 

 

 ――目をつむると見えるし聞こえる。なんでって。どうして生きているって。

 

 どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

 どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

 どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

 どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

 

「落ち着きなさい」

「俺は……おれは……!」

「大丈夫だ。もう大丈夫だ」

 

 

 うっ、うううううう……ごめん。みんなごめん! ごめんなさい……!

 

 

 ―――クランクさん。

 ―――ああ。俺たちは…………あまりに無知で、幸せで―――――無力な大人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 






 本作品はカッコイイオッサンを表現できるよう頑張っています。

 鉄血見ていて思ったのは、尊敬できる大人や目標にしている大人がいないからあんな風になったんだなという私個人の見解です。

 目指せカッコイイオッサンども! 尊敬できる大人が少なすぎるんだよ、今の時代はよぉ!





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