「お待たせしました、先輩。マシュ・キリエライト、召喚に応じ参上しました」
「この身は貴方を守る盾。私が貴方の傍に居る限り、貴方の身体、精神、魂に、傷ひとつ付けないとお約束しましょう」
今度こそ涙が決壊した。
封印された時、もう二度と、誰にも会えないんだと思っていた。
英霊の彼らはまだしも、マシュはデミ・サーヴァント…何かの間違いで僕の封印が解除されても、その時彼女は生きていないかもしれない。
だから───だから、彼女が自分の前で盾を構える頼もしい後ろ姿も、こちらを振り返って見せる僕を安心させてくれるような笑顔も、もう見ることはないんだと…そう思っていたから。
彼女の瞳にも涙が光る。
僕らは周りの目なんか頭になくって…
マシュが峰打ちして横転したトラックと一緒に道路のど真ん中で泣きながら抱きしめ合った。
警察に軽く事情聴取をされ帰宅する。怪我もしていないし、受け応えも問題なかったので親は呼ばずに済んだ。
さすがに幼稚園児だけではアウトだったかもしれないが、マシュも居たし、適当な仕事をする警官のようだった。
もちろん個性の使用については厳重に注意されてしまったが…今回僕がマシュを召喚しなければ死人が出ていたのは明らかだったし、この個性が今日はじめて発現したことや危機的状況の中でとっさに使用してしまったことを鑑みてお咎めはなしとなった。
マシュの鎧はやっぱり目立つから、いつもの服だ。
魔力で編んだものなので当然僕の魔力を喰う。家に着いたらマシュには霊体化してもらい魔力消費を抑えた。
「またマシュに会えるなんて…思ってもみなかった。本当に嬉しいよ」
「再びお会いできて嬉しいのは私もです、先輩!でも…私は、きっとまたお会いできると信じていました。先輩が凍結封印された後もダ・ヴィンチさんをはじめとしたカルデアの職員全員で封印の解除方法を模索していましたし…これはダ・ヴィンチさんが仰っていたことなのですが…「君たちは人理を修復した英雄。いつかの聖杯戦争にでもサーヴァントとして召喚されて、みんなでひょっこり再会を果たしちゃうかもね!」と」
実にダ・ヴィンチちゃんらしい発想と物言いだ。きっとマシュを元気付けるために言ったんだろうけど、あの人のことだから半分本気だな。
なんとなくドヤ顔でウィンクをキメる彼女が脳裏に浮かんで苦笑した後、2人の会話を想像して、その優しさに心が暖かくなった。
「私は先輩とのこの再会をずっと信じていました…私たちが人理修復の旅を最後まで続けられたのは、諦めなかったからです。先輩の諦めの悪さは折り紙付きですからね!いつも先輩の一番近くに、ずっと居たサーヴァントである私が諦めるわけにはいきませんから!…でも…だからこそ、です。先輩と再びお会いできて、またサーヴァントとして契約を結べたこと、本当に嬉しく誇らしく思います!」
この後輩は…いつも正面から真っ直ぐに言葉と想いを届けてくれる。
本当に幸せそうな、嬉しそうな笑顔で、心の底からそう言ってくれていること…わざわざ実体化させて顔を見なくても分かる。
僕が諦めずに全人類を救済するなんて大それた道を歩んで来られたのは、隣でずっと、優しく強く僕を支えてくれた彼女やカルデアのみんなが居たからなのに。
「もちろん!僕の長所は諦めの悪いところで、自慢はあんなに沢山のすごい英雄たちが力を貸してくれること!だからマシュやみんなが居れば、俺にできないことなんてないんだよ!」
僕はまたちょっと泣きながら、満面の笑みで言った。
こんなに素直に笑えたのは、いつぶりだろう。
前は辛い状況でも毎日こんな時間があった。あの非日常な日常を、当たり前に悲しんだり笑ったりしていた日々を、いつの間に忘れてしまっていたんだろうか。
やっぱり僕にはみんなが居ないと駄目だなあ。