僕には個性“英霊召喚(グランドオーダー)”が発現したが、結局両親とは上手くいかなかった。
家族の不和は確かに僕に個性がなかったことが発端ではあったが…それだけが原因というわけではなかったらしい。母はすぐに家を出て行き、父もこの見ず知らずの人間を呼び出す個性を気味悪がった。
僕の個性は両親の個性とは全く違ったものだったし、家系を辿っても似たような個性はなかったそうだ。
医者は突然変異だと結論付けるしかなかった。
父親は怯え、手に負えなくなった僕を祖母の家に預けた。正直僕も気まずかったし、こっちの方が都会なので嬉しい…と、思うことにした。
僕が壊してしまった家族のこと、忘れてはいけないと思っている。
祖母は穏やかな人で、僕たちにも優しく接してくれた。名前はフヨさん。フヨおばあちゃんと呼んでいる。
昔は人助けを仕事にしていたと聞いたが、そんな優しい彼女にぴったりだと思った。
見た目も名前も全然似てはいないんだけど、ジャンヌみたいな人だなと勝手に思っている。
随分仕事が上手くいっていたのか、それほど広くはないもののとても綺麗で趣味のいい日本家屋に住んでいる。自分で建てたんだそうだ。かっこいい。
陽当たりの良さだけではない暖かさを持つこの家を、僕やマシュもとても気に入っている。
うちには隔週くらいのペースで祖母の昔の仕事仲間だったらしいチヨさんという老女が訪ねて来る。
いつもお菓子を食べなと言って色々くれるので、虫歯にならないよう気を付けなくては…
チヨさんはとても元気なお婆さんだ。やれやれと言いながら世話を焼いてくれる姿は、素直じゃない時のエミヤママみたい。
僕を自分の孫だと思っていると言っていた。ちょっとびっくりしたが、嬉しかった。
チヨさんの個性は“癒し”。以前僕が不注意で湯呑みを割ってしまった時に、怪我した指をあっと言う間に治してくれた。
チヨさんはその個性を活かしこの歳になっても人助けのお仕事を続けているらしい。
ちなみにフヨおばあちゃんの個性は“体力増幅”なんだって。体力が上がれば持久力が上がる。すごい個性だ。
チヨさんの個性は使用すると相手の体力が減ってしまうのだが、そこにすかさずフヨおばあちゃんの個性を追加すれば、体力の少ない相手でも治療を継続できるのだ。
なるほどふたりはゴールデンコンビだったんだろう。
ちなみにフヨおばあちゃんの個性の燃料は肉らしい。特にレバー。
レバーは貧血にいいんじゃ…と思ったが口は挟まなかった。
お陰で仕事中に一生分のお肉を食べたと言って、うちの食卓は魚がメインだった。
もちろん栄養バランスを考え肉がゼロというわけではなかったが。
居間に行くとフヨおばあちゃんが編み物をしていて、それをメディアが横から教えていた。
メディアは僕が4歳の時に召喚に成功したサーヴァントだ。
彼女はうちのカルデアの最古参サーヴァントで、どうやら僕が契約した順番に呼び出せるようだった。
彼女もちょっとした世話焼き体質なので助かっている。
召喚されて彼女が一番最初にやっとことといえば、僕の服作りだったのだ。僕の着ていたTシャツのダサさに絶句してしまったため、それ以来うちの服は全部彼女が作っている。
いや、確かに以前僕の親がワゴンセールで叩き売りされている時に買ったやばいTシャツだけど、家の中でくらい何着ててもよくない?
どうせ今もそれ系のものを作っているんだろう。
3人分のお茶を淹れ居間に戻ろうとすると、少し騒々しかった。
まさかメディアがフヨおばあちゃんと喧嘩?
ふたりともそんなことするとは思えないが、なにやら男性の声が…待て待て待て待ってくれ、僕の記憶が確かならこの声は…
「フン、魔女めが分かったような口を聞くではないか」
「あら?貴方こそマスターのこと何も分かっていないくせによくもそんな口が利けるわね」
お盆を持ったまま僕が呆然としていると、彼が僕に気付いてこっちを向く。
まずい。
非常にまずい。
逃げなくては。
僕はお盆を近くの棚に置くと、一目散に踵を返して駆け出した。