みゃー姉こそ天使だぞ   作:星野香子

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みやこさんのお家にお泊まりに行くの

 

 今日はとても静か。

 

「うーん、今日のご飯どうしようかなぁ」

 

 今日はお母さんもお父さんも忙しくて帰ってこれない。そんな日の星野家の家事は私がやっているけど……

 

「今日はひなたもいないし……」

 

 妹のひなたは林間学校のため明日まで帰ってこない。そのため今日は私ひとり。

 もしもひなたがいるのなら、ちゃんとしたご飯を作らないとお母さんに怒られるけど、今日は私ひとり。それならあまり手の込んだものじゃなくてもいいか。

 

 大学の課題も一段落ついたことだしと、部屋から出てリビングへ向かうため階段を降りる。私の立てる音以外聞こえない。ひなたがいないとこんなに静かなんだ。

 

 今頃ひなたは宿泊先で花ちゃんやノアちゃんとはしゃいでいるんだろうな。これを期に少しはお姉ちゃん離れができるといいんだけど。

 

「みやこさん、お鍋にしてみたんだけどお出汁の味見してくれないかしら?」

 

 リビングにつくと台所から松本さんの声が聞こえた。

 

 

 なんでいるの。

 

 

「みやこさん? どうしたの?」

「ど、どうしているの? 鍵掛かってたよね!?」

 

 鍵の閉め忘れはありえない。チェーンまでは掛けていなかったけどちゃんと鍵は閉めた。だってインターホンが鳴っても居留守するために確実に!

 

「あれ? お母さまから聞いてない?」

「え、何を?」

「今日は私が泊まるって」

「え……?」

 

 すぐに携帯を確認する。あれ、携帯どこにやったっけ! へ、部屋から動かしてなかったはず……

 ベッドの横に落ちている携帯を見るとお母さんから確かに連絡がある。

 

『あんたひとりだと心配だったけど、香子ちゃんが泊まりに来てくれるんだって? あんまり香子ちゃんに迷惑かけないように』

 

「お母さんーーー!?」

 

 私、松本さん呼んでないよ!?

 すごく身の危険を感じるんだけど! ひなた助けて!

 

 あああ、ダメだ。おちつけ、私。松本さんはちょっと気持ち悪いけど悪い人じゃないんだから、うん。それにまったく知らない人でもないんだし、そう、深く考えたらダメな人ってだけで……

 

「というか私だってもう大人! ひとりでも全然大丈夫なんだから、松本さんには帰ってもらおう!」

 

 大丈夫、松本さんだって話せばわかってくれる。たぶん。

 再び松本さんがいるリビングに戻ると笑顔で迎えてくれた。その笑顔がこわく感じるのは仕方がないと思う。

 

「ま、松本さん……!」

「どうしたの? みやこさん」

 

 言うぞ、帰ってって言うぞ!

 

 

 ───プルルルルルル! プルルルルルル!

 

 

 私の決意を水差すように、突然鳴り出す家電。

 ど、どうしよう。出ないといけないのかな。でもお母さんいないし、私がでてもどうしようもないし……うん、そっとしておこう。

 

 放置を決めた私とは反対に、なぜか松本さんが電話を取った。

 

 えっ……?

 

「はい、星野です。はい? あら、お父さまですか。電話口ですみません。私、みやこさんの友達の松本香子と申します。いつもみやこさんにはお世話になってます。はい、はい。ええ、みやこさんですか? いえいえ~、私がやりたくてやってることですから、はい。わかりました、はい───」

 

 電話相手はお父さん? もしかしてまた外堀が埋められつつあるんじゃ……

 

 通話が終わったのか、松本さんは受話器を置いた。

 

「ま、松本さん……今のってお父さん……?」

「ええ、お父さまからだったわ。みやこさんは電話に出るの苦手だから私が出ちゃったけど、星野って名乗るのもやぶさかじゃないわね」

 

 この人はなにを言っているんだろう。深く考えたらダメなやつだきっと。

 

「あ、みやこさん。今日はゆっくり休んでて大丈夫よ。昨日は妹さんと寝たから疲れてるでしょ?」

 

 なんで知ってるの?

 

「家事は私がやっとくから、ね?」

 

 ね? じゃないんだけど。

 

 松本さんはウィンクを飛ばして台所に戻った。

 電話に出てくれたり、家事をしてくれたり、悪い人ではないんだよね……ただちょっと、気持ち悪いというか、こわいだけで。それさえなければ理想の友達? なんだろうけど……

 

「そういえば花ちゃんも私のこと、同じように言ってたっけ……」

 

 あんまり考えたくないけど、ひょっとして私と松本さんって似てるんだろうか……

 

 

 

 ・・・・・夕食後・・・・・

 

 

 

 すごく美味しかった。

 松本さんが作ったご飯は私の好みに完全一致だった。うれしい要素のはずなのに、松本さんだからこわく感じてしまう。たまたま一致したのだと思いたい。

 

「食器はそのままでいいわよ」

「さすがにそこまでは……」

「遠慮しなくてもいいのに」

 

 遠慮というか、これ以上こわい点を見つけたくないからだけど……食器を出したのは私なのに、洗ったあと松本さんなら平然と食器が元々あった場所に戻せそうだから。

 

 とにかく台所に松本さんと立つ。

 

「みやこさん」

「な、なに……?」

「なんだか一緒に台所に立ってると、新婚さんって感じよね」

 

 花ちゃん助けて。

 

「なんて、冗談よ冗談」

 

 松本さんが言うと冗談には一切聞こえない。

 

 それから無事に食器も片付け終わる。しかしやっぱり、松本さんは帰る様子を見せてくれない。まあ、もう外は暗くなっちゃったし、今から帰ってなんて言えないけど。

 

 リビングにピーと電子音が鳴った。

 この音は……

 

「みやこさん、お風呂沸いたみたいだから先に入っちゃって」

 

 なんでうちの湯張り機使いこなしてるの? 

 

 同じ規格をたまたま使ってるだけだよね……いや、別に複雑なものじゃないから普通、なのかな……? ダメだ、何が正しいかわかんない……

 

「ま、松本さんが、先に入っていいよ?」

 

 私が先に入ると、自意識過剰かもしれないけど、松本さんも一緒に入ろうとしてくる気がしてこわい。

 

「そう? それじゃあお言葉に甘えようかしら」

「ど、どうぞどうぞ」

 

 結構あっさり。やっぱり自意識過剰だったのかな。一緒に入りたかったらもっと駄々とかこねたりするものだろうし……って、ひなたじゃないんだから。

 

 松本さんがお風呂に向かったので、自分の家なのにようやくひとりになれた。

 精神的にいつもより疲れながらテレビを眺める。撮り溜めしてたアニメ消化しなくちゃ。

 

 

 

「お風呂空いたわよ」

「ひっ、は、はい」

 

 アニメを見ながら次の花ちゃんの衣装候補を考えていたら、いつの間にか松本さんが隣にいた。なかば逃げるようにお風呂へと向かう。

 

「さ、さすがに入ってこないよね……?」

 

 二度風呂とか言って来たりしないよね? なんでお風呂でこんなに怯えないといけないんだろう。

 ダメだダメだ。松本さんは悪い人ではないんだから、自意識過剰もいい加減にしよう。

 

 体を洗い、ゆっくりと湯槽に入る。お風呂の気持ちよさに力を抜きながら考える。明日になれば、ひなたも帰ってくる。それまでの辛抱だと。

 

 すると、脱衣場に人が入ってくる音が聞こえた。今この家にいるのは私と松本さんだけ。だから当然、脱衣場に入ってきたのは松本さん。

 

 ダレカ、助けて。

 

「ま、ま、松本さん……!?」

「寛いでる最中にごめんなさいね、みやこさん。洗濯機の予約を今のうちにしておこうと思ったのよ」

「そ……そうなんだ」

 

 良かった。乱入してくるわけじゃないみたい。

 脱衣場に見える松本さんのシルエットも脱いでいる動きはしてない。言葉通り、洗濯物を洗濯機に入れて予約してる感じだ。

 さすがに洗濯機は松本さんの家と違う種類のものなのかな。なんだか松本さんの動きがゆっくりだ。

 ゆっくりと、1枚1枚洗濯物を入れていく。にしても結構時間が掛かってるなぁ。松本さんならテキパキしそうなのに。

 今日の洗濯物は私の服ぐらいしかないから量も多くないのに。

 

 …………私の服。

 

 うん、考えるのはやめよう。SAN値がまずいことになる。

 

 

 松本さんが脱衣場から出たのは、それから10分ほどだった。

 

 

 

 寝る準備も整えて、今は部屋にいる。

 

「みやこさんってたまに妹さんと一緒に寝てるじゃない」

「きょ、今日はひとりで寝たいかな……」

「心配しなくても、私も一緒に寝たいって言おうとしたわけじゃないわよ」

「そ、そうだよね」

「でもみやこさんが望むなら私は構わないけど?」

「ダイジョウブデス」

 

 なんだか今日は眠れる気がしない。家族以外が部屋にいる状態で眠れる気なんて全然しない。

 

「それじゃあみやこさん、おやすみなさい」

「へ……?」

 

 松本さんが部屋から出ようとした。それが予想外だったから、つい変な声を出しちゃった。

 

「どうしたの?」

「あ、いや、松本さん、ここで寝ないの?」

「私が一緒にいたらみやこさん眠れないでしょ?」

 

 松本さん……

 私の人見知りを汲んでくれてるなんて……やっぱり変なだけで悪い人じゃないんだ。

 

「私はリビングで寝るわね。お布団は借りちゃうけど」

「う、うん。わかった。それじゃ、おやすみ」

「ええ。みやこさん、おやすみなさい」

 

 すごく警戒しちゃったけど、明日からはそんなに考えすぎなくても大丈夫かな。

 そんなことを思いながら電気を消して眠った。

 

 

 

 ・・・・・翌朝・・・・・

 

 

 

 ハァハァと荒い鼻息が聞こえる。

 ひなたが起こしに来てないということは、まだ起きるには早いよね。まだ寝てていい時間だ。

 

 パシャリ、と聞き慣れた音が聞こえた。それも連写で。

 

 あー、この音、花ちゃんも撮る時のカメラの音だ。でもなんで聞こえるんだろ。朝から花ちゃんがいるわけじゃないのに。

 というか、花ちゃんだけじゃなくひなたも林間学校でいないんじゃ……あれ……今家に居るのって……

 

「───っ!?」

「おはよう、みやこさん」

 

 ガバリと勢いよく起きると目の前には満面の笑顔の松本さん。だけどカメラは構えてない。

 気のせい、だったのかな。そうだよね、さすがに寝顔を撮ったりなんてしないよね。

 

「朝ごはん用意してあるから。私はもう大学に行かなくちゃだから、またね」

「う、うん」

「またお泊まり会しましょうね」

「う、うーん……」

 

 恐ろしい提案は言葉を濁すに限る。

 家を出ていく松本さんを見送りながら、次にひなたが家にいないタイミング……修学旅行の日は絶対にお母さんに家にいてもらおう。

 

 松本さんが用意した朝ごはんを食べながら、そんな決意を固めた。

 

 

 

 

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