みゃー姉こそ天使だぞ   作:星野香子

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みやこさんと同じ布団で寝たい

 

 

 

「なー、みゃー姉。なんでもやる券いつ使うんだ?」

「え?」

 

 一緒にお風呂に入っていると、ひなたが髪を洗われている最中にそんなことを言いだした。

 

 なんでもやる券、そういえば誕生日プレゼントでもらったな。割とすぐにひなたに使ったけども……そういえばまだ花ちゃんとノアちゃんの分の券は残っているんだ。エリクサーみたいに大事にとってたせいで忘れかけてた。

 

「有効期限ってあるの?」

「ないー」

「そっかー。流すよー」

「ん!」

 

 ひなたのシャンプーを洗い流していく。ひとりでもできるのに、一緒に入ると私がやるのが恒例となってしまっている。

 

 それにしても、なんでもやる券……有効期限なんてないって言ってはいるが、限度がきっとあるだろう。良くて六年生に上がるまで……いや、小学校卒業までならギリいける……?

 大事にとっておいて結局使い忘れるよりはそろそろ使った方がいいかな。花ちゃんたちがなんでもやる券の存在自体を忘れちゃったら言いだしにくいし。

 

「うーん、でも何してもらおうかなぁ」

「なんでもいいぞ!」

「するのはひなたじゃなくて花ちゃんたちでしょ」

「なんでもやる券がなくてもわたしはいいぞ!」

 

 ひなたの愛の底が見えない。

 今でこそ子供らしい無邪気さでいいけど、大きくなってもこのままだと嬉しいような、こわいような……

 

「それじゃあひなた」

「なんだみゃー姉!」

「今日は別々で寝「それはやだ」……そっかー」

 

 わかってたけど。

 お風呂に入る前に一緒に寝ようと言われたから、身の安全のために言ってみたけどダメだった。なんでもやる券じゃないと姉離れ関係はできなさそうだ。

 

「それでみゃー姉、なんでもやる券どう使うんだ?」

「うーん……やっぱり普段してもらえなさそうなコスとかかな」

「わたしなら券なんてなくても着るのになー」

 

 ぐいぐいアピールが来るんだけど。

 

「どんな服なんだ?」

「まだ考え中かな」

 

 なんでもやってくれる券とは言っても許容範囲があるだろうし、けどお菓子のために割と色々着てくれる花ちゃんなら本当になんでも着てくれる予感もあったり。

 

「まあなんでもやる券がなくてもみゃー姉の頼みならなんだって聞くだろうな!」

「ひなただけだよそれ」

「そんなことないぞ! 松本だって聞いてくれるぞ!」

 

 例外中の例外を出さないで。

 ひなたと同じように何故か私にすごい憧れを持っている松本さんは特殊なんだから。

 

 ……ひなたが妹じゃなかったら、松本さんみたいになっていたかもしれない。

 

「それはさすがにないか」

「?」

「なんでもないよー。そろそろあがろっか」

「おう!」

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 お風呂上がり後。

 

 私のベッドでぼふんぼふんと跳ねるひなたを見て、今日も今日とて体力が有り余ってることに覚悟を決めた。

 せめてもう少し寝相がよくなってくれたら……

 

「みゃー姉? まだ寝ないのか? なら遊ぼう!」

「遊ぶったってもう遅い時間だから」

「でもまだ眠くない!」

「あんまり騒いだらお母さんに怒られるよー」

 

 ひなたに布団を掛けて電気を消す。

 

 一緒に寝ることがうれしいのか、満面の笑顔だ。もう何度も一緒に寝てるのにいつも嬉しそう。

 

「みゃー姉」

「んー?」

 

 消灯したからってすぐに寝つくわけじゃない。ひなたの眠気がくるまでゆったりお話しながら夜を過ごす。

 

「髪伸ばしたい」

「唐突だな……」

 

 唐突さはともかく、ひなたがこういった希望を言うのはなんだか珍しい。たいていは「みゃー姉と一緒がいい!」とか「みゃー姉が好きな髪にする!」とか言うのに。

 

「花みたいな髪にする」

「え、どうして?」

「だってみゃー姉は花が好きだからな」

 

 そうきたかぁ。

 ひなたの髪だからひなたが好きな髪型にしたらいいと思うけど、こういう理由は……なんかこわい。

 お風呂で考えた、ひなたが妹じゃなかったら松本さんみたいになっていたかもという説が強まってる気がしてこわい。

 

 あの人は高校時代の私の髪型に寄せてるらしいから、少し違うかな……?

 

「花ちゃんと同じ髪型にしなくても、私はひなたも好きだよー」

「わたしもみゃー姉が大好き!」

 

 ……好きに対して大好きと返ってきた。いや、このこと自体は普段通りだけど、ひなたの松本さん化を想像してしまうとなんだかどんどん重くなりそうで……

 

「そうだみゃー姉!」

「なに? もういい加減寝ようよ」

「花のコスプレ作ってほしい!」

「花ちゃんのコスプレ? 明日作るよ、だから今は寝よう?」

「わかった!」

 

 なんで花ちゃんのコス衣装の話が突然出たんだろう。花ちゃんのコスプレって頻繁に作っているつもりだけど。

 もしかしてひなた、花ちゃんにしてほしい格好とかあるのかな。

 

「いたぁ!?」

 

 突然お腹を襲ったひなたの裏拳を受けて、ようやくひなたが寝ついたことを確信した。

 

 ここからが本当の地獄だ……

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

「みゃー姉朝だぞ!」

「うん……おはよう……」

「おう! おはようみゃー姉!」

 

 私としてはもう少し寝たい。体力を使い果たした。

 一方ひなたはぐっすり寝てスッキリといった雰囲気。

 

「私はもうちょっと寝るから……ひなたは学校行っておいで……」

「みゃー姉、今日は土曜日だぞ」

「あ、そうなの……じゃあもっと寝るよ」

「わかった! みゃー姉が起きたらわたしも花のコスプレ作るの手伝うから!」

「ん……お願いねー……」

 

 花ちゃんのコスどうしようかなぁ。花ちゃんのコス写真も結構増えたからなかなか決めにくい。どんな格好でもかわいいとはわかってるけども。あ、ひげろーは別だけど。

 今ある生地との兼ね合いも考えないと……というか今回はひなたがやけに張り切ってることだし、相談して決めたらいいか。

 

 ひなたが花ちゃんにしてほしい格好って想像もつかないや。

 

 そんなことを考えながら眠ると、目を覚ました頃はもうお昼を過ぎていた。

 

 

 

 ひなたとお昼ご飯、私にとっては朝昼兼用ご飯を食べてから、衣装作りを行う。

 

「それじゃあ花ちゃんの服つくろっか」

「おー!」

「それで、ひなたはどんなのがいいと思う?」

 

 ひなたが好きそうな衣装って本当になんなんだろ。

 

「? みゃー姉何言ってんだ?」

「ひなた?」

「花の服なんだからクソダサイ服だと思う」

「ひなた!?」

 

 花ちゃんの私服の話は今はしてないよ!?

 

「いや、花ちゃんのコスプレ作るんだよね?」

「うん! 手伝う!」

「ひなたはどんなのがいいかとか、希望はないの?」

「花のコスプレならなんでもいい!」

「んんー?」

 

 え、してほしい格好があったわけじゃないの?

 

「それじゃあ……考えたら花ちゃんのメイド姿はそんなに撮ってなかったし、メイド服かなあ」

「え? 花は普段ひげろーのシャツだぞ?」

「んんん?」

 

 だから今は花ちゃんの私服の話はしてないんだけど。

 

「あ、そうだみゃー姉! カツラも作れる!?」

「いや、さすがに作れないけど……?」

「じゃあ買わないとかー」

 

 カツラ……ひげろーのシャツ……

 

「ねえ、ひなた?」

「なに?」

「花ちゃんのコスプレを作るって、もしかして……」

 

 そんなまさかと思いつつ、でもおそるおそる聞いてみる。

 

「花ちゃんなりきり衣装……みたいな?」

「おう!」

「……誰が着るのかなぁ?」

「わたしが着る! あ、みゃー姉も着たいのか!?」

 

 花ちゃんの格好になりたがる理由は、聞かないでおこう。聞かなくてもなんか想像できちゃうし。

 

「ひなた」

「?」

「今日の衣装作りは中止です」

「なんで!?」

 

 なんで、じゃない。

 さすがにそれはいろいろとまずい。そんなの作ったって花ちゃんにバレたらすごくまずいし、万が一でも花ちゃんのコスプレをしたひなたに対して興奮止まない状態になったら……なんだか色々な方面でやばい予感しかしない。

 

「ひなた、花ちゃんの格好をしてもひなたはひなただからね?」

 

 だから道を踏み外さないでね? 本当にお願い。

 

「でも花の代わりにはなれるぞ!」

「なれないからね?」

 

 どう説明すればいいんだこれ。こうなったひなたは理屈が通じない。

 私だけで説得は難しそうだし……花ちゃんに助けてもら……いや、花ちゃんは不器用だしこういうの苦手そう。ノアちゃんなら家も隣だし、うん。ノアちゃんに助けを求めよう!

 

「みやこー」

 

 階下からお母さんの呼び声が聞こえる。もう、こんな時にいったい何。

 

「なにー?」

「香子ちゃん来たわよー」

 

 松本さん!? こんな時にいったい何!?

 

 帰ってもらって、という前に階段を上がってくる音が聞こえる。今度はいったいなんなの。

 

「来ちゃった」

 

 ドアを開けたのは当然のように松本さん。しかしいつもと格好が違う。松本さんの私服にしてはクソみたいにダサいし、コスプレ衣装にしてもダサい。

 というかそのTシャツ……

 

「松本もひげろーが好きなのか!?」

「私はあんまり……偶然にも妹のゆうが欲しがったからせっかくだしね。それでせっかくだしみやこさんに見せに来たの」

 

 何言ってるのこの人。

 ゆうちゃんが欲しがったのならゆうちゃんのサイズのを買うもんじゃないの? そこでなんで私に見せに来るの?

 

「それで、どうかしら?」

 

 見せびらかすようにその場で一回転する松本さん。

 だけど服は変なキャラであるひげろーが、変なポーズを取っているダサシャツ。そして髪には花柄のヘアピン。

 ……何も考えないでおこう。

 

「えっと……い、言いにくいけど……」

「やっぱりダサいと思うぞ」

 

「やっぱりそうよね……」

 

 あ、松本さんもダサいって思ってたんだ。

 初めて松本さんと意見が一致した気がする。

 

「松本、それって花のコスプレか?」

「偶然似ちゃっただけよ」

 

 偶然、をそんなに何度も強調されても困る。

 

 ひなたは松本さんの格好と私の顔を交互に何度も見てきた。

 

「花のコスプレはやっぱりやめる!」

 

 そして突然さっきまでの意見とは違う言葉が出てきた。

 良かった。なんでかわからないけど考え直してくれたみたい。でもなんでだろ。

 ちょっと考えてみたけど、意見が変わったタイミング的に松本さん……?

 

「なにかしら、みやこさん」

「あ、な、なんでもない……」

 

 ダサシャツを着ている松本さんはやっぱりこわい。でもなんとなく、今回は松本さんがいてくれて良かったかもしれない。

 ひなたが考え直した理由って松本さんの姿を客観的に見れたからだろうし、そう思うと反面教師としてはすごい優秀だこの人……!

 

「ハァ、ハァ、ハァ……なんだか今、みやこさんに褒められてる気がするわ……!」

「ヒッ……」

 

 突然息を荒げだした姿が不気味過ぎて、やっぱり松本さんにははやく帰ってほしいという思いでいっぱいになった。

 

 

 

 

 

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