みゃー姉こそ天使だぞ   作:星野香子

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みやこさんは大人の女性なの

 

 

 

 今日は日曜日。それもただの日曜日じゃなく、花ちゃんが来る日。

 お菓子を作って出迎える準備をするべきなのに、私は起きれずにいた。

 

「頭いたい……」

 

 せっかく花ちゃんが来る日だというのに、私は風邪を引いてしまったようだ。

 ピピ、と体温計が音をたてる。見れば37.4……せっかくの日曜日なのになんで風邪なんて引いちゃうのかな。どうせなら平日に引いてほしい。

 

 でもこのくらいなら我慢してお菓子を作れるかも……いや、ダメダメ。そんなことをしたら花ちゃんに風邪が移っちゃうかもしれない。

 今日は花ちゃんのお菓子作りは無理だ。お菓子もないし、花ちゃん撮影会は我慢しよう。

 

「みゃー姉、もうすぐ昼だぞー! お菓子作らないのか?」

「ごめん、ちょっと風邪引いちゃったみたい……お母さん呼んでくれる?」

「風邪!? 大丈夫か!? すぐ呼んでくる! 救急車もいるか!?」

「風邪で救急車は呼ばないで……」

 

 みゃー姉がー! と叫びながらひなたはお母さんを呼びに行った。

 

「みやこ、風邪だって? しんどい?」

「ちょっとダルいー……」

「熱は計った?」

「うん、熱あった」

 

 困ったような表情のお母さん。たしか昼から仕事だったはず。仕事を休むか悩んでるのかな。

 

「仕事終わったらゼリーとか買ってきてほしいー……」

「……看てなくて大丈夫?」

「そんな子供じゃないんだから……大丈夫だよ」

 

 さすがに大学生にもなって親に付ききりで看病されるとか恥ずかしい。

 

「できるだけ早めに帰ってくるから。辛くなったらすぐ電話するんだよ」

「ん、わかった。あ、出る前に冷えピタ貼ってー」

「はいはい」

 

 冷えピタを貼ってもらい、出る前におうどんも作ってもらった。

 風邪を引いた日はお母さんが優しくなる。普段からこれくらい優しかったらいいのに。

 

「みゃー姉……大丈夫か……?」

「大丈夫だよ、寝てたら治るから。今日は花ちゃんたちと遊んでおいで」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 療養のためとはいえ、寝てるだけなのは暇。ゲームでもしようかな。

 

 携帯ゲーム機でぷよぷよをしていると玄関から声が聞こえた。どうやら花ちゃんたちが来たようだ。

 お菓子がないことにがっかりするだろうな……ごめんね花ちゃん。

 何か日持ちするお菓子を作り貯めしとけばよかったなぁ。あ、お邪魔ぷよが嫌なとこに。

 

 階段を上がってくる足音。そのままひなたの部屋に行くだろうしとゲームを続ける。あと赤ぷよが来たら連鎖ができる。赤ぷよが来たら……!

 

「お姉さん、大丈夫ですか?」

「へ? は、花ちゃん!?」

「……なんでゲームしてるんですか」

 

 赤ぷよじゃなくて花ちゃんが部屋に来た。ゲーム機からは「ばたんきゅ~」と負けた音声が流れる。

 

「こ、これはちょっと暇だったからで……」

「ちゃんと寝ててください」

「ご、ごめん……」

 

 って、そうじゃなくて!

 

「花ちゃん? 今日はコスプレしなくていいよ?」

 

 私の部屋に来たってことはお菓子のためにコスプレしに来てくれたんだろうけど、今日はお菓子がない。ひなたから聞いてないのかな。

 

「知ってます。風邪ってひなたから聞きましたし」

「うん、そうなの。移っちゃいけないからお菓子も作ってないんだ。ごめんね」

「いいですよ。はやく治して元気になってくれたら」

 

 これは……! 花ちゃんが私のことを心配してくれてる!!

 すぐにでも治さなきゃ! ゲームなんてしてる場合じゃない!

 

「うん! すぐに治すよ!」

「そうしてください」

「……」

「……」

「……?」

「?」

 

 花ちゃんが部屋から出ない。

 ひょっとしてまだゲームとかすると思われてるのかな。

 

「えっと……ちゃんと休むから。花ちゃんに移っちゃうかもだし、ひなたの部屋に行ってきていいよ?」

「いえ、お姉さんの看病するんで」

「え!?」

 

 花ちゃんが私の看病を!?

 看病ってことは……あ、あ、汗を拭いてくれたり、ふひっ……お粥を作ってくれたり……お粥は無理か。花ちゃんって全体的に不器用な方だし。

 

「……いや、やっぱり看病はいいよ。ひなたと遊んでていいよ」

「ひなたとノアもお姉さんの看病するためにお粥を作ってるから。私はその間看ててって」

「あー……」

 

 台所から追い出されちゃったのか花ちゃん。

 というか、お粥って……お昼食べたのに。

 

「それでお姉さん。何かしてほしいことありますか?」

「し、してほしいこと……!?」

 

 花ちゃんにしてほしいこと。そんなのいっぱいあるけど……あ、どれにしようか考えたら頭痛くなってきた。案が思いつきすぎて止まらない。

 

「痛たたた……」

「大丈夫ですか!?」

 

 頭にズキズキとした痛みが来て思わず頭に手をやる。そのせいか花ちゃんが心配げにそばまで来てくれた。

 

「は、花ちゃん、離れて……」

「えっ」

 

 急に近づかれたらなんだか恥ずかしいし、それに今の私は風邪を引いてるから移っちゃうよ。

 

 うん。してほしいことは今はないや。花ちゃんに風邪が移っては大変だ。

 

「……離れたら看病できないです。お姉さん本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だから」

 

 花ちゃん優しすぎる。天使かな。天使だった。

 でもその優しさに今は甘えてはいけない。

 

「風邪が移っちゃうといけないし、看病はいいよ。ひなたとノアちゃんにもそう伝えておいてくれる? 気持ちはとっても嬉しかったから」

「お姉さんがこんなにしおらしいなんて……ひどい風邪なんじゃ……」

 

 花ちゃんの中の私はどんなイメージになってるんだろうか。知りたいような知りたくないような……

 

 マジマジと見てくる花ちゃんの視線から隠れるように布団を頭までかぶった。そんなに見られるとやっぱり恥ずかしい。

 あ、そうだ。

 

「花ちゃん、たしか冷凍庫にアイスクリームがあるから、食べていいよ」

「……わかりました」

 

 すぐに向かうかなと思ったけど、少しの間のあと花ちゃんは部屋を出ていった。アイスは市販のものだけど釣られたようだ。花ちゃんの将来がまたひとつ心配になった。お菓子や甘いものに関しては単純なとこもかわいいけど……

 

 さてさて、とにかく早く風邪を治さなきゃ。といってもただ寝るだけなんだけど。

 

 決心新たにしたとき、部屋のドアが空いた。

 花ちゃんがまたまたやって来た。アイスとスプーンを手に持って。

 

「花ちゃん!?」

 

 とことことそばまで歩いてきて、アイスの蓋を開けた。まさかここで食べるつもり……?

 『看病をする』『アイスを食べる』その両方をするつもりで!?

 

「口をあけてください」

「へ!?」

 

 アイスをすくったスプーンを近づけられた。私はこんらんした。

 あの花ちゃんがアイスを私に? というかこれって「あーん」ってやつじゃ? それを花ちゃんが私に……私に!? あ、これはもしかして夢? いやそんなベタな……でもこれはいったい。花ちゃんの天使度がさらに膨れ上がったってことか!

 

「はやくあけてください。溶けちゃいますよ」

「あ、うんっ」

 

 言われるがままに口を開ける。すると冷たいアイスが口のなかに入ってきた。

 

「……ごふっ」

「!? 大丈夫ですか!?」

「ご、ごめん、大丈夫……」

 

 でも寝ながら食べるのは無理……

 

「あ、そっか。体を起こしてからでしたね……すみません」

「ごほっ……い、いや気にしないでいいよ」

 

 上半身を起こして咳をしていると背中をさすってくれた。

 花ちゃんの手が背中に……くひひ……

 ってダメだダメだ。堪能してちゃダメだ。

 

「ありがとね。もう大丈夫」

「ほんとですか?」

「うん、アイスもありがとう」

 

 アイスより私の看病を優先してくれるなんて本当にすごく嬉しい。本当は花ちゃんに食べてもらうつもりだったけど、ひと口食べちゃったし残りのアイスも私が食べよう。

 アイスを受け取ろうとすると、渡すまいと避けられた。そして再びアイスをすくったスプーンがつきつけられる。

 

「は、花ちゃん?」

「はい? どうしました?」

「えと……自分で食べれるから……」

「風邪を引いてるんですから、おとなしく看病されてください」

「あ、うん」

 

 つい頷いてしまった。

 

「ってダメだよ!? 花ちゃんに風邪が移っちゃうから!」

「大丈夫ですよ。それより早くアイスを食べてください。溶けたらもったいないです」

「スプーンごと渡してくれたらいいから!」

 

 ジトーっと睨まれる。睨んでる顔もかわいいけど、かわいさのあまりか、何故か顔が熱くなってしまう。

 

「人に移すと早く治るって言いますよね」

「そういう迷信はあるけど……でも花ちゃんに移すのはダメ!」

「移してもいいですよ。それでお姉さんが早く治るのなら」

 

 花ちゃん、それは天使が過ぎる!

 

「は、花ちゃん……!」

「だから早く治してお菓子作ってください」

 

 ……お菓子のためなら風邪を引く覚悟を固めてるのかな花ちゃんは。

 さすがにそのお菓子への執着心はやめさせないと。

 

「花ちゃん、体は大事にしないといけないからね?」

「はい。わかってますよ」

「じゃあ風邪が移るといけないから、部屋から出よう?」

「お姉さんが早く元気になるためにもここにいます」

 

 嬉しいけど嬉しくない……。お菓子への情熱とはいえ花ちゃんの健康のためにも出てほしい。

 

 ……よし、説得の方向を変えよう。

 

「花ちゃん」

「はい、なんですか?」

「花ちゃんが風邪を引いたらお菓子は食べれないよ?」

「大丈夫です。お菓子を食べるためなら風邪なんて平気です」

 

 自信満々な表情をしながら答える花ちゃん。また花ちゃんから差し出されたアイスを食べながら説得を続ける。

 

「無理だよ花ちゃん」

「そんなことないです!」

「花ちゃんが風邪を引いちゃったら、この家まで来れないでしょ?」

「あ……」

 

 そう、花ちゃんが風邪を引いたら、食べることはできても移動は辛いはず。というか食べることに関しても味覚がちょっと変わるみたいだから微妙だと思うけど、そこは言っても無駄な気がする。

 

「ね? だから花ちゃんのためにも今は部屋を出よう? 看病、すごく嬉しかったから」

「……」

 

 ものすごく真剣な表情で花ちゃんが考え込んでる。考え込む要素があっただろうか……

 

「お姉さん!」

「は、はい!?」

「私が風邪を引いたらお姉さんが看病してください!」

「へ!?」

 

 突然何を!?

 

「移った風邪が元々掛かってた人には移らないらしいですから」

「う、うん?」

「それなら私に移して、そしてお姉さんが私の看病に来てください」

「ううーん???」

 

 つまり、花ちゃんの家に私が行くってこと……?

 

「……無理無理無理! 花ちゃんの家って知らないし! 知らない道こわいし!」

「外に出る訓練だと思って頑張ってください!」

 

 花ちゃんの応援には応えたいけどこればっかりはきつい。ていうか花ちゃん力説のあまりすごい近い近い近い。

 

「花ちゃん近い近い……ほんとに風邪が移っちゃうって……」

「移して早く治しましょう!」

「ひ、ひぃぃ……!」

 

 さらに近づいてきたぁ!? お菓子のためならここまでするの!? 花ちゃんの情熱を完全に甘く見てた!

 

 どうしようどうしよう。花ちゃんの家に興味がないわけじゃないけど、花ちゃんの部屋とか見てみたいけど。あと花ちゃんの枕に顔を埋めたいなぁとか思うけども。ていうか本当に近い近い。恥ずかしさとか、あと心臓が落ち着かないくらいうるさい。顔もすごい熱いしどうしよう花ちゃんまつげ長いしきれいだな。

 

「って、お姉さん顔すごい赤いですよ!?」

「あわわわ……」

「病院……! 救急車!?」

「だ、大丈夫だから!」

 

 救急車を呼ぼうとする花ちゃんを止めるために、なんとか正気に戻れた。

 

「……本当に大丈夫ですか?」

「うん、それより花ちゃん……」

「はい! なんですか!」

「そこの机の一番上の棚にね、この前もらったなんでもやる券が入ってるんだけど取ってくれない?」

「え? いいですけど……」

 

 花ちゃんは不思議そうな顔をしながら棚から券を取り出した。

 

「これがどうしたんです? 使わなくても看病ぐらいなんでもしますよ?」

「えっとね、花ちゃんとノアちゃんの券を使うので、二人とも看病は中止。ひなたと遊んでてください」

「!?」

 

 一番確実な方法だ。こんな形で使うことになるとは思わなかったけど、どう使うか悩んでたからまあいいや。

 

「お、お姉さん……? これ、他のことに使いませんか!?」

「ううん、この使い方でいいよ」

「そ、そんな……気が変わったらいつでも言っていいですからね……!?」

「うん、その時はお願いね?」

 

 なんというか、釈然としない表情を浮かべながら花ちゃんはゆっくり部屋を出ていった。

 

 ちょっとだけ、券の使い方がもったいない気がしたけど、これで正しかったのだと自分に言い聞かせながら布団に潜り込んだ。

 

 

 

 

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