みゃー姉こそ天使だぞ   作:星野香子

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みやこさんこそ天使だから

 

 

 

 

 

「花ー!」

「どうしたの、ひなた?」

「大事な頼みがある!」

「頼み?」

「堕天してくれ!」

「…………は?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ということが今日の学校であったんです」

「……どういうこと?」

 

 花ちゃんが私の部屋にやってきて、今日の学校の出来事を教えてくれたがよくわからない。

 ちなみにひなたとノアちゃんはひなたの部屋でポケモンバトル中らしい。

 

「むしろ私が聞きたいんですけど、お姉さんは何も知らないんですか?」

「いや、私もさっぱりだよ」

「でもひなたが言うことってだいたいお姉さん絡みじゃないですか」

「まあ……そうかも」

「だから今回のこともお姉さんが何か言ったんじゃないかと思ったんです」

「うーん……」

 

 いくら考えても、花ちゃんに堕天してほしいってまるで意味がわからない。私としては花ちゃんは今のまま天使でいてほしいけども、堕天使花ちゃんか……ちょっとダークな感じもありだな。

 ちょっと装飾が多くなりがちな感じでいくか、いっそ露出を少し大胆にして堕天した感をあげていくか……あ、でも露出が上がると花ちゃん嫌がるかな。普段のようなお菓子では釣れないかもしれない。もっとレア感のあるお菓子で釣って……

 

「……何か危ないこと考えてません?」

「そ、そんなことないよ! 全然! うん!」

 

 危ない危ない。

 欲望が顔に出ていたかもしれない。堕天使花ちゃんは段階が早すぎる。もっとじわじわと花ちゃんがコスプレに慣れてからにしよう。じゃないとお菓子があっても家に来てもらえなくなるかもだし。

 

「えっと、それよりひなたのことだったね」

「はい」

「ひなたは理由とか教えてくれなかったの?」

「教えてはくれたんですが……よくわからなくて」

 

 理由を答えてもらってもわからないなんて、これじゃあひなた本人に尋ねても意味がないかな。

 

「『みゃー姉のためだ』って……」

「……私?」

「はい」

「え、なんで?」

「だからお姉さんに今聞いてるんじゃないですか」

 

 さっぱりわからない。

 私のために花ちゃんが堕天する必要があるってどういうこと。というか堕天ってそもそも何!?

 

「みゃー姉ー! ストーンエッジが外れて負けたー!」

「アタシの勝ちだったよ! 次はハナちゃんね!」

 

 ポケモンバトルが終わったのか、ひなたとノアちゃんも部屋にやってきた。

 

 せっかく来たのだし、花ちゃんに堕天するようお願いした理由を私からも問いただそう。ひなたのことだから嫌がらせとかそういうのじゃないと思うけども。

 

「ひなた、花ちゃんに堕天してって頼んだの?」

「んー? おう!」

「正直よくわからないんだけど、なんでそんな頼みをしたの?」

「みゃー姉のためだ!」

 

 うん、わからん。

 

「ハナちゃんそんなこと頼まれたんだ……でもミャーさんのためってどういうこと?」

 

 ノアちゃんからさらなる追求が入った。

 やっぱり誰も今の説明じゃわからないよね。

 

「みゃー姉が言ってたんだ……花が天使すぎて生きるのが辛いって!」

 

 ひなたの返答に、花ちゃんとノアちゃんの視線が同時に私へと向いた。

 

「やっぱりお姉さんのせいじゃないですか……」

「い、いや、これは違うくない!?」

「ミャーさんってハナちゃんが絡むとすごい変だよね」

「ノア、それだと私が原因みたいに聞こえるんだけど」

 

 確かに最近「花ちゃんが天使過ぎて生きるのが辛い……」と何気なく言った気がする。でもそれはこう……言葉通りの意味じゃなくて、いや、天使度が高いのは言葉通りだけど、生きるのが辛いっていうのは実際とは違ってて……ってどう説明したらいいんだろこれ。

 なんだか使命感に燃えているひなたはまだ言葉を続ける。

 

「だからみゃー姉を死なせないためにも、花には天使をやめてもらわないといけないんだ!」

「そもそも天使じゃないんだけど」

「そうなのか!?」

「でも劇では天使だったよネ」

「やっぱり天使か!」

「もう劇は終わったでしょ」

「天使じゃない……!? みゃー姉、どっちなんだ!?」

 

 突然私に振られても。

 えっとえと、花ちゃんが天使か天使でないか。当然人間だけど、かわいさ的な意味では天使であって、だから……

 

「えっと……花ちゃんは人間であり、天使でもある……とか」

「両方か!」

「お姉さんはなんでややこしいことにしようとするんですか」

「あ……!」

 

 つい本音で答えてしまっていた。

 そうだ、ここは天使じゃないって言えば良かった。でもそれはそれでやや抵抗がある。

 

 いや、別に花ちゃんが天使じゃないって言わなくても、生きるのが辛いっていう誤解を解けばいいだけじゃないかこれ。

 

「ひなた、生きるのが辛いっていうのは別に死にそうとかそういう意味じゃないからね」

「え? そうなの?」

 

 よし、これで花ちゃんへの堕天要望は終わるはず。

 

「じゃあどういう意味なんだ?」

「んー……」

 

 どういう意味になるんだろ?

 何気なく使っていた言葉の意味を改めて考えると、うまく説明できない。

 

 天使すぎて浄化されそうなほどの尊さを感じる……? 浄化って時点であまり変わらない気がする。

 あまりの天使さに今なら死んでも悔いがないレベル……? 余計ダメだこの説明。

 

「天使過ぎて生きるのが辛いっていうか、実際はかわいすぎて生きるのが辛いなんだけど……とにかくすごくかわいいって意味だよ」

 

 別に詳しい説明しなくてもいいや。語源とか言っても仕方ないし、とにかくかわいさのあまり自然と口に漏れた言葉なんだし。

 

「じゃあアタシもかわいすぎて生きるのが辛いって言わせてるってコト?」

「言ったことないけど」

「ひどくない!?」

「あ! 別にノアちゃんがかわいくないって意味じゃないからね!?」

「ヒナタちゃーん! ミャーさんがいじめるー!」

「大丈夫だノア。ノアでわたしも生きるのが辛いからな!」

「全然大丈夫じゃないよ!?」

 

 ひなたの言葉が抜けているせいで酷い言葉になってる。

 ショックを受けるノアちゃんをよーしよしとあやすひなた。ノアちゃんのことはひなたに任せても大丈夫そうだ。

 

「前から思ってたんですけど、お姉さんってほんと……」

「な、なに?」

「もっと言葉に責任を持った方がいいですよ」

「そ、そうだね……」

 

 軽はずみな言葉でも、ひなたは大きく受け止めるし……

 

「お菓子一生食べ放題の約束、あれはちゃんと本気ですよね……?」

「えっ!? も、もちろん!」

「ほかの子にも似たようなこと言ってたりしません?」

「い、言ってないよ!」

「ならよかったです」

 

 心底ホッとした顔を見せる花ちゃんかわええ。お菓子食べ放題というか、花ちゃんのそばにずっといるつもりな意味での言葉だったけど、まぁ花ちゃんにとってはお菓子が食べれるならどっちも一緒か。

 それにしてもお菓子のことで不安になる花ちゃんも、なんというか単純なかわいさを見せてくる。これはもう、かわいさの暴力だ。

 

「それにしても、ミャーさんってハナちゃんのことよく天使って言うよね」

「そ、そう?」

 

 ショックから立ち直ったノアちゃんが頭を撫でられながら言った。あやすのがまだ続いてることはスルーしててもいいか。

 

「そうだよ。だからハナちゃんが劇で天使役に推薦されたんだし!」

「それで花ちゃんが主役になったんだよね……あんなに良い劇になったのはやっぱり花ちゃんが天使だから……?」

「天使じゃないです」

 

 あの劇は本当にいいものだった。何度もビデオで見返すほどには。

 家宝として残してもいいレベルなのでデータが消えないようにバックアップもとってある。

 

「なー、みゃー姉」

「どうしたのひなた?」

「天使ってかわいいって意味であってる?」

「んー」

 

 厳密には全然違うと思うけど、私が普段使う言葉としてはそれであってるか。

 

「うん、そうだね」

「じゃあわたしの天使はみゃー姉だな!」

「!?」

 

 突然何を言いだしてるのひなたは。

 

「いや、私は天使って感じじゃないから。それにかわいいとかと違うし……」

「いいやみゃー姉は天使だ!」

「いや、だからね……」

 

 そんな天使天使って言わないでほしい。恥ずかしくて顔が熱くなる。

 

「あ、ミャーさんテレてるー!」

「お姉さん顔真っ赤」

「二人ともひなたを止めて! 天使とか恥ずかしいし!」

 

 ひなたといい松本さんといい、何故かやたらと褒めてくるから困る。お世辞とかも辛いけど、過大評価なのも辛いから。恥ずかしいから。

 

「天使って言われるとどういう気持ちになるかわかるいい機会じゃないですか」

「私には似合ってないから! みんなのほうが天使だから!」

「ミャーさん天使」

「お姉さん天使」

「みゃー姉こそ天使だぞ!」

 

 絶対花ちゃんとノアちゃんはからかってる!

 ダメだ恥ずかしすぎて顔を手で覆ってしまった。そこから顔をあげれない! 小学生に辱めを受けるなんて、花ちゃんが含まれてるからか新しい扉開いちゃいそう。

 

「ミャーさんがかわいそうだしみんな天使ってことでいっか!」

「弓を持たないとな!」

「そういう意味じゃないと思う」

 

 コス道具の弓を持ちだしたひなたに花ちゃんがつっこんだ。

 

 ノアちゃんの言う「みんな天使」ってたぶんこれ、私も含まれちゃってるんだろうな……

 

 今度からは下手に花ちゃん天使!とか言って、逆にまた天使天使って言われないよう気を付けよう。この恥ずかしさは結構きつい。

 

「そうだ! アタシたちは劇で天使の衣装着たけどミャーさんは着てないよね?」

 

 ノアちゃんが良いことを思いついた、みたいに言いだした。

 この流れはよくない。流される前に先手を打たなきゃ!

 

「絶対作らないからね!」

「えー」

「なんのことだ?」

「たぶんお姉さんのサイズの天使衣装でしょ」

 

 ふふん、この中で服を作れるのは私だけ。ひなたはよく手伝ってくれてるけど1人で服の制作はしたことないから無理だろうし。多少大人げなくても、というか大人だからこそ自分の天使衣装なんて作るわけにはいかない!

 

「でもミャーさん良く考えて?」

「な、何を?」

「ほら、ハナちゃんとお揃いの衣装になれるんだよ?」

「そ、その手にはのらないから……!」

 

 以前もその手に乗せられてコスプレさせられたことがあったりする。もうそんな簡単に屈するわけにはいかない。

 

「それにあれだよ! 衣装を作るための生地が今ないし、金欠だから無理!」

「それじゃあ衣装さえあったらお姉さん、私とお揃いの服を着るんですね」

「うっ……ま、まぁ、あったら花ちゃんとお揃いでも……」

「言いましたね」

「ナイスだよハナちゃん!」

 

 なんだか反応的に、私はまずいことを言ってしまったんだろうか。

 

「あ、でも! 私は作らないからね!」

「ダイジョーブ! それじゃ、楽しみだね!」

「だね」

 

 私が作らなくても大丈夫? もしかしてノアちゃんは服を作れるようになったってこと? いや、そんな数ヵ月で大人の服をできるほどになるとは思えない。

 もしかしたら勢いで言っただけかもしれないし、不安になることはない! はず!

 

 たぶん一週間もしないうちに天使の話題は忘れるはずだ。そう考えると気が楽になってきた。

 

 

 

 

 私の安堵は数日後に破壊された。

 

「みやこさん、いいわ。すごい素敵よ!」

 

 カメラを構えている松本さんから天使の衣装を渡されたからだ。松本さんの後ろでは楽しそうにしているノアちゃんたち。

 何気に松本さんとの交流多いよね、ノアちゃんって……

 

「ミャーさん天使ー」

「みゃー姉かわいいぞ!」

「や、やめて……」

「恥ずかしがるお姉さんすごい天使ですよ」

「許してぇー!」

 

「みやこさんが天使過ぎて生きるのが辛いわ……! 浄化されそう!」

 

 

 私の叫びは誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

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