起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第百四話:0079/11/10 マ・クベ(偽)と戦況

「やれやれ、レビル君にも困ったものだね」

 

明るく照らされた廊下を歩きつつ、幾つかの提出書類にサインを書き込みながらゴップはそう零した。制空権こそ確保しているが、輸送の要である制海権は十全とは言いがたく、少なくない規模の被害が出ている。情報部によれば小型の潜水艦による攻撃だと言うことだが、ゴップにとってはあまり意味の無い情報だった。なぜならそれらを考えるのは作戦本部の参謀であって、ゴップの仕事は彼らが要求する物資をそろえることだからだ。だからこそ、具体的な対策を立てぬまま、輸送量を増やして強引に量を確保するという方針は、ゴップにとって頭の痛くなる方針だった。

 

「輸送船一隻の人員が100人に満たないとは言え、船が沈めば相応に被害も出る。まったく、兵隊だってタダじゃないなんて、今更言わせないで欲しいんだが」

 

現在の連邦軍の作戦はどの軍であっても物量を前提とした作戦計画を行う。これはそもそも高度に発達した通信技術と、連邦軍自身より有力な敵勢力は存在しないという前提があったために少数精鋭での戦闘に特化していたからだ。しかし開戦初頭から通信面は崩壊。戦力においても想定していたような非対称戦ではなく、正に国家同士の殴り合いの様相だ。そのために連邦軍は、物量で戦う事を余儀なくされており、その結果、連邦軍の持つリソースですら各軍の要求に応えきることは困難だ。壊滅的打撃を受けた宇宙軍だけで無く、現在主力として対峙している陸空軍。太平洋艦隊の再建もままならないまま、シーレーンの維持に奔走する海軍、その全てが声高に物資と人員を要求するのだ。これであの演説の通りジオンの動きも鈍化していれば、まだやりようもあるだろうが、その気配は見られない。どころかこちらの動きに合わせて前線の戦力は更に増大しているという。

 

(国力30倍が聞いて呆れるね。こりゃそろそろ考えねばならんかな?)

 

ゴップは自身が人類という種の寄生虫であると考えている。己から積極的な社会貢献をした覚えは無いし、一見そう見える事業も自身の懐に十分見返りがあるから行っているのだ。そしてゴップにしてみれば戦争という状況は宿主が病魔に冒されているのと同義であり、宿主が快癒する、すなわち戦争を終わらせ、以前の状態に戻って貰うことが重要だった。故に連邦軍の勝利を前提とした行動を取ってきたのだが。

 

(壊死した腕を惜しんで、命を落としては笑い話にもならん)

 

当然腕を失えば元の姿には戻れない。不都合だってあるだろうし、以前ほど豊かな滋養をゴップの人生に与えてはくれないだろう。だが、それを惜しんで宿主が死んでしまっては意味が無い。ウィルスと違い、ゴップに次の宿主は居ないのだから。

 

「失礼いたします。ゴップ大将閣下!」

 

問題はどうこの提案をレビルに呑ませるかだが。そんなことを考えていると、ゴップ達の行く手を阻むように一人の士官が立ち塞がった。すぐに護衛の少尉がゴップの前に体を滑り込ませた。

 

「突然何かな?君は?」

 

言葉こそとげを含んでいたが、ゴップはそれほど警戒心を抱いていなかった。ジャブローの、それも中央施設であるこの区画に入ることが出来るのは、身元が保証された者だけだからだ。

 

「連邦宇宙軍所属、アンドリュー大尉であります。本日は現場復帰の嘆願に参りました」

 

そう名乗る大尉に覚えが無く首をかしげると、参謀の一人が耳打ちをする。

 

「先日カラカスで保護されたペガサス級の生き残りです」

 

そう言われて、ゴップは2~3日前に目を通した報告書を思い出した。北米に墜落したペガサス級、ホワイトベースの生き残りが自力でカラカスにたどり着き保護されたと言う内容だった。しかし、その報告と現状は齟齬がある。

 

「君はまだ、療養待機中ではなかったかな?」

 

確か末尾に心身の衰弱から1ヶ月程度の療養の必要性を認める旨の記述があったはずだとゴップは記憶していた。

 

「…治療は中断して頂きました。体調に問題はありませんでしたので。それに現状を鑑みれば、私のような実戦経験者が悠長に休んでいる場合ではないと考えました」

 

理屈は破綻していないと思いながら、ゴップはしかし間違いを正すべく口を開いた。

 

「大尉、君の意見は尤もではあるが、幾つか問題がある。第一に君が回復しているかどうかは軍医が判断するべき事だ。第二に私に君を現場復帰させる権限は無い。故に君が自分の願いを叶えたいのなら、速やかに医療施設に戻り、医師に診断書を書かせ、それを人事部へ提出することだ」

 

「それでは遅すぎるからこうしてお頼みしています!」

 

「何度も言うが私にそんな権限は無い」

 

「そんなはずはありません。閣下ほどの人脈と権力があれば造作も無いことでありましょう!?」

 

「口を慎め大尉!」

 

我慢できなくなったのか、後ろで聞いていた参謀の一人がそう叫んだ。それを手で制しながらゴップは子供を諭すよう言い聞かせる。

 

「大尉、私はこれでも軍の上層に居る。つまり模範となるべき人間だ。その私が権力に任せて好き勝手をやればどうなる?連邦軍は猿の集団ではない。今のは聞かなかったことにしておこう。さあ、もう行きなさい」

 

黙って俯く大尉へそう言って、ゴップは彼の横を通り過ぎようとする。しかしそこで、ゴップは疑念を感じた。ジオンと戦おうとする強い使命感を持っていて、かつこの区画まで入れるだけの階級と権限が与えられている人間が、人事権について理解していないわけが無い。

 

(ならば、何故彼は私の前に現れた?)

 

ゴップの運命を分けたのは、この人に対する嗅覚であろう。魑魅魍魎ひしめく軍政において、大将まで上り詰めた彼の感性は他者の行動と、その望む先を見ることに長けていた。その彼から見て、大尉の行動は明らかに目的と一致しない、つまり彼には別の目的があるということだ。

 

「いかん!」

 

言うやゴップは床へ身を投げ出した。ここは軍の重要区画。だが、軍人ならば武器の携帯は制限されていない。

 

「逆賊ゴップ!覚悟ぉ!」

 

そう叫ぶや、大尉はホルスターから抜いた拳銃の引き金を引く。ゴップ達にとって不幸だったのは、その凶弾の最初の犠牲者が護衛の少尉だったことだ。他の者達は射撃訓練などやらなくなって久しいどころか、銃を携帯すらしておらず、また咄嗟に自身の安全を確保しようと動いた。

 

「ぐぅっ!?」

 

衝撃と熱さがゴップの背を叩く。ああ、自分は撃たれたのだ。そう思うと同時にゴップは叫んでいた。

 

「取り押さえろ!」

 

その命令に動いた参謀の一人が犠牲となるが、そこで大尉の持つ銃が弾切れとなった。それを見て残った参謀たちが全員で飛びかかり大尉を床へと引き倒す。

 

「宇宙人と結託し連邦を敗北へ誘う奸臣め!このアンドリューがある限りそのような企みが成功するとは思うな!連邦は!連邦は私の手によって輝かしい勝利へと導かれるのだ!」

 

(まったく、最後に聞く言葉が罵声とは、私もついていない)

 

薄れ行く意識の中で、ゴップはそう一人ごちた。

 

 

 

 

「はっはっは!どうした若造!?そんなではこのワシ一人捕まえられんぞ!!」

 

「ハッスルしすぎよこのジジイ!サカギ!」

 

ガデム少佐の乗るゲルググに翻弄された事に苛立ったニアーライトが、もう一小隊を率いているサカギ中尉にそう支援を要請するが、返ってきたのは情けない声だった。

 

「無茶言いなさんな少佐!こっちだって手一杯ですぜ!?」

 

サカギ達が戦っているのは、基地に所属しているドムの小隊だ。しかし装備は同じはずなのだが、その戦況は一方的だ。何しろ2機のドムに3機がかりで挑んで翻弄されているのだから。尤も、3機がかりで1機のゲルググに押されているニアーライト達が責められる立場では無いのだが。

 

「これがドムの動きかよ!?」

 

思わず叫ぶ部下の言葉に、サカギも激しく同意したが、それを口に出す余裕は彼には無かった。何故なら。

 

「アス、時間だ」

 

「あいよ少尉」

 

まるで緊張感の無い言葉と共に、左右に分かれたドムの間から光条が走り、彼のドムを貫いたからだ。

 

「び、ビーム兵器ぃ!?」

 

絶叫するブラッド少尉へ向けて、相手のドムから呆れの滲んだ声がかかる。

 

「あんたらのドムにも積んであるだろう?まあ、全部ガデム少佐が押さえちまってるみたいだけどさ。それより、驚いてる暇なんてあるのかい?」

 

台詞が終わるのを待っていたように、再びビームが戦場を照らし、マッチモニードのドムが1機撃破される。その後の展開は戦術も何もない、包囲して全火力をたたき込むという、見る側からすれば実に酷い戦いだった。

 

「おう、大佐。こいつら弱いぞ?」

 

管制室で一部始終を見ていた大佐へ向かい、ガデム少佐がそう結論を口にする。

 

「あんたらが強いのよ!?」

 

ニアーライトの渾身の叫びは、大佐の溜息を生むという結果しか引き出すことが出来なかった。




ゴップ タイショウ >フショウチュウ 9T

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