起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
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オデッサ作戦の始動から一日が経ち、明けた翌日を洋上で迎えた囮部隊の士気はお世辞にも高いとは言えなかった。作戦の中核は、あくまでレビル大将率いる主力部隊。自分たちはそれを支える立場だと理解しているとは言え、同等の戦力を与えられつつも満足に戦果を出せない現状は軍人として歯がゆいものがある。そう感情が邪魔をするのだ。
「タイミングだよ。レビル大将の侵攻に敵は必ずしびれを切らす。その時こそが我々の真価を発揮するときだ、だから今は徒に兵を失うべきではない。第一当初の予想ではあれほどの抵抗は想定されていない。上陸するならば想定内まで敵を漸減してから行うべきだ」
事実敵の抵抗は極めて苛烈であり、強引な攻撃は兵の損耗を跳ね上げるだろう。だが参謀達の反応は芳しくなかった。
「中将は予想外の事態に消極的になっている」
その言葉の意味するところは臆病風に吹かれて、攻撃を躊躇っているという批判だ。この不用意な発言以降、囮部隊の参謀は意見が真っ二つに分かれることになる。すなわち、エルラン中将の意見を支持する以前から付き従っている参謀と、今回の作戦のために軍団から派遣されている参謀である。
攻勢を提案する参謀側にもそれなりの言い分はある。第一に当初のスケジュールでは、囮部隊も一日目で上陸、橋頭堡を確保している予定だった。加えて艦隊は多くの輸送艦を抱え込んでいる。北大西洋の制海権は拮抗しているものの、船団襲撃の実績から考えれば、人員も物資もできるだけ早く陸に送りたい。いくら護衛の艦艇が居ると言っても完璧は無いのだから。
「閣下は陸の兵に海で溺れろと仰るのか!?」
「溺れさせるか、無駄死にさせるかなら、溺れる方が幾分ましだろう?溺れた者は救えば良いが、死んだ者は生き返らん」
「この件は司令部に報告させて頂く!」
そう捨て台詞を吐き、足音も荒く艦橋から出て行く参謀を、エルランは溜息と共に見送った。
(まったく、レビルも付けるならもう少しマシな人間を送り込んでほしいものだな)
無論彼が、只の連絡参謀で無い事はエルランも判っている。状況も弁えずに徹底して攻勢を主張して、レビルの進撃を補助する事に固執するなど、どう考えても司令部から送り込まれた監視だろう。エルランの行動全てに猜疑の目を向けているのだから、意見が対立するのは無理からぬ事であるが、状況の見極めくらいはしてほしいものだ、とエルランはため息を吐いた。
「これは長い戦いになるな」
前線から送られてきた報告書を眺めながら、ユーリ・ケラーネは意地の悪い笑みを浮かべる。
「ここまで嵌まると笑いが止まらんな?」
その言葉に話しかけられた秘書官のシンシア大尉は困ったように眉を寄せる。連邦が動き出してからの行動は、正にこちらの手の中で踊る人形だ。味方どころか敵の損害までコントロールしている現状は指揮官にしてみれば理想的といえるだろう。故に出た軽口であるが、シンシアは敢えて諫言を口にした。
「思い込みは危険ですわ閣下。マ大佐の予測がここまで当たっているとしても、敵も人なのですから」
予想外の事は起きるもの。相手が経験豊富な指揮官ならば、それは十二分に起こりうる事であるし、それがあの大佐の想定を超えないなどという保証は何も無い。それはユーリ少将も十分理解しているのだろう。叱られた子供のような顔になったユーリ少将は手早く書類にサインを済ませると、端末を放り出し机へ脚をのせた。
「まあ、保険は掛けてあるさ。だから前線には弾をケチるなとよく言っておいてくれ、この後の分はちゃんと大佐が用意してくれるだろうからな?」
そう言いながら壁に掛けられた地図をユーリは眺める。連中の主力が揚陸したグディニャからオデッサまでは凡そ1200キロ、抵抗らしい抵抗がなくとも、たどり着くまでに数日は掛かる見込みだ。何しろ敵は未だに旧式の兵器を多く投入してきているという。それでは進撃速度を上げたくとも、上げられないだろう。
(もしこちらもザクやマゼラアタックで戦っていたなら、ぞっとせん話だな)
速いというのは、戦場において極めて大きなアドバンテージだ。その価値は戦術だけで無く、戦略の域ですら意味を持つ。その点においてMSのホバー化を強力に推し進めた大佐が居たことは、ジオンにとって幸運であった。
「先の無い球っころ…か。中々どうして、俺も見る目がねえな」
ユーリは元々地球侵攻に対して否定的だった。地球というものを嫌悪していたと言っても過言では無い。思い通りにならない気象、空気には常に何かの匂いや埃が混じり、水は微生物だらけ。更に資源の多くを宇宙に依存しておきながら、そんな場所にへばりついている連中がエリート気取りで金をむしり取っていく。それが面白いはずが無い。ユーリにとって、地球とはそんな憎悪の向く先だったのだ。だが、地球そのものが、スペースノイドにとって極めて価値があるものであることを、あの大佐は示した。成程、確かにこれだけ優秀な水と空気の浄化装置は太陽系の何処にも無いだろう。ならばそれを手中にすることは大きな価値がある。この戦争に勝ったなら、人類は全員が宇宙へと移民することになるはずだからだ。その時地球を管理している存在が、他者より有利な位置に立てることは、今日の状況から見ても明らかだ。
「水と空気を押さえる戦争。まったく、恐ろしいことを考えやがる」
あの男は一体何処までを見て戦争をしているのか。この戦いが終わったら一度問いかけてみるのも面白いかもしれない。ユーリはそんな事を考えながら、地図を眺め続けた。
「なあ、ソル。俺は確かワッパの陳情をしたよな?」
格納庫へ次々と運び込まれる機体を見ながら、クワラン軍曹はそう震えた声で問いかけてきた。
「あー…、して、いました、ね?」
「だよなぁ…。じゃあ、なんで今あるワッパまで全て運び出されて、その代わりにマゼラトップが運び込まれてるんだ!?」
我慢できなくなったのかそう叫ぶクワラン軍曹の頭に端末が叩き付けられたのはその瞬間だった。
「いつまで現実逃避をしている。他の隊はとっくに訓練を開始して居るぞ?それとも、私が苦労して受領した新型ワッパに不満があるとでも言うのかな?」
「キャ、キャメロン大尉。その、いえ、そんなわけではなくてですね?」
「では、さっさと慣熟訓練に移れ。敵の大規模侵攻の件も考えれば悠長なことはしていられん。あのオデッサの大佐が使う当てもなく装備を送ってくるとは思えないしな」
その言葉にクワランとソルは喉を鳴らした。何しろ彼らはMSへの転換試験に落ちているからだ。
「これで偵察は少々無理がありませんかね?」
ソルに手渡された端末に映し出された機体のマニュアルを横からのぞき込みながら、クワランは頬を引きつらせた。型番こそPVNを受け継いでいるが、その姿は何処をどう見てもマゼラトップだ。そしてジオンの兵士なら、マゼラトップが5分しか飛行できない事を知らない者は居ないだろう。元々の機体は戦場までマゼラベース、所謂車体が運んでくれていたわけだが、受領した装備にベースの方はない。つまり偵察どころか、出撃出来るかすら怪しいと言うことだ。
「流石にそこは改善されているとも。貴様だから言うが、今回の攻勢はかなり本気だ。乗りこなせなければ、お前達は最悪生身で敵と対峙する事になる」
「鳴いて知らせる番犬じゃ足りんと言うわけですか」
「そうだ、噛み付いて狼藉者を追い払える番犬を上はお望みだ。その為に今までも増強されているわけだしな」
事実配備されているMSはザクからドムに、その数も1機から6機に増やされている。クワランはそれを見ても任務の性質は変わらないと考えていたが、どうやらアテが外れたようだ。
「あまり時間は無い。死にたくなければしっかり訓練しておけ」
そう言って去って行くキャメロン大尉の後ろ姿をしばし眺めていたクワランだったが、その横で興味深げに端末を操作しているソル伍長へ視線を移すと、口を開いた。
「簡単に言ってくれるぜ。なあ、ソル?」
「ええ。でも、案外これ、僕らみたいな人間には合っているかもしれませんよ?」
「おいおい、幾らいじったってマゼラトップはマゼラトップだろう?」
「いえ、少なくともカタログスペックは別物ですね」
そう言ってソルは端末を差し出してくる。クワランは半眼になりながらも、それに目を通した。
「えーと、何々?」
まず目に入ったのは複座の文字、どうやら偵察に使うことも諦めていないらしく、ガンナーシートには光学式の双眼鏡も装備されている。加えてワッパではサイズの問題から搭載出来ていなかった各種センサー類もしっかりと追加されているようだった。そして次の項へ進んだ段階でクワランは思わず声を上げる。
「はぁ?連続稼働時間2400時間?最高速度420キロだと?嘘だろ!?」
「代わりに最高高度が死んでますね、最高でも3メートルですか」
「あれだな、地面効果を利用して機体を浮かせてるんだろ。成程、エンジンをドムの熱核ジェットに置き換えてるのか。それならこの数字も納得だ。連続稼働時間もメーカーの推奨メンテナンス時間じゃねえかよ」
「武装は機首固定式175ミリ滑腔砲…ああ、可動を犠牲にしてその分通常砲弾を運用できるようにしているのか。それと35ミリ機関砲が2門、こいつはベースのパーツを流用したのかな?」
「ボディは大型化して揚力を確保しつつ、装備を積み込むペイロードを確保してんのか」
「これ、超硬ジェラルミンって…、装甲と言うよりエアロパーツですよね」
追加されたボディのおかげで機体の形状は大きく変わっていた。主砲の生えた小型機といった風体ではなく、全体がカウルに包まれているため、航空機のデルタ機に近い形だ。
「つまり地面すれすれを高速でかっとんで、敵に砲弾を食らわせるってか?これを考えた奴はイカれてるな」
「偏向ノズルもついていて運動性は悪くない…らしいですけどどうなんでしょうね?」
「そんなもん乗ってみなきゃわかんねえよ。おし、ソル行くぞ!」
そう言ってクワランは倉庫へ駆け出す。先ほどまでの腐った気分はどこかへ消え、今はまだ触れぬ新しい相棒との邂逅に心が躍っていた。
後にあらゆる部隊に襲いかかり食い散らして去りゆく姿から、908機動偵察小隊は、連邦から、通り魔、あるいは区別無く襲ってくる事からマンイーターと呼ばれ恐れられることになるのだが、そんなことはクワランのあずかり知らぬことである。
在庫切れにつき、来週の更新はありません。違いますよ?豆集めてるせいじゃないですよ?