起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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今週分です。もうオデッサ作戦はじめて10話ですよ。


第百十七話:0079/11/24 マ・クベ(偽)とオデッサ作戦―10―

困ったことになっている。ただいま夜の8時、軍隊的には2000時と表現すべきだろうか。とにかく、もう日が暮れてそれなりに時間が経った訳だが。

 

「リヴィウの状況は?」

 

「日暮れ前に到着した28師団のおかげで持ち直しましたが、未だ攻勢が続いております。それから戦車大隊から補給の要請が」

 

「テルノビリに1個中隊が居ただろう?それと入れ替えをさせろ、テルノビリの物資は駄目か?」

 

「集積所は優先して狙われたようです、絶望的かと」

 

「制空圏も取らずに強引に突っ込んでくるとはな、連中、よほど人が余っていると見える」

 

敵の攻勢が全く弱まりません。おまけに爆撃機がアホみたいに現れちゃ手当たり次第都市やら車列やらを空爆しやがる。こちらの飛行隊も迎撃に上がっているのだが、何しろ数が多すぎる。これでフライマンタやジェットコアブースターみたいに爆弾一つだけとかならまだマシだが、あのデプロッグの野郎2~3機でガウ並みに爆弾落としていきやがる。

地味に防空用に改造された奴とかが交じってて迎撃に行ったら逆に撃ち落とされた機体まで居る。その上大規模な編隊ではなく少数をとにかく同時に複数箇所へ送り込んで来るものだから、完全にこちらの飛行隊は手一杯だ。欧州方面軍から回して貰おうにもあっちはワルシャワの航空戦力とガチってるから、あそこから引き抜くとフライマンタやらまで出てきてそれこそ手に負えなくなる。

 

「申し上げます、308大隊が敵師団を捕捉、これを撃退致しました」

 

朗報に聞こえるだろう?

 

「それは重畳、これで幾つ目だったかな?」

 

「3個師団だな、そろそろ下がらせんとパイロットが持たんだろう、弾薬も尽きる頃だ」

 

渋面でガデム少佐が答えてくれた。一緒に出撃した309大隊も4個師団を捕捉、撃退している。既にあちらは弾薬窮乏の連絡が入っていて、予備の臨編大隊と交代、補給のため帰還している。圧倒的に見えるだろう?ところがどっこい、連中こちらの部隊とぶつかるとちょっと戦って直ぐに逃げてしまうのだ。しかも纏まらずに分散して逃げるものだからこちらの数が足りずに追い切れない。おかげで勝っているし、確かに損害も与えているが、それが労力に見合っているかと言われれば全然見合っていない。

 

「309の補給状況は?」

 

「機体整備、並びに弾薬補充共に済んでおります、ご命令頂ければ直ぐにでも」

 

自分も疲れているだろうに、そう言ってくれる309の大隊長、でも長い付き合いだ、嫌でも解る。

 

「マルティン少佐、君がそう言うということは、パイロットの疲労が全く抜けていないのだろう?」

 

「…はい、ですが戦友が戦っているのですから、我々だけが休むわけにはいきません」

 

真面目だな。でもその考えは危険だ。

 

「それは違うな。万全でない君たちが出撃し、万一損害を被ってみろ、そのしわ寄せは君の言う戦友に降りかかる。そして君の戦友が疲弊し、君たちが万全に休めない状況を作っているのは、この私だ」

 

リヴィウ後方に入り込んだ敵師団と航空機によって補給線と第一防衛ラインの維持用に準備していた物資の大半が消し飛んでしまった。おまけに増援を送ろうにも入り込んだ敵師団の対処に追われて居る現状では、それこそ最後の守りであるマルコシアス隊を送り出すしか無い。更に悪いことに28師団が合流したリヴィウの防衛は叶っているが、既に突破した師団が多数出ており、リヴィウは敵中に孤立しかけている。いくら彼らが優秀でもこれ以上は無理だ。

 

「遺憾ではあるが、リヴィウを放棄、戦線を第二線まで縮小する。夜間であれば敵の爆撃も多少は大人しいはずだ。生存者は一人残らず連れて帰れ。それから戦車大隊に連絡を、友軍撤退までの2時間リヴィウを死守せよ、だ」

 

「…了解しました」

 

悔しそうな顔で伝令に走ってくれるエイミー少尉に、心の中で謝罪をしていると、気遣わしげな顔でガデム少佐が口を開いた。

 

「いいのか?」

 

「良くはない。だがこのまま付き合うのは相手の策にはまり続けることと同義だ。仕切り直してもう一度イニシアチブを取る必要がある。すまんが少し席を外す、欧州方面軍と今後について話しておきたい」

 

「解った、暫くはお前さんの判断が要る場面もないだろう。しっかり検討してこい」

 

「頼んだ」

 

俺はそう言うと直ぐに通信室へ向かう。指揮所で話して、変な形で情報が拡散、混乱したら目も当てられないからだ。まあ、戦闘の真っ最中に指揮官が不在になるのだって大概だと思うが。

 

「おう、手こずっているようだな、大佐」

 

向こうも大凡予測が付いていたのだろう、こっちが連絡を入れるとユーリ少将が1分とかからず対応してきた。

 

「ええ、レビルを過小評価していました。もう少し無理の出来ない男だと思っていたのですが」

 

「現段階であっちの損害は10個師団を超えている…が、相手にしてみればまだ戦力の1割ほどだからな。全部使い潰すつもりなら、まだまだ元気に突っ込んでくるだろう」

 

「ワルシャワ襲撃は?」

 

「先ほど任務部隊の作戦成功が確認できた、後30分ほどで出撃する。到着は2200時というところか」

 

「二時間ですか」

 

「限界だろう?28師団からも報告は来ている。そちらの戦線が縮小してももう問題ない範囲だ。戦力の保全に努めてくれ、出来れば歩兵部隊も可能な限り回収してくれると助かる」

 

そう言ってむしろ頭を下げてくるユーリ少将。畜生汚えな、そう言うことするから、この人のことを嫌いになりきれないんだ。

 

「そこは誓って全員を」

 

こうして俺は、防衛線を一段下げることを決定し内心安堵した、してしまったのだ。

 

 

 

 

「後退命令!?まだやれるのに!」

 

命令が出たのは正に唐突で、予備大隊が丁度二つ目の敵師団を捕捉、敗走させたところだった。相変わらずその編成はファンファン主体の部隊で、大隊とは言え全てMSで編成されたジュリア達にとって敵と呼べるほどの脅威にはならなかった。だが、攻撃すれば弾薬は減るし、たとえ戦わなくとも長時間の操縦は体力を奪う。

 

『まだ行ける、はもう危ないのよ、お嬢ちゃん。指揮官が無理だと判断したことに兵士が口を挟まないの』

 

やんわりとした口調で叱責してきたのは、この大隊を任されているニアーライト少佐だ。噂では碌でもない連中の隊長というものだったが、会ってみれば物腰の落ち着いた、優秀な指揮官だ。少々MSの腕が頼りないのと、自分たちをお嬢ちゃん呼ばわりする点だけは不満だが。

 

『それに戦闘って言うのは後退が一番大変なのよ?何しろ戦えない味方を守りながら下がるんだから。つまりどう言うことか解る?』

 

その質問にジュリアが答えられず窮していると、助け船を出してくれたのは副隊長であるヘンリー大尉だ。こちらも犯罪者を集めた懲罰部隊という触れ込みからは信じられないほど紳士である。

 

『大佐殿はこう言っているのさ、これから逃げてくる味方をお前達が守ってやれと。痛快な話じゃないか、鼻つまみ者、犯罪者、おまけにお荷物呼ばわりの集まった寄せ集め部隊が、そう馬鹿にしていた連中を守るんだ』

 

『それも只守るんじゃないわ、オデッサの基地司令に命じられてそれをやるのよ。解る?マ大佐が、私達ならばそれが出来ると信じているの』

 

そう最後に続けたのは、自分たちの中隊長であるエリオラ大尉だ。その言葉にこらえきれなくなったようにニアーライト少佐とヘンリー大尉が笑う。

 

『兵隊冥利に尽きるじゃない!成功させれば間違いなくあの大佐に感謝されるわよ』

 

『だな、あの男に感謝されるなら勲章並みの価値がある』

 

『年金はつきませんけどね?』

 

そうエリオラ大尉が混ぜ返し、笑いがあふれる通信を聞いていると、それまでの興奮が引いて、ジュリアは少し周囲を見る余裕が出てきた。

戦線を縮小、リヴィウを放棄。守備隊は歩兵部隊が中心だった、彼らが後退するならば、移動は非装甲の輸送車両、あるいはファットアンクルなどの輸送機だ、自分たちにはなんと言うこともない敵のテクニカルの1個小隊であっても十分な脅威となる。

 

『大隊各員、いい?これからあたし達は前進してリヴィウに向かう、後退してくる友軍と合流したらBC中隊は護衛、A中隊は残っている戦車大隊と合流して遅滞戦闘に加わるわ、宜しい?』

 

「「了解!」」

 

そう部隊の皆が返事をした瞬間だった、最初に反応したのはミノル少尉、部隊の中で最も北寄りに居た彼女が鋭く叫ぶ。

 

「11時より高速で接近する熱源を確認!この反応…ICBM!?」

 

その言葉に全員がセンサーを確認する、次に声を上げたのは部隊で最もセンサー類の性能が良いゲルググB型を受領していた小隊、サカギ中尉だった。

 

「いや、それにしちゃあ弾道が低すぎる!それにこの熱量、サイズもずっとでかいぞ…まさか特攻か!?」

 

その言葉にニアーライト少佐が叫んだ。

 

「オデッサに緊急連絡!詳細不明の大型物体が高速でそちらに接近中!迎撃されたし!とにかく空にありったけぶっ放すよう伝えなさい!」

 

その叫びが終わり、対空迎撃の準備を慌てて始めたジュリア達の頭上をそれが通り過ぎた。それはMSに迎撃出来ない絶妙な高度であり、だが、カメラで姿を捉えられる程度には近かった。

 

「MS?」

 

ジュリアのその言葉に答えるものは居なかった。夜はまだ終わらない。




なのに全然まとまりません。

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