起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない 作:Reppu
トンネルを抜けるとそこはHLV発射場でした。
急に送られてきた健康診断のお知らせを片手に基地の医務室に行ったら、ここじゃ無いって先生が言う。え、ここ以外基地に医療施設無いよ?って聞き返したら、無言で天井を指された。
そんな訳でただいま衛星軌道でHLV回収部隊との合流待ちです。丁度良く打ち上げる便があったからって、レアメタルと一緒に基地司令を梱包するのは如何なものか。
30分ほど地球は青かった…とかブツブツとガガーリンごっこをしているうちにHLVが僅かに揺れ、通信パネルに着信が入った。
「お疲れ様です、大佐。久し振りの宇宙は如何ですか?」
映っていたのは回収部隊の確かジャック・スワローとかいう大尉だ。気密を確認した俺はヘルメットを脱いで挨拶する。
「出迎え感謝するよ、大尉。やはり宇宙は良いな、重しが取れた気分だよ」
ぶっちゃけ主観で言えば初宇宙なのであるが、何処か懐かしい感じを受けるのは、やはり体がマさんだからだろうか。そんなやりとりをしつつ、いざムサイに乗艦したら何故かスーツにサングラスなMIB風お兄さんに両脇を固められ、速攻でコムサイに移された。え、何事?
「大佐はサイド6にあります医療施設にて精密検査を受けるように、とのキシリア少将からのご指示です」
サイド6?なんでわざわざそんなところに?しかもキシリア様から直々に?心当たりはあれなあれだけど、でもあの機関はまだ設立されてないはずじゃ。
混乱しているうちに船旅は順調に進み、やって参りましたサイド6はパルダコロニー。これあれですわ、絶対フラナガン的な奴ですわ。
そう言えば今月頭くらいに、敵の弾めっちゃ避ける奴とかいたらリスト作って送れって命令書来てたな。あれ、ニュータイプ機関設立の為の検体集めだったんか…でも何で俺が呼ばれてるんだ?
「お初にお目にかかります、マ・クベ大佐。私はフラナガン・ロムと言います。以後お見知り置きを」
そう言って握手を求めてきたおっさんは、ゲームなどで良く見知ったDr.フラナガンその人だった。
「よろしく、Dr.フラナガン。早速だが検査とやらを進めてくれないか?こう見えてそれなりに忙しい身でね」
正直、ジオン優勢のこの時期にあれこれやっておきたいんだよね。大体、俺絶対オールドタイプだから調べるだけ無駄だし。まあ、上からのご命令ですから?拒否はしないけどさ。
そんな訳で、怪しさ満点のDr.フラナガンにホイホイついていっちゃうと、廊下の先から何やら言い争う声がする。視線を送れば、どうやら姉妹っぽい女の子のちっさい方が研究員らしい人にまくし立てているようだ。
ん?なんで姉妹って判るのかって?だって二人とも髪の色が一緒なんだもん。目の覚めるようなビビッドピンク、宇宙世紀の毛髪はどうなってんの?と思ったけど自分の毛も地毛で紫だったわ。いや、どうなってんだよ。
「Dr.フラナガン、あれは何かな」
またかよ、みたいな顔で別の通路へ行こうとする博士につい声を掛けてしまう。
「彼女たちはここの患者なのですが、よく治療を拒否してああして騒ぐのですよ。いつものことです」
ほーん。
「成程、いつもの事ですか」
話は終わりと踵を返す博士を無視して、騒いでいる人物達に近づく。慌てた様子で博士が追いかけてくるが、マさんそこは腐っても軍人。追いつかれる前に目的地に到着した。
「何をしているか」
不機嫌を隠さない声音で声を掛ければ、言い争っていた双方が驚いた様子でこちらを見た。
「お嬢さん、ここは医療施設だ。無闇に騒ぐものでは無いよ」
そう言えば、ちっさい方が憎悪を湛えた瞳でこちらを睨む。一方で助かったという顔をしている職員に俺は視線を送り注意を促す。
「見たところ、お姉さんの治療に妹さんが反対していると言う所かな?家族への十分な説明と不安の解消はスタッフとして当然の配慮だと思うが?」
「治療なんかじゃ無いわ!」
職員が何かを言う前に、目の前のちっさいのが噛みついてくる。
「マレーネ姉様は何処も悪くない!なのに薬とか変な機械に掛けられて、いつもぐったりして帰ってくるのよ!」
「ハマーン、私は大丈夫だから」
瞳一杯に涙を溜めている妹を諭すように姉が口を開く。うん、やっぱりそうだと思ったけど、実際に名前を聞くと動揺するね!
「と、言っているが?」
「…現在おこなっている治療は、ご本人にもすこし負担のある処置です。ですが本人の了解は得ています」
「私の体だって弄る、いやだって言っても止めてくれないわ!」
言葉だけ聞いてると完全に事案ですわ。
「だ、そうだが?治療行為にかこつけて一体何をしているのかね?」
「わ、私たちはいかがわしい事など一切していない!そもそもこれはキシリア少将のご指示で…」
「ならば君はキシリア様の名の下に、この子らに苦痛を与えていると。発言には気をつけるべきだな。その物言いはキシリア様の顔に泥を塗るに等しい行為だ」
「大佐、その辺りで」
顔を真っ赤にして今にもつかみかかってきそうな職員を制するように、俺の後ろから博士が声を掛けてきた。ち、今日の所はこのへんにしちゃる。でも覚えとけ、後で絶対赤いロリコン送りつけちゃるけんな!
深呼吸して気分を落ち着かせた後、少しかがんでちっさいのに視線を合わせる。泣かない彼女は、とても強い子だ。
「強い子だな、そして誰かの為に怒ることが出来る、優しい子だ。だが、無謀でもある。世界は君だけで抱えられるほど軽くは無い。大事なものを守りたいと思うなら、時には誰かを頼る事も覚えなさい」
おっちゃんなんて、頼って助けられてばっかりだ。
そう、胸の内で付け加えながら、メモ帳に連絡先を書き、身につけていたスカーフと一緒に渡す。
「とりあえず、頼る先その一だ。辛くなったらいつでも連絡したまえ、力になろう」
そう言うと大佐は立ち上がり、博士に案内を促した。少女達は少し落ち着いたのか、黙って職員の後についていく。それを見送ってフラナガン・ロムは小さく溜息をつくと、静かに待っていた大佐に口を開いた。
「困ります、大佐」
キシリア少将の覚えめでたい大佐のことだ、大凡この施設の意味を理解しているだろう。それは先ほどの職員とのやりとりからでも推察できた。だとしたら、彼女たちに施している実験の意義も十分理解していると思うのだが。
(女に甘い気障男か、結構だが研究の邪魔は困る)
大局より自身の矜恃に拘る男、そう評価を下方修正したところで、こちらを見ていた大佐と目が合う。その目はまるで虫か何かを見ているようで、自然とフラナガンは萎縮した。
「なあ、Dr.フラナガン。この施設について大体の想像はついている。その上で忠告だ。もっと上手くやりたまえ」
「上手く…」
「君たち学者の悪い癖だ。彼女たちを喋るモルモットくらいに考えているんだろう?今更直せとは言わん、直せるとも思えないしな。だがせめて、モルモットが気分良く実験に付き合える程度には配慮したまえ」
嫌々付き合うのと、進んで協力するの、良い結果が出るのはどちらか明白だろう。それだけ言うと、大佐は黙って再度案内を促す。
フラナガンは、あれだけ労る言葉を掛けながら、その少女がモルモットとして扱われることを許容するこの大佐に、言いようのない恐怖を覚えるのだった。
簡単な問診の後、体液を色々取られて、なにやら怪しいコードいっぱいの如何にもなヘッドギアを着けられて脳波を測定したら、以上ですお疲れ様でしたって施設から追い出された。この野郎、絶対赤いマザコン送りつけちゃるけんな!
心の中で中指を立てつつ、さて、折角だから観光でもしてこうか、ウラガンにお土産も買わなきゃ、サイド6クッキーとか売ってるかな?なんて考えてたら、またMIBちっくなお兄さんに両脇を固められた。
「ガルマ大佐より言伝です。グフⅡの完成パーティーを開くので是非参加して欲しい、とのことです」
そう言えば、宇宙に上がる前にグフ飛行試験型デキタヨーって連絡してたっけ。え、パーティーすんの?つうかグフⅡて、もう正式採用気分かよ。
「ちなみに聞きたいんだが、辞退とか出来るかね?」
「こちらです」
質問はあっさり無視され、ずるずると引きずられていく俺。ちょっと!マ・クベ大佐だよ大佐っ!?扱い悪くない!?などと言ってみたがやっぱり無視を決められた。解せぬ。
フラナガン「あ、これは違うわ」