起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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いつからヒルドルブの戦闘が見られると錯覚していた?


第七話:0079/04/29 マ・クベ(偽)と青いアレ

あれから5日が過ぎ、少佐は精力的に地上での慣熟訓練に励んでいる。今日も元気よく爆走するヒルドルブを窓から見ながら、俺はせっせと業務を片付けていた。時折カタカタと部屋が揺れたり、砂埃が酷いとコック長が怒鳴り込んできたり、連日のヒルドルブの整備で担当の整備員が泣いていたりするが、オデッサは概ね平穏である。ごめん、配置転換したらあの子お出かけするから後1週間くらい我慢して欲しい。

 

「失礼します。参謀本部より回答が届きました」

 

鉱山の稼働状況に目を通していると、ウラガンが端末片手に入室してきた。

 

「読んでくれ」

 

内容は先日頼んだオデッサの生産拠点化に対するものだろう。まさか断られる事は無いだろうが、結構時間がかかるとかだろうか。

 

「現在ジオニック社は生産に追われており、機材及び人員を送ることは困難である。ついては、OEMにてMS生産実績を持つツィマッド社より選定、送付する。以上です」

 

「…そうか」

 

「大佐?」

 

「いや、何でも無い。承知した旨を伝えておいてくれ」

 

いかん、ちょっと動揺して固まってしまった。ここでまさかツィマッドとつながりが出来るとか、これ死亡フラグとかじゃないよな?

 

「…しかし、ツィマッドか。正直に言えば、やりにくいな」

 

実はマさん、軍内でもとりわけ技術部門に嫌われていたりする。しかも一番嫌っているのがこのツィマッドだったりするのだ。ガンダム好きならこれは意外に思うかもしれない、正直俺もびっくりした。だってツィマッドってギャン造った会社じゃん。え、むしろ賄賂とか袖の下とかでズブズブドロドロじゃないの?と、思っていたら理由は簡単だった。

 

統合整備計画である。

 

某眉無しの野望とかだと、結構後半に提案されるため勘違いされがちなのだが、意外にもこれをマさんが提唱した時期は早く、79年の2月にはもう言い出している。この頃採用されているMSはザクⅠとザクⅡだけ。操作系に大差の無いこの二機しかない時期に何故そんな事を言い出したのか。その答えはとっても簡単。ジオニック社に便宜を図る為だった。

この頃ジオン軍では、今後増大するであろう地上戦に対応した新型機を求めていたが、ジオニック社はこの新型機開発でツィマッド社に後れを取っていた。というのも、主力であるザクに対する軍からの性能向上要求で、JだのFだのRだのとマイナーチェンジ機を造る羽目になったため、新型機開発を担当するはずだったザクの設計チームが集められず、開発が遅々として進んでいなかったのである。

一方ツィマッドは、ヅダの反省とOEMで吸収したノウハウを基に順調に開発を進め、試作機の完成までこぎ着けており、しかも性能も良好だったことから、軍も採用に乗り気だった。焦ったのはジオニック社の経営陣である。この頃戦場は地球に移っていたため、宇宙での戦闘は小康状態であり、宇宙機の発注は頭打ちになっていた。ここにきて新型機の採用を持って行かれた場合、MSのシェアを大きく奪われてしまうことになる。半分国営企業のくせに気持ちに余裕がなさ過ぎるジオニック社は何とか採用をもぎ取るため、様々な手段を講じることになるのだが、その一つが統合整備計画だったわけである。

性能的には難癖が付けづらいツィマッドの新型機であったが、コックピットのデザインがザクから大きく変えられていたのだ。そこに目を付けたジオニック社は一部の軍人に働きかけ、それが極めて重大な問題であるように仕向けたのだ。んで、その一部の軍人というのがマさんである。

曰く、大幅な変更はパイロットの機種転換を困難にする。前線でいくらMSがあっても誰も乗れないのでは意味が無い。教習に用いられているザクと異なっているのではパイロットの養成時間が更に増加してしまう。などなど。

意見そのものは間違っていないのだが、そこは程度というものがある。

確かにデザインは大幅にいじられていたが、実のところ、この新型機の操作系やモニターといったもののレイアウトは殆どザクと変わっておらず、MSに搭乗経験のある人間からすれば、乗用車とトラックほどの差すら無い程度だった。

不幸だったのは、問題を訴えられた総司令部にMS搭乗経験者が皆無だったことである。

加えて機械的な知識もあまり持ち合わせていなかった彼らは、渡されたコックピットの比較映像を見て、大きく違うと錯覚してしまった。マさんの見せ方やプレゼンの仕方が見事であったのも手伝って、この事は極めて重大な問題であると認識してしまった総司令部は新型機の仕様要求にとんでもない一文を追加する。

 

“コックピットはMS-06Jと同様ないし、差異は10%未満とする”

 

実機稼働まで行っていたツィマッドは大騒ぎである。

たかがモニターやコンソールのサイズが変わった程度で大げさな。と思うかもしれないが、少し考えてみて欲しい。あんな複雑な挙動をするMSを、僅か数枚のペダルと二本のジョイスティック、そして幾つかのスイッチだけで操作できるようにするためには、その裏にとんでもなく大量の機材が詰め込まれているのである。そう、それこそ全く隙間が無いくらいみっちりと。俗にモニター1つのサイズが変わるだけで配線経路を引き直すのに一日かかる。とまで言われるMSコックピットを、丸々替えろなどと言われたツィマッドは当然のように再設計を余儀なくされ、その間にザクを地上用に手直しする形で造られたヤツが完成する。

そう、ジオニックの青くてザクとは違うヤツ、MS-07グフである。

正直用兵側としては首をかしげたくなるコンセプトの機体なのだが、何故かパイロット、とりわけエースと呼ばれるような連中にバカ受けし、早期配備の嘆願書まで送られてくる始末。トントン拍子で話は進み、なんと統合整備計画提唱の1月後、3月には正式採用が決まってしまう。ツィマッド社にすれば悪夢のような決定だったことは想像に難くない。

もしかしたらこの時のトラウマのせいであんな近接特化のギャンなんて設計しちゃったのかな?とか、その上そんな仇敵にギャンを渡されたあげくロクな戦果も上げずにぶっ壊された史実の開発陣の心情を慮ると、技術者の端くれだった身としては涙を流さずに居られない。が、今は俺がマさんなのである。そんなこと言えば火に油、良くて拳でお話しされるのがオチだろう。

 

「…そういえば、グフも配備が始まっているのだったな」

 

オデッサには配備されていないが、前線部隊にはそれなりの数があったはずだ。

 

「ウラガン、すまないが欧州方面軍司令部にアポイントメントはとれるか?兵站部のミハエル大佐に聞きたいことがある」

 

 

 

 

「マ大佐から連絡?一体何だ?」

 

ミハエル・ヘラー大佐は副官の言葉に首をかしげた。仕事柄、それなりに接する機会の多い人物ではあるが、それ程親しくしている訳では無い。そもそも実直を人間に置き換えたようなミハエルと陰謀を体現したようなマでは、正直そりが合わない。

先日の会議では助けられる形になったが、未だ苦手意識は払拭されていなかった。

 

「何か補給状況で確認したいことがある、とのことですが」

 

「ああ、補給計画の件か、なら直接話した方が早いな」

 

書類のやりとりで済ませてしまいたいが、避けていると勘ぐられたりしては、後で何をされるかわからない。ここは丁寧に応対し、厄介事はさっさと済ませてしまおう。そう考えてミハエルは通信モニターのスイッチを入れた。

 

「お忙しい所申し訳ない。対応感謝するよ、ミハエル大佐」

 

「いえ、マ大佐も息災のようでなにより。本日はどのような用件です?」

 

フレンドリーさを演出したいのだろうか。猫なで声で話すマ大佐に言いようのない悪寒を感じながら、ミハエルは引きつりそうになる表情筋を懸命に制御し、笑顔で対応する。

 

「ちょっと気になったことがあってね、MSの補給に関する件なんだが」

 

「MSですか?」

 

先日提出された攻勢計画修正案に関する件だと考えていたミハエルは疑問に思ったが、そういえば会議の前後で軍令部からMSの件で叱責を受けたことを思い出す。

オデッサに送ったMSが故障だか損傷していただかで、目の前の男がキシリア少将に直接文句を言ったらしい。叱責を受けた軍令部の上司が輸送の際に不手際があったことにしたかったらしく、こちらにネチネチと嫌みを言ってきたのだ。その事に対する苦情だろうか?そう考えたミハエルは思わず顔をこわばらせる。

 

「うん、前線で運用しているグフについてなんだがね」

 

「は?はあ」

 

話が見えず、間抜けな返事をしてしまう。

 

「配備数と直近の補給状況を知りたいんだ。出来れば陳情の上がっている部品毎の詳細と、比較用にザクの資料があると助かるんだが」

 

「はあ、それくらいならすぐにでも用意しますが、一体どうしたんです?」

 

「ちょっとした罪滅ぼしをしようかと。すまないね、この借りはいずれ返させてもらうよ」

 

「壺なら十分頂いていますよ」

 

そう言って苦笑を浮かべながら視線を棚に送る。便宜を図ってくれたお礼、と称して何度も送られてきた壺で棚の上は一杯になっていた。尤も、ミハエルには壺の値打ちは解らないし、便宜を図ったのも自分では無く上司の命令なので、もらっても困ると言うのが本音なのだが。

その言葉に、マ大佐は一瞬考え込むと、朗らかな顔でこう返してきた。

 

「解った、次は皿にするよ。伊万里の良いのが手に入ったんだ」

 

違う、そうじゃない。

否定の言葉を言う前に、礼と共に通信は切られていた。




※あくまで作者の妄想です。

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