起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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知らなかったのか?マ・クベは壺から逃げられない。


第八話:0079/04/29 マ・クベ(偽)とツィマッド社

「やはりか」

 

連絡から一時間とかからず送られてきた資料に目を通しながらつぶやく。ここ2週間程の補給品のリストを比較すると、グフの問題点が見えてくる。

まず目を引くのが装甲補修剤の量だ。これは超硬スチールを使用したパテみたいなもので、被弾した場所に塗って補修したりするものだ。たまにツィンメリットコーティングみたいに塗られているのもこれだったりする。これの消費量がザクと同じくらいある。配備数は三分の一にもいかないのにだ。

つまりグフはザクに比べ明らかに被弾が多いと言うことになる。ただ今は相手の火力が低いので、ザクより装甲の厚いグフは損傷や行動不能に陥る事が少なく問題が顕在化していないのだ。

もう一つ目に付くのはアクチュエーターの陳情数だ。こっちはもう何で問題にならないか不思議なくらい差がある。その数驚きの5倍。ざっくり計算しても15倍故障していることになる。原因は明白。フィンガーバルカンのせいである。陳情理由を見ればとにかく左腕アクチュエーターが頻繁に損傷しているのが判る。そら、砲身なんて負担がかかる部分に駆動部なんか設ければそうなるわ。結構な部隊で左腕丸ごとの陳情があるのも絶対コイツのせいだろう。態々A型の腕要求してるし。

 

「そもそも、俺は格闘戦機が嫌いなんだ」

 

威力が高い事は、まあ、認める。大質量の物体をそれなりの速度で当てれば大きな威力を生み出すくらい中学生でも知っている知識だ。

しかし、しかしである。武器の進化に真っ向から挑みかかるその姿勢は如何なものか。

ミノフスキー粒子下における有視界戦闘への退化?全高18mの巨体が何を言う、地球が丸くても10km以上先から発見できるわ。ザクの速度が大体100キロ程だから、仮に同時に発見したとしても、殴れる距離まで行くのにかかる時間は6分、61式戦車の発射速度が毎分24発、余裕で蜂の巣である。そりゃ、ブーストを使ったり立体的な機動を取れば接近時間は減るし、射撃を躱すことも出来るだろう。だがそんなことを一々やっていたら推進剤なんぞあっという間に空になってしまう。ゲームじゃねえんだからブーストゲージが回復するなんて事は無いのである。

 

「やはりグフはダメだな」

 

多分に私情が挟まれている気がするが、データで裏打ちされればそれは最早正義である。そう言い張れる。しかし一方で問題もある。単純な性能は高い事に加え、部隊の精鋭に優先配備された都合から、前線パイロットに絶大な人気を誇る事だ。既に配備されている点も無視できない。

今更生産中止を申し立てても、前線からは不満が出るし、後方は製造ラインの置き換えで無駄にコストがかかってしまう。本当面倒くさいな、こいつ!

 

「理想はやはりドムなんだがなぁ」

 

前回の不採用が効いているらしく、ツィマッドは今元気が無い。史実でもドムが出て来たのはかなり後半だったことを考えると、案外このせいで開発が遅れたんじゃ無いだろうか。

加えて厄介なのが統合整備計画だ。総司令部に伝わったせいで、従来機とコックピットの仕様を変えねばならないホバータイプのMSは、難色を示される可能性が高い。

さっさとグフの生産を止めて、ドムを造ってもらってツィマッドにお詫びしようと思っていたのに、どうしたもんか。

 

「ホバー。ホバーのメリット…ぬう」

 

無論、ガノタを自称する身としては、ホバーのメリットなぞ簡単に挙げられる。

移動速度は上がるし、足回りの負担が減る。その結果部品の消耗も抑えられる。良いことだらけに見えるが、問題もある。第一にホバー機は採用実績が無い。今まで無いものというのを、軍組織、それも高官に有効だと理解させるのは非常に難しい。それが従来機より高コストであるなら尚更だ。歴史の後知恵をしている者から見れば、なんで有効な兵器を早期に配備しようとしないのか、不思議に思う事は多々ある。だが、それを実体験に置き換えると解りやすい。

例えばパソコンのOSだ、サービスが終了して新しいOSに乗り換えたとき、古い方が使いやすいと感じたり、設定をクラシックタイプにして使ったりしていないだろうか。これが開発と現場でも起きているのだ。開発側としてはより高性能なものを提供しているのだが、現場にしてみれば、それは経験を適用出来ない未知になる。解らないというのはそれを定量的に予測できないと言うことで、指揮官にしてみれば評価できない戦力になってしまう。おまけに、新しいということは今までに無い不具合を発生させるポテンシャルまで秘めている。このため、特に失敗の意味が重い軍では、既知の装備が尊ばれる事となるのだ。

この事から、前線の兵士にも受けが悪い事は想像に難くない。

誰だって自分の命を預けるなら、知らないものより知っている装備を選択するだろう。

加えて現状だと開発側ですらホバーのデータ収集は不十分だろうから、実績を作ろうにも、作る手段が無いのだ。あれ、これ詰んでる?

 

「現段階の欧州攻略プランが一段落したら、必ず戦線の拡大が検討される。その時ザクとグフでは対処しきれない」

 

動員できる人口が有限である以上、戦線の拡大に伴う必要戦力の増大は大きな障害になる。そこで先ほどの話に戻り、ホバーなら機動力が高い分、少数で広範囲を防衛できるので、必要な戦力を抑える事が出来る。史実でやたらとMAを開発しているのも、案外この辺りが理由かもしれない。MS十機で守る範囲をMA一機で守れれば、人的資源は十分の一ですむからだ。実際はそんなに単純な計算では無いけれども。

 

「実績…実績。何か無かったか」

 

こう考えると、史実でドム採用したのって英断だったんだなぁ、なんてことを思いながら背を伸ばす。すると、最近送られてきた壺が目に入った。何でも明代の頃の作品らしく、白磁に淡い青色の顔料で唐草模様が描き込まれている。オリジナルと違って壺の知識の無い俺ではあるが、なんとなくその淡い色合いが好きで飾っているのだが。

 

(青かあ、グフはグフでも、まだグフカスタムだったら…ん?)

 

マシだったのに。そう思いながら、重要な事を思い出す。

 

「そうだよ、ドムは何も急に造られた訳じゃ無いじゃないか!」

 

 

 

 

ツィマッド社が嫌いだと公言してはばからないものがある。料金の未払い、急な仕様変更、それとマ・クベ。

ジオンの重工業を支える大手である自負はあるが、ジオニックに比べればやはり一段劣ると認めざるを得ない。そんなツィマッドのMS部門が、全力を挙げて取り組んだ新型機採用に思いっきり土を付けてくれたのがマ・クベ大佐である。だからそんな相手から連絡が来た、と言っても誰も対応したがらず、散々たらい回しにしたあげく、対応したのが営業二課という所謂窓際部署の課長、ハルバ・ロウドであった。

 

「お世話になっております。ツィマッド営業二課、ハルバと申します」

 

「お初にお目にかかります。私はジオン突撃機動軍隷下、地球方面軍欧州方面軍隷下オデッサ鉱山基地司令、マ・クベ大佐と申します。長ったらしいのでオデッサ基地のマ、とでも覚えて頂きたい」

 

にこやかに挨拶してくる大佐に対し、ハルバは内心ため息を吐く。彼を知らない人間なんて、社には一人も居ないだろう。何しろハルバが対応しているのがそのせいなのだから。

 

「本日は我が社の商品に興味がある、との事でしたが」

 

「ええ、とても興味があるのです。御社が開発している熱核ジェットエンジンにね」

 

その言葉に思わず顔がこわばりかけるが、必死にそれを押し隠すと、ハルバはとぼけて見せた。あれはまだ社外秘の筈だ。

 

「開発…ですか?いえ、既に我が社は熱核ジェットを軍に納めさせて頂いておりますが」

 

「ええ、ガウ用のものを幾つか。ただ、私が言っているのは別のものです」

 

額に嫌な汗が浮かぶのを自覚する。これはまずい、おそらく自分の手には負えない案件だ。そう理解しても、急に通信を切る訳にもいかない。相手はコックピットの僅かな違い程度で新型機を不採用にする手腕を持っている。不用意なことをすれば、そこを突いて何をされるか解ったものではない。

 

「ガウ用以外ですか?申し訳ありません、開発品については門外漢でして。お役に立てますかどうか」

 

韜晦しようと口にした言葉は、大佐にあっさりと切り捨てられた。

 

「はっは。…社運をかけて開発中の新型MSの目玉になる推進器を、売り込むあなた方がご存知ない訳がない」

 

その笑顔にハルバは思わず悲鳴を上げた。社外秘を何故目の前の男が知っているのか。それと同時に己の不幸も呪う。今の仕草は完全に認めてしまった者の反応だった、もう知らぬ存ぜぬでは通せない上に、誰か別の人間に替わろうとも、この男はハルバから聞いたと言うだろう。そうなれば自分は社外秘を洩らした背任者として吊され、間違いなく追放される。

暗澹たる未来を想像し、うなだれるハルバにマは優しく語りかけてきた。

 

「御社の状況と、私への評価は相応に理解しているつもりです」

 

黙り続けるハルバに構わず、言葉は続く。

 

「先日の件については、実に不幸な出来事だった。ただ私とて、悪意を持って行なったのでは無い、そこは理解頂きたい。そしてその上で一つご提案したい」

 

聞くな、これは悪魔の言葉だ。そう理性が警鐘を鳴らすが、一方でハルバの商才が敏感に反応する。悪びれも無く話す目の前の男。あれは莫大な利益を生む顧客特有の空気だ。

 

「実は現在、ジオニックが御社の新型に近いコンセプトの機体を開発中です」

 

とてつもない爆弾発言にハルバは目を剥く。聞けばジオニックは採用された07、グフをベースにMS単独の飛行能力を有した機体を開発しているという。しかも既に試作機は実機が完成しており、キャリフォルニアにて稼働試験をしていると言うでは無いか。

これが事実ならツィマッドに勝ち目は無い。開発中の機体はあくまで熱核ジェットを使用した高機動機であって、とてもでは無いが飛行出来るものなどでは無い。当然、比較となれば、より地形的な制約を受けにくい飛行可能なジオニック社の機体が有利なのは明白だ。

そこまで考えたところで、ハルバは疑問を覚えた。ここまでの経緯から、もしジオニックの開発が順調ならば、目の前の男がツィマッドに接触してくる理由が無い。そして、男は言っていた。我が社が開発しているMS向けの熱核ジェットエンジンに興味があると。

 

「ご推察の通りです。ジオニックの機体は野心的に過ぎましてね。確かに飛びはするのですが、いかんせん距離は短い、飛行も安定しないと散々なものです」

 

「つまり、貴方は」

 

「はい、この機体開発に御社の技術協力をお願いしたい。手始めはMS用の小型熱核ジェットエンジンの提供ですな」

 

あまりにも勝手な物言いにハルバは溜息を吐いて見せた。

 

「成程、仰りたい事は理解しました。しかしそのお願いを聞いて、我が社になんの利益がありますか?」

 

ツィマッドにとって、推進器のノウハウは命綱だ。おいそれと開示出来るものでは無い。仮に提供の形にしても、MS全体と比べれば利益は下がる。ならば態々ライバル社に塩を送らずとも、自社の新型機完成を待てば良い。目の前の男はそんなことも解らない人物ではないと思うのだが。

 

「…自社の新型完成まで待てば良い、そういう顔ですな。利益を見るならそうでしょう。ほぼ間違いなくジオニックの新型は開発に失敗するでしょうしね」

 

こちらの心中を見透かすように大佐が目を細める。

 

「もっとも、その新型が完成するまで顧客がいれば、の話ですが」




装甲補修剤は某ロボ漫画からのパクリです。
本当のガンダム世界には多分ありません。

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