起きたらマ・クベだったんだがジオンはもうダメかもしれない   作:Reppu

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第九十三話:0079/10/20 マ・クベ(偽)の戦い

「なかなか良い艦みたいじゃないか。乗り心地は如何かな?シーマ中佐」

 

「リリー・マルレーンとはそれなりに勝手が違いますからなぁ。人員の練度もあまり高くないですし、暫くは慣熟に努めますよ、大佐」

 

「潜水艦隊に異動したクルーを戻せれば良かったんだが」

 

そう言って報告書を眺める。先日到着したもう一隻のザンジバル、正確にはその発展型でネームシップになっているケープタウン型一番艦、ケープタウンは、大気圏内での運用を主眼に手が加えられている艦だ。グリップと片足で射出されていたカタパルトはガンダムでおなじみの両足+カタパルトデッキに変更され、主砲も艦底側に二基配置されている。何より大きいのがミノフスキークラフトを搭載したことで、この図体で空中で静止出来たりするのだ。ちなみにリリー・マルレーンも後々こちらに改装される予定だが、現在はそのまま運用している。

 

「それは難しいでしょう。今じゃあいつらは海軍のホープですからね、引き抜いたら艦隊襲撃がおぼつかなくなるんじゃ無いですか?」

 

仰る通りです。ユーリ少将に一応聞いたら、持っていかないでくれって頭下げられたからな。

 

「暫くはアフリカへの物資輸送などに従事して貰おう。MS隊も同行して連携の確認もして欲しい」

 

「そうしますとあたしも彷徨くことになりますね。基地の守備が心配です」

 

「教導隊の方もあって、デメジエール中佐も常駐はできんからな。そうなると基地守備隊長が欲しくなるか」

 

簡単なのは今居る中隊長を昇進させて据え付けることなのだが。

 

「ダグ大尉かエリオラ大尉辺りを昇進させては?」

 

「二人とも固辞している。大隊長など分不相応だそうだ」

 

そこは見合った人間に成長して下さいと指揮官としては言いたいが、本人達が嫌がっているのを無理強いするのは良くないだろう。となれば。

 

「いつものだな」

 

 

 

 

「特務遊撃隊を寄こせ!?」

 

「ダグラス・ローデン大佐の部隊がキャリフォルニアで再編中であったと記憶しております。その隊を頂きたい」

 

必殺、上から許可は出ているぜ攻撃!タスクフォース編成のために人事権貰っているからね!これは存分に行使させて頂く。そもそも大佐に実働戦力MS1個小隊だけってのがおかしいだろ、正に宝の持ち腐れである。

 

「無理だ、諦めてくれ」

 

「はい、では早速…無理?」

 

「ダグラス大佐には再編の後、北米で大隊の指揮を執って貰う。想定よりも北米出身者や他のコロニー出身者に志願者が多くてね。彼等の受け皿になって貰うんだ。元々そう言った連中の面倒を見ていたダグラス大佐なら適任だろう?」

 

それは確かに。しかしそうか、ガルマ様は派閥に拘らずに人を使うことにしたか。まあ、支配地域が拡大してそんな悠長なこと言っている余裕が無いのかもしれんが。どちらにせよ良いことだ。

 

「成程、それでは無理ですな。さて、どうしたものか」

 

「大佐が兼任すれば…冗談だよ、だからそんな目で見ないでくれ」

 

いいや、今のは本気と書いてマジと読む目だったね。これ以上兼務とか死んじゃうよ?

 

「冗談はともかく、こうしてみるとやはり我が軍は人が全く足りていませんな」

 

兵士は恐らく連邦と良い勝負になってきているだろう。速成はされているが、それ程酷い内容ではないし、少なくともまだ徴兵になっていないというのが大きい。おかげで物が生産できないとか、生産できても精度が酷いなんてこととは無縁だし、配属される新人だって特別な理由でも無い限り、ちゃんと教育されて軍人になってから寄こされている。

けれど指揮官となると話は別だ。何せ出来てからの時間と規模が、文字通りに桁が違う。兵士より遙かに育成の難しい士官は、その積み上げてきた時間と規模こそがものを言う。そして天才1人が秀才100人に勝てるなんてのは、物語の戦争だけなのだ。

 

「正直地球方面軍はどの戦線も指揮官が不足している。引き抜きは難しいと思うぞ?」

 

ですよねー。

 

「お時間を取らせてしまい申し訳ありません。この件については総司令部にも相談してみることにします」

 

「構わないよ。人を送って貰えるなら是非ウチにも頼む。ではな」

 

さて、どうしたもんか。

 

 

 

 

「昇進…でありますか?」

 

唐突な辞令にガデム大尉は、生真面目な顔でモニターに映っているドズル中将へ問い返した。

 

「そうだ、本国で二日間の研修後、貴様は少佐に昇進。その後総司令部付の部隊へ配置転換になる…なんだ、その顔は?」

 

そう言う中将にどう返すべきか悩んだが、結局の所駆け引きが得意で無いガデムは率直に疑問を口にすることにした。

 

「はい、中将閣下。私は開戦以来特に戦果らしい戦果は挙げとりませんし、軍にとって特別評価頂けるような功績もありません。そんな私が何故突然昇進するのでありましょうか?」

 

ガデムの真っ直ぐな物言いが幾分感情を和らげたのだろう。愉快そうに口角を上げながらドズル中将が口を開く。

 

「軍が貴様の軍歴を評価した、では納得できんか?」

 

「年をくっただけで昇進できるなら、今頃総司令部は老人クラブになっているでしょう。これでも私は軍に一生を捧げてきました。その軍がそのような旧弊な存在だとは思いたくないのです」

 

批判とも捉え兼ねられない言葉を堂々と言い切る様に、ドズルは堪えきれなくなったのか笑い声を洩らした。

 

「貴様も損な性分だな。もう少し利口なら、もっと若くにこういう話もあったろうに」

 

言われたガデムは肩をすくめる。

 

「それが出来ていたら万年大尉などやっとりゃしません」

 

その返しが気に入ったのか一頻り笑った後、ドズルは呼吸を整えて説明を始める。

 

「貴様のそういう所を評価する奴も居るという事だ。安心しろ大尉。こいつは降って湧いた幸運でも無ければ、お前さんが訝しむような政治的駆け引きなんてもんじゃ無い。強いて言えば貧乏クジを引かせるための慰謝料というところか」

 

何一つ安心できない不穏なセリフを吐く上官に、ガデムがなんと返せば良いか迷っている内に話は進む。

 

「先日オデッサ基地が総司令部預かりになったのは知っているか?今そこで新規の部隊を編成しているのだが、生憎手が足りておらんらしくてな。貴様にはそこでMS部隊の指揮を執って貰いたいそうだ」

 

「お、お待ちください!閣下!」

 

現在の境遇からあまりにもかけ離れた待遇を提示され、ガデムはつい声を上げてしまう。

 

「MS隊の指揮ですと!?老いぼれを捕まえて一体なにを言っているのです!?」

 

そう叫べば、ドズルは意地の悪そうな笑みを浮かべ、口を開く。

 

「正直に言えば、俺も最初乗り気では無かったよ。だがな、聞いてみればこれは決して悪い話では無いように思えてな」

 

「どういう意味でありましょう?」

 

「面と向かって言うのは礼儀に反するが、正直に言って貴様はもう長くは務められんだろう?このまま行けば予備役でも後方の事務仕事が精々だ。だが、貴様の経験をそれだけで終わらせるのは如何にも惜しい」

 

退役時の階級が尉官で終わるか、佐官で終わるかは年金以外にも差が出てくる。佐官であれば指導教官だけで無く軍学校の講師としても働けるし、そうなれば教えられる内容も多岐にわたる。それこそMSの動かし方から部下の扱い、部隊の管理の仕方まで、ガデムがこれからの若者に伝えられることは幾らでもあるだろう。

 

「一兵卒から部隊指揮まで経験した貴様の経験は、軍の宝だ。みすみす捨てるのは正に損失だし、それを見逃したとあっては上に立つ資格は無いそうだ。どうだ、大尉。この仕事、受けてくれんか?」

 

「軍も中々に人使いが荒い。この歳でまだ学べと言われるとは思いませなんだ。閣下、是非ともその任務、このガデムにお任せ頂きたい」

 

そう言ってガデムは太い笑みを浮かべる。今から学べ?まだまだ楽はさせない?結構では無いか。老人としてただ隅で大人しくしている事を望まれるより、遙かに充実した人生だ。そう腹をくくったところで、ガデムは先ほどのドズルの言葉を思い出し、更に笑みを深める。

 

「しかし、閣下にそこまで啖呵を切るとは。オデッサの司令は随分肝が据わった男ですな」

 

「いや、思うにアレは少々ネジが外れているのかもしれんな。啖呵を切ったのは俺にでは無い、ギレン総帥に対してだ」

 

その返答に堪えきれずガデムは声を上げて笑った。どうやらこれからは、刺激的な生活になるようだ。そんなことを思いながら。




増え続ける登場人物。君は覚えきることが出来るか?
(作者は無理です)

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