ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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500:名無しの犬
しかし、大丈夫なのかね? シロちゃん。
容姿のせいなのか、そういう定めなのか。彼女、なんか妙に変質者に襲われるから……電車とか飛行機で移動したら痴漢とかにあいそうな気がするだけど。後、飛行機は落ちそう。

501:名無しの犬
メーデー! メーデー!

505:名無しの犬
いや、大丈夫だろ。
俺の予想が確かなら……シロちゃんはとんでもない戦力を抱えて関東に上陸するはずだ。アイドルネキが動いたからな。

507:名無しの犬
>>505
とんでもない戦力?

509:名無しの犬
あぁ。あれが来るなら……シロちゃんの安全は万全だろう。それに、万が一の場合も拠点には困らない。
例えポケモンがマジで来ちまっても、あれさえ来るなら何とでもなる。例え天変地異が引き起こされてもアレに乗ってるなら安全だ。むしろ『下手な軍艦よりも拠点として使える』かもな。
元財閥だった家の娘ってのは、伊達じゃないわ。ホント。コネが凄い。

510:名無しの犬
まさか……あれか?
アイドルネキが前にシロちゃんを招待したいって自慢してた、アレ?

511:名無しの犬
あぁ、あれだ。
旧約聖書に記された巨大な海中の怪物。その名を冠するギガシップ。そう──


第7話 お嬢様は人使いが荒い

 九州の片田舎でSATUMA人とTSロリっ娘の微笑ましい? 談笑が行われていた頃。関東は東京のある日本家屋の一室では、ピリピリとした嫌な空気が流れていた。その空気の中心にいるのは二十代前半か、それよりも手前だろう若い黒髪の女性……十人中八人は綺麗だと称賛するであろう美少女、あるいは美女だ。一言で形容するなら、現代版大和撫子か。

 彼女のネットでのアダ名はアイドルネキ。いわゆるシロ民の中でも、シロちゃんガチ勢と呼ばれる一人であった。

 

「……で? まだなの?」

 

 身長から察するに高校生か、あるいは大学生か、しかし若い女性だという事だけは間違いないはずの彼女の声は、信じられない程ドスが効いている。少なくとも彼女が今の声を本当に発したのか、二度は確認したくなる程度に。

 コワイ黒服のあんちゃん達を彷彿とさせるその声の原因は、多分に不機嫌さが混じっているのである程度は察する事は出来る。だとしてもその原因を暴くよりも逃げる方が得策なのは、誰の目にも明らかだった。

 

「はい。お嬢様のスケジュールは調整が終わり、歓迎の用意もいつでも始められます。ですが、足が確保出来ません」

 

 しかしその原因に立ち向かう勇者が一人。仏頂面か、鬼の面か、険しさが全面に出た顔付きの男だ。その身体付きはキチッとしたスーツ越しでも分かる程に頑強そうで、実際彼はかなり鍛えられていた。少なくとも戦士ではあるだろう。

 

「お嬢様は止めろと何度言えば……」

 

 美少女といっていい彼女はそこまで口にして小さくため息を吐く。それどころではないと。

 

「それで? 空いている機体は無いとでも言われた訳?」

「はい。こちらの条件を満たした機体で貸せる物は一つも無いと。またこれは船も同様で、条件が厳し過ぎるとの事です」

「私は九州から東京まで、ペットを一匹同伴しつつ、二人と一匹が快適に過ごせる物としか言ってないんだけど?」

「失礼ながら、そのレベルが問題かと。特にペット同伴が厳しく、次点で距離がありすぎます。この時点で車の全てと航空機の大半が使えなくなっているのですから、その上で快適さもとなると……」

「━━なに、あんたは私に出来ないと、そう言いたい訳?」

「いえ、そういう訳では……」

 

 絶対零度。そういっても過言ではない圧が、年若い大和撫子から強面の男へと叩き付けられる。男は彼女からの圧を柳に風と受け流し……ているように見えたが、よくよく見れば額に汗が浮き出ている。冷や汗だろう。どうやら彼も一杯一杯らしい。

 そんな男の様子を知ってか知らずか、彼女は続けて口を開く。

 

「いい? 私はシロちゃんに約束したの。私が貴女を東京まで連れて行って案内してあげると。快適な旅を約束すると。例えそれがネットや電話越しの口約束でも、他でもないこの私が、約束したのよ。あんたはそれを反故にしろと言うつもり?」

 

 マグマの様な熱と、吹雪の様な厳しさが男に突き刺さる。彼女のプロデューサー兼護衛である男からすれば比較的慣れた物ではあったが、だからこそ肌で分かる。内に秘める覚悟が違うと。元々プライドがエベレストの様に高く、しかも身内に対する約束には頑固だったが、今回は特に凄まじい。恐らくここで自分が下手を打てば、死人を出してでもシロちゃんとやらを迎えに行くだろうと男は確信した。

 だからといって状況は変わらない。出来ないものは出来ないのだから。……いや、そんな事は彼女も分かっているだろう。そう仮定して、ならばと男は妥協点の模索に回った。

 

「いえ、そんなつもりはありません。しかし、このままでは迎えに行く事すら困難です。ここは幾らかグレードを落とすべきだと考えます」

「駄目よ」

 

 キッパリと、あるいはハッキリと、彼女は男の提案を雷速で切り捨てる。取り付く余地なんて微塵も無い。

 この即断に男は内心でかなり驚きを感じていた。プライドが高く、頑固な彼女だが、頭は悪くない。むしろ非常に良い。グレードを落とさなければどうにもならない事は、とうの昔に分かっているはずなのだ。しかし彼女は首を横に振る。理性を上回ったのはプライドか、それとも頑固さか。男がプロデューサーとしての腕を見せるべきかと腹を括ったとき、彼女が口を開く。

 

「グレードダウン? シロちゃんを迎えに行くのに、グレードダウン? あり得ない。えぇあり得ないわ。あんた、私にとってあの子がどんな存在なのか……わかってるの?」

「……いえ、好意を感じている相手だとは思いますが」

「好意? まぁそうね。好意は感じている。けどそんなものじゃないのよ。……あの子は、シロちゃんは、私に夢を見せてくれたの。私の、恩人なのよ」

 

 噛みしめる様に、しかし朗らかな笑みを浮かべる彼女を見て、男は不思議な衝撃を受けていた。それがいったい何なのか分からなかったが……その代わりか、男はふと思い出す。

 あれは今から五年程前だっただろうか? よくは覚えていないが、生まれて初めて手痛い失敗を経験したお嬢様が暗く沈みきっていた時期があった。しかしそれは一年と続かず、直ぐに立ち上がり、それどころかより強くなっていたので流石はお嬢様と称賛したのだが……よくよく思い出せばその辺りから『シロちゃん』という人物を口にし出していたはず。

 男はそこまで思い出して、考え至る。あの暗く沈んでいた時期に助けとなったのが『シロちゃん』で、その助けは恩人といえる程なのだろうと。

 

「なる、ほど」

 

 内心をポツリと溢した男は納得しつつも、しかし現状どうにもならないと判断していた。

 シロちゃんが恩人なのは分かった。恩人を丁寧に、盛大にもてなしたいのも分かる。だが、どうにもなるまい。彼女は元旧家の人間で、資産もかなりある。しかし無理なものは無理だ。近日中に九州から東京まで一人と一匹を丁寧に、快適に連れてくる。この問題はどうにもならない。要求レベルが高すぎるのだ。

 ここは折れて貰うしかない。男がそう決心したとき、彼女もまた決心していた。全てを使う覚悟を。

 彼女はおもむろにスマホを取り出し、何やら調べ始める。男の目線からでは何をしているかは分からないが……しかし、彼女は調べ終わったらしい。

 

「リヴァイアサンを使うわ」

「……は?」

 

 彼女が何と言ったのか、男は一瞬分からなかった。

 リヴァイアサン。それは架空の怪物の名前だ。海を支配する最強の怪物の名。それを使うとは……と、そこまで考えて思い出す。その名を持つ存在を、彼女の家は保有している。

 

「ま、まさか……ギガヨット、リヴァイアサン号ですか?」

 

 リヴァイアサン号。それはラグジュアリーヨットの中でも特に大きいギガヨットの一隻だ。彼女が、というより彼女の家が所有する巨大な船。

 全長およそ140メートル。最大速力28ノット。船体後部に本格的なヘリ甲板と格納庫を持ち、軍用ヘリすら運用出来るという代物。勿論その内装は資産家のギガヨットらしいきらびやかさであり、そのレベルは一流ホテルにも匹敵する。優美な気品の中に確かな力強さを感じさせる、美しい船だったと男は記憶していた。

 なるほど、確かにかの船ならば問題を全て解決出来る。特に問題だった快適さも十二分だ。しかし……

 

「あの船は今ハワイ近海に居るのでは? それに、あの船はお嬢様が動かすには所有権が曖昧なのでは……?」

 

 問題を全て解決できるリヴァイアサン号だが、この船には別の問題があった。

 先ずそもそも日本に居ない。これはこの船がタンカーや軍艦並みの大きさの為、日本国内で停泊出来る港が少ないという問題があった事と、船長が風来坊気質で一ヶ所に居たがらないからだった。男が以前聞いた話通りなら、今頃ハワイ近海で金持ち仲間とクルージングしたり、大金が動く何らかのプロジェクトに関わっているはず。

 そして最も大きな問題として、所有権が曖昧だ。書類上では資産家でもある彼女の父親が所有者となっており、家として所有しているとも言っても問題ない。しかし事実上の所有者はリヴァイアサン号船長でもある外国人資産家で、リヴァイアサン号の建艦費も六割は彼の負担だ。なんでそんなややこしい事になっているのかは男の知るところではなかったが、風の噂に聞くに酒のノリだそうだ。絶対ロクでもない。

 

「久しぶりに日本が見たくなったから帰って来るらしいわよ。港まで後600キロを切ったと連絡があったらしいわ。それとあの船が私に動かせるかどうかだけど……あなた、私のプロデューサー何年してるの? 私が使うと言ったら使うのよ」

 

 どこから情報を掴んだのか、なんという横暴か。あぁいや、そんな事はもうどうでもいいのだろう。彼女の目を見てみろ、自信しかない。いや、確信だ。あれは自分なら出来るという確信だ。それも実力に裏打ちされたソレ。男はここに至って思い出す。あぁ、我が主はこういう人だったと。

 

「さぁ、出発するわよ。あなたはヘリを用意しなさい。私はリヴァイアサンに連絡を入れて、航路を変更して貰うから」

「ヘリ、ですか……? それはまた……いえ、まさか、寄港するのを待たないおつもりで……?」

「えぇそうよ。リヴァイアサンとは海上で合流するわ。船の中身はシロちゃんを迎えるに値するはずだけど……汚れてたなら『掃除』しないといけないしね。それに、早い方がいいわ」

 

 なんという無茶をするつもりなのか。彼女は自分が何者なのか分かっているのか、いや分かってやっているのだろう。スケールがハリウッドみたいになっているが、思えばだいたい何時もの事だった。

 ため息を飲み込んだ男は頭の中に使えるだろうヘリとパイロットを思い起こし、厳選する。何せこれからやらかすのは海上での合流だ。それも船まで500キロはあり、燃料的にギリギリになるはず。お転婆なお嬢様がこれ以上待つとは思えないので、それを考えれば航続距離の長いヘリと腕の良いパイロットが必要だった。

 あぁ、それと『掃除』の手配も考えておこう。事の次第とお嬢様の機嫌次第では船の内装を丸ごととりかえる可能性もある。一つ何百万という調度品をダースで手配するかも知れないのだ。自分の財布は痛まないとはいえ、心構えは必要だろう。

 

「あぁ、シロちゃんに渡すプレゼントとか用意した方が良いかしら? それとも案内中に買う? うーん、悩ましいわ。……あぁ、でも保護者役らしい近所のお年寄り達や、噂のSATUMA人に挨拶するときの土産は必要ね。……うん。プロデューサー、悪いけどヘリの手配が終わったら土産の品をお願いね。常識的な物で良いわ。お年寄りが喜びそうな物をダースで、シロちゃんの分は私が選ぶわ」

「了解しました」

 

 男は仏頂面のまま即答し、積み上げられたタスクに脳内でため息を吐く。年頃の少女に選ぶ品を考えずにすんだ様だが、それでもお年寄りが喜ぶ品とは何なのか? まだ若い男には想像しにくかった。

 男は暫しネットで調べてやろうかと思案し、結局彼女の祖父母が時折食べている銘菓を買ってくる事にする。とはいえヘリの手配もあるので、買ってくるのは男の部下になるだろうが……経費で落ちるのだろうか? 落ちないだろう。部下に払わせる訳にもいかず、彼女に金をせびる気にもならないので、男が出す他ない。諭吉に羽が生えて飛んでいく光景を幻視できる気分だった。

 

「それと船に持ち込む私物と……あぁ、お祖父様に挨拶とおねだりをしておかないと。アポは必要だったかしら?」

「……はい。最近は果実の異変騒動で忙しくされていますので、いくらお嬢様相手でもアポが必要かと。国会をまとめる地下活動の最中でしょうから」

「はぁ……アイツら、きのみぐらいで未だにギャーギャー言ってるの? もう何ヵ月経つのよ」

「最初の一つが確認されておよそ半年。異変が本格化したのがここ1、2ヶ月です。ちなみに最近与党が新しい特別法案を提案しましたが、野党がこれを再び蹴り、国会は機能停止状態に陥りました。何でも納得できない、与党に都合が良すぎる。何より国民への説明が充分でないと」

「ハッ」

 

 馬鹿馬鹿しい。そう言わんばかりの嘲笑を上げる彼女。

 男はその嘲笑に内心ではげしく同意しつつも、やっぱり政治家には向いてないなと感じていた。彼女が政治家になったらその圧倒的な自信と実力、そしてカリスマで国家を支配するか、凡人に袋にされるかのどちらかだろうからと。

 

「まぁ、いいわ。あれらクズのおかげでシロちゃんもこっちに来るしかなくなったのでしょうし。……いつかお礼をしてあげないとね」

 

 お礼。それは嬉しい物のはずだ。しかし男はそのお礼だけは欲しくないと直感で感じ取った。絶対にロクでもないと。そら、その証拠に彼女の圧が冷たく、重くなっている。彼女は間違いなく、キレていた。

 男はお礼内容とその後始末を考えないようにしつつ、ヘリとパイロットをまとめた脳内リストからMi-26を保有する個人資産家を外しておく。Mi-26の巨体ではリヴァイアサンのヘリ甲板に着艦出来ないだろうという至極全うな考えからだったが、果たして本当にそれだけだったのか。Mi-26から別の何かを連想しなかったかについては……男は忘却する事にした。今日は厄介事をこれ以上考えたくなかったのだ。

 

「━━そういえばシロちゃん、服って持ってるのかしら? あまりオシャレには興味ない感じだったし……幾つか買って持っていってみようかな?」

 

 勝手にしてくれ。そう半ば仕事を放棄した事を考えながら男は首と視線を動かし、窓から庭を見る。

 そこでは人を走らせ方々から集めた変異した果実が、昨日今日植えたばかりだというのに色とりどりの花や実を付けていた。あり得ない代物だ。今頃学者連中は自分同様頭を痛めているに違いない。そう思うと心が軽くなる男だった。

 

「うん。プロデューサー、車を用意しなさい。シロちゃんに何か買っていくわ」

「……了解しました」

 

 そのシロちゃんとやらが来れば自分の心労も減るのだろうか? 期待せずにはいられない男だったが━━この後、シロちゃんと連絡を取ったらしい主が何やら鬼気迫る様子で自分を連れて下着売り場まで突入し、仕舞いには荷物持ちにさせられて……男の淡い期待は切実な祈りに変わるのだった。

 




 書物ノート


 月刊ギガヨット。
 特集、リヴァイアサン号。

 リヴァイアサン号は日本人が所有する数少ないギガヨットの一隻である。
 優美な気品を漂わせる白い船(全体写真)ともすれば深窓の令嬢を思わせるが、彼女は力強さも備えている。全長140メートルを超える巨体は見るものを圧倒し、最大速力28ノットという駆逐艦並みの足の速さは他の追随を許さない。これに一流ホテル顔負けのきらびやかな内装やプール、果ては医療施設まであるのだ。流石はギガヨット。メガヨットとは訳が違う! そこに痺れる憧れるゥ!
 だがこの船の真髄はまだだ。そう、この船の真髄はヘリの運用能力にある。船体後部に備え付けられた広いヘリ甲板と、それに併設するように作られた大きな格納庫。この2つこそ、リヴァイアサン号の真髄だろう。
 詳しくは調べる事が出来なかったものの、リヴァイアサン号は最低でも3機のヘリを運用する事が出来る様だ。が、筆者の鼻が確かなら4機、あるいは5機の運用も不可能ではないはず。更に噂によれば軍用ヘリの運用も出来るというのだから驚きだ! 事実、アメリカに寄港したリヴァイアサン号のヘリ甲板にSH-60シーホークが着艦するのをカメラが捉えている(鮮明な写真)またこれはコラージュであるという噂があるが、AH-1コブラが着艦した写真もある(画質の荒い写真)残念ながら『オクトパス号』の様にウェルドック(船の中に船を停泊させるマジキチ設備)を備えてはいないが、それでも素晴らしい性能だろう。
 なお、アメリカに寄港したリヴァイアサン号の各部に銃架の様な物が見えるが(鮮明なズーム写真)気のせいである。ブローニングM2重機関銃が見えるが気のせいである。写真の端にアサルトライフルで武装した船員が見えるが気のせいである。よしんば気のせいでなくともアメリカなので問題はない。まぁ、ここまで来るとギガヨットというより強襲揚陸艦と言いたくなるが……これはギガヨットである。いいね?
 ちなみにリヴァイアサン号を建艦した2人の資産家は完成時に「米海軍よ、思い知るがいい……!」「神仏照覧!」と口にしたという真偽不明の噂がある。ギガヨットの素晴らしさ故の神仏照覧は分かるが、米海軍に恨みでもあったのだろうか? 実はリヴァイアサン号を建艦した二人の資産家のうち、外国人資産家の方は故郷の中堅政治家と激しくやりあい、結果故郷から離れざるを得なくなった逸話があるが、実は米海軍将校とも確執があり━━(次のページに続いている)

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