ポケットモンスター 侵食される現代世界 作:キヨ@ハーメルン
私がポチをゲットした十数分後。私はユウカさんと共に何だか見慣れてきてしまったリムジンの中に居た。ポチはボールの中に居て貰うか悩んだが……そこにいると分かっていても、姿が見えないというのは案外不安を煽るものだったので、外に出て貰っている。サトシのピカチュウスタイルだな。
ちなみにビルに居たシロ民とは結局一言も話さないまま別れた。私は何と言えば良いのか分からなかったし……恐らく、あちらも同じだったのではないだろうか? 何だか私を見て呆気に取られた風だったし。
「━━えぇ、分かったわ。では、この後も引き続き彼らと行動を共にして。以上よ。……シロちゃん。お祖父様の所にはもう既にモンスターボールの現物と、きのみに関する論文が届いているみたい。特にきのみの論文は著者自らが説明に来ていて、たった今別荘を後にしたそうよ」
「なるほど……」
ユウカさんからの報告を聞いた私は、流れが自分に来ている事を察した。元総理がどの様な人物かは不明だが、例え堅物だったとしても何かが起きている事は把握したはずだ。ならば後はポチをモンスターボールに出し入れしたり、私自身が説明すれば……きっと、分かってくれるはず。大丈夫、大丈夫のはずだ。
「シロちゃん?」
「……何ですか?」
「緊張……してる?」
「緊張。……いえ、緊張はしてません」
そうだ。緊張はしていない。今私の頭をかき乱しているこれは……不安。それと喜びだ。
当たり前だろう。失敗すれば全てが駄目になるどころか、ポケモンと人とのファーストコンタクトが失敗し、戦争になる可能性すらあるのだ。不安にならないはずがない。
しかしまた同時に喜びもあるのは……ポケモンを知る人が増えるからだ。ポケモンバトルも、コンテストも、語り合うのも、1人では出来ないのだから。それらは2人、3人と居て初めて出来て、多ければ多い程良いのだ。私とシロ民以外の人にポケモンを知って貰える千載一遇の好機……見逃す手はなく、喜ばざるを得ない。
「そう。……もしかして、嬉しい?」
「分かり、ますか?」
「何となくだけどね。何時もと違って、目が輝いていたから」
目、目か。それはどうにもならないな。普段は死んでいる私でも、現実にポケモンと触れ合えるとくれば……輝かざるを得ないだろうし。
「━━っと、到着したわね。……覚悟は良い? シロちゃん?」
「はい。大丈夫です」
やろう。賽の目がどう出るかは分からないが、ここで止まる事だけは有り得ないのだから。そして私の全力を持って、ポケモンの事を分かって貰おう。そうすれば、きっと。
そんな思いを胸に私はポチをボールに戻し、ユウカさんに連れられて車の外に出る。そして私を迎えたのは立派な日本家屋……故郷にあるそれらよりも遥かに立派なそれだった。
「さ、お祖父様は既に待っているわ。行きましょう?」
「……はい」
一瞬飲まれかけたが、ユウカさんに声を掛けられて私は歩き出す。
門をくぐり、石畳の上を歩き、屋敷の中へと入っていく。勝手知ったる様子のお嬢様スタイルなユウカさんの後をコソコソと歩きつつ、私はひっそりとユウカさんの選んだ服に感謝していた。
何せこんな立派な屋敷の中で芋芋しいジャージなんて着ていたらそれこそ萎縮してしまう。ユウカさんが選んだお嬢様スタイルな服を来ているからこそ、軽く小さくなる程度ですんでいるのだ。とはいえ、このお嬢様スタイルに違和感があるのも事実だが。
「ここよ。……用意はいい?」
「━━はい。行けます」
ユウカさんの問い掛けに一度だけ深呼吸し、答える。
いよいよだ。いよいよ政界への道の入り口が見えたのだ。私は素早く何を言うべきか再度確認し……ユウカさんが一通りの事を行って扉を開ける。
「失礼しますね。お祖父様」
「し、失礼します」
「あぁ、久しいな。ユウカ。それと君がシロちゃんだね? ユウカから話は聞いているよ。……さ、座ってくれ」
扉の向こうで私達を待っていたのは好々爺といった雰囲気の老人だった。東郷お爺ちゃんよりは若く見えるが、80歳……いや、90歳はいっているだろう人だった。この人が、伊藤元総理か。
私はユウカさんにならって高そうなソファーに並んで座り、伊藤元総理も私達の反対側に座る。その瞬間、微かに空気が重くなった。……始まりだ。
「さて、あまり時間もありませんし……手早くいきましょうか。お祖父様、資料は確認されましたか?」
「あぁ、見たよ。先ほど学者の方が来てね。説明までしてくれた。この紅白の……モンスターボール? と、果実……いや、きのみだったかな? それの実演までしてくれた」
私が何と切り出した物かと思っていると、ユウカさんが口火を切ってくれた。
話を聞くにどうやら噂の植物学者さんは実演までしてくれたらしい。有り難い話だ。まだ一度も、それこそ掲示板ですら会っていないが……そのうちお礼を伝えたいと思う。
「あら……ちなみに、何の実演されたのです?」
「青い果実……そう、オレンの実だったかな? それの実演をしてくれた。ここにマウスとメスを持ち込んだときは何事かと思ったものだが……納得したよ。あれは直に見て……いや、直に見れたからこそ半信半疑になれる」
「なるほど。論文だけでは信じれない、と?」
「信じれないだろうな。この目で見ても半信半疑なのだ。そんな論文なんて読んでも……信じようとは思うまい」
私は手に持ったままのポチが入ったモンスターボールを撫でながら、2人の矢継ぎ早の会話を必死に聞く。
恐らくこれはお互いにジャブを打っているのだと思うが……展開が早すぎる。とてもついていける気がしない……大丈夫だろうか?
「あぁ、それと彼は変異した果実達……彼が言うに『きのみ』の有効利用についても話してくれた。殆んどが荒唐無稽と笑われる話だが……仮にきのみの効果が本物であり、また安全であるならばそうでもない。むしろそれらは暫しの間とはいえ巨万の富を生み、その後一般に広がれば人々の生活を一変させるだろう。勿論、良い方へ」
「えぇ。それは私も同じ意見です。きのみを有効利用すれば大きく世界は変わる。その効果は図り知れません」
「うむ、彼は言っていたよ。健康寿命は勿論の事、半身不随や末期のガン、それどころか治療法すら見当のつかなかった難病すら治せる可能性がある。薬の殆んどはきのみに関連した物になり、その効果は今までとは比較にならず、事故にあったときにはAEDや救急車よりもきのみを食べれるか確認する事になる……とね。笑い話だよ。普通なら」
「しかし、今は普通ではない。……昔の血が騒いでいるのでは?」
「その通りだ。事によれば有事なのやも知れん。そして……そうだな、今の若い連中には荷が重いだろうとも感じている。私自身、ボケてなくて幸いだったともね。だが、どう動けば良いのか判断しかねているのも事実で……もっといえば、こんな老害が今更出張るのは間違いではないかとも思うのだ。━━さて。そろそろ、お嬢さんの話を聞かせてくれるかな?」
2人の高速戦に付いていけず、半ば脱落仕掛かっていた私に元総理が声を掛けてくる。混乱は一瞬。語る事は決まっているのだ。ならば。
「伊藤元総理はきのみの事は分かっている、という事で良いでしょうか?」
「キミ程ではないがね。……この異常事態の、専門家さん?」
言葉の上ではやさしく。しかし元総理の眼光は圧を持って私を見据える。嘘は許さないと。元より嘘などつくつもりはないが……しかし、この程度の圧なら東郷お爺ちゃんで慣れている。あぁ、そう思えば一気に楽になった。
さぁ、始めよう。
「専門家、といえば専門家なのでしょう。しかし、私はただ彼らが好きなだけの……ごく普通の人間です。ですから私から元総理にお話出来るのは、3つ。そのモンスターボールの使い方、ポケモンについて、これからの予測……これだけです」
「…………ふむ。そうか、では、先ずこのボールについて教えてくれるかな?」
指を立てて説明し出した私に、総理はモンスターボールをコツコツと指先で叩きながら指名してきた。
モンスターボール。それの詳しい原理なんて知らないからその辺は説明しようがないが……私の知る限りの事を話すならば、そう。
「はい。その紅白のボールの名前はモンスターボール。ポケモンを入れておく為の入れ物……いえ、お家、ですかね」
この表現が適切だろう。とはいえ知らない人に家だと言うのは突飛に過ぎたのか、元総理は見て分かる程に困惑していた。
「ポケモン、家。……そのポケモンとはこれに入る程小さいのかね?」
「いえ、ポケモン……正式名をポケットモンスターと呼ぶ彼らはそれに入る程小さくありません。しかし、彼らはその身体をある程度凝縮させる事ができ、モンスターボールはそれを応用した品になります」
「……信じ難い話だな」
それはそうだ。私自身その辺はサッパリなのだし。とはいえ、見れば分かる程に分かりやすい話でもある。なのでここは……
「そうでしょうね。なので、実演します。━━おいで、ポチ」
私は手に持っていたモンスターボールを部屋の空きスペースが多い場所に放り、ポチを呼ぶ。
一拍、彼女はモンスターボールから光となって出てきてくれる。私に取っては見慣れた光景。しかし、元総理にとっては違うもののはずだ。
「グルゥ」
「有り難うね。ポチ」
「グルゥ……」
私は近寄ってきたポチを撫でながら褒める。これで元総理はポケモンを信じるしかないだろう。少なくとも、既存の常識が通用しないナニカが現れた事は理解したはずだ。
チラリ、と。元総理の様子を伺えば、その顔は驚愕で埋め尽くされていた。
「これは、驚いたな……手品、という訳でもなさそうだ。それにその犬……いや、犬ではないのか」
「えぇ。ポチはポケモン……種族名グラエナ、ですから。手品かどうかは元総理が信じられるかどうかの問題ですが……ご希望でしたら何度でもやりましょう。あるいは、元総理自身がやってみますか?」
駄目押しとばかりにこれが特別な事ではないのだと宣言してみせる。事実これはポケモンをゲットしているなら誰でも出来る事だし、誰が持ってきたのか都合よくモンスターボールもあるのだから。
だというのに元総理はその驚愕をより一層強めた。
「……出来るのかね?」
「流石にポチを、私の家族を貸す事は出来ませんが……元総理ご自身が何らかのポケモンをゲットすれば、容易に可能かと」
「むぅ……」
私がハッキリと言ったのが良かったのか、元総理は一瞬だけ微かに納得を見せ……そしてそれを素早く隠して疑念を表に出してくる。老いたとはいえ、この辺りは流石元政治家といったところか。しかし最低限は信じて貰えたようだ。
そう私が安堵していると、元総理はその疑惑顔のままユウカさんの方を向き……1拍、2拍、2人の視線がぶつかり合う。それはアイコンタクトに見えたが、それにしては剣呑に過ぎた。
「ユウカ、この子は……」
「お祖父様。先に言って起きますが、私は何があろうとシロちゃんの味方ですので」
「ぬ……そうか。━━シロちゃん、キミは……何者かね?」
「?」
何を言っているのだろうか? 元総理には私が化け物にでも見えているのか? 私はどこからどう見ても人間、更に今の私は芋芋しさを完全に捨て去り、お嬢様スタイルで決めてみせているのだが……ボケたのか? いや、元々ボケていたのが露呈したのか?
まぁ、いい。ここは真面目に答えておこう。そうだな……
「ポケモンが大好きな人間……では、駄目でしょうか?」
これで充分だろう。これで尚お前は誰だと聞かれたら元総理はボケていると断定し、ユウカさんに全てを放り投げるしかない。その場合は政界への道が閉ざされてしまうので、出来ればマトモであって欲しいところだが。
「はぁ……分かったよ、ユウカ。賭けはキミの、キミらの勝ちだ。総理やその近辺には今日中に話しておこう。繋がりのある方々にも、順次説明しておく」
「ふふ、有り難うございます。お祖父様」
どうやらボケていた訳ではなく、私の何かを試したらしい。私には何を試されたのかサッパリなのだが……ユウカさんが分かっている様だし、政界への……それも総理大臣への道が開けたので良しとしよう。
これで、今回の会談は成功。そう見て問題ないはず。私は隣に居るポチをスルリと撫で、嬉しさを発散させる。まだ騒ぐ訳にもいかないからだ。
「全く、誰に似たのやら……」
「お婆様とお母様かと」
「勘弁してくれ……」
話が終わったからか、元総理は何ともアットホームな雰囲気でユウカさんと笑い合う。ちょっと疎外感。
元総理はそのまま暫し苦笑していたが、やがて席を立った。総理への説明に行ってくれるのだろう。……これで、他の人を巻き込めるはずだ。
「ではユウカ、後を任せる。シロちゃん……聞きたい事も言いたい事も山ほどあるが、今日は休むといい。……では、失礼させて貰うよ」
私が内心で未来に思いを馳せているうちに、元総理は退室していた。
部屋にはユウカさんとポチと、私だけ。ある種身内だけとなったので私は肩の力を抜き、グダーとソファーに寄りかかる。流石、高そうなだけあって良い心地だ。
「ふふ、お疲れ様」
「グルゥ」
「はい。ユウカさんもお疲れ様です。ポチもありがとね」
「グルゥ……」
疲れている私をみかねてか、ユウカさんが私の頭を撫でてくれる。多少、いやかなり気恥ずかしいが……これは悪くない。
そんな事を思いつつ私はより一層力を抜き━━その調子のまま伊藤家別荘で半日を過ごし、眠りに付く。どうか今日の会談が、ポケモンと人が仲良く出来る第一歩になります様にと願いながら。
要点まとめ
ユウカネキの信用ロール……自動成功
シロちゃんの説得ロール……補正値内成功
元総理のSANチェック……成功 1b3……2減少
シロちゃんの言いくるめロール……ファンブル
ユウカネキとシロちゃんのAPPロール……ダブル1クリ☆
元総理は迷いを断ち切り、シロちゃんに全面協力してくれます!
♪魔界4の次回予告テーマ♪
次回予告
シロちゃん?「突如現れたポケモン殲滅部隊! そして発覚する驚愕の事実!」
シロちゃん?「なんと! アルビノヒロインがメインの作品はかなり少ないのだ!」
シロちゃん?「日光に当ててはいけない、視力が弱い等の理由で使いにくい。差別を助長しているとして酷く叩かれる等が主な理由らしいが、それは大きな間違いだ!」
シロちゃん?「その白さと儚さからくる神秘性を最大限利用出来きる(この作品ではまだ機会が無いが)アルビノヒロインは夜、月明かりに照らす事が最も映える属性なのだ! こんなに少なくて良いはずがない! それと差別云々はそうして弾き、規制する事こそ差別と知れ!」
シロちゃん?「つまり今日からアルビノは白くて神秘的で強い。つまり白強と覚えておけ!」
シロちゃん「えっと、次回『携帯獣武勇伝ポケモンロード』第1話『アルビノヒロインの偉大さを思いしれダス』次回の更新は4月1日だよ?」
シロちゃん?「つまり、私の出番だ━━!」
※次はエイプリルフール企画です。ご注意下さい。