ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第14話 最初のポケモン

 私がリヴァイアサン号に乗って早くも二日目。船は関東まであと少しのところまで来た……らしい。

 いや、らしいというのは私自身レーダーの見方なんて知らないし、陸地も見えないからだ。1つ確かに言えるのは、水平線というのは案外近い物だったという事か。

 

「わふぅ」

「機嫌良さげだね、ポチ……」

「わふ」

 

 昨日専門の人に毛並みを整えて貰ったのが嬉しいのか、心なし機嫌良さげに聞こえるポチの声をBGMに、私は船の通路横の窓から五キロ先の水平線を見る。勿論、海しか見えない。青く輝く海はそれだけでキレイだが……しかし、私の心は微塵も浮かなかった。何故か? 今着ている服のせいだ。

 

「うぅ……」

 

 私は小さく唸りながら、今着ている服の裾を弄る。

 別に着ている服が気に入らない訳でも、きわどい訳でもない。むしろそれらの逆。ユウカさんが進めて来た服が私によく似合い、また清楚な感じがするから断るに断れなかったのだ。具体的に何と呼べばいいのかは知らないが……恐らくワンピースの一種だろう。真っ白で膝下まで隠してくれるそれはかなり良い物の様に思えた。更に下着の類いから小物に至るまで買ってくれたユウカさんには、本当に頭が下がる思いだ。

 まぁ、その代わりとばかりに昨日は着せ替え人形にされたが……今日中に元総理に会う事を考えると、それも必要な事だったのだろう。最低でもセミフォーマルといえる格好をしておかないといけないのだし。

 とはいえ、いつもパーカーとジャージが基本だった私からするとこういう女の子女の子している服は馴染みが無く……ハッキリ言って落ち着かない。具体的にいうと足元がスースーして、心もとない事この上なかった。

 

「うぅ……!」

 

 しかし、ポケモンの為にはこの心もとなさにも慣れなければならないのだろう。このハリウッドにでも出るのかと聞きたくなるワンピーススタイルがセミフォーマルなのだとすると、これから着る機会は無数にあるだろうから。それこそ、お偉いさんに話をする回数だけ着るのは間違いなく……私の心はダイビング中だ。

 

「あら、シロちゃん。ここに居たのね」

「ユウカさん……」

 

 通路の向こうから歩いて来たのは、ユウカさんだった。彼女の服装も私と似たようなワンピーススタイルだったが、しかし私よりも遥かにハリウッド的な高級感と気品が溢れている。これが慣れか、それとも持って生まれた才能なのだろうか……? どちらにせよ、ユウカさんと私では比較にすらならないだろう。

 

「ポチちゃんも……うん、大丈夫そうね」

「グルゥ」

 

 しゃがんだユウカさんが何かを確認するかの様にポチの首もとを撫でて……それをボウッと端から見ていた私は、そこでハタと奇妙な疑問を持つ。

 ポチってこんなだっけ? と。

 黒い毛並みも、イケメンフェイスも変わってないように思えるし、この子が頼りになる私の家族なのは間違いない。しかし……ポチの牙や爪はあそこまで鋭かっただろうか? 特にあの眼光は、幾ら何でも圧がありすぎる様な気がする。……気のせいか?

 

「━━ちゃん、シロちゃん?」

「ぇ、あ、はい。どうかしましたか?」

「いえ、何だかボウッとしてたから……大丈夫?」

「あぁ、すみません。大丈夫です。…………その、ポチが何だか変わった様な気がして」

「グルゥ?」

 

 ポチは首をかしげ、ユウカさんは心配そうな表情を崩してポチへと視線を向ける。

 黒い毛並み、格好いい顔立ち、鋭い眼光や牙。それは以前からポチに備わっていたものではあるが、改めて見てもやはり変化しているような気がした。そう、まるで……

 

「うーん、グラエナみたいな子だとは思うけど……前からこうじゃなかったの?」

「━━っ!」

 

 そうだ、今のポチはまるでグラエナだ! 細部も違うし、違いなんて幾らでもあるが……その印象は日本犬というよりグラエナによく似ていた。まさか、まさかまさかまさか!? ポチがポケモンになったの!?

 

「━━━━」

 

 呼吸が止まる。

 一拍、二拍、動き出す。

 改めてポチを見て、グラエナを連想して…………ふと思うのはグラエナの登場世代。確かグラエナは第三世代からの登場だ。もしポケモンが現れるなら第一世代からだと思ったのだが……違ったのか? それともポチだけが特別? それともポケモンは既に第三世代まで現れた後? あるいは私の見間違いでポチはポケモンではない? ……分からない、分からないが。

 

「━━ユウカさん」

「ふふ、何? シロちゃん」

 

 恐らく、全ての答えは関東にある。既に用意されている!

 こうなれば最早足踏みしている暇すら惜しい。早急かつ完璧に元総理との会談を終わらせ、関東をひっくり返す勢いで調べつくさねば……! そうすればポチがポケモンになったかどうかも━━

 

「関東へは、まだかかりますか?」

「えぇ、この船の到着を待つのなら後半日はかかるでしょうね。……我慢出来なくなった?」

「はい。今すぐ行きたいです」

「ふふっ、そう言うと思って準備させたわ。さっ、こっちよ」

 

 スタスタと歩いて行くユウカさんの後に続くように私も歩き出す。意識すればするほどグラエナに見えてくるポチも私の横を歩き、リヴァイアサン号の中を進んでいく。私なら迷いそうな艦内をユウカさんは迷いなく進んで……確かこの先は。

 

「ヘリ、ですか?」

「えぇ。陸地まで届く距離になったからね。これからヘリで久里浜の別荘近くにあるビルまで移動。そこでモンスターボールを受け取り、車でお祖父様がいる別荘まで向かうわ」

「モンスターボール……!」

 

 シロ民達が複数のモンスターボールの確保に成功し、私の分も確保してくれたと聞いてはいたが……そうか、ついにモンスターボールをこの手に━━!

 

「ふふ、嬉しそうね?」

「はい。モンスターボールですから」

「グルゥ」

「そうね。モンスターボールだもの……夢が、叶うわね?」

 

 夢。そうだ。私の夢は叶う。ポケモン達が現れるのは確定し、後は時間の問題。だが、まだだ。まだ足りない。ポケモンを見たぐらいでは満足出来ない。私は一度死んでなお夢を見た……いや、死んだからこそ夢をみた強欲な人間だ。そんな奴がポケモンを見ただけで満足出来るはずがない。ポケモン達とふれあい、バトルし、コンテストもやり……それら全てを他者と共有し、広げ、世界にポケモンがなん足るかを知らしめて━━恐らく、それでもまだ満足出来ないだろう。

 だが、それでいい。もう離したりしない。離す気は無い。私は死ぬまでポケモンと共にあり、ポケモンの為に生きる。これは、その第一歩。だから。

 

「まだ、これからです」

 

 夢はまだ、始まったばかり……ここで満足なんて、してやらない。

 

「そう、そうね。そうだったわね。えぇ。ポケモンは、これからだわ」

「はい」

「グルゥ」

 

 差し当たって、先ずは元総理にポケモンがなん足るかを分かって貰おう。そして次は国会で、その次は日本国民に、ポケモンを広めるのだ。

 私は決意も新たに足を踏み出し、リヴァイアサン号の後部甲板に出る。大きなヘリポートの真ん中にレスキューホークが一機、ローターを回転させながら私達の事を待っていた。

 

「準備は、良さそうね?」

「はい。問題ありません。……行くよ、ポチ」

「グルゥ」

 

 私の言葉に笑顔を返したユウカさんが先に乗り込み、続いて私とポチが乗り込み……扉が閉められる。パイロットを見てみると、以前の運転手さんと同じの様だ。

 

「リヴァイアサン・ツーよりリヴァイアサン号管制。これより発艦する」

 

 その言葉から一拍してローター音が大きくなり、機体が浮き上がったのが窓から見て分かる。ヘリはそのまま止まる事なくリヴァイアサン号から発艦、進路を関東へと取る。

 過ぎ去る巨船、走る海原。私はヘリのローター音をBGMにそれらを眺め、ふとポチへと手を伸ばしてその頭をやわらかく撫でる。

 

「グルゥ……」

 

 どこか気持ち良さそうなポチを眺めながら、やはりグラエナに似ていると思う。言われれば気づかない程度の変化……いや、少しずつ変化して私が慣らされたのか? どちらにせよ、今はグラエナにしか見えない。

 

「関東についてモンスターボールを手に入れたら……ポチに使ってみようかな?」

 

 その思い付きはヘリのローター音にかき消されてポチにすら聞こえなかった様だが、私はその考えを悪くないと思っていた。長年連れ添った大好きな家族が、大好きなポケモンに変わったのなら……それを少しでも早く実感したいのが、私の正直な心情だった。

 それに、メリットこそあれどデメリットは特に無い。むしろポチがポケモンになっているのなら、モンスターボールに入れない方が危険だ。

 私はアレコレと思考した後、モンスターボールを手に入れたら直ぐにポチに試す事を決意する。確かアニメではスイッチ部分を押し当てていたなと思いながら、ポチを撫でて眺めて過ごす事、暫し。それまで黙って此方を眺めて微笑んでいたユウカさんが私の隣まで移動して伝えてくる。目的のビルに降りる、と。

 ━━いよいよだ。

 

「さ、シロちゃん」

「はい」

 

 私はユウカさんに連れられて、ポチと一緒にヘリの外へと出る。

 そうしてユウカさんの後ろを歩き続けながら辺りに視線を回すと……ヘリから少し離れた場所に数人の男性達が立っているのが見えた。モノトーンカラーな彼らが、シロ民だろうか?

 私が彼らに近づくに連れ、彼らの驚きと喜びは見て分かる程に大きくなり、首もとの白いチョーカーがよく見える位置まで来たときには……何というか、爆発寸前といった風だった。私が何か喋ったら文字通り爆発するんじゃないだろうか? そう思える程に。

 

「お疲れ様。モンスターボールは?」

「こ、ここに! はい!」

 

 私が喋ったものかどうか悩んでいると、その思考を読んだのかユウカさんがモンスターボールを彼らから受け取ってくれた。有り難い。

 そうしてユウカさんは手元のモンスターボール2つのうち、片方を私に渡してくれる。手に取って、軽く頭を下げる事で礼をして……そこからはただ、モンスターボールに視線が引き寄せられた。

 今や赤と白のボールは私の手の中にあり、その冷たく滑らかな感覚を指先で感じる事も出来る。あぁ、間違いない。今、私は、モンスターボールを、モンスターボールを手にしているのだ! 他でもない、あのモンスターボールを!! 夢に見たモンスターボールを、この手に! この手の中に!!

 

 それは歓喜か、狂喜か、少なくとも喜びであった。

 

「グルゥ?」

 

 それが中断されたのはすぐ側から聞こえた家族の声。ポチだ。

 うん、分かってる。喜ぶのはこれから……そうだよね? ポチ。

 

「ポチ━━いくよ」

「グルゥ」

 

 迷いは、無かった。

 私はモンスターボールを手にし、それをゆっくりとポチに近づけていく。ポチは動かない。私の目をジッと見つめている……うん、そうだね。大丈夫だ。

 ポチの視線に頷きつつ、私もまだ視線を返し。そして、ついにモンスターボールがポチに触れる。

 

「━━っ!」

 

 変化は劇的だった。モンスターボールがポチに触れた途端、ポチは光となってモンスターボールの中へと吸い込まれていく。

 私の手元で点滅しながら揺れるモンスターボール。あぁ……間違いない。ポチはポケモンになっていた。私でも気づかないうちに、ポケモンに! グラエナに!! ポケモンは、ポケモンは、既に現れている!

 驚愕と歓喜に揺れる私の手の中で2度、3度、モンスターボールが揺れる。私を落ち着ける様にゆらりゆらりと。そして。

 

 ━━カチッ。

 

 音が、する。それは聞き慣れた……ゲットの合図。

 

「っ━━!」

 

 私は我慢せずにポチの入ったモンスターボールを胸に抱きしめ、ポツリと呟く。

 ━━ありがとう、ポチ。これからも、宜しくね。

 

「━━おいで、ポチ!」

 

 ポチに感謝の言葉を告げ、私は確信を持ってモンスターボールを空に放り投げる。

 モンスターボールは空を舞い……重力に引かれて落ちる直前、光を外に出す。それはまさしく見慣れた光景で、光はやがてポチになる。

 

「━━! ポチ!」

 

 私は手元に戻って来たモンスターボールをキャッチし、ポケモンとなったポチに抱き付く。

 ポチは私のとっしんを受け止め、一度だけ頬を合わせてくれる。まるで「こちらこそ、これからも宜しく」そう言う様に。……あぁ、私の家族は今日も頼りになる……優しい家族だ。

 私は胸に熱いものが込み上げて来て、その衝動のままにより一層強くポチを抱きしめた。柔らかな毛並みが私を包み、暖かな鼓動が私を落ち着けてくれる。夢は叶った。ポケモンは今、目の前にいる。勿論満足なんて出来ない。出来ないけれど……今はもう少し、このまま━━




イイハナシダナー(目逸らししつつ)

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