ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第2話 配信、疑念の『きのみ』

「はい、皆さんこんばんは。シロです。今日は予定通り雑談しつつお絵描きしていきます」

 

 ポチも居なくなって一人ぼっちの部屋に私の声が響く。しかし虚しくはない。今の私は一人ではないからだ。

 

『わこつ』『待ってた』『初見』『ワイも初見』『ワシ古参』

『今日もシロちゃんの声がかわいい……』『お手てもな』『髪の毛勢のワイ、今は低見の見物』

 

「はい、わこつ有り難うございます。初見さんはゆっくり見ていって下さいね。可愛いですか? 有り難うございます」

 

 パソコンの液晶画面を流れていく無数のコメントの幾つかに反応を返し、返答していく。可愛い関連が多いが……まぁ、今世のボディはプリティーやからな! 仕方ない、仕方ない。礼は言っておいてやるZE。

 何気なくチラリと確認すれば既に千人近くが見ている様だ。あぁ、私は一人ではない。この数字に気圧されていた頃を懐かしむ暇もある。大丈夫だ。やっていこう。

 

『うっ、ふぅ……』『ふぅ……』

『お前ら何してんだ』『何ってそりゃナニだろ』

『貴様ら何をしとるか!』『ヤベーぞ、犬兵だ!』

 

 大丈夫だ! やっていこう! 自浄作用も働いてるしな!

 

「今日の一枚目は……そうですね。一通りのポケモンは二回づつは描きましたし、初心に帰るつもりでポッポを描きましょうか」

 

『ポッポか』『ポッポ?』『あぁ、あの鳥ね』

『誰か説明してクレメンス』『鳥だ』『鳥だな』『ちげーよ小鳥だ』『お前ら説明してやれよ……鳥だな』『草』

 

「あはは……皆さん中々酷いですね。まぁ鳥ですけど、ポッポはポッポですよ?」

 

『せやな』『セヤナー』『ポッポはポッポやからな』『鳩ポッポー』『ポッポー』

『誰か、説明を……』『分かったから待て』

 

 ポッポに対する視聴者さんの認識が酷かったが……まぁ鳥で間違いないのは事実だ。元ネタは鳩と、そして複数の小鳥を混ぜたモノだと言われていたからな。鳥としか言いようがないだろう。鳩にしてはイケメン過ぎるし。

 ささっと手を動かし、愛用の鉛筆で紙にポッポを描いていく。このとき絵に集中し過ぎると何故か微妙に下手くなるので、特に意識はせずに描き進める。

 

『はー、相変わらず上手いなぁ』『あれだよな。参考にならない上手さ』『シロちゃんのそれは才能やからね』

 

「あはは……有り難うございます。自分では良く分からないんですけどね」

 

 お礼を言いつつも、中々に痛い指摘だと噛み締める。何せ概ね事実だ。この身体に宿っている絵心というか、画力といのか、そういう才能が凄まじいからこそ、私はポケモンを描ける。他の人と共有できるのだ。

 

『お手て綺麗』『お手てちっちゃい』『ちっちゃい真っ白お手て……』『何を言うか、チラチラ映るロングの白髪こそ……うっ』

『う、ふぅ……』『ふぅ……』『ふぅ……』『貴様ら何をしとるか!』

『ヤベーぞ犬兵だ!』『ほーら骨だぞ取ってこーい!』『わうーん!』

 

 共有できるのだ! てか自浄作用要員買収されんな! 頑張れよ! もうちょっと頑張ってみろって! ネバーギブアップ!

 

『説明、を……』『おい初見が死にかけてるぞ』『あー、初見にはちとキツいわな』『シロちゃんが描くのは完全なオリキャラやからなぁ』

 

 オリキャラではないのだが……言っても仕方あるまい。それより初見が死にかけてるのを何とかしないと。

 

「ポッポはことりポケモンですね。体長三十センチほどの、小さな鳥型のポケモンです」

 

『せやな』『三十センチ……小鳥? 小さい?』『小鳥やぞ。ポケモン基準ではな』『家よりデカイのとか普通に居るからな』『アイエエエ!? ポケモンヤバいな』『ポケモンは忍者も居るぞ』『アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?』

 

 頭の中にポッポの基礎プロフィールを思い出しながら、手はポッポを描き続ける。もうすぐ折り返しだ。

 しかし忍者のポケモンか……どの子を指して言ってるんだろうな。うん、もう一度忍者ポケモン特集をやるのも良いかも知れない。あのときのコメントの伸びは異常で面白かったし。

 まぁ、今はポッポだ。

 

『シロちゃんに先越されたか』『有能ニキ無能』『速報。有能ニキ無能だった!』『(´・ω・`)』

 

「タイプはひこう、ノーマル。穏やかな性格で戦いは好みません。生息数は多めで、あちこちで見かけるポケモンですね。……あぁ、説明しようとしてくれたニキ、有り難うございます」

 

『(`・ω・´)』『復活早過ぎィ!』

『俺もシロちゃんにお礼言われたい』『ワカル。俺もお兄ちゃん呼びされたい』『拡大解釈してて草』

 

 変態め。気持ちは分かるが、変態め。

 てかその手のバイノーラル作ってなかったか? ……業が深いな、なんだかんだで協力した私も。

 

『ちなみにこのポッポ、進化すると更にデカくなる』『進化とかあるんか』『初見はまとめウェキ見て来い。作り込み凄いから』『オリキャラとは思えない作り込みだよな。今何匹だっけ?』『ざっと650匹ぐらいじゃね? マジヤベェ』『!?』

 

 だからオリキャラではないのだが……っと、今抜けられては困る。

 

「あ、まとめウェキ見るのは後にして下さいね。ポッポも、もうすぐラフが描き終わりますから」

 

『せやな』『セヤナー』

『はー上手いな』『俺の絵とは大違いだぜ……』『涙拭けよ』

『懐かしのポッポ』『どこがポッポなんだよ……イケメンじゃねぇか!』『名前詐欺だよな』『俺ポッポ好きなんだよ。何となくだけど』『イケメンな鳩だもんな』『イケ鳩』『ポッポ』『ポッポー』『ポッポ?』『ポッポ!』『ポッポォ!』

 

 まだ色付けはしてないが、確かに名前詐欺なイケメンだ。しかもコイツの登場場所はスタート地点の直ぐだというのだから驚き。

 そして何やら謎の儀式が行われてるが……スルーしとこう。

 

「さて、ポッポ完成です。色付けは……どうしましょうか?」

 

『有り』『あり』『無しで雑談』『初見おるし蟻』『むしろ初見がいるからこそ雑談では?』『賛成。雑談で』『シロちゃんに話題があるなら雑談でエエんちゃう? 無ければ色付けで』

 

 完成したポッポに色付けするかどうかを聞いてみたが、だいたい半々のようだ。まぁポッポは三度目だしそんなものか。しかし話題……あぁ、そういえばコイツがあったな。

 

「では雑談にしましょう。実はご近所さんからこんなのを預かってるんです。……見えますか? 青い果実です」

 

 私はポッポを描いた紙を脇に退けて、カメラに映るように老夫婦から貰った青い果実を机に転がす。……頭の奥がチリチリする。やっぱり知っているのだろうか。

 

『青!?』『青いな』『見た目はミカンっぽいが……』『青い』『うん、青いな』

『てかこれアレじゃね? ニュースでやってた奴』『あぁ、あれか』『たしか日本の果実がおかしいってやつだよな?』『あぁ、ついにシロちゃんの近くにも生ったのか……』

 

 コメントを読む限り知っている感じの人は居なさそうだ。ならばこの頭の煩さは……そう思ったとき、一つのコメントが目に飛び込む。

 

『オレンの実か』

 

 オレンの実? ━━そうか、オレン! ポケモンの! あの『きのみ』か! それなら老夫婦が言っていた妙な味と固さも納得……いや待て、なぜオレンの実が現実に存在する?

 

『オレンの実?』『オレンジじゃなくて?』『オレンの実だよ。俺も食って確認したから間違いない』『!?』『食ったのか!?』『オイオイオイ、氏ぬはアイツ』『氏なねぇよ。クソ不味いけど』『不味いのか……』『甘さ以外全ての味がした』『なんぞソレ』『不味そう』『てか吐きそう』

 

 呆然とする私の目の前でツラツラとコメントが流れていく。どうやら老夫婦以外にも食べた人がいるらしい。……どうやら、私だけがおかしいという訳ではない様だ。

 

『なぁ、オレンの実ってなに?』『知らんのか?』『ポケモン世界のアイテムだぞ。シロちゃんオリジナル設定だ。詳しくはウェキな』『ほーん、そんなんもあるんか。後で見てくるわ』

 

「いえ、オリジナル設定では……無いんですが」

 

 呆然としていた私は目の前に流れたオリジナル設定云々につい反応してしまう。そりゃそうだろう。この世界ではオリジナルでも、本当は違う。違うのだ。このオレンの実は、ポケモン世界のソレなのだから。

 

『久々にシロちゃんのオリジナル否定発言聞いたわ』『どう足掻いてもシロちゃん発祥なんだよなぁ』『はいはいポケモンは実在する実在する』『やめないか! ポケモンは実在するんだよ!』『それは洒落にならんのでNG』『ギャラドスとかヤバいし、流石にね?』『正直スマンかった』『過保護犬兵敗北』

 

「…………」

 

 そうだ。この世界ではポケモンは私のオリキャラに過ぎず、オレンの実だって同様だ。……なら、なぜここにオレンの実があるんだ? なぜポケモン世界のきのみが、ここに? なぜ、なぜ、なぜ━━?

 

『おーい、シロちゃん?』『おこ? おこなの?』『てか手震えてない?』『大丈夫か!? シロちゃん!』『犬兵落ちち着け』『お前が落ち着け』

『おい、血色。流石にヤバくないか?』『え、そんなショックだった?』『謝れ! 今すぐシロ様に謝れ!』『本音出てて草』『いや、こんな事になるとは』『謝罪早よ』

 

 不味い。コメントの流れが不穏だ。落ち着け、落ち着くんだ。先ずは落ち着け。そしてコメントの流れを修正。その後……情報収集だ。

 

「ぁ、あー、すみません。少し驚いてしまって。固まってしまいました。私は大丈夫です」

 

『いや、大丈夫って感じじゃなくね?』『声震えてる』『シロ様! 大丈夫ですか!?』『ドM犬兵落ち着け。本音出てるから』『その大丈夫は大丈夫じゃない大丈夫だろ』

 

「いえ、大丈夫ですよ。本当に驚いただけですから。……それで、皆さんこのオレンの実について何か知りませんか?」

 

『俺は知らね』『俺もニュースで見ただけ』『食ったニキはどう?』『せや、食ったニキなら食レポもいけるやろ!』『クソ不味い。ウェキ通り。体力回復は良く分からんけど、何か元気になった気がする』『俺も知らないな』『体力回復?』『知らないのはウェキ見とけ。たぶん知っといた方がいい』

『てかシロちゃんが一番良く知ってるんじゃ?』『せやな』

 

 ふむ、どうやら目新しい情報を持っている人は居ないらしい。それどころか私が一番良く知ってるときた。……確かに、これがオレンの実ならば、この世界の誰よりも私が一番良く知ってる、か。

 ━━どうする? よく分からないが、どうやらこれはオレンの実らしいし……いや、そもそもオレンの実なのか? 見た目や味は間違いなさそうだったが、他の要素はどうなんだ? ホントにポケモンのオレンの実だといえるのか? ……検証が必要か。

 

「そう、ですね……」

 

 チラリ、と。残りの配信時間を確認。まだ半分ほど余っている。当たり前か。しかし早いところ検証したい。これが本当にオレンの実なのか。そうでないのか。もしオレンの実なら━━いや、流石に今からそれは視聴者さんに悪いか。……よし。

 

「この青い果実が、オレンの実なのか検証したいので配信終了後に例の鳥で……いえ、掲示板で話合いましょう。暇な人が居ましたら、一緒にお願いできますか?」

 

『任せろ!』『やったぜ』『一緒、お願い、うっ、ふぅ……』『おいさっきの奴、強制参加な。働け』『犬兵コワイ』『流石にこのご時世に強制は……』『エエで。暇やったし、やりたい。やらせて下さい』『罪悪感感じて草。あ、僕もやります。はい』『結構人数集まりそうやな』『なら今ある掲示板使ったら? 何かあったろ』

 

 気が急く。落ち着け、落ち着け。まだこれがオレンの実と決まった訳じゃないんだ。だから焦るな。先ずは検証だ。

 

『きのみ検証板だな。後でここのコメにURLとタイトル書いとくわ。好きな方法で来ると良いぞ』『りょ』『てかそれ元いた人迷惑しない? 大丈夫?』『元いた奴もシロ民と犬兵だけだから問題ない』『ok。なら安心だな』

『シロちゃんこれでいい?』『大丈夫? 気分悪い感じ?』『やっぱりショックだったのでは……』

 

「ぁ。いえ、大丈夫ですよ。URLとタイトルのコメントよろしくお願いしますね。…………それでは、残りの時間は、ポッポに色を塗っていきましょうか」

 

 私はオレンの実を脇に避け、ポッポを描いた紙を引き寄せて色鉛筆で色を塗っていく。簡単なはずのソレは何度も失敗しかけ、新しく到着した視聴者さんに『今日は無口だね』とコメントされてしまったが……しかし、なんとかショックの多かった配信を乗り切る事が出来た。

 だが休んでいる暇はない。掲示板へ行こう。そして検証し、ハッキリさせよう。これがオレンの実なのかどうかを。そしてオレンの実なのなら、私はきっと━━

 


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