ポケットモンスター 侵食される現代世界 作:キヨ@ハーメルン
ポケモンと人との共存まで後一歩。しかしその一歩が中々詰められずにいる日々が続いて……数日。
上手くいかない事に苛立ち、ストレスを感じ始めていた私は、気分転換にお絵かき配信をやってみる事にした。久々の、本当に久々の配信を。
「何だか、一年ぐらい配信してない気がする……」
流石にそれは気のせいだとは思う。思うが、ポケモンへの対応でこの手の自由な時間が作れなかったのも事実だ。ずっと書類仕事や根回し、広報活動に終われていたせいで絵を描いてる暇がなかったのだから。
「ん? あ、設定こっちか」
久しぶり過ぎて設定がうろ覚えになってしまっていたが……それでも何とか設定、準備して、ふと思う。どの子を描こうか? と。
「んー……」
現在関東にはカントー地方のポケモン達が殆んど出て来ている。まだ確認されてない子や、不確定な子も居るには居るが……いや、そうだな。そういう子達を描くか。
「となると……御三家か、それとも。三鳥は……目撃情報があるしね」
サンダー、ファイヤー、フリーザー。彼ら三鳥については不確定ながらも目撃情報がある。雷雲を飛ぶナニカが居た。雲海の上で燃えるナニカが居た。あられが降る中で飛ぶナニカが居た。……そういった恐らく彼らだろうと思える話が、数件ばかりだが私の耳に入っているのだ。
となれば描くのは影も形も見えない御三家か、あるいは……とはいえ、配信時間的に描けるのはどちらか片方のみだろう。転生特典なのかなんなのか、私はポケモンに関しては描くのが恐ろしく早いが、それでも両方は無理だ。ブランクもあるし。
「うーん……よし。そっちにしようか」
少しだけ悩んだ後、私はどの子を描くか決めてしまう。御三家は後日にして、今は彼らにしようと。
そうして設定も準備も終わらし、鳥でゲリラ配信を告知して…………小一時間。ようやくその時間がやって来た。
「はいどうも。不知火シロです。……ちゃんと写ってますか? 機材が全て変わっているので、勝手が分からないのですが……」
久しぶりの、最早懐かしさすら感じるお絵かき配信。その始まりはそんなありきたりな言葉で始まった。とはいえなんだか久しぶりですよね、と。
『キタ―――(゜∀゜)―――― !!』『配信! 配信! 久しぶりの配信!』『一年は無かった気がする……』『←半年も経ってねぇよ?』『半年どころか三ヶ月以下なんだよなぁ』『それでもご無沙汰には違いない』『万歳!』
そしてそれは彼らシロ民にとっても同じだったのだろう。立場も状況も何もかもが変わってしまったが、こんなゲリラ配信に来てしまう人達の思いはおおよそ同じだったようだ。
『シロちゃんカワユス』『ワカル』『ソレナ』
『シロちゃん様シロちゃん様ありがたやありがたや』『顔出し配信ありがたや』『今日も白髪がまぶしい……』『緋目の良さが分からぬとは……笑止』
『なんだか良いにおいしてくる。してこない?』『甘いな。実に甘い』『バレンタインより遥かにスゥィーティィィ!』『バレンタインは血が出る程には苦いもんな。分かるぜ』
だったようだ!
くっ、何が可愛い甘いにおいだ。中身は野郎なんだぞ変態どもめ……!
「あー、では始めていきますね」
『塩対応!』『時代遅れの犬の扱いなんてこんなものさ……』『とはいえこの塩対応も懐かしい……』『塩対応か。何もかも、皆、懐かしい』『死亡確認。ヨシ(現場猫)』『誤診ヤメロ』
このままでは収拾がつかない。そう察した私は早々にお絵かきを始める。以前と違う環境で、しかし以前と同じ様に。
「ん、機材が変わってるから……慣れませんね。こうかな? うん、合ってた」
スポンサー……というかなんというか。ユウカさんが資金と環境を提供してくれた結果、私のお絵かき環境はかなりの進歩を遂げていた。画用紙はペンタブへ、色鉛筆は専用のペンへ、配信機器はポンコツから最新鋭の物へ。……スポンサーに逆らえない権力者の皆様の気持ちが分かってしまったのは、うん。あまり考えないようにしよう。そうしよう。
「では描いていきますね。……当ててみても良いんですよ?」
気紛れに少しだけ挑発してみて、その後はするりくるりとペンを走らせ、考えるよりも感じるままに絵を描いていく。頭に思い浮かべるのはとある二匹のポケモンだ。方や自らの存在意義に思い悩む最強。方や気紛れで純粋な幻。
『シロちゃん、挑発……閃いた』『←処刑』
『んー、なんだろ?』
『この特徴的な丸みのある人型……ミュウツーと、ミュウじゃな?』『知っているのか? シロ民!』
流石というべきか。さもありなんというべきか。まだ書き始めたばかりだというのに、シロ民は私がどの子を描いているかを言い当ててきた。
初代最強のポケモン。図鑑ナンバー150。いでんしポケモン、ミュウツー。
初代幻のポケモン、図鑑ナンバー151。しんしゅポケモン、ミュウ。
赤、緑、青、ピカチュウ。それら第一世代における最強にして幻のポケモン。映画一作目の看板を飾ったポケモン。それが今日描くポケモンだ。
『ご存知、無いのですか?』『彼らこそカントー最強にして幻のポケモン。ミュウツーとミュウです』
『ミュウツー。けんきゅうの ために いでんしを どんどん くみかえていった けっか きょうぼうな ポケモンに なった』
『ミュウ。みなみアメリカに せいそくする ぜつめつしたはずの ポケモン。ちのうがたかく なんでも おぼえる』
『ほへー』『有能シロ民』『相変わらず設定が細かいな……』『なおフレーバーテキストにはバリエーションがある模様』『細か過ぎィ』
流石というべきなのだろうか? 最早私が説明するまでもなく、シロ民達は彼らの情報を子細承知していた。wikiにまとめた情報は暗記済みという事らしい。彼らもまたポケモントレーナーであり、知識においても私との差異が殆んどないエリートという訳だ。
「流石ですね。えぇ、今日描くのはミュウツーとミュウですよ。最強と、幻のポケモン。未だに未発見の彼らです」
彼らのコメントの幾つかに反応しつつ思うのはゲーム、そして映画の内容だ。
━━ゲームでは単なるエンドコンテンツとフレーバーテキストだったけど……
そう、ゲームでの彼らの扱いは実に雑だ。登場はシナリオクリア後で、やらなくてもいいエンドコンテンツの一つ扱い。これといったストーリーがある訳でも無く、背景や設定は幾つのフレーバーテキストから推測しなければならない程。
後年のパッケージを飾るストーリー付きの伝説達と比べれば、彼ら二匹の扱いは雑の一言だ。ミュウツーにゲーム内ストーリーは無く、ミュウに至っては思い付きで詰め込まれたという噂付きで、実際人によっては彼らの存在を知らずにゲームを終えてしまえるのだから!
━━まぁ、その分というか。映画は傑作だったなぁ……
映画『ミュウツーの逆襲』
主役でなければその後も出演しているが……彼ら二匹の活躍や存在を語るなら、あの映画が適切だろう。ポケモン映画の初代にして、その後数十年以上続く伝説の始まり。最初の一作。
その内容を一言で言ってしまうのは難しいが…………そうだな。私に言わせて貰えれば、生まれた是非を問う物語、だろうか? 自分は生まれて良かったのか? 生きていて良いのか? 何の為に苦しむのか? なぜここに居るのか? ━━そういう重たいテーマを扱った作品だと私は思う。所謂、本当の子供向け作品というやつだ。
とはいえ、どうにも私は昔からミュウツーの苦しみや憎しみに深く共感してしまって…………っと。
「ん、一先ずはこんなところですかね」
映画について思いをはせているうちに、身体の方が勝手に絵を仕上げてしまっていた。まだラフだけだが……ふむ、ブランクの割には中々上手く出来ているのではないだろうか? 描いた実感も何も無いが、そんな気がする。
『ラフ完成?』『相変わらず迷いのない一筆書きよ……』『技法は巧みなんだけど、迷いが無さすぎるから簡単な一筆書きに見えるバグ』『修正しろ』『修正してやる!』『スイカバー』『ぱ、パワーが違い過ぎる!』
うむうむ。反応も上々だな。流石は唯一の転生特典とでもいうべきか、多少のブランクでは腕は落ちないらしい。正直、助かった。ここのところは書類仕事ばかりだっからなぁ……うん、今や殆んど消し飛んでいる前世を思い出せそうな勢いだったぞ? あれは。
「さて、このまま駆け抜けてしまうか、それとも一旦置いてお話でもするか……今日はどちらが良いですかね?」
『お話が良き』『雑談しようず』『このまま描き上げられるのもおっかないからね。仕方ないね』『おっかないってきょうび聞かねぇな……』『今誘発されるとね?』
『シロちゃんにとってこの子達はどんな子なの?』『ミュウツーとミュウかぁ』『それ気になるな。どんなイメージなのか……』
ふむ? シロ民がそういうなら色塗りは後にして、私なりのミュウツー観でも語るとしよう。
そうだな、私からみたミュウツーとは……
「そうですね……ポケモンですね」
『ソヤナ』『い つ も の』『ワカル』『俺がポケモンだ』『お前もポケモンだ』『お前はポケモンではない』『お前をポケモンにする』『や め ろ』
「うーん。難しいんですよ。ポケモンはポケモンですし、特にミュウツーはなんというか、共感し過ぎてしまいますし……」
なぜ生まれたのか? なぜ苦しむのか? 自ら望んだ訳でもないのに━━なぜ私はここに居る? ……そんな事、私の方こそ言いたい。声を大にして、彼と一緒に、なぜ私は生まれたのだ! と。
まぁ、一度死んだ身として言わせて貰えれば、答えなんて死に際にすら無かったのだけど。
『共感?』『ミュウツーに共感……』『なぁ、確かミュウツーてさ……』『おいバカやめろ』『草が沼に沈んでいった』
「難しいですね。難しい。ミュウツーをなんと言えば良いのか、私には分からないです。あの子をどう見るかでその人の人間性や生まれが透けて見えますからね……」
『あ』『あっ』『あっ(察し)』
何やら察された様だが、はて? 何を察したのやら。
まぁ、ともかく。私にミュウツーを語れというのは少し難易度が高いな。これがミュウなら『お気楽で純粋な子ですよねぇ。いい子だとは思いますよ。いい子だとは。少し純粋過ぎる気もしますけどね』とでも言ってやれるし、映画版だとミュウツーよりもよっぽど攻撃的ですよね? とでも言ってやれるのだが……ミュウツーが抱える思いは重すぎる上に共感し過ぎてしまうのだ。前世は勿論、今世についても。
なぜ私は前世の記憶を持ったまま生まれたのか? なぜ私はポケモンの居ない苦しみを味わわなければならなかったのか? なぜ私は今なお生きているのか? 答えなんて無いだろうその問いが、どうしようもなくミュウツーの叫びに共鳴してしまう。なぜ私は生まれ、苦しみ、ここに居るのかと。……後、何だって性別が変わってるのかとかもそうかな? 違うか。もうあんまり気にしてないし。
「━━そうですね。一度会ってみたい……のかも知れません」
果たしてそれがゲーム版の様な狂暴なミュウツーなのか? 映画版の様な存在意義に悩むミュウツーなのか? それともそのどちらでもないのか。それは全く分からないが……どちらにせよ、会ってみたい。最強のポケモンに。問うてみたい。生きる事に意味はあるのかと。貴方はどう思う? と。
ミュウは、まぁ……そのうち出てくるだろう。ポケモン達が賑やかにしてれば、少なくともポケモン達の前にはそのうち姿を表すはずだ。例えギアナ高地に居たって同じだろう。あの子は……そういうところがあるからなぁ。
「━━さて、続きを仕上げてしまいましょうか。何だかそんな気分です」
『ん?』『シロちゃんがお絵かきを急ぐのは珍し……あ(察し)』『え?』『あぁ……なるほど』『あっ(察し)』『これはもうダメかも分からんね』『この絵を仕上げたい気分って……』『審判決定のお知らせ』『深読みし過ぎ。そう思えればどれだけ楽か……』『待て、慌てるな。これは孔明の罠だ』『風評被害』『いやいや、誰かが遺伝子弄くらなきゃ出てこれないだろ……出てこれないよね?』『手遅れじゃないかなぁ(世界の暗部を見つつ)』『銀の鍵はここにある』
「?」
コメント欄の謎の納得にクエスチョンマークを浮かべつつ、私はくるりするりとペンを走らせる。今はミュウツーとミュウの絵を完成させて、もっと彼らを知って貰いたい。そんな気分になりながら━━
シロちゃん「一年ぐらい配信してない気がする……」
→ただの事実(前回の配信回はリアルで一年近く前)
一周年記念━━だいぶ過ぎてから気づいたけど━━おめでとう。作者(自分で自分を祝い、記念に商業用の自作を自分で買う虚しい作者の図)