ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第32話 旅の終わりが始まった

 遂にこの日がやってきた。私がずっと、ずっと待ち望んでいた日。この世に生まれてから……いや、前世から待ち望み続けた日だ。私が、私と志を同じくする者全員が夢見た日が、今日、ようやくやってきた。

 

 そう、ポケモンリーグ開催の日が。

 

 ミュウが空を飛んだあの日から……二週間。本当に頑張った。今まで模頑張ってきたが、それ以上に頑張った。

 終わってみればやれば出来るの一言だが、ここに来るまでどれ程の苦労と苦難があったか。とてもではないが語り尽くせない。

 

「やっと、ここまで……」

 

 貸し切り状態にされた──世界大会にも耐えうるレベルの──大型ドーム。その最上層の一角から、私はポチと共にドームの様子を見下ろす。

 眼下には無数の人々が席を埋めつくし、開催の瞬間を今か今かと待ち望んでいる。その脇や腰にポケモンやモンスターボールが見えるのは、私達が今日まで頑張ってきた証だ。

 報道席には国内のオールドメディアだけでなく、海外からも人が入って……というか、海外から来たメディア関係者の熱量の方が凄いくらいだ。ジャパンはクレイジーだぜとかなんとか言っていたらしいが……クレイジーの一言で片付けられない存在を、彼らは見る事になるだろう。

 VIP向けの席を見てみれば、なんとなく知っている顔触れがチラホラと見受けられた。流石に呼べなかった立場の人も居るが、他国の外務関係の人間や、各界の著名人や大臣クラスの人間が見られるのは、このリーグがいかに重要で巨大化したかの証明に他ならない。

 

 ──私は、ここまで来た。

 

 ポケモンを世界に認めて貰う。その終着点であるポケモンリーグ。その開催には問題が山積みだった。

 何せポケモンリーグは終着点。旅の終わりなのだ。『赤』と『緑』からの伝統。主人公は旅をして、その終わりにポケモンリーグに挑み、殿堂入りして、エンディングを迎える……当然、その開催時には全ての問題──悪の組織とか伝説のポケモンの目覚めとかだ──をクリアして。……しかし、残念な事に、非常に残念な事に! 私のポケモンリーグは妥協せざるを得なかった。

 

「ミュウが飛んじゃったからね……」

 

 ホントはミュウやミュウツーが出る前に片付けたかったのだが、殿堂入り後に現れる彼らが来てしまったのであれば仕方なかった。ましてや頭上を飛ばれては、急かされてる気分にもなる。ポケモンリーグまだですか、と。

 私は頑張った。物凄く頑張った。けれど、足りなかった。まるで、全く。勤勉さが足りず、怠惰だった。努力を怠り、無能だった。その結果がこれだ。ミュウは失望したに違いない。これが“サトシ”や“レッド”なら、ミュウは満足してくれただろうに。私のせいで。

 

 ──おかげで、反発は強いまま……

 

 爆破予告に殺害予告は当たり前で、脅迫電話に至っては殆んど毎時間掛かってきてる。しかもポケモンリーグを強行すると発表してからは三倍以上になった。ポケモンリーグの会場を爆破する。ポケモン関連の施設を爆破する。私を殺す。ポケモンを殺す。止めなければ恐ろしい事になる。お前は人でなしだ……正直、鬱陶しい。イライラする。モンスターボールを握ってないと落ち着けない。年頃の女の子なら震え上がっただろうが、私はそうではないのだ。止まる訳がない。止まれない。

 まぁ、一度郵便物に偽装された爆弾が送りつけられたときは流石に驚いたが。とはいえ、それも玄関口でシロ民がアフロパーマになるだけで済んだので大した被害にはなってない。

 

 ──マルマインの“だいばくはつ”に耐えるシロ民が、爆弾なんかで死ぬはずもないんだよなぁ。うん。

 

 下手な爆弾より強力な“わざ”をその身に浴びながら、日々研鑽を積むシロ民達からしてみれば、今更小型爆弾を送り付けられてもネズミ花火以上には見えないだろう。

 当人達も笑ってたし、それからはより一層修行に励んでいたから間違いない。かめはめ波! とか、アバンストラッシュ! とか、波動拳! とか聞こえてきたのには笑ったが。しかし、何か光ったり大きな音ががしたりした事もあったのが……あれはなんだったのだろうか? ポケモンの“わざ”の練習だったのかな? 

 

 閑話休題。

 

 それら嫌がらせとしか思えない妨害の数々だが、解せないのは組織的な気配を感じる物があった事だ。個人が突発的にやったのも無数にあったし、どうせそれらは私が子供だから殴りやすいと思った連中……既にユウカさん主導で法的処置に入っているから気にしなくていい。

 だが、組織的な妨害は……謎だ。しかも一つ二つではなく、複数の集団から攻撃を受けていると思われるらしい。ユウカさんやシロ民達は詳しく教えてくれないのだが、どうにも国家クラスのバックが居る様だとも。

 

「悲しいなぁ……ね。ポチ」

「グラァ?」

 

 悲しい。私は悲しい。そんなに沢山の人達がポケモンを認めてくれないのが。

 勿論、そんな人達よりもずっと多くの人がポケモンと歩む事を選んでくれたいるし、その事は純粋に嬉しい。眼下に居る人達の様に、新たなポケモントレーナーが数多く生まれているのは喜ばしい事だ。

 しかし……あれだけ広報して、キャンペーンを打って、空気感を演出して、説明して、根回しして、頭を下げて回ったのに。

 

 まだポケモンを認めてくれない人が居るなんて。

 

 ポケモンの何が悪いんだ。可愛くて、強くて、暖かい。私と、私達と共に居るパートナー。それがポケモンだ。ポケモンなんだ。パートナーを拒絶する必要が、どこにあるというのか? 

 恐ろしい? 怖い? 怪我人だっている? それは無知だからだ。ポケモンの事を良く知っていればそんな事にはならない。大抵の子が人懐っこい子だと分かるし、気性の荒い子だって近づかなければいいだけだ。その為の情報は煩いぐらいに出してる。それでこちらのせいにされても……困惑するしかない。

 

 ──煩いといえば、スポンサーも最近煩いんだよね。

 

 スポンサー……つまりは各大企業からは利権や利益をもっともっととせっつかれており、それらを無視してのポケモンリーグ開催に不満感があるようだった。政界からも早すぎると言われているし、若干四面楚歌と化している。

 幸いなのは民衆は味方してくれるだろうという事ぐらい……

 あぁ、私には分からない。なぜそんなに利権や利益を欲しがるのだろう? ゆっくりやりたがるのだろう? 利権や利益は充分に上げただろう? もう充分ゆっくりやっただろう? ポケモン利権の八割はあちらに譲ったんだぞ? 私やシロ民、ポケモンリーグが得れた利益はそのおこぼれでしかない! だいたいポケモンが出てから何ヵ月経ったと思ってるんだ? にも関わらず更に利益を寄越せ? ポケモンリーグはまだ早い? ……いい加減、協力して貰っているという感覚より、足を引っ張られている感覚の方が強くなってきたのが本音だ。

 

「もう、邪魔はさせない」

「……グラァ」

 

 腰のモンスターボールをぎゅっと握りこんで、そう呟く。

 準備は出来てない。終わってない事も多い。アニメやゲームの登場人物や、その代わりだって見つからない。けれど、もう我慢出来ない。私は止まれない。“ランニングシューズ”や“じてんしゃ”で、走り出したくてたまらないんだ。私は。

 

 ──妨害は、ある。間違いなく。

 

 妨害。あるいは攻撃が行われる可能性は高い。

 例えば、デモだ。今も会場近くで大規模なデモが起こっており、警察の人員は殆んどそちらに割かれているのが現状。正直、警備の手は手薄で……襲撃の前準備としては、上等過ぎる物だ。

 デモ隊の言い分? ポケモンは危険だから、排除するべきなんだとさ。……ニホンオオカミを皆殺しにした頃から何も進歩してない辺り、あれらが本当に人間なのか怪しい物だ。人間は考える葦だと言うのなら、考える事を放棄した人間は何なのだろうか? 私には、タンパク質の塊以上には見えない。

 

 ──それが道をふさいでいるなら、カビゴンではなく、ただの肉の塊であるなら、私は。

 

 私はここまで来た。完璧ではないかも知れない。全ての人が受け入れてはくれないだろう。しかし、あと少しで、夢が叶うのだ。

 止まる必要が、無い。止まってはいけない。

 

『ついにこの日が来てしまったか』『あぁ、始めてのポケモンリーグ開催だ』『ポケモンリーグキター!』『ポケモンリーグキター』『ポケモンリーグキター』『わこつ』『今北産業』『←まだ何も始まってないのでセーフ』『何も始まってない扱いされるお偉いさんよ……』『TSして美少女になって? どうぞ』

 

 傍らに置いてあるノートパソコン。その画面に映っているのは、ポケモンリーグの公式配信だ。本当は私も配信しようとしたのだが……私にも仕事が回ってきたので断念。結果、公式配信はこれ一つに絞られていて、配信画面はかなりの賑わいを見せている。定期的に弾幕が形成される程だ。その光景を見ると頬がゆるむ気がする。悪い事ばかりではなく、楽しんでくれる人は楽しんでくれているのだと。

 そう、彼らもポケモンリーグ開催を望んでいる。旅の終わりを。旅の終わりの始まりを。

 あぁ、私は、私達は、旅路を終えるのだ。

 

『お、やっと終わったか』『校長先生のお話長いってそれ一』『喋ってたの大臣なんですがそれは』『美少女の話なら長くても聞いてた』『お前ノンケかよ!?』『TS美少女も可』『それはホモでは』『なんだぁ、テメェ……?』『なんだぁ、テメェ……?』『なんだぁ、テメェ……?』

 

 ふむ、いつの間にかお偉いさん方の各種挨拶が終わった様だ。本当は私も挨拶する予定だったのだが、断らせて貰った。この身体は子供だし、格式張った挨拶では格好がつかないからね。

 それに、ポケモントレーナーにはポケモントレーナーなりの挨拶の仕方がある。

 

『キタキタキタキタキタァ!』『アイドルコンビのエントリーだ!』『アイドルコンビのアンブッシュにより、会場のボルテージはうなぎ登り!』『実際アイドルコンビのパフォーマンスは素晴らしい』『ワザマエ!』『おぉブッタよ、寝てるならさっさと起きろ』『エレクトリック!』

 

 お偉いさんの挨拶が終わり、司会進行によってデモンストレーションが開始された。これが終わればそのままの流れでポケモンリーグ開始となるので……ある種の大取に当たる。

 その最初を努めるのは、カオリとサキのアイドルコンビ。そのポケモンコンテスト風パフォーマンスだ。

 

 ──けど、いつ見ても凄いな……

 

 練習なら何度も見てきたし、リハーサルも見た。“わざ”の指導をしたこともある。しかし、それでも素晴らしいと言うしかない光景だ。

 チラリと会場に視線をやれば、皆が皆目を奪われている。……当たり前か。ポケモンコンテストなのだ。これは。

 さて、演目はまだ続いているが……残念ながら私はここまでだ。この後のデモンストレーションの担当は、私だからな。そろそろ準備しないといけない。

 

「行こ、ポチ」

「グラァ」

 

 うん。ポチもやる気充分な様子。コンディションは万全だ。

 さぁ、旅の終わり、ポケモンリーグの始まりを……始めよう。

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