ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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「駄目です。師匠。やはり会場までのルートは全て交通麻痺を起こしている様で……」
「ふむ? なるほど、お前達の予測より敵が早く動いたという事か」
「申し訳ありません」
「誰にでも失敗はある。ワシとて想定を甘く見積もってしまった事はあるのだ。大事なのは、この後どうするか、ではないか?」
「……おっしゃる通りで」
「ふむ、しかし交通麻痺とはな。連れてきた弟子共は歩かせるにしても…………ふむ」
「どうしました? 空を見上げて……何か?」
「…………いや、何。ポケモンとは凄まじく、なれば大国が動くのも道理だと思っただけだ。──さて、犬兵よ。飛ぶか」
「はい。……はい?」


第34話 VS現代兵器

 

MISSION

 

「ポケモンリーグ会場防衛作戦」

 

 武装勢力が日本政府、及びポケモンリーグとそれに同調する者達宛にテロ声明を発表した。

 

 声明発表に前後して行われた撹乱工作により、日本政府関連の戦力が大きなダメージを受けている。

 現在、日本国内には武装勢力に同調する勢力も現れている。リーグ会場付近は武装勢力と同調勢力によって制圧され、我々はリーグ会場内へ追い込まれつつある。

 

 そう、各員が協力して開催したポケモンリーグ会場が武装勢力に占領されつつあるのだ。

 ポケモンリーグはポケモンとの和平の象徴であると共に、地球におけるエネルギー問題の解決にも大きく貢献し得るものでもある。

 これを手中に収める者は地球全体への影響力を持つことになる。我々はこのような目論見を見過ごすことはできない。

 

 会場に居るポケモンリーグに所属する各ポケモントレーナーは、ポケモンリーグ会場防衛部隊の戦闘序列に入り、先遣隊として戦闘を開始する。

 第一に、東京湾を北東へ進軍するヘリ部隊を迎撃。味方地上部隊反撃への妨げを排除する。

 

 敵は重武装の攻撃ヘリ複数を部隊に配備し警戒している。これを破壊せよ。

 

 今の所、脅威度は低いと考えられる。

 しかし、こちらの攻撃により敵も攻撃部隊を増援することを予想しなくてはならない。

 その場合、速やかにそれを撃破し優勢を確立せよ。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 ポケモンリーグ開会式場の襲撃。その火ぶたを切ったのは正体不明の武装勢力のヘリ部隊だった。

 洋の東西かまわず集められた軍用ヘリは武装勢力側の本気度の現れであり……歩兵の火器が駄目でも攻撃ヘリの持つ火力ならばどうだ? と。そんな大国の思惑が透けて見えるようでもあった。

 

「迎撃用意! 全部叩き落とすぞ!」

「チクショウ、まるでベトナム兵になった気分だ……!」

「なら勝つのは俺らだな!」

 

 迎え撃つのは、つい一年前は完全な民間人だったシロ民達。一見すれば民兵以下にも思える彼ら──実際その練度は民兵に毛が生えた程度でしかない──だが、彼らはただのニンゲンでは無かった。

 ポケモン化現象の真っ只中を駆け抜けた彼らは、今やスーパーマサラ人として覚醒しているのだ。今までの旧人類とは一線を画す、新人類へと。まるで夢物語の主人公の様な、スーパーマンなのだ。彼らは。

 

「まだだ、まだ遠い……! 連中がこっちを狙う為に止まるまで待つんだ……!」

「撃ち落とすんだよな、アレを」

「そうだ! だが殺すなよ。上手い具合にローターやコックピットのガラスだけを破壊するんだ」

「無茶言いやがる……!」

 

 手持ちのポケモンと視線の高さを合わせつつ身を潜め、彼らは一様に軍用ヘリの群れを睨み付ける。その姿に迷いは無く、士気は極めて高かった。一見すれば勝ち目が見えないというのに。

 ……彼らだって、分かっている。この襲撃の裏にあるのは大国の思惑だという事は。日本が利益を独り占めしている──真実はどうであれ、少なくとも外からはそう視える──状況への警告であり、本当に現代兵器ではポケモンに勝てないのか? そんな疑問からくる実験である事は百も承知だった。

 だからこそ、だからこそ負けられない。ここで失点すれば各国はここぞとばかりにつけ込んでくるだろう。スポンサーも黙ってはくれまい。せっかく順調なポケモン化の動きも鈍ってしまう。せっかく立ち上げたポケモンリーグも、潰されてしまうかも知れない。……何が何でも負ける訳にはいかなかった。破壊工作の欠片すら、許されはしないのだ。

 

 ──スーパーマサラ人と軍用ヘリ。どちらが強いのか……?

 

 誰もが疑問に思いつつ、しかし答えの出なかった問い。その答えが今まさに明らかになろうとしていた。遂にヘリ部隊が海を越え、会場を射程に収めると同時に行き足を止めてホバリングしたのだ。

 攻撃ヘリ達が辺りを見回す中、歩兵を降ろす為に──ロープで降りる訓練はされていないらしい──汎用ヘリの群れが地面に着地しようと慎重に降下していく。十メートル。五メートル。三メートル……

 

「今だ! 撃て! 撃ちまくれ!」

「ブラックホーク、ダウンだ!」

 

 ここがチャンスだ! そう言わんばかりに屋上や物陰に隠れていたシロ民とポケモンが一斉に攻撃を開始する。

 半ば以上にヘリから降り終わっていた武装勢力側の兵員が慌てて散開する中、“タネマシンガン”や“れいとうビーム”が汎用ヘリのローターに直撃。汎用ヘリの群れはその全てが破壊され、二度と飛び上がれなくなり……攻撃ヘリに関してもコックピットのガラスにヒビが入る。視界が塞がった中での攻撃には躊躇いがあったのか、攻撃されたというのに攻撃ヘリの特徴的な四銃身ガトリング式重機関砲は火を吹く事はなく……そして。

 

「ちわーす。シロ民です」

「──!?」

「すまねぇ、ロシア語はサッパリだ」

 

 英語かも知らんが、そっちも分からん、と。そんな事を言いながら攻撃ヘリの中へ突然現れるシロ民が一人。

 いや、突然ではない。彼の傍らには窮屈そうにしているオニドリル……そう、彼らは今まさに飛んで乗り移って来たのだ! しかし、そんな事が分かるはずもないヘリパイロットからすればホラーだ。タチの悪いホラーでしかない。何で外国人が日本でテロリストやってるんだ? と首を傾げるシロ民の意味不明な余裕さも相まって、状況はZ級ホラー映画の様相をていしている。

 

「──!」

 

 たぶんクソ野郎、とか。そんなスラングを吐きながら、ヘリパイロットが懐から拳銃を抜き放ってシロ民に突き付けようとしてくる。……どうやらヘリパイロットは素人では無いらしい。

 それを察しながら、シロ民はスローモーになった視界の中でゆるりと身体を動かし、拳銃を突き付けられる前にその手首を締め上げる。瞬間、発砲音。そして跳弾音が響く中、シロ民はヘリパイロットの手首を締め上げたまま構え──そして。

 

「“メガトンパンチ”!」

 

 徹頭徹尾、雇われだろうヘリパイロットには訳が分からなかったに違いない。ノーマルタイプの“わざ”である“メガトンパンチ”をモロに受けたヘリパイロットは一撃で意識を刈り取られ、コックピットで白目をむいて伸びてしまう。

 必然、ヘリを操縦する者が居なくなった訳で……突然、ヘリがバランスを崩す。

 

「ヤベェ……ッ! オニドリル!」

 

 パイロットが気絶すれば、そりゃ落ちるよな! と、そんな事を内心で叫びながら、シロ民は気絶させたパイロットを小脇に抱えつつ慌ててヘリから脱出する。

 なんの躊躇いも無く空中へと飛び出し、先んじて出ていたオニドリルの背にそのまま飛び乗る。見れば、同じくやらかしたらしい同胞が、同じ様にパイロットを小脇に抱えてピジョンに乗っていた。

 

 ──お前もか……

 

 瞬間、やらかした二人の視線が交差し……しかし、それは長続きしなかった。

 爆発音が響いたのだ。墜落したヘリの爆炎とはまた別の物が、立て続けに。

 

「なんだ!? しくじったのか……!?」

 

 見れば、攻撃ヘリの一機がロケット弾を斉射していた。ロケットポットから次々と噴射炎を上げて放たられるそれらは地上のシロ民へと向けられており、あちこちで爆炎が上がる。

 汎用ヘリから降りた武装勢力側の兵員からの射撃に対応していた地上のシロ民達は……全く逃げれていない。次々とロケット弾の直撃を受けて吹っ飛ばされてしまっていた。

 

「何をやってるんだ! バカ野郎!」

 

 幾らスーパーマサラ人化したとはいえ、あんな物を撃たれては無傷ではいられない! そんな事を頭の隅で憤りつつ、オニドリルのトレーナーはピジョンのトレーナーと示し合わせて、残り一機の攻撃ヘリを落としにかかる。

 どうにもやらかした二人が乗り込んだヘリと違って、件の攻撃ヘリは兵員を乗せていたらしい。中で乱闘になっている様だ。ヘリパイロットはそれに気づいて、撃てるうちに撃ち尽くしてしまう事にした様子……今や機関砲すらもデタラメにバラまいていた。

 

「オニドリル! ……突っ込め! 飛び乗る!」

「クルルゥ!」

 

 気絶させたヘリパイロットをオニドリルに任せながら、オニドリルのトレーナーは一瞬“ドリルくちばし”か“つばさでうつ”を指示しようとして……止めた。ポケモンに人殺しをさせる訳にはいかないのだ。ここは素手で制圧しなければならない。

 

「ぬぉぉぉ!」

 

 先んじて突っ込んでいたトレーナーが破壊したらしい攻撃ヘリの兵員用ドア。オニドリルのトレーナーは相棒と共にそこ目掛けて突っ込み……すれ違いざまにオニドリルの背を蹴って勢いよく飛び込む。

 反対側から飛び乗ってきたピジョンのトレーナーとぶつかりそうになりながらも、なんとか飛び移る事に成功したオニドリルのトレーナー。彼は同志であるピジョンのトレーナーと一瞬だけ視線を交わし、直ぐにヘリ内部の鎮圧に取り掛かる。

 

「助けに来てやったぞ? 後で飯を奢れよ……“メガトンパンチ”!」

「恩着せがま……えぇい、“マッハパンチ”! “からてチョップ”!」

「“みきり”……からの“はどうだん”!」

 

 シロ民二人が新たにエントリーしたヘリ内部は完全な乱闘会場と化す。……が、状況は完全にシロ民優位に進んでいた。誤射を恐れてか拳銃すら撃てず、拳と拳で殴り合うしかない状況でスーパーマサラ人化した人間にただの人間が勝てるはずもない。武装勢力側は数に任せて押し潰す事も出来ず、またたく間にヘリ内部は制圧出来てしまった。

 当然、やけくそ気味に機関砲を掃射していたいたパイロットも即座に気絶させられる。秒殺であった。

 

「ヨシ!」

「何がヨシだバカ野郎ォォォ!」

「逃げるんだよぉぉぉ!」

 

 操縦者を失って落ちていくヘリから、罵声混じりに脱出し……相棒たる鳥ポケモンへと飛び乗るシロ民一同。

 各々気絶させた武装勢力の人間を抱えたり蹴落とした後に回収しているのは何も慈悲によるものではなく、戦後を見据えた利益重点の行動だが……ともかく、彼らは死者の一人も出さずにヘリ部隊を壊滅させた。完膚なきまでに。

 

「……で、どうする?」

「俺に聞くなよ……取り敢えずコイツらを適当なところに降ろして、地上支援じゃないのか? 知らんが」

「ヨシ。早いとこ降ろそう。流石に5人も運べん」

「だな……」

 

 ……実験は決した。軍用ヘリといえど、ポケモンとスーパーマサラ人には勝てないのだ。不意をついたとはいえ、ポケモンとスーパーマサラ人が既存人類とは訳が違う生き物であると確信するには充分な結果だろう。

 せめて乗組員が全てプロならば……いや、そうでなくてもポケモン由来のナニカで機体を強化するなりコーティングするなりしていれば違っただろう。だが実際には完全な既存兵器、まして運用者もプロでないとなれば、こうなるのは必然的だったと言える。

 

「アイツらやりやがった……!」

「負けられないな!」

「行くぞ! 押し返せ! 海に突き落としてやれ!」

 

 攻撃ヘリが全機落とされた事で士気が落ちたのか、武装勢力側の旗色は悪くなっていた。地上でもシロ民──攻撃ヘリに掃射されたというのに、死者は出ていない様子──が優勢を取り戻しており……完全勝利は目の前だ。

 しかし…………事は終わらない。シロ民は所詮民兵でしかなく、ポケモンにも出来ない事はあるのだから。

 

『至急! 至急! コンテナ船を誰か止めろ! 奴らカミカゼアタックする気だぞ!』

 

 無線で飛び込んで来たのは、コンテナ船の動きだった。なんとコンテナ船が加速し、止まる気配もなく突っ込んで来ているというのだ。誰がどう見ても、体当たりする気にしか見えない。

 実のところコンテナ船というのは、あの巨体で案外スピードが出せる代物だ。湾内でこそゆっくり走るが……大洋では二十四ノット、つまり時速四十キロは出せる足の速い存在である。

 それが一切ブレーキを掛けずに突っ込んで来るのだ。止める暇は……残念ながら無かった。

 

「ギャロップ、“かえんほうしゃ”だ!」

「パルシェン、“れいとうビーム”! 海面を狙うんだ!」

「ウツボット、“ソーラービーム”! 焼き尽くせぇ!」

 

 状況に対応出来たのは歴戦のシロ民、その一部だけ。しかし彼らはとっておきの射撃系必殺技を放ち、コンテナ船の行き足を止めようとする。だが……効果はいまひとつのようだった。装甲でも追加したのか? それともポケモン由来のコーティングがされているのか? 暴走するコンテナ船はポケモン達の“わざ”を物ともせず、その速度も保ち続け──そして、勢いよくコンクリートの岸壁へと衝突する。

 瞬間、地響きが走った。コンテナ船はその艦首をひしゃげさせながらコンクリートを叩き割り、それでも殺し切れない慣性でドリフトして腹と尻も岸壁へと叩き付けてくる。

 デカくて重いのがスピードをつけて体当たりすれば、だいたいの物は壊れる。そんな当たり前の事を、シロ民は肌で感じ取っていた。

 

「無茶苦茶しやがる……!?」

「クソッタレめ……状況は?」

「スーパーマサラ人が怪我なんぞするか! むしろ奴さんの方がミンチだぞ、あんなん」

 

 一先ずお互いの無事を確認したシロ民達は、続けて辺りの状況を確認しにかかる。岸壁は……その見た目には大した事は無かった様にも思えた。ただ単にコンテナ船が横付けしている様にも見えたのだ。一瞬だけ。

 そう、一瞬だけだ。当然そんな事はなかった。コンクリートは叩き割られ、あちこちにヒビが入っており……何より、巨大なコンテナ船から無数のコンテナがこぼれ落ちて散乱しているのだ。それは子供が積み木で遊んだ後の様で……しかし、散乱しているのは鉄の塊。アレに押し潰されれば、幾らかスーパーマサラ人といえど無傷ではいられなかっただろう。現場のシロ民は思わず安堵し、無茶苦茶やりやがる武装勢力の正気を疑った。

 あれでは船の中身もヒドイ事になっているだろうに、と。だが、その予測は……容易く裏切られる。

 

「? なんだ?」

「おい、コンテナが……浮いてるぞ」

 

 岸壁から退避した事で空いた空白地帯。そこにゆっくりといくつかの巨大なコンテナが降ろされていったのだ。

 クレーンも使わず、独りでに浮遊しながら。一つ、また一つと。

 

「“ねんりき”……いや、“サイコキネシス”か?」

 

 誰かが呟く。あれは超能力で動かしているのではないか? と。

 正気を疑う発言。しかし、発言者は誰よりも正気だった。事実、それは正しいのだから。

 しかし、タネと仕掛けが分かったところでどうしようもない。操り手の姿が見えないのだ。そして……コンテナの扉を内側から叩き開け、ソレが現れる。

 

「戦車、だと……!?」

「T-34-85……? ロシア、いや、中東から持ってきたのか!」

「ソ連製のが殆ど……いや、アメリカ製もあるな。まぁ、中東からで間違いないだろ。物凄く砂っぽいし」

「厄介な……!」

 

 巨大コンテナから現れたのは、何両もの戦車達。どこから持ってきたのか分かりそうな骨董品レベルの主力戦車達が……しかし、歩兵相手には過剰ともいえる紛れもない戦車部隊が、次々とシロ民達に対峙する。

 状況は、更なる混迷をみせていた……




 余談。
 サトシやタケシの“こうそくいどう”は有名だが、ムサシも“みだれひっかき”や“メガトンキック”でハブネークをボコボコにした後、ゲットしていたりする。また初代ゲーム内でも“メガトンキック”と“メガトンパンチ”は格闘家から教えて貰う“教えわざ”であった。
 結論、スーパーマサラ人(それに匹敵する者)なら、ポケモンの“わざ”も使えるし、ポケモンすらボコボコに出来る。それをスーパーマサラ人でもないものに向ければ……残当。
 ロケット弾や機関砲による攻撃? (アニメ版を見つつ)言うまでもない……
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