ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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「……よろしいのですか?」
「何がだ?」
「ポケモンリーグの事です。ご友人の娘さんが中心人物の一人なのでしょう? それに日本も、同盟国です。幾ら政府の要請とは言え……」
「ふん。この程度で潰れる様な女か? あれが? バカバカしい。それに同盟国だからといって仲良しこよししなくちゃいけないなんて決まりはない。──とはいえ、このまま風見鶏に徹するのもあまり美味しくはないからな……」
「艦長。ポケモンリーグ会場に接近する妙な飛行物体をレーダーが捉えました」
「妙、とは? 詳細に報告しろ」
「時速百キロ近いスピードが出ているにも関わらず、反応が極めて小さいのです。これは……普通ではありません」
「…………ここまでだな」
「は?」
「救援部隊を出せ。幕引きだ」
「イエッサー!」


第35話 SATUMA無双

 からくも……というよりは余裕綽々とヘリ部隊を撃破し、残敵掃討に入り始めたシロ民達の前に現れた敵の増援部隊。骨董品寸前の旧式とはいえ、複数の主力戦車を前にシロ民達の間に緊張が走る。

 勿論、彼らは自分達の勝利を疑ってはいない。しかし、未知数なのも事実だった。誰も戦車と殴り合った事などないのだから。

 

 ──スーパーマサラ人とポケモンは、戦車に勝てるのか?

 

 ポケモンなら戦車に……勝てるだろう。一度も戦った事は無いし、破壊した事もない。だが計算上は勝てるはずだった。

 しかし、トレーナーの方はどうだ? スーパーマサラ人といえど人間には変わりない。あちらがご丁寧にポケモンバトルに付き合ってくれる訳が無い以上、トレーナーに直接ダイレクトアタックされる可能性は高いのだ。戦車砲弾の直撃を受けて生存出来るのだろうか? 何もかもが、未知数だった。

 ……そして、その答えが今、明らかになる。

 

「っ! 来るぞ、散開!」

 

 ググッと。自分達へと砲口を向けた戦車に対し、誰かが叫ぶ。備えろと。

 それに対しシロ民達は言われるまでもないと各々行動を取る。ある者は相棒たるポケモンと共に物陰に退避し、ある者は防御系の“わざ”を指示して待ち構え、ある者は撃ち落とさんと攻撃系の“わざ”を指示せんと意気込む。取った行動はバラバラなれど、思考停止してしまう者は一人もおらず。その有り様はエリートポケモントレーナーを名乗るに相応しい機敏さだった。

 

 そして──砲音が轟く。

 

 放たられた砲弾は一発。様子見の一発。

 しかし、状況が動くにはそれで充分だった。放たれた砲弾は真っ直ぐにシロ民達へ……その先頭に立っていたイワークとそのトレーナーの元へと向かう。

 衝撃。凄まじい金属音が響き、明後日の方向へと砲弾が弾かれる。砲弾を容易く弾いたのは……イワークの“まもる”だ。いったいどういう原理なのかは未だ不明だが、“まもる”の障壁は“はかいこうせん”すら弾く。戦車砲弾とて貫通出来るはずもなかった。

 しかし、そんな事はお構いなしに次々と砲音が響く。一発で駄目なら十発撃ち込んでやると言わんばかりに。事実、“まもる”の障壁は既に消滅しており、連続で使うと不発してしまいやすいという“わざ”の特性上連発も難しい。その行動は正しかった……これがポケモンバトルで、かつシングルバトルなら。

 

「パルシェン、“まもる”だ!」

「イワーク、“かたくなる”!」

 

 武装勢力側に取っては残念な事に、これはポケモンバトルではなくシングルバトルでもない。イワークが“まもる”を使えなくても、他のポケモンがそれをカバーする事が出来るのだ。そしてその間に防御能力を上げる事も。

 故に、放たれた砲弾がかん高い音を立てて弾かれる。当たり前の様に。

 

「サンドパン、“まもる”! 前に出るぞ!」

「パルシェン、“かたくなる”」

 

 咄嗟にローテーションを組んで“わざ”を回し、隊列を整えるシロ民。その動きは実際、機敏。流石はエリートポケモントレーナーといったところか。

 戦いは一見するとシロ民優位……に思える。だが、かといって、シロ民から攻める事もなかった。砲弾に耐えられているのはポケモンだからなのか、“ぼうぎょ”の高いポケモンだからなのか、分からないからだ。もし後者ならば、迂闊な真似は出来ない……そんな思考が総員突撃を思い留まらせていた。

 そう、彼らは迂闊に動けない。イワークを筆頭としたポケモン達の影から出られない。万が一“ぼうぎょ”が高いから耐えているのだとしたら……そう考えると動けない。

 かといって指をくわえて見ているだけでもなかった。手すきの者も各々物陰から射撃系の“わざ”を繰り出しているのだ。……とはいえ、これも戦車を撃破出来ない。……いや、正確には戦車まで届いていないのだ。何者かが“ひかりのかべ”を展開しているせいで。恐らくコンテナを“サイコキネシス”で動かした者と同一存在だろう。かなりレベルの高いエスパー使いの様だ。

 しかし、だからといって、このまま千日手を繰り返す訳にはいかない。そんな考えからイワークと同じ“いわ”タイプのサイドンを持つトレーナーが単身前進を試みようとして──瞬間、ナニカが空から降って来る。

 

「親方! 空から……老人が!」

「5秒で……いや、は?」

 

 視力に長けた者が落ちてくる老人を目撃した次の瞬間。ネタにネタを返す暇もなく、老人は地面へと着地する。まるで、この程度なんでもないかの様に。シロ民と戦車部隊、その中間地点へと。

 いったいなんだって老人が空から降って来るのか? その場に居る誰もが困惑から手を止めてしまう。なぜ、なぜ、なぜ……そんな思考の渦からいち早く脱却したシロ民がハッと気づく。いや、それよりも、と。

 

「爺さん危ねえ!」

 

 どこのボケ老人か知らないが、そんなところに居ては危ない。撃ち殺されるるぞと、シロ民は叫ぶ。逃げろと。──老人がどこから来たのかも忘れて。

 そして、続いて困惑から立ち直ったらしい戦車の一台が躊躇なく砲弾を放つ。どうせ敵に違いないとばかりに。……それは、正しかった。

 

「──“かまいたち”」

 

 ポツリ、と。そう呟かれると同時、一迅の風が吹き、次いで砲弾が爆発する。唐突に。

 何が起きたというのか? 誰にも分からなかった……否。優れた動体視力を持つシロ民は目撃していた。インシデントはコンマ5秒前。老人が振り抜いた刀、そこから放たれた風が砲弾を切り裂くのを!

 そして、彼は気づく。老人の顔に見覚えがあるのを。そう、確かあれは……!

 

「アイエ、アイエェェェ!? SATUMA人!? SATUMA人ナンデ!?」

「どうしたシロ民! 知っているのか!?」

 

 ナムアミダブツ! 空から降ってきた老人はSATUMA人だ!

 状況を把握出来ていないシロ民が何事かと問うが、SATUMAショックで東軍の兵士めいて脳のニューロンを一時的に破壊されたシロ民には答える余裕がない。

 そうこうしているうちに戦車が動く。アイサツも無しに……あるいはこれがアイサツとでもいうつもりか? 老人目掛けて砲弾を放つ。だが……!

 

「“かまいたち”……!」

 

 ワザマエ! 再び風が吹き、砲弾が爆発する!

 間違いない。老人はポケモンの“わざ”である“かまいたち”を使って砲弾を両断しているのだ。

 もしここに白い少女がいたら“かまいたち”の能力を詳細に語り、いかに凄まじいかを語ってくれただろう。一つ言うならば、“かまいたち”は別段強い“わざ”ではなく、むしろ弱い“わざ”だという事か。つまり、あの“かまいたち”の威力は老人の実力によるもの……とはいえ多勢に無勢。流石に分が悪いとみたのか、老人がシロ民の元まで素早く飛び下がる。

 必然、彼らは視線を合わせる事になった。……お辞儀をするのだ、シロ民。格式ある伝統は守らねばならぬ。

 

「ド、ドーモ、トウゴウ=サン。シロ民です」

「どうも。シロ民殿。東郷だ」

 

 アイサツは実際大事。古事記にもそう書かれている。

 そうオジギしつつシロ民が東郷氏とアイサツを交わし……気づく。東郷氏の着ている和服がはためいている事に、いや、彼の周りには常に風が吹いている! それは“かまいたち”のチャージが済んでいる証拠に他ならない!

 常在戦場。これぞSATUMAの教えである。戦いが始まる前から戦いは始まっており、いざ死合うときには決着は既についているのだ。孫氏もそう言っている。

 

「な、なんという……」

「どうかし「来るぞォー!」ムッ……!」

 

 残念ながら、と嘆くべきか。空気を読めない奴めと罵声を上げるべきか。次弾装填完了した戦車部隊が砲口を揃え、一斉に発砲してくる。

 狙いは、イワークを筆頭とした壁ポケモン達ではない。奇っ怪なれど当たれば倒せそうにも思える老人、東郷氏だ。

 

「イヤァァァッ!」

 

 ゴウランガ! 年齢に似合わぬ鋭いシャウトと共に放たれた“かまいたち”は見事に飛来した砲弾を切って捨てる。アイサツ後のスキを狙った攻撃は虚しく爆発。

 東郷氏はただの老人ではない。歴戦の戦士であり……この惑星上で最もスーパーマサラ人として覚醒している御人であるのだ。戦車砲弾など、そこらを飛ぶハエにも等しい。

 それを少なからず察したのか。ならばと戦車部隊は一斉に同軸機関銃を乱射してくる! さしものSATUMA人も、“かまいたち”のチャージは終了していない……!

 

 ──最早これまでか。

 

 そうシロ民が思う暇もなく、東郷氏は決断的に刀を振るう! 間違いない。あれはKATANAの基本にして奥義……!

 

「“いあいぎり”……!」

 

 “かまいたち”がチャージ中でも何も問題はない。決断的に“みきり”、“いあいぎり”を放てば良いのだ。切断され勢いを失った銃弾が、殺虫剤を掛けられた羽虫めいてポトポトと落ちていく。東郷氏の元には一発足りとも届いてはいない。

 

「……存外、何とかなるものだな」

 

 またつまらぬ物を斬った。そう言わんばかりに刀を払う東郷氏。……シロ民は見た。東郷氏の持つ刀は古ぼけてこそいるものの良く手入れされた軍刀らしき物であり、そして、傷一つ無い事を。ナニカのオーラを纏っている事を。

 もしここに軍オタか刀剣オタが居れば東郷氏の持つ刀剣に驚愕し、その来歴を問うた事だろう。一つ言うなれば、名刀に分類される軍刀というのが存在しており、しかしその数は多くないという事か……

 しかし、この場にそんな事まで分かる者は居なかった。故に、シロ民は直ぐに現実に直面する事となる。多勢に無勢には変わりない、と。ここはシロ民達が東郷氏と連携するしかないだろう。そんな考えから東郷氏に提案を行うが……東郷氏はそれを穏やかに奥ゆかしく断った。心配は無用だと。

 

「問題ない。……犬兵とメタングの準備が終わった様だ」

「アイエ?」

 

 どういう意味だ? と、そう聞く暇もなく、突如として全ての戦車が中に浮く! 数十センチ程ではあるが、しかし、地面から浮き上がってその動きを拘束されているのだ。

 ユウジョウ! 東郷氏をここまで送り届けた彼らが、上空に残っている筆頭犬兵とメタングが戦車を“サイコキネシス”で浮かしているのだ! そんな事が分かるはずもない戦車部隊は完全に混乱して動きを止めている……! 千載一遇の好機。

 

「アブソル」

「クォォ……」

 

 東郷氏はすかさずアブソルをモンスターボールから放ち、声をかけて“かまいたち”のチャージに入る。一拍、最強のスーパーマサラ人とアブソルが同時に“かまいたち”を放った!

 無数に放たれる風の刃。それは戦車部隊に向かう中で一つにまとまっていき、やがて一つの竜巻めいて戦車部隊を襲う。一つの“かまいたち”で駄目なら、百の“かまいたち”で斬りつける。そう言わんばかりの攻撃は瞬く間に戦車の装甲を削り取っていき、ついに戦車の砲身が生首めいて空を飛ぶ。ナムサン。あれではもう砲は撃てない。実際スクラップ同然だ。

 だが、まだ生き残りがいる。“ひかりのかべ”の強度が高かったのか、それとも比較的新しい事が幸いしたのか、一両だけボロボロになりながらも耐えていた。そして、それはギギッと火花を散らしながら砲口を東郷氏とアブソルに向ける。破れかぶれの一撃を放つつもりだ。

 

「新型か? 流石にそう簡単には斬れぬか……ならば、アブソル!」

「ソルゥ!」

 

 ジェェット! 東郷氏の声を受けてすかさずアブソルが“スピードスター”を乱れ撃ちながら先行する! 東郷氏も後を追い──アブソルが戦車を追い越すと同時、“スピードスター”を受けて怯んだ戦車をすれ違いざまに“きりさく”! コンマ五秒遅れて身を翻したアブソルが再度戦車を天から“きりさく”……そして、二人が戦車を挟み込んだと見えた、その瞬間。

 

「重ね“かまいたち”!」

 

 斬り捨て御免! すれ違いざまにアブソルと“かまいたち”を重ね合わせて斬りつける合体“わざ”。重ねカマイタチだ! タツジン!

 先行したアブソルが反対側へと回り込み、位置を交換しながらすれ違いざまに“かまいたち”をあびせる! ただそれだけの“わざ”だが、しかし、その強さは二倍どころの話では無かった。実際、一人と一匹がその場から飛び下がった瞬間、小爆発の花が咲き、砲塔が生首めいて空を飛ぶ。乗員こそ“みねうち”ですまされているが、戦車はスクラップだった。

 

「……終わったか」

 

 ヒュン、と刀を払い、納刀する東郷氏。その横でアブソルも力を抜いて佇む。

 彼らの周りに転がっているのは戦車のスクラップ、スクラップ、そしてスクラップ! ショッギョ・ムッジョ。ポケモン化前までは陸の王者として戦場の主力であった戦車達は、いまやツキジのマグロめいて屍を晒していた。インガオホー、時代が変わるときが来たのだ。

 

「ワォ……?」

「うむ。そうだな、あの子の様子を見に行くとしよう……君、すまないが後片付けを頼めるか?」

「ア、ハイ。ヨロコンデー!」

 

 東郷氏に頼み事をされたシロ民は危うく失禁仕掛けながらも返答する。逃さず捕縛しますと。実際、武装勢力側は制圧されているとはいえ、逃げ出す事は出来るのだ。これをみすみす逃しては無能シロ民のそしりは免れない。セプクもあり得るケジメ案件だった。

 捕縛重点。会場へとアブソルを連れて歩いていく東郷氏を見送りながら、シロ民達は気絶している武装勢力側の捕縛に務める。捕縛された彼ら武装勢力の人員には、背後関係を洗う為に今後極めて厳しいインタビューが行われる事だろう。

 それが嫌なのか、逃げ出そうとする者も居るが……忘れてはいけない。東郷氏程ではないが、シロ民もまたエリートポケモントレーナーである。逃げれる訳がない。エリートポケモントレーナーの俺に勝てるもんか。

 

『客員へ通達。リヴァイアサン号からの救援が到着した。捕縛に強力してくれるそうだ』

 

 そうこうしているうちにリヴァイアサン号から飛び立ったシーホークがシロ民達の元へと到着する。東郷氏が暴れ回ったせいで完全に出遅れた救援部隊の到着だ。

 とはいえ、何もしないまま帰る気もないのだろう。明らかに当初の予定とは異なる──戦闘に加わるつもりだったのか、完全武装だった──ものの、彼らもまた捕縛に協力してくれた。

 これで後はスクラップの片付けだけ…………そう、思った瞬間。光が天へと走る。

 

「な、なんだ!? アレは!?」

「リーグ会場から、光が……!」

「通信室、おい! 通信室応答しろ! 何が起こっている!?」

 

 突然の事態にさしものシロ民にも混乱と同様が広がる。何がどうなっているんだ? と。

 騒々しくなる中、メタングに乗った筆頭犬兵が悲鳴混じりに頭を抑えて呻く。なんてサイコパワーだ、と。

 

「なんだって? どういう事だ筆頭犬兵!」

「サイコパワーだ。俺のメタングどころじゃない。とんでもないサイコパワーの持ち主が、戦っている……!」

「なん、だと……!?」

 

 サイコパワー。それは即ち“エスパー”タイプのポケモンとしての戦闘力といっても過言ではない。そして、メタングはそれなりに強いポケモンだ。それを上回る……とんでもないサイコパワーの持ち主。

 ──シロ民には、心当たりがあった。武装勢力の襲来と同じくらい絶対に来ると確信し、むしろその存在を誘い込む為にリーグを開催した側面すらあった……とてつもないポケモン。

 恐らく、絶対に不知火シロが出会ってはいけないポケモン。出会ったその日に何が起きるか分かったものではない闇深いポケモン。その名は…………

 

「ミュウツー……!」

 

 いつの間にか、状況は最終局面を迎えていた。

 ついに初代最強のポケモンが……やって来たのだ。




 (執筆中の事)
 アブソルの鳴き声、言語化しにくいな……しかもアニメ版だと鳴き声違うんだが……? いや、もういいか。忍殺キメて徹夜テンションで書いちまえ! 勢いで書けばなんとかなる!



 重ねカマイタチ 元ネタ。
 マシンロボ クロノスの大逆襲より、天空真剣奥義・重ね鎌鼬。
 参考文献 スーパーロボット大戦MX

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