ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第37話 戦闘! ミュウツー

 最初の一撃はミュウツーからだった。

 高まりに高まったサイコパワーを無造作に私とポチ目掛けて叩き付けてきたのだ! それは最早“サイコキネシス”の嵐。ポチは四肢を地面にめり込む程に叩き付け、何とか堪えてみせたが……私の方は耐えるどころではない! 抗う事も出来ず斜め吹き飛ばされる。このままでは壁に激突してしまうが──! 

 

 ──私だって、少しは鍛えてる! 

 

 空中に吹き飛ばされた後、“サイコキネシス”の効果が切れている事を確認した私は、素早く空中で受け身をとって地面へと軟着陸する。ポチが頑張ってるのに、私だけ壁に叩きつけられて気絶してる場合ではないのだ。

 そんな思いを知ってか知らずか、ポチも無事に着陸した私をチラリと見ただけで、直ぐにミュウツーに向き直る。指示をくれと、そう言わんばかりに。

 

「行くよ、ポチ」

「グラァ」

 

 私が吹き飛ばされたのは、奇しくも競技場でポケモントレーナーが立つべき場所、その近くだった。……迷う事なんて何も無い。私はポチに声をかけながら位置につく。ポケモンバトルを始めようと。

 競技場の中心部から私を見据える最強のポケモン、ミュウツー。彼とのバトルで最初にすべき事は──

 

「ポチ“とおぼえ”」

 

 アオーン、と。ポチの鋭い“とおぼえ”が響く。戦意向上。これでポチの“こうげき”が一段階上がったはずだ。シロ民の誰も耐えれない“こうげき”が、更にもう一段階。

 

 ──その上、タイプ相性も完全にこちらが有利。けど……

 

 これがゲームなら、“あく”タイプのポチに“エスパー”タイプのミュウツーは手も足も出ないはずだ。ポチの攻撃はこうかばつぐんで最低でも倍になるが、あちらの攻撃はタイプ相性によって完全に無効化出来る……ミュウツーはタイプ一致の“エスパーわざ”を封印してサブの“わざ”で戦わざるを得ず、ポチの“こうげき”が上がっている事を踏まえれば、バトルの情勢は圧倒的にこちらが有利だろう。……これがゲームなら。

 そう、これはゲームじゃない。現実だ。現実となった今、ゲーム知識を前提とした戦略は信頼出来ない怪しい物になっていると言わざるを得ない。ポケモンは“わざ”を──練度を気にしないのなら──四つ以上覚えれるし、“わざ”そのものも工夫次第でゲーム以上の効果を発揮したりするのだ。ゲーム知識を頼る気には、残念ながらなれなかった。

 

 ──しかも、相手は初代最強と呼ばれた、あのミュウツー……! 

 

 そう、ミュウツー、あのミュウツーなのだ。私の相手は! 間違っても油断慢心出来る相手ではなく、能力値のゴリ押しでタイプ相性をひっくり返してくる可能性すら感じてしまうのが正直なところ…………いや、むしろそれを期待してしまっているのが本音だ。最強と呼ばれたポケモンの力は、タイプ相性なんかに左右されるはずがないと。

 とはいえ、それはそれとして負けて醜態を晒したい訳でも無く。勝つ為の最善手を打つことに躊躇は無い。

 そうなるとミュウツーの高過ぎる能力値を少しでも下げたいところだが……残念な事にポチではミュウツーの強みである“とくこう”を下げれない。“ぼうぎょ”も直ぐには下げれないし、“すばやさ”も……どうなのだろう? 

 

 ──一応、“こわいかお”なら“すばやさ”を下げれるけど……

 

 ミュウツーに、あのミュウツーに“こわいかお”が通用するだろうか? 私は試す気にもならない。それにポチは“こわいかお”を修得してはいるものの、その練度はさほど高く無いのだ。よく使う主力級四つの“わざ”と比べれば、その練度は“わざ”として体裁を保てるギリギリのものでしかない。それをミュウツーにぶつけたところで、鼻で笑われるのがオチだろう。なんならポチにため息を吐かれるまである。何を考えているんだと。

 なら、こちらが能力値を上げるしかない……! そうもう一度ポチに“とおぼえ”を指示しようとして、気づく。ミュウツーが沈黙を守っている理由に。

 

 ──あれは、“めいそう”……!? 

 

 もう使った後だと、だからこれだけのサイコパワーを維持出来ているのだと、そう思っていたのだが……どうやらそうではないらしい。場のサイコエネルギーが、増大している。

 

 ──まだ、能力値が上がる……!? 

 

 既に二度積んだのか、それともまだ一度目が終わっただけなのか、あるいは二度目の途中なのか。

 なんにせよこのまま能力値の上げ合いをすれば、ミュウツーの方がどんどん有利になってしまう……まだ能力値を上げたかったのだが、これは、切り上げるしかないか。だが……! 

 

「ポチ、“でんこうせっか”!」

 

 先手までくれてやるつもりは無い! 

 私は威力偵察がてらポチに“でんこうせっか”を指示する。先ずはミュウツーの出方を伺おうと。彼女もこちらの意図をよんで、あえて弧を描く様に遠回りでミュウツーへと接近していく──音を置き去りして、目にも留まらぬ速さで。

 

『なるほど、疾い。だが……!』

 

 ポチの“でんこうせっか”は果たして、ミュウツーの反応速度を……超えた! ミュウツーが振り向くより先に、ポチが後ろに回り込んだのだ。これで初撃は貰った──そう、笑みを浮かべた瞬間。ミュウツー目掛けて飛び上がったポチが、空中で静止する。ミュウツーを目前にして、縫い止められるかの様にピタリと動きが固まってしまったのだ。

 

 ──何が……!? 

 

 思わず目を見開いたのは、ポチも同じ。当のポチすら何が起こっているのか分からない様で…………いや、まさか。

 

「ミュウツーの“サイコキネシス”……!? でもタイプ相性は」

『確かに、わたしの“サイコキネシス”は効かない様だ。が、それなら空間ごと抑え付けてしまえば、何という事はない!』

「そんな──ッ! ポチっ!?」

 

 そんな力技が!? そう驚く暇もなくポチが吹き飛ばされる。幸いにも壁に叩き付けられる前にポチが体勢を立て直し、壁を蹴って衝撃を殺したのでダメージは無いが……

 

 ──これじゃ“カウンター”も“かげぶんしん”も意味が無い……! 

 

 期待通りと言って良いのか、ミュウツーはタイプ相性を完全に無視して……いや、無視出来る様に“わざ”を工夫してきている! 直接ポチに“サイコキネシス”を撃つのではなく、ポチの周りの空間に“サイコキネシス”を使って吹き飛ばしたのだ。力技にも程があるが、確かにこれならタイプ相性を無視出来る。

 

 ──強い……! 

 

 そうとしか、言いようが無かった。ポチがどうこうじゃない、ミュウツーが強過ぎるんだ。手も足も出る気がしない。

 けど……! 

 

「ポチ、もう一度“でんこうせっか”!」

 

 だからって、はいそうですかと白旗を上げれるか! そんな思いを相棒とシンクロさせ、私はポチに突撃を指示する。追撃とばかりにミュウツーがバラ撒いてきた“スピードスター”の雨に突っ込めと。

 正気の沙汰じゃない? そうだろうとも。“スピードスター”は必中技、生半可な策では被弾は免れない。だが、ポチとなら! 

 

「“きりさく”! 踏み台にしちゃえ!」

 

 それは、本来ならあり得ない策。だが見たところミュウツーの“スピードスター”は極めて強度が高い様子……ならば、“きりさく”つもりで爪を立てれば、踏みつけて踏み台にする事が出来るはずだ。

 そんな思考を言葉にされたポチは一瞬だけこちらを見やり、しかし直ぐに前へと向き直って、“スピードスター”が着弾するギリギリで爪にエネルギーを回し“きりさく”体勢を整え──

 

「グラァアア!」

 

 気合一閃! 勢いよく振り下ろされた爪は“スピードスター”へと突き刺さり、一瞬だけポチを支える土台となった! 安定した弾道、恐るべき強度の高さ。それらを全て逆手に取ったポチは“スピードスター”を踏み台に、跳躍! 次なる“スピードスター”を踏みつけ、更に跳躍! 八艘飛び! 

 

 ──眼前、ミュウツー……貰った! 

 

 あの至近距離ならポチは負けない! そう思わず笑みを浮かべながら“かみくだく”を指示しようとして──次の瞬間。いきなりポチが吹っ飛ばされた! 

 変化は一瞬。見間違いでなければ突如としてミュウツーとポチの間にあった空間が炸裂したように見えたが……

 

「まさか、今のは」

『そうだ。“みらいよち”だ。こうなる事は既に予知していた』

 

 知っているのならば、奇策を用いられようとも対処は容易い。そう冷たい目で私を見下ろすミュウツーに、思わず身震いしてしまう。強い、と。興奮から。

 

 ──“みらいよち”は未来を予測し、攻撃する“わざ”。確かに、そういう使い方も出来る……! 

 

 エスパータイプのポケモンとの戦闘経験が少ない事を言い訳には……残念ながら出来ないだろう。言われてみれば道理でしかないのだ。“みらいよち”なら未来を予測し、備える事が出来るのは当たり前の話。柔軟な発想があれば予測出来た結末だ。

 どうやら、まだ私はゲーム知識に引っ張られ過ぎているらしい。そう内心で嘆息しつつ、頭では“みらいよち”の攻略法を全力で模索していた。何か手を打たねばと。だが……

 

 ──未来予知なんてどうすれば……? 

 

 未来予知。それは単純明快で、だからこそ対処出来ない力……ポチと私の手札では、どうにもできそうにない話に思える。

 思わずポチに指示する“わざ”を見失う私を余所に、この程度はちょっとした応用でしかないと、そう言わんばかりのミュウツーの手は止まる気配が無い。更なる“わざ”を放つつもりなのか、サイコパワーとは別のエネルギーを体内で増幅させ、手のひらに集め出した。あれは、あの青い光は……! 

 

『来ないのなら、こちらから行くぞ!』

「ッ!? まさか“はどうだん”!?」

 

 放たれたのは凄まじい生命エネルギーを感じる青い球体。間違いない。“はどうだん”だ。

 よりにもよって“かくとう”タイプの“必中わざ”……“あく”タイプのポチには『こうかばつぐん』な上に必中。避けようのない致命の一撃……! 幸いにもミュウツーはタイプ不一致の為、そこまで火力は出ないはずだが、ミュウツーの能力値が能力値。しかもこうかばつぐんの“わざ”とあっては、ポチとてただでは済まない……! 

 

「避け──ポチ、“かげぶんしん”!」

 

 避けて、と。咄嗟にそう言いそうになったのを圧し殺して、私はポチに“かげぶんしん”を指示する。ゲームでは回避率を上げる不確かな“わざ”でしかないが、現実となったここで、しかも修練を積んだポチの“かげぶんしん”は一味違う! 

 

『これは……!?』

 

 流石、というべきか。ミュウツーは気づいたらしい。バババッと一気に十は数を増やしたポチの残像の一つ一つ、その全てに生命エネルギーが込められている事に。

 

 ──けど、今更気づいても……! 

 

 もう遅い! そう内心で言い切ると同時、ミュウツーの“はどうだん”は吸い込まれる様にポチの残像へと命中。必中わざはその効果をいかんなく発揮し、残像を消滅させてみせる。波動エネルギーが込められた残像を、本物と誤認したまま。

 そうして本体にダメージを与えられなかった“はどうだん”は、地面を爆散させて土煙をもうもうと巻き上げる。やはり威力は凄まじい様だが……

 

「当たらなければどうという事はありません。……ポチの“かげぶんしん”はフレアと同じ原理を採用した特別製。“はどうだん”の特性に甘えて、“みらいよち”を怠たりましたね? ミュウツー!」

『なるほど、やってくれる……!』

 

 戦闘用の航空機等に搭載されているフレアと呼ばれる欺瞞装置。それと同じ工夫が施されたポチの“かげぶんしん”はデコイとして高い性能を持つ。例えば生命エネルギー……つまりは波動エネルギーをデコイである分身が発する事で、波動エネルギー目掛けて猛進する“はどうだん”の特性を逆に利用してみせたりする事も出来るのだ。さしものミュウツーも“みらいよち”を怠った状態では引っ掛かる他に無い……! 

 

 ──状況次第ではスキを晒した相手に“カウンター”まで叩き込めるのがポチの“かげぶんしん”なんだぞ? なめて貰っては困る! 

 

 そう思わずニンマリとほくそ笑むと同時、“はどうだん”によって巻き上げられた土煙が“かげぶんしん”諸共ポチの本体を覆い隠してしまう……狙い通り! 

 

「行って! ポチ! “でんこうせっか”!」

『む、奇襲するつもりか……ッ!』

 

 “はどうだん”が巻き上げた土煙に紛れつつ、更に“かげぶんしん”を利用した奇襲。電光石火の速さで行われるそれはミュウツーの焦りを引きずり出してみせ……いや、待て。

 

 ──なんだか、土煙が多過ぎるような……? 

 

 というか、土煙に白い霧が混じっているように見えるぞ。なんだ、あの白い霧は? 

 ……白い霧? …………ッ! マズイ! 

 

「ポチ! 戻って!」

『遅い!』

 

 これは罠だ! そう叫ぶ暇もなく、ポチが霧の中から吹き飛んで来る。また“サイコキネシス”で空間ごと投げ飛ばしたらしい……! 

 

「ポチ!」

 

 私の方へと吹き飛んで来るポチに、思わず、身体が動いてしまう。

 未だに体勢を立て直せないでいるポチの飛翔経路に割り込み、受け止めようと両手を広げて──瞬間、衝撃。あまりの勢いに踏ん張りは効かず、衝撃をモロにくらったお腹から全ての空気が吐き出される。受け止めた痛みもあって私の口からぐぅっ、と鈍い苦悶の声が漏れ……気づけば、私はポチを抱き締めたまま地面をゴロゴロと転がっていた。

 

「ぁ、ぅぅ……だ、大丈夫? ポチ」

「グラァ……」

「良かった……」

 

 一先ずポチの無事を確認した私は口に入った土埃をペッと吐き捨て、ミュウツーの方へと注意を向けたまま、改めてポチの状態を確認する。

 …………大きな傷はないようだが、毛並みの奥に打撲を受けた跡があった。どうやら“ミュウツーはサイコキネシス”でポチの動きを止めたあと、ご丁寧な事に打撃を叩き込んで吹き飛ばしたらしい。

 

 ──やってくれる……

 

 何で切ったのか頬からツゥーと垂れてきた血を手の甲で拭い去り、私は内心で反省する。視界不良を逆手に取られたなと。

 今思えば私とポチは視界が効かないが、ミュウツーからすればテレパシーでザックリとした位置は分かっていたのだろう。当然“かげぶんしん”もお見通しという訳だ。そうなると後はゴリ押しの“サイコキネシス”でどうとでもなる。なってしまう。

 迂闊。私のミスだ。

 

 ──それに、あの“しろいきり”……

 

 あの白い霧は偶然発生した物ではなく、ミュウツーの“しろいきり”だ。恐らく“みらいよち”で土煙を利用しての奇襲を察知し、それをあえて助長する為に“しろいきり”を展開。その上で演技すらしてみせる事で私とポチを誘い込んだのだろう。

 私の判断ミスには違いないが、それを誘われたのも事実。直接的な戦闘能力や能力値のゴリ押しによる力技だけじゃない、巧妙な搦め手まで息を吐く様に使ってくるとは……

 

 ──強い、な。

 

 最強の名は伊達では無かった。そう流石だと、それでこそ最強のポケモン、ミュウツーだと、心のどこかで拍手喝采を叫びながら、私はミュウツーを見上げる。キッと、鋭く睨みながら。まだバトルは終わってないと。

 そうしてミュウツーを見れば……気のせいだろうか? ミュウツーの動きが今までより速い気がする。いや、まさか、“こうそくいどう”を積んだのか? “しろいきり”に紛れて? 

 

 ──抜け目がない……! 

 

 強過ぎる上に、油断も隙もない。

 これじゃ勝ち目なんて見えるはずもないじゃないか。そう折れそうになった心をポチを抱き締める事で繋ぎ止め、闘志を燃やしにかかる私を……ミュウツーは冷めた目で見ていた。なんだ、こんな物かと。

 

『本来なら相容れない、群れるはずのないポケモンすら統率する事が出来るのが、ポケモントレーナーというものだ。いや、むしろそれこそがポケモントレーナー最大の強みといえるだろう……』

 

 お前もポケモントレーナーを名乗っているのだろう? ならば二匹目を出して来いと、一対二で構わないと。暗にそうのたまうミュウツーに、私は返す言葉が無い。

 ポチが強い事に甘えて、二匹目はゲットすらしていないのだ。手持ちはポチ一匹だけ。……今日は反省が多い日だな、私。

 

 ──けど、何の用意も無い訳じゃない。

 

 ポチ一匹で充分、というのは本音だが、それはそれとして何の用意もしてない訳ではなかった。その一つが、今私がポチの打撲痕に向かってプシューと噴射しているアイテム……ああ、ミュウツーも気づいたか。良いさ、今更アイテムの使用を妨害してくる奴じゃないだろうし。

 

『む、それは……』

「“すごいキズぐすり”です。……プロトタイプですけど」

 

 オボンやオレンの実に含まれるきのみ由来の回復成分を特定、抽出、凝縮し、更に回復装置等を参考にしつつ回復効果を高める工夫──勿論、健康に害が無いもの──が幾重にも施されたのがこのプロトタイプすごいキズぐすりだ。

 勿論、その作成は簡単な話ではなく、莫大な資金を湯水の如く消費し、少数生産するのが限界だったスペシャルでもある。とはいえ、それだけのスペシャル品でも残念ながら本家の初代“すごいキズぐすり”程の回復効果は無く、せいぜい“いいキズぐすり”の倍程度でしかないが……

 

 ──今は、これで充分。

 

 幸いにもポチのダメージはそう深くはなく、この程度のキズぐすりでもイエローゾーンを脱してくれた。万全にはまだ足りないが、それでもミュウツーに一矢報いるには充分だろう。

 そんな思考はポチとシンクロしていた様で、彼女との意思疎通はアイコンタクト一つで済んでしまう。このままでは終われない、意地でも最強様に一撃くれてやろうと。

 迷う事は、もう何も無かった。

 

「行って! ポチ!」

『フン、無策の突撃など……ッ!? いや、これは!』

「“でんこうせっか”ァ!」

 

 指示した“わざ”は今まで何度となく使ってきた“でんこうせっか”。しかし、そのスピードは今までの比ではない! 文字通り電光石火の速さで駆け抜けるポチは、私の勘が確かなら、ミュウツーの“みらいよち”を覆したはずだ! 

 

 ──プロトタイプ“スピーダー”三個……使うつもりは、無かったけど! 

 

 そう、私は“すごいキズぐすり”の影でポチに“スピーダー”を使用したのだ。戦闘中に“すばやさ”を上げれるアイテム、その──やはり完全再現は出来ず、本家よりも性能が劣る──プロトタイプ品を、三個も。

 邪道も良いところのドーピング。出来ればやりたくなかった手だが……それでも、このままじゃ終われないんだ! 私はァ! 

 

「ポチィ! “かみくだく”ッ!!」

『グッ──!?』

 

 ポチの脈絡なく上がった“すばやさ”はミュウツーの未来予知を……上回った! ポチの鋭い牙が、“かみくだく”がミュウツーの腕に深々と突き刺さる! 

 残念ながらミュウツーは怯む事なく、“サイコキネシス”のちょっとした応用で即座にポチを引き剥がしてしまったが……こうかばつぐんのあくタイプの“わざ”が決まったのだ。ただでは済んでいないはず……! 

 

 ──これなら! いくらミュウツーで、も…………? いや、あれは……? 

 

 “かみくだく”のクリーンヒット、そのダメージはいかほどか! そうミュウツーの様子を窺っていた私は、直ぐに変化に気づけた。気づけてしまった。

 なんと、ミュウツーの傷がみるみる塞がっていたのだ。数度まばたきしているうちに“かみくだく”で受けた傷が、殆ど完治してしまう程に早く。あれは、あの“わざ”は! 

 

 ──“じこさいせい”……ッ! 

 

 そういえば、ミュウツーは“じこさいせい”を覚えるんだったな。

 そう頭のどこかで他人事の様に考えると同時、私は膝を屈さない様に意識して足に力を入れなければならなかった。だって、あれ程苦労して、道具を使う事でミュウツーに悟らせずに“すばやさ”を上げるなんていう一度きりの小細工までして、そうしてようやくつけた傷も秒速で無かった事にされる? 

 駄目だ、考えるな。勝ち目が、無いなんて。そんなはずは……

 

『────ここまでのようだな』

「ッ……!」

 

 私が逃げに入ったのを、悟られた? まだだ、違う、まだ私は戦える。まだ私はここに立てる! 

 一瞬に走った思考は、しかし、直ぐ様ガラスが砕ける様な音と共に否定される。続いて聞こえるのはどこかから迫ってくる歓声と怒声にも似た鬨の声。ふと見上げれば、何かが……いや、会場を覆っていたらしいバリアが砕け散って消滅し始めていた。これは……

 

「まさか、バリアを張りながら私とポチと、バトルを……!?」

『そうだ。……こうも速く破られるつもりは無かったのだがな』

 

 存外、出来る御仁が居る様だ。そう空を見上げながら感心の声を上げるミュウツーに、私は返す言葉も無く呆然とするしかない。

 だって、ミュウツーは私とバトルしていたんだぞ? にも関わらず、バリアの維持までしていた……つまり、私とのバトルは片手間でしていたに過ぎないのだ。舐め腐ったマネ。だが、それでもなおミュウツーは強く、私はミュウツーを追い込む事すら出来なかった。文字通り一矢報いただけ……

 

 ──強過ぎる……! 

 

 維持していたのが“リフレクター”か“ひかりのかべ”か、あるいは両方なのか。なんにせよ本来なら自分の周りに展開するはずのそれを、会場を覆うように展開していたのだ。

 それはまるで『ミュウツーの逆襲』で島を改造していたミュウツーの様に。会場をバリアで覆いながら、片手間で私とバトルをして……それで、あの強さ? 強過ぎる。強過ぎるとしか言いようがない! 

 

 ──それでこそミュウツー……だけど。

 

 もしミュウツーが本気になれば、今の私では手も足も出ないのだろう。ずっとやりたかった本気のポケモンバトルは、しかし、私の力不足を露呈させただけだった。

 強さにあぐらをかく暇なんて、最初から無かったんだ。私に。

 だけど、いや、だからこそ。

 

『まぁ、良い。“みらいよち”も絶対ではない……それが分かれば充分だ』

「……どこへ行くつもりです。勝ち逃げですか、ミュウツー」

『わたしは引き分けでも構わないが?』

「いえ……そんな事をされても、私が惨めになるだけです。貴方の勝ちですよ、今回は」

『フッ、そうか……』

「えぇ」

「グラァ」

 

 今回は、今回はミュウツーの勝ちだ。認めよう。ポチが強過ぎた時代は終わり、ミュウツーが強過ぎる時代がやって来た。今回は私とポチの負けだとも。だが、それでも。だからこそ。

 そんな私と、鋭い視線を向けるポチに、ミュウツーは一瞬だけ笑みを浮かべて……一拍、眩いばかりの紫電を走らせ、どこかへとテレポートしていった。

 

「……ポチ」

「グルルゥ」

「うん、そうだね」

 

 会場に残された私はポチと短く言葉を交わし、お互いの心情を告白する。あぁ、そうだとも。ポケモンバトルとは、こうでなくては。

 遠くから駆け寄ってくるお爺ちゃんとシロ民の皆を見ながら、私はそっとポチの背を撫でる。次は勝ちたいね、と。そんな事を呟きながら──




ミュウツーが強過ぎる件について。
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