ポケットモンスター 侵食される現代世界   作:キヨ@ハーメルン

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第5話 関東へ向かうべきはいつか?

『皆さん、賑わっているみたいですね』

 

 先ずは普通に。そう考えてうちの決意が滲み出ない様に注意しつつ、ごく普通の書き込みを行う。反応は……直ぐだった。

 

『待ってた』『シロちゃんキター!』『おう植物学者、準備はいいか?』『シロちゃん今までのまとめいる?』『あぁシロちゃんだー! 久しぶりー!』『アイドルネキ落ち着け。マジで落ち着け』

 

 今までROM専してた人まで書き込みするものだから、一気に数十は進む。読み取れたのはごく少数だ。とはいえさかのぼっている暇はあるまい。一先ず読み取れたコメを幾つか拾おう。

 

『植物学者さん、ご協力有り難うございます。私に聞きたい事があったら何でも聞いて下さい。まとめの提案有り難うございます。けどちゃんと読んで来たので大丈夫ですよ。それとアイドルネキお久しぶりです。二週間くらいですかね?』

 

『ん? 今何でも答えるって』『植物学者限定でな。裏山しす』『ちゃんとROMシロちゃん。さすシロ』『さすシロ』『きゃー! シロちゃんに覚えて貰ってたー!』『アイドルネキそろそろ落ち着け……ていうか覚える云々は普通逆だからな……?』『黙れ犬』『(´;ω;`)』『憐れな……』

 

 いつもより人が多いのか、スレの消費がかなり早い。読み取るのも割りと一杯一杯だ。……これで動く提案なんて出来るのか? いや、人が多いのは必ずしも悪い事ではないんだ。大丈夫。やってみせる。

 ……けど、その前に。

 

『今日は皆さんに提案があるのですが、その前にきのみの栽培についてまとめ……というよりは総括しようと思います』

 

 私はそこまで書き込んだ後。ふぅ、と一息ついて、窓の方をチラリと見る。残念ながら角度がまるで足りず、庭で成長しているオレンの実は確認出来なかったが、それでも頭の整理には充分だった。

 

『先ず、オレンの実を始めとしたきのみはポケモンと同じ様に栽培、収穫が出来る。またその効果もおおよそ同一であり、変化は見られない。そして、現在確認されているきのみはナンバー10までである……これでいいでしょうか?』

 

 オレンの実の栽培と収穫。これは希望的観測が入っていたとはいえ、殆んど確信していた事だ。とはいえここで前提が崩れてはどうしようもないので一応確認を。効果も同じく。

 問題は現在出現しているきのみの種類だが……実はナンバー10のオボンの実だけ確認していない。ナンバー8のキーの実は今日の散歩中に姿だけとはいえ存在を確認できたのだが。

 

『シロちゃん食い気味?』『そりゃ食い気味にも……この台詞前にも言った気がする』『栽培、収穫、効果は植物学者と検証したから間違いない』『セヤナ』『植物学者有能』『なおテレビ』『なお煽り耐性』『やめやめろ!』『てかナンバー10って何だっけ?』『オボンやな。俺は見てない』『あの黄色のデコポンか。俺も見てないな。シロちゃんは見たのかな?』『俺も見てないなぁ』

 

「? 見てない人ばかり? そんなはずは……」

 

 栽培、収穫、効果はシロ民でも意見が一致しているようで反論はない。

 しかしオボンの実に関しては見てないという意見ばかりだった。ナンバー10以降が出てないのはまだ仕方ないにしても、オボンの実が出てこないのは不自然に思えるのだが……私が思っているよりも、まだまだポケモンは遠いのだろうか?

 

『あー、オボンならどっかで見たよ。どこだったかな……』

 

 いや、居た。これは、アイドルネキか。彼女は確か……いや、今は。

 

『アイドルネキ、どこで見たんですか?』

 

『えっとね、えっとね……ちょっと待ってね』『ほらアイドルネキ、シロちゃんが期待しとるぞ』『スッゴい期待してるよ(たぶん)』『頑張れ頑張れはーと』『シロちゃんからすれば長年の夢みたいなモンだろうしなぁ』

『思い出した! じいちゃんの部屋だ! ちょっと行ってくる!』

『いてら』『いてら』『いて……待て、アイドルネキのじいちゃんって確か……』『元総理やな。けっこう前だけど』『その部屋で見たって……大丈夫なん? 機密だったりしない?』『たとえ機密だろうと、問題なくね? アイドルネキは身内だし、ヤバイなら黙っとく様に言うだろ。つか、俺らが知ってるから機密もクソもない気が……』『つまりさすシロ』『さすシロ』

 

「そういえば、そうだった。アイドルネキは政界に繋がりがあったんだった」

 

 気安い感じなので失念していたが、彼女は中々に大物だった。現役の女優にしてアイドル。祖父はかつて総理の座まで上り詰めた御仁……始めるなら、彼女からになるか。

 いや、今はオボンの実だ。先ずはあのきのみが出現したかどうかを確かめる必要がある。もし現実に現れてないなら急ぐ必要は無く、しかし現れているのなら急ぐ必要があるのだ。恐らく、きのみの出現はナンバー10が一つの区切りだろうから。

 

『あった、あったよー。じいちゃんの机の上の書類に書いてあった。関東地方の、ザボン? を作ってる農家さんのところで確認されたらしいよ。まだ個数は少ないって書いてある。書類の日付は三日前だから、実際に現れたのは四、五日前じゃないかな?』

 

「っ! ……近づいてる。間違いなく」

 

 彼女が書き込んだ情報が確かならば、恐らく次に来るのはナンバー11か、あるいは『ポケモン』だ。……いや、ひょっとしたら同タイミングか? どちらにせよ、足音は近づいている。もうすぐそこまで。

 

『オボンまで現実に、か』『オレンの三倍の力を持つオボンが現れたのか』『色は赤色だな(違う)』

『なぁ、これそろそろ来るんじゃないのか?』『何がだよ』『ポケモンだよ! オボンより先のきのみってかなり特殊だし、それにこうなるとポケモン本体が出て来てもおかしくないだろ』『それは……』『確かに』『きのみが来たならポケモンも、か』『分からないでもないけど……ちょっと、なぁ?』『あぁ、流石に考え難い』『いや、逆にもう現れてるんじゃないのか?』『!?』『!?』『なん……だと……!?』

 

「━━ッ!」

 

 スレに書き込まれた可能性。それは私も考えていた可能性だ。……しかし、可能性は可能性でしかない。もし違ったら? もしきのみだけしか来なかったら? もし私の勘違いなら? 私は二度と立ち直れまい。

 ━━だが、もう足踏みなんてしてられない。彼らが来る。それはもう殆んど確信なのだ。そして最初にどこに現れるかも分かっている。ならば。ならば!

 

『関東に、私は関東に向かおうと思います。もしポケモンが現れるならば、最初の場所は、関東です』

 

『!?』『!?!?』『シロちゃんが、動く!?』『オイオイオイ、え? マジ?』『そうか、ポケモン最初の地方。カントー地方は、関東地方が元ネタだったな』『シロちゃんが、関東に……』『良かったな。関東民。合法的にシロちゃんに会えるぞ。会えるぞ……!(非関東民)』『憐れな……』『泣けよ』『。・゜゜(ノД`)』

 

『具体的にいつになるかは分かりません。しかし近日中に移動し、現地調査や……ポケモン知識の布教を開始したいと思っています。シロ民の皆さん、お願いがあります。暇な時だけでもいいです。協力して下さい』

 

 震える指がエンターキーを叩き、私の書き込みが上げられる。

 現地調査は最初にポケモンに会う為で、ポケモンの布教は……仲間を、増やしたいからだ。ポケモンバトルだって一人では出来ないのだし、私の持っているポケモン知識は多くの人が知っておいた方がいいだろうから。

 問題は、協力してくれる人がいるかどうか。私がこの決断を出来たのも、きのみの情報をスピーディーに集められたのも、ネットにいるシロ民あってこそ。もしシロ民の協力が得られないなら……その不安は直ぐに払拭された。

 

『よっしゃ、ワイに任せろ!』『これは協力せざるを得ないな!』『俺も参加するぞ!』『シロちゃんが関東に、行き違いにな……いや、その方が良いか。うん』『俺もやるかぁ』『シロ民の戦力を結集するのか……』『なんだろう。風が吹いている(以下略)』『大抵の事は出来そうだな』『祭りじゃ!』『シロちゃんが関東に……案内を……でも広報なら私が適任だし……むむむ』

 

「よかった……」

 

 どうやら最初のステップでつまずく事は回避された様だ。実際にどれ程の人数になるかは不明だが、最低限の人員は確保できたはず。後は……

 

『アイドルネキ。重ね重ねになるのですが、お願いがあります』

 

『何々? なんでもいって!』

 

『その、アイドルネキのお爺さん……元総理にポケモンの事を話して貰いたいのです。そして本当にポケモンが現れたときの為に何か準備を、と』

 

 もしポケモンが現実に現れるなら、それは嬉しい事だ。これは間違いない。が、同時に問題も発生するだろう。例えばスピアーが現れれば被害はスズメバチのソレを遥かに上回るし、ギャラドスが出現すれば一都市が丸ごと灰になる可能性がある。そしてそれらを解決する為に機動隊や自衛隊が出動し、武器の使用を以てポケモンと戦闘に等なれば……確実に悲しい結末を生むだろう。そんな未来は早めに排除しておきたい。

 そうなると頼りたいのは権力のある政治家で、アイドルネキのお爺さんはその点では悪くなく、またアイドルネキを通じてとはいえ比較的頼り易い。もしアイドルネキのお爺さんが政界に働きかけ、前もってマニュアルなり法なりを準備していれば、悲しい結末は遠ざかっていくはずだから。

 

『駄目、でしょうか……?』

 

 私はポケモンが好きだ。そしてポケモンの良さを他の人にも知って貰いたいし、分かって貰いたい。その為には人とポケモンの争い、戦争は不要なのだ。ここでつまずく訳にはいかない。アイドルネキには頷いてもらわないとかなり困るが……果たして。

 

『んー……私はぜんぜんいいんだけど。じいちゃん私に政治の話したがらないからなぁ……難しいかも』

 

「っ……」

 

 駄目か。いや、そもそも虫が良すぎる話なのだ。駄目でもアイドルネキを責める訳にはいかない。それにまだ草の根活動は可能だ。そちらで何とかするしか……

 

『でも、頑張ってみる。たぶんここが踏ん張りどころだよね? やってみるよ。あ、そうだ! シロちゃんも一緒に説得しない?』

 

「……え?」

 

『お?』『流れ変わったな』『これはUC間違いない』『シロちゃんとアイドルネキのダブルおねだり……これには耐えられまい』『勝利確定』『勝ったな。ステーキ食って田んぼの様子見て風呂行ってくる』

 

 わ、私が、元総理に……じ、直談判? た、確かに悪い手ではないかも知れないがしかし私はロクに外に出た事もないし人と話すのも近所のじーさんばーさん相手だけだしいきなり元総理とかちょっとハードル高過ぎるけどポケモンの為にはこのくらいこのくらいこのくらいぃ━━

 

『分かりました。行きましょう。ポケモンの為です』

 

『やった! なら迎えの車をそっちに向かわせるね! 私も行くから! 待ってて!』

 

『えぇと、大丈夫なんですか? 色々。それに来るにしても私の住所は……』

 

『大丈夫! 全部何とかする! 住所は皆知ってるし大丈夫! 分かる!』『セヤナ』『ワカル』『あ、おい馬鹿。確かシロちゃんは……』『やりやがったな、この馬鹿ども……』

 

「……は?」

 

 え? 皆知ってる? しかも反論もなく受け入れられてる? ……あれ? もしかしてガチで住所バレしてる? これ? いやいや、そんなはずは……一応、確認しよう。

 

『もしかして、私、住所バレしてます?』

 

『してる』『うん、してる。てか知らなかったん?』『え? 常識じゃなかったの? え、私何かマズイ事言った?』『言ったな。シロちゃん、住所バレ気づいてなかったんだよ』『そもそもあれ、変態がハッキング仕掛けて掴んだ情報だしなぁ』『え? マジで? ……てか今まで皆黙り決め込んでたの?』『最初は言おうと思ったけど、なぁ?』『うん。現地のシロ民からのポチネキ無双とSATUMA無双聞いてたら……わざわざ言って怖がらせなくてもいいかなって』『警察も気づいたし、大丈夫かなって。むしろ気づいてなかったのね』『その辺は俺らでも意見割れてたしなぁ』『えぇ……』

 

 う、嘘だろ……? いや、そういえば一時期やたら治安悪くなったときがあった。そのときはポチと鹿児島出身のじーさんがピリピリしてたっけ。あぁ、思えば最近散歩中に警察とすれ違う事が多くなったな。うん、そういうことか。そういうことかぁ…………よし。

 

『アイドルネキ。早く迎えに来て下さいお願いします』

 

 三十六計逃げるにしかず。とはいえ引っ越しなんてしようが無いので、さっさとアイドルネキに迎えに来て貰おう。それしかない。

 

『任せて! 今すぐ行く!』『それがエエやろな』『茶化そうと思ったが茶化せねぇ……アイドルネキ早く行ってあげて』『引っ越しとか出来そうにないだろうしなぁ』『取り敢えずシロちゃんはアイドルネキに迎えに来て貰う手順とか決めるべき。シロ民は……関東活動組は一回集合?』『シロちゃん手一杯だろうし、関東活動組の編成はこっちでやるべきやろうな。掲示板で何回か話して、シロちゃんが関東に来る前に一度現地集合って感じじゃね?』『シロちゃんはアイドルネキとゆっくりしてどうぞ』『セヤナ』

 

 幸いにもというべきか。アイドルネキとシロ民の反応は悪くない。それどころか現地戦力の編成までしてくれるそうだ。これならアイドルネキと計画を詰める事も出来るだろう。では。

 

『えっと、ではアイドルネキ。私の鳥で軽く話し合いますか?』『うん、そうしよっか。じゃ、一旦落ちまーす。シロちゃん鳥でまたね!』

『では、えっと、シロ民の皆さん後はお願いします。落ちますね』

 

『乙』『お疲れ様』『ごゆっくりー』『任せろ!』『任せろーバリバリー』『やめて!』『編成は進めとくでー』

 

 私はシロ民に見送られた後、鳥でアイドルネキと話し合う。途中から声が聞きたいと言われ、電話番号を教えて貰い、結果長電話の話し合いになったが……おかげで段取りは出来た。

 予定通りなら一週間以内に私は関東の地を踏む。ポケモンが最初に現れるであろう、関東へ。……準備を、進めなければならないだろう。

 

「…………あ、きのみの水やり」

 

 私が荷造りの準備を始めるのは、もう少し先になりそうだったが。




703:名無しの犬
シロちゃんの事はシロちゃんガチ勢のアイドルネキに任せるとして……俺らはどうする?
というか関東、もといカントーに来るつもりの奴ってどんくらい居るんだ? 俺は行くつもりだけど。

705:名無しの犬
俺も行こうかな。といっても長居は出来ないし、リアルシロちゃんを遠目にみるぐらいだけど。

706:名無しの犬
関東住みのワイ、大勝利。

707:名無しの犬
クソッ……会社が有給取らせてくれればなぁ。

709:名無しの犬
>>707
ブラックサラリマンニキ乙乙。

712:名無しの犬
ガチ勢といえば、ガチ勢筆頭の犬兵ニキはどこ行ってるんだ?
この間から全く音沙汰無いが……

714:名無しの犬
>>712
ん? 知らないのか?
犬兵ニキならシロちゃんの身辺警護に回ったぞ。というか、シロちゃんに手を出したハッカーが脱獄に成功したらしくてな。犬兵ニキはその逃走先に心当たりがあるから、証拠を掴みに行く……とか言って消息を絶ったぞ。

716:名無しの犬
あぁ、なんかニュータイプに目覚めちまったみたいな感じだったな。
確か、九州の小島に向かったんだっけ?

719:名無しの犬
便りがないのは元気な証拠。そう信じて待つとしようや。

720:名無しの犬
それが彼が確認された、最後の日だった……

723:名無しの犬
>>720
やめwww

……………………
…………
……

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