藤丸立香は振り袖に袖を通してみるものの、動きにくさにびっくり。
和系戦闘少女サーヴァント、両儀式と浅上藤乃が現れて、話題は着物で戦うなんちゃってうんちくへ!?
「うん、立香ちゃん、すっごく似合ってるよ!」
着替え終わってまず目に飛び込んだのは、満面の笑みのレオナルド・ダ・ヴィンチだ。
「ふん!まあ極地用礼装よりは暖かそうに見える」
傍らには、婉曲的に誉めている新所長。
「わあ……!これが晴れ着というものなのですね!」
目を輝かせているマシュ。
「シオンとの合作の新しい礼装はどうだろう?」
着替えを終えて待ち構えていたのは、礼装の企画、設計、開発者達だった。
わくわくと目を輝かせているスタッフたちに、いったいなんて言えばいい。
「……いいんじゃ、ないでしょうか………」
水色の、晴れ着。
日本の民族衣装、未婚女性の礼装。
今度の魔術礼装は、振り袖です。
「いや、わたし成人式まだなんだけど、というか着たことなかったんだけど」
他のスタッフから離れたところで、なにもない場所へつい愚痴を吐く。
単独行動をとっていたアサシンが一人、赤いジャンパーを翻して現れた。
「ああ、なら練習になっていいんじゃねえの?オレみたいに着物しか着ない生活ならともかく、洋装に慣れてっと着物はきついらしいから」
両儀式。着物にジャンパー、ショートブーツという出で立ちは、見る人によってはでたらめな和洋折衷なのかもしれない。
それでも彼女はごく自然に身に付けていた。
「着付け手伝ってくれてありがとうね、式。うん、今の段階でもヤバイかな……」
振り袖を浴衣と同列に考えたのがよくなかった。
重い。そして動きにくい。
足元もご丁寧に草履と足袋で、ちょこちょことしか歩くことができなかった。
「せめて足元を変えられたらいいんだけど……」
これで戦いに行くことは正直考えられない。
「でしたら、私がおぶっていきましょうか?」
穏やかな声とともに、紫の髪が揺れた。
こちらも単独行動が可能で、よく一人の時間を楽しんでいるアーチャーだ。
「藤乃さん……」
「おまえがマスターおぶってどうすんだよ。オレたちはサーヴァント。戦うんだぞ?」
「式さんはアサシンですが、私はアーチャー。遠距離攻撃が可能です」
「そのわりには敵の懐に飛び込むやりかたもしてるじゃねえか」
浅上藤乃の攻撃手段は歪曲の魔眼。
遠距離から対象をねじきる威力を誇る。
それでも稀に式の言うような戦いかたもするのだ。
「マスターさんをおぶっているとき、そんなことするわけないでしょう?」
「どうだかな」
かつてはお互いに殺しあったという、嘘のようなほんとの話を持つ二人。
今では忌憚のない会話を交わしている。
「そもそも式さんの着物、一体どうなっているんですか?袖はジャンパーに入らないと思いますけど」
確かに、いくら式が戦い慣れているといっても、着物で激しい動作ができるとは思えない。
「オートクチュール」
「…………」
限度っていうものがあるとは思う。
「袖は短くしてもらってる」
式がジャンパーを半分脱ぐと、短い袖が現れた。七分袖くらいだろうか。
「オレは仕立ててもらったけど、時間かけりゃあ自前で裁縫できないこともない」
「振り袖と一緒にしないでください。大体振り袖の袖を切るなんて振り袖の意味がありませんよ」
珍しく強い言い方の彼女に、立香は一縷の望みを抱いた。
「藤乃さんは…… 」
きっと、なにか秘訣があるに違いない。
だって、着物を着ていても、敵に肉薄できるのだから。
「……私ですか?」
淑やかな大和撫子然とした風貌が、さらに素敵なものになる。
「感覚です」
「………………」
「……………………」
浅上藤乃は痛みを感じない。
無理な動きをしても。
「……まあ、ダ・ヴィンチに言って直してもらったほうがいいだろ」
気を取り直したように式は言う。
「そうなりゃ善は急げだ。オレも動きやすいように口添えするから、マスターも早く」
「式さんだけなら戦闘に特化して守りが薄くなるかもしれません、私も行きます」
「よく言うぜ攻撃特化型のアーチャーのくせに」
「攻撃は最大の防御ですよ?」
対等に言い合う二人の姿がまぶしくて、おかしくて。
なんだか、笑ってしまった。
「早く来いよ」
振り返った式に、立香は微笑む。
「ごめん、歩けない」
目の前で、どちらがマスターをおぶるか選手権が繰り広げられた。
こういうとき、カルデア戦闘服なら自分でもガントが使えるのになあと、立香は遠い目をするのだった。