魔術礼装に着物が追加されたとあるカルデア。
藤丸立香は振り袖に袖を通してみるものの、動きにくさにびっくり。
和系戦闘少女サーヴァント、両儀式と浅上藤乃が現れて、話題は着物で戦うなんちゃってうんちくへ!?

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魔術礼装舞台裏◇和系戦闘少女

「うん、立香ちゃん、すっごく似合ってるよ!」

 着替え終わってまず目に飛び込んだのは、満面の笑みのレオナルド・ダ・ヴィンチだ。

「ふん!まあ極地用礼装よりは暖かそうに見える」

 傍らには、婉曲的に誉めている新所長。

「わあ……!これが晴れ着というものなのですね!」

 目を輝かせているマシュ。

「シオンとの合作の新しい礼装はどうだろう?」

 着替えを終えて待ち構えていたのは、礼装の企画、設計、開発者達だった。

 わくわくと目を輝かせているスタッフたちに、いったいなんて言えばいい。

「……いいんじゃ、ないでしょうか………」

 水色の、晴れ着。

 日本の民族衣装、未婚女性の礼装。

 今度の魔術礼装は、振り袖です。

 

「いや、わたし成人式まだなんだけど、というか着たことなかったんだけど」

 他のスタッフから離れたところで、なにもない場所へつい愚痴を吐く。

 単独行動をとっていたアサシンが一人、赤いジャンパーを翻して現れた。

「ああ、なら練習になっていいんじゃねえの?オレみたいに着物しか着ない生活ならともかく、洋装に慣れてっと着物はきついらしいから」

 両儀式。着物にジャンパー、ショートブーツという出で立ちは、見る人によってはでたらめな和洋折衷なのかもしれない。

 それでも彼女はごく自然に身に付けていた。

「着付け手伝ってくれてありがとうね、式。うん、今の段階でもヤバイかな……」

 振り袖を浴衣と同列に考えたのがよくなかった。

 重い。そして動きにくい。

 足元もご丁寧に草履と足袋で、ちょこちょことしか歩くことができなかった。

「せめて足元を変えられたらいいんだけど……」

 これで戦いに行くことは正直考えられない。

「でしたら、私がおぶっていきましょうか?」

 穏やかな声とともに、紫の髪が揺れた。

 こちらも単独行動が可能で、よく一人の時間を楽しんでいるアーチャーだ。

「藤乃さん……」

「おまえがマスターおぶってどうすんだよ。オレたちはサーヴァント。戦うんだぞ?」

「式さんはアサシンですが、私はアーチャー。遠距離攻撃が可能です」

「そのわりには敵の懐に飛び込むやりかたもしてるじゃねえか」

 浅上藤乃の攻撃手段は歪曲の魔眼。

 遠距離から対象をねじきる威力を誇る。

 それでも稀に式の言うような戦いかたもするのだ。

「マスターさんをおぶっているとき、そんなことするわけないでしょう?」

「どうだかな」

 かつてはお互いに殺しあったという、嘘のようなほんとの話を持つ二人。

 今では忌憚のない会話を交わしている。

「そもそも式さんの着物、一体どうなっているんですか?袖はジャンパーに入らないと思いますけど」

 確かに、いくら式が戦い慣れているといっても、着物で激しい動作ができるとは思えない。

「オートクチュール」

「…………」

 限度っていうものがあるとは思う。

「袖は短くしてもらってる」

 式がジャンパーを半分脱ぐと、短い袖が現れた。七分袖くらいだろうか。

「オレは仕立ててもらったけど、時間かけりゃあ自前で裁縫できないこともない」

「振り袖と一緒にしないでください。大体振り袖の袖を切るなんて振り袖の意味がありませんよ」

 珍しく強い言い方の彼女に、立香は一縷の望みを抱いた。

「藤乃さんは…… 」

 きっと、なにか秘訣があるに違いない。

 だって、着物を着ていても、敵に肉薄できるのだから。

「……私ですか?」

 淑やかな大和撫子然とした風貌が、さらに素敵なものになる。

「感覚です」

「………………」

「……………………」

 浅上藤乃は痛みを感じない。

 無理な動きをしても。

「……まあ、ダ・ヴィンチに言って直してもらったほうがいいだろ」

 気を取り直したように式は言う。

「そうなりゃ善は急げだ。オレも動きやすいように口添えするから、マスターも早く」

「式さんだけなら戦闘に特化して守りが薄くなるかもしれません、私も行きます」

「よく言うぜ攻撃特化型のアーチャーのくせに」

「攻撃は最大の防御ですよ?」

 対等に言い合う二人の姿がまぶしくて、おかしくて。

 なんだか、笑ってしまった。

「早く来いよ」

 振り返った式に、立香は微笑む。

「ごめん、歩けない」

 目の前で、どちらがマスターをおぶるか選手権が繰り広げられた。

 

 こういうとき、カルデア戦闘服なら自分でもガントが使えるのになあと、立香は遠い目をするのだった。

 

 



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