幼女軍医   作:瀧音静

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書いてて思ったんですけど血にまみれた幼女二人が背中合わせってシチュすごくエモい。
そんな描写は今回どこにも無いわけですが、こう、想像しましたら……ねぇ?

しかも血まみれの理由がお互いに違うのもさらにいい。

以上、作者の性癖紹介でありました。


白銀と天使

 未だ雪が解けやらぬ季節。時刻は深夜。

 そんな辺りの状況には似つかわしくない轟音が響きます。

 再教育プログラムを受けるもの達が泊まる宿屋。――そこが吹き飛ばされたのでありました。

 

「何事だ!?」「敵襲か!?」

 

 眼下には慌てて飛び出してきた士官方が状況を飲み込めずに周囲を見渡しています。

 敵襲? 『白銀』殿が目を光らせているこの場所に敵など迷い込めば、一瞬で原型すら留めていないでしょうに。現実をもう少し正確に、そして素早く認識できるように教えねばならないようです。

 

「目覚まし代わりだ! 礼には及ばん!!」

 

 楽しそうににこやかな笑みを浮かべ、下にいる方々へと話すデグレチャフ殿。

 それは、文字通りに地獄の始まりを意味する宣言なのですが、未だにピンと来ていない方々が多いですね。

 

「では――防衛訓練の開始だ!!」

 

 デグレチャフ殿の放った信号弾を合図に、辺りを狙う砲兵隊の砲撃が飛んできます。

 ここにきてようやく状況を理解したらしい者達は、吹き飛ばされた宿屋に置いてあるスコップを手に取り、いわゆるタコツボと呼ばれる個人用の塹壕を掘り始めますが、本当に判断が遅い。

 すでに一人で掘り終え、姿を穴へと隠したセレブリャコーフ殿を見習って欲しいものであります。

 彼女を認めてはいませんが、デグレチャフ殿の手を煩わせる部隊兵など、不必要の極みでありますから。

 

「ん? おかしいなぁ? 向こうの手違いか実弾も交じっているようだ」

 

 本当に楽しそうに言われるお方で。……そのせいで数人吹き飛ばされましたね。治療して参ります。

 誰のものか分からない、そこまでやるか!? という悲痛な叫びを横に、吹き飛ばされた兵士の元へと着陸し状況把握。

 直撃しておらず爆風で吹き飛ばされただけ。多少の火傷と衝撃による骨折が数カ所程度ですか。

 わざわざ駆け寄る必要など無かったかも知れませんが、怪我さえ無ければこの方が合格しデグレチャフ殿の部隊に入るかも知れないという可能性を考えますと、治さないという選択肢はありません。

 

「主よ。偉大なる我らが主の名の下に、主の元へと急ぐ我らを許し給え。未だ成さねばならぬ事を成さず、主の元へ急ぐ子羊に否定を」

 

 火傷は放っていても命を脅かす程ではありませんし、油断した結果の戒めとして残しておきましょう。

 骨折だけを治療するために、先ほどからのたうち回っている兵士へと手を触れます。

 

「処置は以上。すぐに訓練へお戻り下さい」

 

 たったそれだけで完全完治したことを信じられないのか、困惑で全く動かない兵士へ、さっさと再教育されてこい。と告げます。

 無差別に砲撃が降っている都合上、私も防殻術式を展開しているのですが、私の展開するその術式は強固な所と脆い部分がまばらにありまして。

 強固な部分はデグレチャフ殿の貫通術式を用いた射撃も通さず、脆い部分は訓練弾ですら直撃すれば穴が空く始末。

 私の魔力出力が歪なせいでそうなってしまうらしいのですが、残念ながら私にソレを改善する方法は無く。

 何が言いたいかと言えば今この瞬間にも私に砲撃が直撃する可能性があると言うことでして。

 一刻も早くデグレチャフ殿の隣へと戻りたいのであります。

 ……防殻術式が理由ですよ? 私が隣にいたいだけではありませんからね?

 

「軍医殿……感謝する」

 

 ようやく動き出した士官が元気にスコップを振る様を見ながら空中へ。

 デグレチャフ殿の隣へ肩を並べるように移動し、一先ず報告です。

 

「負傷は三名。内一名に数カ所の骨折が見られ、それを治療。残りの二名は動きに支障が無い程度の怪我でしたので放置しています」

「了解。すまないね、ひょっとするとけが人を見捨てるのは軍医殿の意にはそぐわぬかも知れぬが――」

「怪我の都度全快させていては訓練の意味合いが薄れてしまいます。妥当な判断かと」

 

 死人は出さず、しかしある程度の怪我は治療せぬよう言われていましたので、今回の自分の判断が正しかったかをデグレチャフ殿に確認しましたが、どうやら大丈夫だったようです。

 

「これでこの段階での重傷者は出ないだろう。我々は一旦下がって休むとしよう」

 

 と、タコツボまみれのその場所から少し離れた所にある小屋へ移動を始めるデグレチャフ殿。

 その後を追っていると、

 

「しかし空中での制御もうまくなったものだな。最初はまともに飛べなかったというのに」

「デグレチャフ殿の指導の(たまもの)ですよ。たまにバランスを崩してよろけますが、それでもこうして空を飛べていますし」

「他の者達もみな、アーデルハイト殿のように素直であればいいのだが……どうも軍人というのは変な考えを持つ奴が多すぎる」

 

 私も含めてだがな。と自虐的に笑うデグレチャフ殿と小屋の中でコーヒーブレイク。

 今のうちに仮眠を取っていた方がいいぞ。と言っていただき、ありがたくお言葉に甘えさせていただきました。

 




時たま思うのですが『白銀』を『白銀』たらしめている要素とは何なのでしょう?
戦果や勲章などはもちろんそうなのですが、何かもっと根本的な部分で彼女を理解出来ていない気がします。

皆様ご機嫌よう。フリューア・アーデルハイト軍医であります。

極限状態での訓練と言うことで寝ずの活動を強いられている大隊への志願兵ですが、思いのほか脱落が少ないようであります。
やはり『白銀』がその場にいると周囲や空気に影響があるようで、非常に興味深い。

次回幼女軍医 「行軍」 ではまた、病院で。

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