幼女軍医   作:瀧音静

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結局今年も花見をすること無く終わりそうですが皆様は花見は終えましたか?

花見に行くと花粉のせいで毎回それどころでは無くなるので、基本的に画像で楽しむしか無い作者でありました……。


参謀の虎の子

 およそ一ヶ月後、まさしく地獄と呼ぶにふさわしい再教育プログラムは無事に――ええ、無事に完了致しました。

 綺麗に大隊規模の人数が残り、今現在は整列しデグレチャフ殿のありがたい演説に耳を傾けておられます。

 

「本日をもって貴様らは、無価値なウジ虫を卒業する! これより貴様らは、帝国軍魔導師である!」

 

 台の上に立ち、皆へと言葉を紡ぐデグレチャフ殿の、なんと勇ましい事か。

 大の大人……それも男性と比べたとしても、それと遜色なく威厳に満ちあふれた姿であると、私が断言させていただきましょう。

 

「貴様らのくたばるその日まで、軍は貴様らの兄弟であり、戦友だ!」

 

 折角デグレチャフ殿がわざわざ手を煩わせてまで育てた貴重で有能なこの部隊の人員を、戦死等というくだらない理由で消費しなければならない道理がどこにございましょう?

 何を案じておられるか分かりませんが、そう簡単に数は減りませんよ?

 ――ですので、デグレチャフ殿のお言葉に従い……その……デグレチャフ殿の事を……()()()()()、と。

 あ、いえいえ。いつもではございません。二人きりの時だけでいいのです。

 軍は兄弟であるならば、部隊の人間もまた、兄弟。――であるならばデグレチャフ殿と私は姉妹という訳なのでありまして……ダメでしょうか?

 

「これより貴様らが戦地へ向かう。あるものは二度と戻らない!」

 

 逃亡でしょうか? 逃げおおせるとは思いませんが。

 

「だが肝に銘じておけ! そもそも帝国軍人は死ぬ。死ぬために我々は存在している!」

 

 例外もございますがね。……神の奇跡の恩恵を受けた部隊は、戦地の兵は、不滅であります。

 

「だが帝国は永遠であり、つまり、貴様らも帝国と共に永遠である! よって、帝国は、貴様らに永遠の奮戦を期待する!!」

 

 力強く言い終えて、敬礼をしたデグレチャフ殿に続き、引き締まった面持ちで聞いていた兵士達も敬礼を返します。

 あぁ、何とも血沸き心躍る演説でありましょうか。

 共に戦場を行けぬのが残念でなりません。

 今日ほど戦闘系術式の適性が無いことを恨んだ日は無いでしょうね。

 

「さて、貴様らに改めて紹介しておかねばならない人物がいる。既に散々世話になっているが、『奇跡』或いは『天使』『白翼』と称えられる軍医。フリューア・アーデルハイト軍医殿だ! 貴様らの命を預かる方だ、頼りすぎて倒れさせるなよ!」

 

 おっと、デグレチャフ殿に呼ばれました。

 何か話を、と言われてはいましたが、このタイミングですか。

 ……まぁ、変わらず私の考えでも話しておきましょう。

 

「皆様、再教育課程お疲れ様です。大隊長としてデグレチャフ殿が先ほど熱い言葉を仰いましたので、まずはその否定から」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけどよめきが起こりますが、当のデグレチャフ殿は少しニヤついている程度。

 私がそう話すことを予想されていたのでしょう。

 

「死ぬために存在している、とのことですが、これについて。――私の許可無く、死ぬことを禁止致します! 死とは易く、生とは難いもので、我々帝国は楽な方へと逃げる無能など一兵たりとも必要としておりません。どんなにその身に銃弾を食らおうと、爆撃されようと、吹き飛ばされようと、私は皆様が死ぬことを容認致しません」

 

 何を言っているのだ、と、皆様口を開けておられますが、何か変なことを私は言っているでしょうか?

 

「死ぬほど痛いでしょう。二度と味わいたくない苦しみでしょう。けれど、私の手に……『奇跡』にかかれば残念ながら治療出来てしまいます。ですので、死にたくなければ死なないで下さい。生き返りたくなければ、やっぱり死なないで下さい。皆様、戦場で当たり前に起こっている事ですが、私はソレを認めません」

 

 強張った表情だった兵士達の顔が程よく緩み、ここでようやく緊張がほぐれてきたようです。

 

「皆様、一旦死ぬのをやめましょう」

 

 そう言って敬礼し、台から降りると、デグレチャフ殿から拍手で迎えられました。

 それに釣られるように、兵士の皆様からも拍手が送られ、なんだか恥ずかしくなって、私は顔を伏せます。

 

「さて諸君。諸君らには僅かだが報償がある。この再教育課程を修了した事で、私の部隊配属の準備の為の休暇と――軍医殿からの嗜好品だ。この嗜好品は軍医殿の厚意で、彼女の私物の提供であるため、皆、噛み締めて味わうように」

 

 兵士全員から声が上がり、各々喜んでおられるようです。休暇……そう言えば私は休暇らしい休暇をいただいたことがありませんね。

 そもそも休暇であろうとなかろうと戦場で負傷兵を治し続けるだけなのであまり関係などありませんが。

 帰る兵士にチョコを渡していけば、皆様が受け取った後に頭を撫でていくではありませんか。

 何でしょう……子供がお手伝いをしているとでも言うべきなのでしょうか?

 

「貴様ら! 軍医殿が困惑しているぞ!」

 

 あぁ、流石我らが『白銀』殿。目を光らせてくれていますね。

 そこからは頭を撫でられることも無く、全員にチョコを渡し終えた段階でデグレチャフ殿が寄ってきます。

 

「しかし、本当に良かったのか? 折角の嗜好品を……」

「はい。ストレスが多いだろう。と本部から多めにいただいておりまして、消化に追いつかぬほどでございます」

「なるほどな。多少甘やかしてでもアーデルハイト殿を留めておきたいわけだ」

「おかげさまである程度のわがままが通り、私も助かっております」

「まさしくWIN-WINと――」

 

 言いかけたデグレチャフ殿は私の方へと倒れ込んで来られまして、いきなりのことで踏ん張りがきかず、そのまま倒れ込んでしまいました。

 

「デグレチャフ殿?」

 

 問いかけても返事は無く。呼吸は正常、伝わる鼓動も特に違和感なし。

 怪我や出血はしていない筈ですし、考えられるのは……。

 

「演算宝珠の使用過多による体内魔力量の低下……」

 

 デグレチャフ殿の含有魔力はかなりの量だと聞いておりましたが、それでもこうして倒れるほどに魔力を使っていたとは……。

 この再教育において、最も働いていたのはデグレチャフ殿かもしれませんね。

 兵士に対して、上官として弱い部分は見せられない。と、皆が帰るまで堪えていたのでしょう。

 立ち上がり肩にデグレチャフ殿を抱え、近くの小屋まで運びまして、デグレチャフ殿の体力や魔力が回復するまでゆったりとした時間を過ごさせていただきました。

 

 

 本部より通達。

 フリューア・アーデルハイト軍医を、現時刻をもって軍医中尉へと昇格。

 新たに設立された即応魔導大隊専属軍医として帯同させる。

 




突然自分の身の良い出来事が起こると、何故だか不安に駆られてしまう事はございませんか?
普段優しくない人間に、急に優しくされた時に、なんだか良からぬ事を考えてしまいませんか?
ご機嫌よう、フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。
気が付けば中尉という肩書きをいただき、何なら周りに命令しなければならない立場ですが、残念。誰も私に、私の治療に着いてこられない訳でありまして、未だに一人で治療をしております。
そう易々と神の奇跡を使える人間がいても困りますがね。

次回 幼女戦記 「バースデープレゼント」 ではまた、戦場で
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