幼女軍医   作:瀧音静

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あらすじを確認された方はもう見ていただけていると思いますが、みやち様よりフリューアちゃんのイラスト、並びにエレニウム九十五特式や軍医用エレニウムの設定画をいただきました。

フリューアちゃんの天使という二つ名にふさわしい可愛いイラストとなっております。
どうぞご確認の程を。

また、挿絵の協力もしていただけるとの事なので、皆様お楽しみに。

みやち様、本当にありがとうございました!


少佐のいたずら

「連中、何をしている?」

「……恐らく、統制射撃の方陣かと」

「バカな!? 時代錯誤にも程がある! 騎兵の時代ではないのだぞ!?」

 

 セレブリャコーフ殿の言うとおり、密集して方陣隊形を組み始めるダキア軍。

 渾身のギャグ、あるいは上官が錯乱でもしたのでありましょうか?

 大隊程度に三個師団の戦力がやられるはずが無いと躍起になっているとか?

 鼻で笑うようなダキアの行動でしたが、それを受けてか襲撃隊列を解き、距離を取り始めるヴァイス中尉。

 

「あれは……教範通り射程範囲外へ退避しようとしているので――」

「教範!? あのマニュアルバカが!! 宙を飛ぶ魔導師に歩兵の弾が本気で当たると思っているのか!?」

 

 当たったところで防殻術式を貫通できると思えませんし、何でしょう……文言を額面通りにしか受け止めていないのでしょうか?

 

「あんなのに撃墜される魔導師がいれば敵より先に私が撃墜してやる!!」

 

 どうぞどうぞ。その後にしっかりと治療致しますし、何か教えるときには体に刻み込ませるのが一番ですので。

 

「よろしい。我々も参加だ!! 我に続け!!」

 

 そう叫んで急降下し、戦線へ――スポーツへと参加されるデグレチャフ殿。

 戦闘員ではない私は当然追わず、光学術式を展開し空中へ留まり続けております。

 ……万が一被弾する方がいないとも限らないので……。

 さて、宙を優雅に飛び回り、眼下に蠢く害虫共を我らが『白銀』がなぎ払っていると、

 

「ひ、卑怯だぞ!! 降りてこい!!」

 

 あぁ、先ほどから続くダキアの一連の行動は、どうやらギャグだったようであります。

 自分らから仕掛けておいて卑怯などと、まともな思考をしていれば恥ずかしくて発言できないはずでありましょうから。

 

「困った連中です。……攻めてきているのはダキアの筈ですのに」

 

 ため息を吐いて戦況を見守りましたが、どうやら先ほどの杞憂は杞憂のままだったようです。

 ……間引く必要が無くて助かりました。ええ、本当に。

 

 

「本物の侵攻司令部のようです」

「まさか、帝国への団体旅行客に誤射したのではないだろうな?」

「帝国ではなくあの世に向かう旅行客と思われますが……念のため問いかけて見ますか?」

 

 民間人なのでは? と一抹の不安を抱くデグレチャフ殿達と司令部の近くへと着陸すれば――。

 降りた直後に銃口を向けられました。

 

「帝国へようこそ。入国の目的は? ビザはお持ちですかぁ!?」

「ふ、ふざけるな!!」

 

 一字一句違わずにお返し致します。

 数さえ用意すれば勝てる時代は終わりました。

 これからは、質の高い武器、あるいは兵士、戦力を用意した上で数を揃えることを考えた方がよろしいですよ?

 続けざまに発砲しているようですが、非戦闘員の私の防殻術式すら撃ち抜けないようでありますし。

 

「ビザはお持ちではない。では捕虜としての入国を希望されますか?」

「み、皆殺しにしろ!! 撃て!!」

 

 知らないというのは気楽なことで、また、残念な事であります。

 私さえ居れば、皆殺しにすることなど不可能で、それ故にデグレチャフ殿達は全力で私を守って下さいます。

 つまり、皆殺し、というのは永遠に達成することが出来ないのであります。

 そもそも誰の防殻術式も突破出来ていないので、もはや無駄な時間ですが。

 

「時間の無駄ですね……」

 

 セレブリャコーフ殿と思考が同じだったようです。

 

「全くだ。――そこの将官以外は撃て」

 

 その言葉の後に続く発砲音。辺りが静かになるのに、そう時間は要しませんでした。

 

 

「参謀本部への手土産だ、死体以外根こそぎかっさらえ。……そこ、そいつにはブービートラップを仕掛けておけ」

 

 死体にブービートラップ? ……私も仕込んでもよろしいでしょうか?

 いえ、変なことは致しません。ちょっとだけ筋肉の反応に作用させ、誰かが持ち上げた瞬間に笑い出すようにする程度であります。

 

「残敵掃討は友軍に任せ、我らは前進する」

「はっ。目標はどちらへ?」

「――首都だ」

 

 またデグレチャフ殿の素敵な笑顔が炸裂しました。

 本当にいたずらをしに行くようなノリで敵国首都まで進撃など、果たして他の方に言えるでありましょうか。

 いえ、言うだけなら出来るかもしれませんが、本当に実行に移す方がどれだけ居られるでしょうかね。

 

「首都、でありますか?」

「前へ、もっと前へ、行けるところまで行こうではないか。我々ならば前に進める」

 

 そこまで行くとなると果たして私は同伴すべきなのでしょうか?

 ただでさえ今回の出撃で仕事が無かったのですが、ダキアの侵略部隊がこの程度であるならば、その首都はどうせ呑気に酒でも飲んでいることでありましょう。

 無警戒な、そして意識外な上空など、もはや襲撃を受ける可能性など紙の薄さ程度のものかと思うのですが……。

 

「さて、軍医殿には悪いが一つ頼まれ事をして貰えないだろうか?」

「はい。……何でありましょうか?」

「なぁに、将官のみでは情報が足りぬかもしれん。先ほど撃ち殺したダキアの連中を数人蘇生させ、拷問用に引き渡して欲しいのだ」

「了解致しました。……一度殺した意味は?」

「恐怖を与えるためだ。死は救済などではない。激痛を、耐えがたいほどの苦痛を伴うものだと理解させたのならば、よく言う脅し文句の『言わなければ殺す』という言葉の意味が変わってくる」

「――なるほど」

「殺せと言うならば殺し、蘇生させれば脅しでないことが分かるだろう。これを繰り返せば、口を割らぬ人間などおらんよ」

 

 私にしか出来ぬ、デグレチャフ殿からの頼まれ事でございますね。

 喜んで引き受けましょう。

 

「では我らは首都へ向かう! ここまで来て負傷し軍医殿の世話になるようなヘマだけはするなよ!!」

 

 そう言って部隊を率い飛び立ったデグレチャフ殿を見送り、私は、そばに転がっている死体へ跪いて、『奇跡』を発動させるのでした。

 

【挿絵表示】

 




本日はお日柄も良く、最高のフライト日和ですね。
帝国軍航空魔導大隊専属軍医、フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。

軍医における必須技能は死なせぬ事。患者に対して適切に処置を行うことが重要です。
え? 目が怖い? それはごもっとも。笑顔のままに他人の体を刻んだり繋げたり出来るほど人間を辞めておりませんので。

次回 幼女軍医「狂気の幕開け」 ではまた、戦場で

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