反省も後悔も無い。やりたいからやった。
と、とりあえず可能な限り色々執筆するので、生暖かい目で見守って下さい……。
あ、感想や指摘、誤字報告など大歓迎ですので、よろしくお願いします←
ダキア公国との開戦から数日。
本当に首都まで、ピクニックよろしく襲撃し、しかも成功させ無傷で帰還してきたデグレチャフ殿及び大隊各員は、今現在北方への転属命令が出されたところであります。
南の次は北。口で言うのは簡単ですし、地図上でだけ見れば距離はあれど現場の事など分かりますまい。
全体的に寒い時期といえど、南と北では流石に体感温度が変わりますし、何より、短期間での気温の変化は如実に体調に表れます。
北行きとの通達を受け、一先ず風邪薬と栄養薬を手配しましたが、どうやら北の補給線は遅れている様子。
この調子だと、現地に到着しても物資が届かない可能性があります。
そんな訳で、私、フリューア・アーデルハイト軍医中尉は頭を悩ませているのでありますが……。
――そうですね。相談してみることにしましょう。
「参謀本部はどうやら我々二○三隊を馬車馬の如くこき使うつもりらしい。……さぞかし大きなキャロットを用意して貰わねば割に合わんな」
ダキア軍とのスポーツ、並びに首都へのピクニックを終え、少しだけ余裕が出てきたらしい大隊の皆様は、デグレチャフ殿のジョークに表情を緩めております。
緊張も必要でしょうが、こういった時はリラックスの方が大事でありましょう。
これから先、一事が万事ダキアの様には行かないはずでありますから。
「さて、今回の雪合戦の相手は――無謀な領土侵犯を行ってきた協商連合。我々には、新戦術の実戦検証が期待されている。ハイキングに行ける程度には団体行動が出来ることを示さねばならん。くれぐれも軍人としての義務を忘れるな!」
スポーツ、ピクニックと来て、ハイキングに雪合戦。
何とも素敵なレジャーの数々ですが、的は敵国の射撃スポーツ。
敵国首都へのピクニックに、雪玉ではなく飛び交うのは鉛の弾の雪合戦。
そして交戦地帯へのハイキングと、笑ってこれらを行えるのは『白銀』殿と率いる二○三大隊ぐらいなものでしょう。
「では、参謀本部からの通達を伝える……。ヴァイス中尉」
「はっ!」
デグレチャフ殿は皆を和ませた後、ヴァイス中尉へと代わり参謀本部からの指令を通達させます。
さて、私も準備を急ぐと致しましょう。
*
情報によれば、味方はほぼ壊滅。
敵には国籍不明の義勇軍に、爆撃機まで確認されたとか。
「現場司令部に通信。コードサイン『ピクシー』にて援軍と通達せよ」
「はっ!」
「さて諸君、今度は正真正銘、空対空の戦闘でおまけに爆撃機も居る」
援軍として来たことを司令部に報告させ、皆の気を引き締めんと、過酷なその戦地の状況を確認し直すデグレチャフ殿。
「だが、大した事ではない。先のダキアとの戦闘を思い出せ。何倍の戦力差をひっくり返したか? 首都まで行って無傷で凱旋したのはどこの部隊だ? それらを、他の部隊がやれるか?」
無理を。
「それが答えだ! なぁに、今回は被弾しても軍医殿に頼って一向に構わん。さぁ、雪合戦を始めるとしよう!!」
「敵魔導部隊は高度六千五百。前衛は準連隊規模。後衛は二個中隊です!」
「そうら来たぞ。第二から第四は前衛に当たれ。我々は後衛及び爆撃機を叩く。……その後、背後より挟撃だ」
「では、自分は負傷した兵の治癒に向かいます。もし被弾なさった方は、安心して墜落してきて下さい」
指示を飛ばすデグレチャフ殿に、自分の役割を遂行することを伝えると……。
「頼むぞ。――そうだな、備蓄品を多少掠め取っても文句を言われぬ程度に奇跡を見せてやってくれ」
「了解しました。では、ご武運を!」
会釈、敬礼、後に急降下。
落ちるときにチラと横目で見たデグレチャフ殿の表情は――あぁ、やはり。
嬉々とした笑みではありませんか。
あの表情ならば今回も特に問題は無いでしょう。
私は言われたとおり、出来る奇跡を行うと致しましょう。
……まずは司令部に挨拶でもしておきますか。
「要撃機はいつでも上がれるのだな?」
「は! 格納庫にて待機済みです!」
「では出すべきだろ――」
「不要であります」
おっと、挨拶をと思っていましたが、何やら無駄なことをなされようとしていたのでつい口が出てしまいました。
「な、何者だ!!?」
「二○三魔導航空大隊――現在出撃中の『ピクシー』大隊でありますが、そこの専属軍医のフリューア・アーデルハイト軍医中尉であります」
「何!? ……なぜ貴様が口を挟む?」
「無駄だからであります。要撃機など無くとも、『白銀』殿は航空機を撃墜なさるでしょう。ならば、燃料の事を考え、始めから出撃させないに越したことはありません」
ただでさえ貴重な物資です。一滴たりとも無駄に使用する余裕などありません。
「しかし万が一が――」
「二○三魔導航空大隊より入電! ――手出し無用……と」
あぁ、どうやら同じ考えだったようですね。
……とはいえ、デグレチャフ殿より先に動いてしまったのは問題かもしれません。
後で謝っておくとしましょう。
「なんたる度胸! 我らに恩を売るつもりか!!」
そう言って豪快に笑うあたり、この方は中々に話の通じる方のようです。
「管制機がピクシー大隊を捉えました! 速度二百五十、高度――」
「随分早いな……うん? 高度はどうした?」
速度二百五十……デグレチャフ殿は調子が悪いのでしょうか?
それとも何か異変が? ……控えめな速度のようですが――。
「高度……七千五百!? いえ――なお上昇中であります!」
高度は恐らく、他の部隊の方に合わせているのでしょう。
しかし、そうですか。この範囲で驚かれる……。
「何だと!? 何かの間違いだろう? 戦闘機ではないのだぞ!?」
この場に居てもこの方々のリアクションに付き合うことになるだけです。
挨拶のつもりが思いのほか時間も食ってしまったようで、そろそろ私は負傷兵の所へと向かうとしましょう。
「間違いありません! 現在高度八千五百――速度三百!!」
デグレチャフ殿達の速度と高度の実況を聞きながら、私は近くの兵へ負傷兵が集められている場所を尋ね、そちらへ向かい始めます。
はてさて、何人の負傷兵を治し、恩を売り、何をせしめてくればデグレチャフ殿は私を褒めて下さるでありましょうか。
姉妹のように頭を撫で、感謝の言葉をかけて頂けるでありましょうか。
あわよくば、感謝の気持ちで一杯になった胸を押し付け、抱擁をしていただけるでありましょうか。
あぁ、胸が高鳴りますなぁ。……ついでに涎が溢れますが、この涎は備蓄品を分けてもらい開催したパーティを想像したからであります。
決して、施術の為に仕方無く見たデグレチャフ殿の玉のような肌や滑らかな曲線を思い出してのことではありません。
えぇ、決して。
「死ぬにはいい日」なんて言葉があるようですが皆様正気でありますか?
どんなに死ぬのにいい日であったとしても、蘇るのにいい日では無いでしょう?
私の目の届く範囲に居る兵士達がもしそう言えば、私はこう付け加えるでしょう。
「死ぬにはいい日、けれども死ねない日」と。
申し遅れましたフリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。
北方に来てみましたが随分と珍しい負傷兵が居りました。
何と、機銃により負傷している、ないし絶命してる方々ではありませんか!
私はまだ機銃被害を受けた兵士を助けたことが無かったのでここで実績とさせていただきましょう。
次回、幼女軍医 「狂乱の最中」 ではまた、戦場で